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神による、仕事という名の異世界旅行  作者: 馬鳥件
第二章【楽しい楽しい異世界旅行】
7/10

第三話【油断の代償】

「貴様があの場にいたことはわかってるんだ さっさと吐け!」


さて皆様方。只今俺は殺人の疑いをかけられて詰められています。遂に人を殺したのかって?とんでもない。

理由を説明するために少し回想を見ていただきたい。




『さーてと、飯食って運動もしたし、異世界っぽいことがしたいな』


色々とあって疲れたがあの後、異世界っぽいことがしたくて何か面白いことはないかと街をぶらぶらしていました。

でもそもそものこの世界、リファードにおける文字が読めなかったので翻訳できるものはないかと荷物をあさっている時に正面に鎧を着た誰かがやってきて進路を塞ぎました。

(誰だよ!今忙しいんだよ!)

そうイラつきながら顔を上げると目の前にはフルアーマーをきた騎士が立っておられました。


『oh…』 


思わず後ずさると背中に何かがぶつかる感触があり恐る恐る後ろをみると、大変厳しそうな軍服を着た美人とその他兵士がおりました。




はい!回想終わり!


それで話を聞けばどうやらあの路地での出来事を見ていたそうな。…人違いだと言えばいいだろうって?

そのことについても込みで世界について得られた情報もいくつかあった。


「貴様だ!貴様!貴様のその漆黒の髪!その髪が証拠だ!」


そう、どうやらこの街では黒い髪の人間はいないらしい。よくよく思い返してみれば茶髪や金髪などはいたが、俺ぐらいまで黒い髪は見かけることがなかったと今気がついた。

通りでみんなジロジロ見てくるわけだ、納得した。


「はぁ、」

「貴様!聞いているのか!お前は黒英断の使者なのだろう!!全て吐かねば痛い目を見るぞ!」


ため息をつくとさらに怒鳴り散らしてくるこの禿げたムキムキのおっさんは無駄に距離が近くて嫌になる。

そして屋台のおじさんが言っていた黒英断はやはりこの尋問でも出てきた。



「…だからなんでしょうかその黒英断って」

「貴様ぁぁ!はぐらかすんじゃあない!氷漬けの刑にされたいか!」


わからないから聞いているのにはぐらかすなと言われたらもうどうにもできない。

そもそも殺してないし、黒英断でもないのだが実際あの場にいなかったことが完全に否定できないので、八方塞がりである。

(徹夜で説得コースだな…)と思っているとドアが重い音を立ててゆっくりと開いていく。


「ファロメス官!」


このファロメスと呼ばれている女性が俺の後ろに立っていた人物だ。

見た目の第一印象は色白だが儚い印象はなく、どちらかと言えば力強さを感じる瞳を持っている、って感じだ。

ムキムキハゲがファロメスに呼ばれて慌てたように部屋から出ていった。

こっちに捕まってからやっと1人の時間が確保できてたのでファロメスさまさまだ。

このうちにどうやってここから抜け出すかと疲れた頭を回転させて考える。

もうこの留置所に半日近く捕まっているので暇で暇で仕方がない。相手は変わる変わる来るが、やっぱりあのムキハゲが群を抜いてうるさかった。


ガチャリ


くだらないことで暇を埋めているとドアが再び開かれ、今度はファロメスだけが部屋に入ってくる。


「待たせたな」

「いえいえ、お構いなく。仕方のないことですから」


別に本当に気にしてはいない。相手は社交辞令で言っているまでなので、それならこちらも社交辞令で返そうとニコッと人当たりが良さそうな顔で返しておくとファロメスの眼鏡の向こうの目元がピクッと動くのがわかった。


「さて…貴殿にかけられている殺人容疑についてだが」

「本当に何もしていないのです。何回も人違いだと」

「だがその髪色はこの町では珍しいぞ」

「遺体は細い路地の開けたところにあったとお聞きしました。そんな暗いところでは本当の髪色などわからないのではないですか?」

「そうか…認めないか」


実際戦ってる時遺体のこと全く気にしてなかった。

仕事なのはわかるけど融通が効かない。もっと柔軟に対応して欲しいものだ。

どちらも顔を一切変えずに見えない火種がバチバチしていた。


さて、どうしたものかと考えているとファロメスがフッと笑い出す

なぜこのタイミングで分かったのかがわからず首を傾げているとファロメスが続けて弁明し出した。


「いや何、貴殿があの少女を殺していないのは知っている。

複数箇所刺されたことによる失血死だったからな。あのめり込んでいた盗賊のナイフと痕跡が一致した。」


そこまで分かっててなぜここまで連れてきたのだろうか。

自分の顔が相手にするものではないぐらい失礼な顔つきになっていることがわかる。


「えーと、それならばなぜ私は捕まったのでしょうか。わざわざこんなめんどくさいことしなくてもよかったでしょうに」

「貴殿には少し聞きたいことがあったのだ」

「ききたいこと」


それならその場でチャチャッと聞いて解放して欲しかった。

いやもう考えていても仕方ないので、協力的ですとファロメスにも分かるように態度に出しておく。

早く終わりたいのだ、もう協力するほかない。


「貴殿があの盗賊たちを倒したのか?」

「はい、その通りです。もしかしていけませんでしたか?」

「いや、そんなことはない。あいつらには懸賞金がかけられていてな。

無事牢屋にぶち込むことができた。感謝するぞ 」


おっと、これは思わぬ誤算だ。正直懸賞金が掛けられるほど強いとは思わなかったがこれはなんともラッキーだ。

するとファロメスが机の上にドン!と金の入ってた袋を置いた。その金貨の多さにギョッとしたがすぐに気分が戻る。いや…そんなに掛けられていたのかと思ったがこれで宿と食事の心配は当分無くなってウハウハだ。

その袋に手を伸ばすとファロメスが ガッ!っと俺の手を袋ごと掴んできて思わずびっくりしてしまった。


「もう一つ…聞きたいことがある」

「なにか?」

 

その眼光は獣のようで何故こんなにも俺は騎士たちに追い詰められているのだろうと自分の運のなさを祟った。


「本当に貴殿は…黒英断ではないのだな?」

「はい違いますと何度も言っています。あの…そもそも黒英断とはなんなのでしょうか。琥珀糖なら知っていますが」

「こはく…?まぁいい、知らないようなので教えてやる」


冗談を言ったつもりが琥珀糖を知らなかったようで不完全燃焼に終わったが、情報が手に入るのなら別に気にすることはない。ファロメスは黒英断についてまず…と会話を続ける。


「黒英断は昔ハルブァ王国の白英断と呼ばれる最高騎士団だった。戦場や領民を統治するような役目を担っていた黒英断は皆に愛され、尊敬されるべくしてされる騎士団だったのだ。」

「ほう…?」

「だがある時ハルブァ王国と敵対していたスーシャー王国の暗殺隊がその白英断の教会に精神支配系の呪いがかかった瓶を投げつけ、それに掛かってしまった白英断はそれによりハルブァ王国を内面から攻撃するという事件が起こった。

だが白英断のほとんどは死んでしまったが、呪いが掛かったままの人間がまだこの世にいるという話だ。

呪いが掛かった瓶を頭から被ったものがほとんどでな、その時に髪の色と目の色が漆黒に染まったらしい。

それから変わり果てて、同じ人間を攻撃するようになってしまった白英断はやがて年月を経て黒英断と呼ばれるようになった。……これで伝わるか?」

「えぇ、十分すぎる説明に感謝を」


なんか思ったよりも重い話だったな。

でも聞いた話だと無差別に人間を攻撃するゾンビみたいな存在だと認識したんだが、みんな俺の顔を見てビビってたな…なんでだ?


「一つご質問が」

「なんだ」

「話の通りなら無差別に攻撃してくるものだと感じ取ったのですが、街中だといろんな人が私を見て様子を伺っていました。」

「あぁ、元はそうだが最近だと黒英断の名を語り悪さをする奴らが現れ始めたんだ。

そいつらも皆髪が黒い。だからだろう」


迷惑な話だ、何より髪色如きで肩身の狭くするのは俺の思う旅行にならないなと考える。

正直こちらが髪色を変えてもいいが、髪色のストックがないので作らなければいけないのも非常にめんどくさいと考えているとファロメスからさっきとはまた違う思い表情で「相談がある…」と話を切り出された。





「どうもファロメスさん、教えていただきありがとうございました」


半日拘束されたおかげが辺りははすっかり暗くなってしまっている。だが情報が手に入ったのでまぁよしとしようとポジティブに考える。長時間椅子に座っていため、凝り固まった肩をほぐしながら今後のことについて考えていると「あー…」と話しかけられた


「いや気にすることはない、~、あ、あー宜しければ名前を教えてはくれないだろうか」

「え?あ」


しまった、己の名前のことを全然考えていなかった。人間の方の名前はいくつかあるがこの世界の雰囲気にどれも合わないな…えーと…えー

まずいな…ネーミングセンスがないからいつも数日かけて考えるんだが、まさか即興で考えることになるとは…


「…もしや名前がないのか?」


しめた!この勘違いに乗らせていただく!


「そうなのです。漂浪している身ですので特定の名前は持っておらず…」

「そうなのか…つかぬことを聞いてしまった」


なんとか誤魔化せたが、どうせすぐに名前をつけることになりそうだしなぁ…

はぁ、と気を落とし、足元を見ると綺麗な青い花が咲いているのが目に入る。

そう…あんな感じの安直な…


「漂浪者殿?無理して名前を考えてもらわなくても」

「ネーロ・シュルテン…」

「え?」

「あ」


しまった

思わず手で口を押さえてそれ以上の言葉が出るのを防ぐ。考えてる最中なのに声が出て、ファロメスもそれを拾ってしまったのかお互いに気まずい空気が流れる。耐えられずに目を逸らすと

ファロメスの方から俺が出してしまった名前を何回か呼んだ。


「ネーロ・シュルテン…うんいい名前だ」

「え、あぁそうですか?」

「次からはぜひネーロと呼ばせていただく」

「えぇどうぞ」


勝手に名前が決まってしまったので一旦名前の件は放っておくことにする。

そろそろもういいだろうと人通りの多い方へ足を向け、歩き出す。


「ではまたな、ネーロ 先の内容忘れぬようにお願いしたい」


しつこいな…と思いつつ内容が内容だったので、無碍にはせずに軽く手を振って了解の意思を示す。

今度こそ歩き出したところでファロメスが建物に入っていくのを感じて俺もそろそろ宿を探さないといけないなと思い、安めの宿屋を探す短い旅に出た。


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