第一話【人々の様子】
ある穏やかで、それでいて活気がある町々に明らかに場違いな叫び声が空から響いた
「異世界ーー!着地ぃー!」
バゴン!
隕石が落ちてきたのではと思わせるほどの爆発音と共に砂煙が上がる。
街の人々は敵襲か!?と爆発音のした建物の裏路地に顔を覗かせるも、地面が抉れて煙を立てているだけで、その元凶となるものが見つかることはなかった。
カン、カン と赤い煉瓦の屋根が風に揺られてからか音を立てている。
右のレンガから左のレンガへ、順番に音を立てる様は自然のものが起こしているのではなく、先ほど騒ぎを起こした元凶によるものだった。
「いかん…ついはしゃいで目立つような真似を…慎まないと」
せっかく仕事という名の休暇をもぎ取ったのなら有効活用しないとな。
建物の上を右から左へ何でもないように人々が集まる商店の上を軽々飛び越えて見せる。
ここまで派手に移動していれば街の人間にバレそうなものだが、そこは持ち前のスキルでどうにかやってみせる。
ある程度問題を起こした爆発地点から離れると建物の路地に素早く入り込んで、スキルを解除する。
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう」
はー、と一息をつき、帽子をとってバックの中に収納する。
路地の外に目を向けてみると活気のある人々が行き来しているのがよくわかる。
商人の声と親が子供を呼ぶ声 馬車の移動音に中世ヨーロッパを思わせる街並み、異世界に来たのだ、とせっかく収まってしまった興奮がぶり返すのを感じた。
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「よし、とりあえずこの街の人々がどんな衣食住を送っているのか調べる必要があるな」
腕を捲りこれからやることを決めることにする。
とりあえずは最低ラインの衣と食をどうにかしなければならない。
だがどのように?この街のお金も無いのに食事と着るものを確保できるだろうか。
先程の移動で見たところ人々の服の己がきている服はどうにも合っていないようだ。
このまま外に出れば怪奇な服を着ている奇妙な放浪者という位置付けになるだろうと考える。
(まぁこういう時に役立つ望遠スキルは役に立つ)
目を瞑り、意識を集中させ小さくその名をつぶやいた。
(シャッフル・ロウ)
するとその声に反応して目の前の建物、草木、そして生き物さえも透けてしまったさまにあちゃ、と頭を掻きながら以外と調整が難しいんだなと思った。
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「…よし!こんなものだろう」
自分の部屋にこの世界の衣服に近しいデザインのマントがあって助かったと胸を撫で下ろした。
実はあの時引っ張り出したバッグの中身は自分の部屋に繋がっており、バッグの中に顔を突っ込んでもきちんと繋がるように設定しておいた。
足首まで隠れるマントの下は何一つ変わっていないため、ひん剥かれたらやばいことには変わりはないが、そんなことをするのは盗賊ぐらいだろうと思い、これから作り出される思い出を想像し路地から日の当たる街へ足を出したのだった。
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よく報告で飽きるほど聞いた街並みとさほど変わりはないが、美味しそうに熟れている果物、じゅう、と焼かれて人が動いた影響で遠く離れた地まで肉の匂いが鼻にまで届いてくる。
はぁ、と吸い込んだ息を吐くと同時に腹がくぅ、こっちにも寄越せ、と言わんばかりに鳴いた。
だが別に神は生き物とはとは違い三代欲求を満たす必要はないので、不要と言われればそれまでだが
ふと足元から音がチャリ…と鳴り、なんだ?と思い足元を見てみると金貨のようなものを踏んでいた。
普通ならばどこかに届けたりすれば良いのだが、一瞬その事が頭をよぎっただけで結論が変わるほどでもない。
罰が当たるって?俺は逆に当てる側なので問題はない。
それにせっかくここまで来れたのだから何処か適当屋台で食事を取ってしまおうとふらっと人混みを分けて、
肉を焼いている店主と思われる前に出た。
「失礼、そこの老紳士、これはここで使えますか?」
「っ?!あ、あぁ使えるよ。バーブースの肉でよかったかな」
顔を出し声をかけると大袈裟に驚かれてしまう。
急に出てきたから驚かれたのかなと思ったが、バーブースとやらの肉を詰めている間も何やらこちらをチラチラ見ていて少々鬱陶しい。
それよか屋台の外にも気配を向けると通行人の何人かがこちらをコソコソ見ている事がわかった。
やはり変なやつだと思われたか…?いやマントで服を完全に隠しているし、そんなに見られるほどでは無い。
あれこれ考えていると手元に肉を差し出され、店主の「ほらよ」という声が聞こえる。
つい「あぁどうも」と言って受け取ってしまったが、このおじさんなら比較的気前が良さそうだな…と考え
少し下からの姿勢で自分のことについて話を振ってみることにする。
「すみません、つかぬ事をお聞きしたいのですが」
「あぁ?なんだよ兄ちゃん、俺はものなんてしらねぇぞ」
「いえ、そうではなく」
気前が良さそうとはこれいかに?なんだか思いっきり警戒されてしまったようで目つき悪いが全開で睨みつけられてしまった。
で、あるならばこちらは眉をあげ、軽く微笑む事で完全人畜無害な顔を作って応戦することにした。
「皆さん私の顔をチラチラ見られているようですから、何か変なものでもつけてしまっているのかと思いまして」
申し訳なさそうに聞いてみると店主の周りの空気が柔らかくなっていくのを感じる。
よし!成功だ。
するとおじさんは気まずそうに目を右往左往させた後、こちらに向かってちょいちょいと手招きをした。
なんだ?と思ったがとりあえずその行動に従い、手前に置いてある食べ物を避けながら店主に片耳を差し出すことにした。
『~~~~、』
「え?」
聞き取れずに思わず聞き返すと次はもっと大きな声で
「あんた、黒英断か?」
「こくえいだん?」
はて…新しい単語だ。知らないのは当たり前につい先程この世界に来たばかりなのになぜ、その知らん黒英断とやらに間違えられるのだろうか。
それときっと先程の反応を見るからにきっといいものでは無いのだろう。
返答を濁しても仕方ないのでキッパリ言ってやることにする。
「違います。」
「そうか」
そう返答すると店主は緊張の糸が切れたのかガックリと体の力を抜いた。
どうせならこの世界の情報収集をしようとあの、と言葉を続けようとしたとき、
「わぶっ」
後ろから雪崩れ込んで来る人の群れに抵抗する魔もなく店から引き剥がされ、後続にどんどん追いやられていく。
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「あぁ、酷い目にあった」
それから人混みから抜けられたのは数メートルのことで、先ほどとは違う人の多さにもう戻れないなと感じて
しょうがないのでこの人の流れに沿って歩くことにした。
だが、聞きたい事を中断され、少しイラついていたのもあり眉間に皺が寄っていくのを感じる。
すると前から来た人間が俺の顔を見ると驚いたような反応を見せ避けていく。
(なんだ…?俺の何がおかしいんだ?服装か?髪か?身長か?)
一目で判別できるということは見た目に問題があるということになる。
だがあらゆる可能性を考えてみるがそれらが確信につながることはなかった。
まぁ考えていても仕方ないと切り替えせっかく買った肉が冷めてしまうといけないので
いただきます。としっかり心の中で唱えかぶりついた。
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あー面倒ごとに当たったかもしれないと感じたのはもう直ぐで手持ちの肉が完全に骨になるというところで感じた。
ツン、と鼻をつくこの匂いはきっと血液だ。
人混みが嫌だからと目を避けてこんな狭い迷路みたいな路地に来てしまったのがいけない。
別に怪我をするのが嫌でこんな事を言ってるんじゃ無い。
直ぐに治ってしまうものは別にどうだっていい
問題は明らかに目立ち過ぎてしまうということだ。
こんなところでゴロゴロ死体なんて作ってみろ。問題になって国に追われるかもしれない。
というわけで特別な理由を除き、そのような大層なとこはできないので早々に踵を返し体の向きを変えることにした。
「よぉにいちゃん、いいもん着てるじゃねぇか」
いつから後ろにいたのかニタニタと笑いながらナイフを振り回す薄汚い男に、後ろから近づいてくる血液の匂いを漂わせた人間の気配
ーうん、一足遅かったみたいだな。