第四話【慈悲の量は人によって違う】
指を一本目の前で立てる。
「まず一つ目は俺がこれからやることなす事に口を出さない事、他のやつに報告するのも禁止。そして俺が貴女に命令を下した時はいい子に仕事をすること、ふむ…契約でも交わすか?」
「上神様…なにをなさるおつもりで…」
「なに…そう心配する必要はない。貴女の処分は変えられんが、少しは情状酌量の余地があるかもしれんだろう?」
「情状酌量…」
「あぁ」
片足に絡まっていた腕をほどき、わかりやすく『人形』で説明してやる事にした。
『傀儡スキル、 泥の操り人形』
そう唱えてやれば、机の上にあった紙が段々と泥のように溶け始め、やがてその形を形成し、人型の泥人形と変わった。
机の上でできた人形に手招きするとぽてぽてと歩き出し勢いよく机の上から飛び降りた。
「なっ?!その力は!」
「一度使ってみたかったんだ。ずっと気になっていてね」
喋っといるうちに足元まできた人形の胴体を掴んで持ち上げて見せる。主人に持ち上げられて大人しく持ち上げられている人形は大層愛嬌がある。
ん?と視線を感じ根源を辿ると女神・アリシアスが凝視している事に気がつき、わざとらしく顔をニヤリと変えて
「やらんぞ?」
と軽口を叩く、微妙な顔をするアリシアスに後すぐに「冗談だ」と言明しても返ってこない反応につまらないと感じながらも、ここで癇癪を起こすほど短気ではないと切り替えあまりや出たくないが、人形の頭と胴体を引き千切った。
アリシアスはギョッとした表情をしたが、そんな事お構いなしに人形を必要な分だけちぎって空中にポンと投げるとふよふよと投げられた人形の塊は落ちる事なくその空間にとどまり続けた。
「これが俺、このかけらが貴女、そしてこの囲ってある空間が貴女の管理する世界だと思ってくれていい」
指でわかりやすく指しながらどれがなんなのか丁寧に紐解いた説明をしていく
「貴女は天国の資金である金貨2500枚の横領と神用紙二枚の紛失の大失態を犯した。
だが先ほども言った通り、この大失態の裏側に何か涙ぐまざるおえない理由がついているかもしれないだろう」
「は…はい!はい!その通りで….」
「言葉を遮られるのは不快だと知れ。……貴女の請け負った転生者がとんでもなく不遇の生を送っていて、つい善意から手を出してしまったとか、その世界ではとんでもない悪の根源がいて、世界を壊されないために倒す能力を与えていたとか……だから俺は考えたんだ」
「な、なにを?」
アリシアスが何を言われるのかと言わんばかりに目を何回かパチパチ動かして、そして
「それならば俺が貴女の管理する世界まで出向けば良いのではと」
「………はぁーーーー!!?!?ーー!!!?」
その言葉を凌ぐ大声がとんでもない広さの部屋にこだました。
耳元で聞こえたうるさすぎる叫び声に思わず耳を抑えるが、時すでに遅しで鼓膜はキィーーーーンという音を立てていた。
耳鳴りが治まり切らないうちから文句を言うアリシアスに聞こえるようにため息をつき、うるさい、と言葉を止めるように人差し指を口元に持っていく。
これ以上悲鳴を聞くと鼓膜が破れそうだ。
「静かに、直接見に行ったほうがいいだろう」
「だっ、たからと言って!そのような事をなさるなど!」
「もーくどい。お前に残された答えは『はい』と『イエス』しか残っていない」
玉座から離れ、歩きながら空中に現像した亜空間から名簿を取り出してアリシアスの名前を探す。見つけ出したアシリアスの名前から担当している世界を検索にかける。
「惑星リファードか…」
口から漏れ出た言葉はアリシアスに突き刺さったようで石のように固まって動かない その様子を構おうとも思わないので腰の袋から神用紙を取り出し、上に投げる。
「リファードの情報を閲覧」
すると紙は下から燃え、燃え広がったところから必要情報が書かれた地図の方のようなものが実現する。
燃え終わった紙は重力に従い落下するが、その前に腕で少々乱暴に受け取ると軽くゆるりとカーブしている神用紙を手で先ほどとは違い丁寧に伸ばすと内容に目を向ける。
リファードは大魔王、マーヴィン・ロザリオ が支配する世界を救うべく、転生者が送り込まれた…らしい
なんとも典型的な…と思ったのは許して欲しいところだろう。
だが…なんと食べ物が美味らしい。溢れ出す涎と共に行きたい欲求が高まる
「うまそ…ん''ッ、出立は…今からでもいいか…あぁそうだ。
もし俺が転生されるべくしてまかされたその魔王討伐の任務を転生者が果たしていないと判断した場合」
ゆっくりと…しかしそれは確実に顔をアリシアスに向けて
「その転生者及び勇者の所持しているスキルを没収し、貴女も女神としての権利を剥奪する」
と言ってやった。
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「う、うぅ…」
「さてと、契約書に記入していただけたので、しばらくは頭の悪い行動を取ることはしないと思うが。そ、れ、と、貴女は俺ががリファードに行く事を転生者にも教えてはならない。面倒なことになるからな
リファードに行った後は転生者との連絡も控えてもらう」
パチン!と指を鳴らすと簡易的なバックが出現してそれを手に取り、流れで肩にかける。
そのバックの中から黒のキャスケットを取り出し髪を気にしながら慎重に被っていく
「まさか今からですか!?」
「もう今更戻る気ないしな…100年間休みを取らずに働いたんだから少しぐらい許されるだろう」
慌てて上神のそばに近寄り、その肩に掴みからんとするアリシアスをかわし、上神は鬱陶しいという感情を隠さず表情に出した。
「事あるごとに引っ付いてくるのをやめろ。うざったい」
「お、お考え直しください!こんな事他の神たちに知られれば私はどうなるか…」
その言葉に思わず耐えられずに笑いが込み上げてくる。アリシアスは思わず一歩ニ歩後ろに下がるが、なおまだ笑い続ける上神に恐怖の感情が湧き上がってくる。
上神はアリシアスのその様子にさらに笑いを堪えきれず、ついには腹を抱えて笑い出した。
一頻り笑った後、その目じりに溜まった涙を人差し指で拭いながらアリシアスの方を向いた。
その顔はまだ笑いを引き寄らせており、余韻で収まらぬ笑いをはーはーと吐いて息を整える。
だが、その場に似合わぬ屈託のない笑顔が逆にアリシアスは恐ろしかった。
思わずさらに後退りをする
「あーいや悪い悪い。俺より偉い神なんていないだろうに…何を言っているのかと思ってな」
「は…」
「さて、ふざけるのもここまでにしようゲートを開けろ」
「………はい」
もはや抵抗することなんてできない女神は上神に言われるがまま自分が手塩にかけて育てている者がいる世界にこの者を送り出さなくてはならない。
アリシアスが両手を翳し、右手をぐるっと時計回りに回すと何もない地面から光が差し込み、石同士が擦れるような音と立ててその門は完全に扉を開かれた。
その中を覗いてみると、現実には存在しないであろう動物や建物が米粒のように映し出されていた。
「ゲートが空中とはなんともまぁ……本当は地上が良かったがまぁ良しとしよう」
バックを掛け直し帽子を深く被り直す。そして己の胸に手を当てる。
『妨害スキル、シークレット・チェンジング・センス』
探知不可のスキルをかけると上神の体は光を帯びながら徐々にその気配を消していく
「そ、そんなスキルまで…」
もはやどこにいるのか認識できないのかキョロキョロするアリシアスに分かるように言葉をかけてやる。
「では後はよろしく頼むぞ。それと俺とも連絡手段は残しておくように」
そう言って体を捻りストレッチをすると、空につながる門の縁に足をかけ、
「俺はこのもぎ取った休暇で!異世界を満喫してやる!いざ行かん!!異世界ー!!!!」
段々と小さくなっていく明らか仕事目的だと思えない私情の叫びにアリシアスは場にへたり込むとついには我慢しきれずに大粒の涙を流した。
「なんなのよ…なんなのよぉぉ!!!」
それは地面を湿らせる水たまりを作ったが女神はそれを見ることも無くただ怒りと悲しみを露わにしていた。
能力説明
・傀儡スキル、マッド・パペット(泥の操り人形)
物を媒体として泥人形を召喚できる。
命令すればその通りに動いてくれる。
大きいものから媒体とすればより大きい人形を作ることが可能。
ちなみに泥を浮かせたのは神の自前の力。