第三話【元凶、一人目みっけ】
『~、!~~。~』
玉座に行くには術がかかった陣から相当距離があるが、持ち前の五感の良さが発揮され下神と天使が話している声が近づけば近づくほど鮮明に耳に情報として入ってくるわけで、
「ねぇ〜まだ大神様は見つからないの?」
「ただいま天使総出でお探ししている最中でして…」
「早くさがしてよぉ私の転生者に新しい能力値を追加で作ってあげたいの」
「そう言われましても…」
あぁ、なんとも哀れかな、息を呑むほどの美しい女神は己の爪をつまらなさそうに弾いているだけ、こんなに間近に、後ろに立っていても気づきもしない。
上司に対する敬いも尊敬もない言葉遣いにピキ、と青筋がいくつか立った。
そこでこの話を聞いていたとすれば一体どんな態度を取るだろうと気になり、後ろに組んだ腕のまま軽くパチンッと指を鳴らし全てのスキルを解除してやる
「ッ~?!!」
女神の正面に立っていた天使はすぐに俺が現れたとこに気がついたようで、言葉を詰まらせ驚いた顔をさらに歪ませ、冷や汗をかきながら生唾を飲み込んでいる。
緊張しているようなので軽く手をひらひら振るとまた少し顔が歪んだ。なぜ
対して女神は指の音にも気が付いていないのか先ほどと変わらず自分に対しての文句をずっと垂れている。
その仕事中の油断と怠慢にどうやって処分してやろうかこいつ………と拳を握り込ませた。
「あ、…あの」
その場の空気に耐えられずにいた天使が見かねてすっかり怯えて萎縮した態度で目の前の女神に声をかける。
何を言っているのかがよく分からなくなるほど震えていたが、自分の話を遮られたと感じた女神はムッとした表情で目の前にいる天使に苛立ちを乗せた言葉をぶつける。
「なによ」
「あ、あ、あの…あっ」
後ろから感じる殺気にうまく呂律が回らない。
もう逃げ出してしまいたいと思っているだろうに、それでも耐えられているのは怒りの矛先が自分ではなく目の前のバカ女神だからだ。仕事を放棄しないその忍耐に天晴。
だがもはやこの怒りは自分自身では止められないので心の中で何回か謝っておくことにする。
「?なんなのよはっきり言いなさいよ」
様子がおかしいとやっと気づいたのか玉座でだらけていた体を持ち直し、目の前の天使に姿勢を向ける。
「うッ、後ろ」
「…後ろ?」
後ろに意識を向けると女神の体がチクチクと痛み出す。ゴクリと唾を飲み込みゆっくりと後ろを向く
「随分暇そうだな?」
『ッ!?』目があったと同時にその眼光から発せられる殺気を浴びた女神は喉を詰まらせ叫び声とも呼べぬような声を出し、俺から逃げ出すように反対方向に咄嗟に体をのけぞらせる。
長く、綺麗なレース状のワンピースはひっくり返ってしまった体と同じように従いその上半身まで上がり、きめ細かい肌を空気と俺の目の前に晒した。
「淑女のしの字もないな…下着丸見えだぞ。」
相手を気遣う言動と比例しない冷ややかなで蔑みを含んだ目線を投げかけてやる。
女神は自分の晒している下着など構わずに何故、とあたふたしておりきっと頭をフル回転させていることだろう。きっと何故?いつから?どうやって外からここへ?と考えているに違いない。
「だ…大神様ッ…何故ここに…それにッ…そのお姿は……」
「『はて?』…大神と呼ばれるほど私は貴方と親しい仲だったかな」
疑問文だと思えないほど強く、最初の部分に含ませた殺気とも言える敵意を相手にぶつけると綺麗な髪を振り乱し慌てて立ち上がり俺と距離を取る。
怒られて取り乱すなら最初からちゃんとしていて欲しいものであるが、この女神の性格からしてそれは難しいだろうと思う。
息を切らして顔を歪める女神に『はぁ、』と落胆の意図を含ませたため息をつくとすこし、自分自身が出していた痛々しい空気が空気が柔らかいものへと戻っていくのを自分でも感じた。
「少々聞きたいことがあったのでな、いやはやまさかそんなに暇していたなんて知らなかった。悪かったな
さぞ仕事量が足りずに飽き飽きしていたことだろう」
嫌味ったらしく言ってやる。
それでも怒りはまだまだ収まらないが、ふと目に入った天使がまだ震えていることに気がつき手で『戻れ』の命令を下すと礼をしてバサバサ、バタバタと羽を乱しながら慌てて部屋から出て行くのを静観した。
『そんなに?』となんだか傷ついたような気分になったが、正直自分自身でもあまりいい状態とは言えないことをわかっているため、大袈裟に拗ねたと言う態度をとりながら女神に向き直ってやった。
女神は先程とは全く違う上神の態度に混乱を目に表しながらも先ほどより幾分か落ち着いたようで、その態度に、もういいだろうと判断し早速言葉を切り出す。
「さて、二人っきりで話すのは随分と久しぶりだな」
そう優しく言ってやると女神はビクッと肩を振るわせ顔をこわばらせた。
「あ、あの上神様…何故このような場所にいらっしゃるのですか?」
「いや何、ちゃんと仕事はしているかなと…だが杞憂だったかな?」
「も、もちろんですわ!しっかりと仕事はこなしていますもの!」
カツカツとハイヒールを鳴らし大股で上神にキスしてしまうほど近寄る。
その近さに思わず大袈裟にのけぞってしまったのは許してほしい。
その近さでなおさらに近くまで体を寄せてくるため、後ろで組んでいた腕を解除し女神の額に人差し指を立てぐいっとゆっくり押し返す。
身長差があるのにその迫力ときたら悪魔も裸足で逃げ出す事だろう
「…そうか、ならよかったんだが…一つ聞きたいことが」
「はい!何なりと!」
「『これ』はなんだ」
腰袋の中の異空間から取り出されるは一枚の紙切れ
だがそこに書いてあるのは目の前の女神がしでかした報告書の人間の死亡数の書き換えと金貨の横領、それらを隠蔽した罪が書かれた文がズラリと紙には並んでいた。
本当に色んな意味でよくここまでやったものだと感心しながら本人の顔をじっと観察してみる。
すると読み進めていくうちにだんだん顔色が変わっていって面白かったので幾分か機嫌が直ってくるのをはっきりと感じた。
「な、なんでこんな…」
信じられないと言わんばかりの女神の前にさらに主張するように紙を懇切丁寧に振りながら理由を教えてやることにした
「貴女が犯した罪の数々と言えばよくわかるか?
お前が手違いで人間を殺してしまったミスを隠すために転生させたこともよく知ってるぞ」
「いわゆるトラ転だな」と
冗談を混ぜて言ってやると先ほどまで怯えていた顔がこちらに向けられる。
「そんなところまで…」
「バレないと思ったのか?」
「だって………こんなの」
「知ってるか?貴様らが軽々しく『ほしいほしい』と言っていたスキルや能力、魔法…あれをいつも俺が1人で一から作ってたんだぞ」
女神が言葉を言い淀む。
「朝から晩まで休憩なしで仕事仕事…天国なのに俺には安らぎが全くと言っていいほどない」
「それをするのが貴方の仕事でしょう!?」
カチンと頭に血が上るのを感じる。どうやらこの女は人を怒らせるのが特技のようだ
「…大体毎回不思議に思ってたんだ。転生させた後も人間に関わってるなんて、普通、ありえない。もっと早く気を回せばよかった。天国にいる時の記憶も保持しているのもおかしい。貴様は何か?ゲーム感覚で仕事をしているのか?」
ガタガタと最初に震えるのがわかったのは机の上のカップだ。次は机、そして地面。だんだんと大きくなっていく地震に女神はまともに立っていられず、玉座に体を預けてその揺れに耐えようと必死になってしがみつく
「転生者がキャラクターでお前らがプレイヤーそして能力を供給する俺が運営か?…いやお前らの感覚だと課金する資源をくれるATMとか思ってたんだろう」
地震は止まることを知らず揺れはどんどん大きくなっていく遂には立てなくなって女神は地面に這いつくばることしかできなくなった
「あ…あぁ、もう…やめ」
「と、まぁ強く怒ったが、これ以上ぐちぐち言っても仕方がないしな…チャンスをやる。」
まるで別人が喋り始めたかのように思える声色の違いと共に地震はぴたりと止み、まるで何事もなかったかのように話し始める俺とは違い、息を切らして地べたに這いつくばっている女神の方がまるでおかしいとも言える。
「チャンス…」
「あぁ、神らしく慈悲深くだ。だがこれを逃せばお前は二つの意味でクビになることが確定する」
2を意味する二つの指を一つずつ折ってやりその意味をわかりやすく説明してやる。
だんだんと歪んでいく顔はどうやら意味合いをわかってくれたようで 己の首に手を当てて狼狽える表情をみせた。
「やります!やらせていただきます!上神様!お慈悲を!」
「うっわ…」
みっともなく足に縋り付く女神はもはや美しいとは言えない風貌になっていた。軽く足を振っていなすが離れる気はないらしい
「ならば、女神・アリシアス、貴女に仕事を与えるとしよう」
相手の目線に合わせて腰を落とし、
目が合うようにしてこれから慈悲を与えんようとするそれはそれは優しい顔をしてやった。