第二話【仕事を増やしていたのは誰?】
「これはとりあえず早急に原因を解明しないと体がウズウズしてたまらない かと言って直接調査しにいくのも………何か使えそうなものは…」
早朝、結局夜中起きてしまったのであれこれと書類をまとめていた。
決して社畜に精神侵されているからというわけではない。
ガチャガチャと机の上の物を取捨選択して何かいいものがないか探すがいまいちピンとくるものがない。
「ガラクタばっかりだな。まぁこの部屋には仕事で能力を作る時と書類をまとめるときにしか帰ってなかったからな…はー……泣きたい…ん?」
コツンと何か本のようなものが手に当たり机から落ちそうだったので咄嗟に手で掴み取り、その中身を開いてみる。
すると目に飛び込んできたのはずらりと並んだ転生者に与えるはずだったスキル一覧表。
昔製作した作品とも呼べるものだ。
「そうだった。 意味わからん性能付けすぎて使えなくなったりバランス取れないからお釈迦になったが、勿体無いからこっちに保存していたんだったな」
作成中の心身の苦労とできた時の喜びが蘇り懐かしいと本に書かれた性能をゆっくり閲覧していると、一つ気になるスキルが目に入る。
「『望遠スキル…成り代わる列』…盗賊系の能力か?」
作った時の記憶がいまいち思い出せないため、能力の詳細を見てみることにした。
能力値の見方は至って簡単。
本から必要な能力を取り出すために神用紙と呼ばれる紙を一枚手に取り、見たい能力の名前を口にだして言って上に投げる。
するとふよふよと空中に止まるのでその間に神用紙に向かってやりたい事を言う、この場合
「『望遠スキル、シャッフル・ロウ』の能力詳細を閲覧」
でOKである。
すると神用紙に能力の名前と詳細がキーボードで打っているみたいに文字がバーっと出てくるので、我慢することが苦手な俺は、紙に全部書き終わる前に神用紙を手に取り能力詳細を見てみることにする。
「えーと、『望遠スキル、シャッフル・ロウ』は半径150m以内にいる相手の行動を観ることができる能力である。相手が探知系スキルを所持していない場合はこちらのことを悟られることはない。
メリットは遠くからのサーチ、…つまり遠くから相手にバレずに行動が見れますよということか、
デメリットは探知スキルを使われた場合、見られていることがバレるだけでなく、位置までバレる可能性がある。
なんというか普通だな…盗賊系ではないな、なぜこれをこの巻物に入れたのかが…ん?なんだこれは裏詳細?」
思ったより普通でつまらない内容に損した気分になったが、
神用紙の裏に続くように書かれた『裏情報』と書かれた文字を見つけ、こんなもの入れた覚えがないので不審に思ったが、好奇心が上回ってしまったので紙を裏にひっくり返してその書かれているものに目を通す。
「あぁ思い出した そーだこれ表向きは普通のアイテムっぽくしてたんだったな、やっぱり盗賊系か?」
裏に書かれていた初期情報…『望遠スキル、シャッフル・ロウ』は相手の行動を観るだけではなく、5秒以上見続けたアイテムを己の手に転移させることができる。
半径30m以内にいる生き物と自分の位置を入れ替えることができ、位置を入れ替えた後は5秒間透明になれる。…なるほど。ボツにしただけの事はあるな。
「それにしても息抜きに作ったんだったよな、これ」
このスキルを作ったのが約100年前の転生者の数がまだぼちぼちだった頃だ。
あの頃はまだ作るものの量が今ほど多くなかったから、息抜きに…と余裕を持って作ることができた俺だけのスキルだ。
「懐かしい…この頃は好きなように作れたんだけどな」
詳細を何回か読み返し、ここ最近の仕事量を振り返る。
休憩もする暇がないほど作らされたアイテムの量は数知れず、思い浮かぶのは憎たらしい下の位の神の顔と己の体を心配してくれる優しい神獣と天使たち、
ふと壁にかけてある時計を見てみると6時51分。
始業時間まであと10分を切っていた。
止まらないため息に歳かな…と思っていると唐突にやってみたいことが頭に降ってくる。
「作ったことはもちろんあるが、自分自身が使ったことはなかったな」
ほんのイタズラ心にくすぶられ神用紙を上に投げ飛ばし口を動かす
「取得する」
その言葉に反応して神用紙が一気に燃え広がり、己の体に炎の紙屑が巻き突き出した。手を動かしても火傷するわけではないのでこれは精巧に作られたエフェクトらしい。
しばらくして炎が消えたのを確認するとグーパーと手を交互に動かす。
うん、体に問題はないらしい
「悪い気分もしない…一度使ってみてもいいな?」
体をクルクル回して動かして肩慣らしをしているとドタバタとドアの外が騒がしくなり 気分が下がる。
大方、始業時間を過ぎても部屋から出てこない上司を引っ張り出しにきたのだろうなと思い、ドアの向こうに意識を向ける。
人数は足音からして4人ぐらい、そのうちの1人からは金属のぶつかる音が聞こえているからおそらく鍵を持っているのだろう。
「無駄なことを…でもちょうどいい。あの鍵を返してもらおうか」
口角をニヤリと上げ、ガチャガチャと音を立てる扉に向き直り目を細める
すると扉の向こうが鮮明に、的確に目の中に入ってくる。いいぞ問題ない。
やはり読み通り、天使3人にその上司であるアホズラをした下神が1人いたようだ。
我が物顔で鍵を所持していた下神に不快感を覚えながらも、その今鍵穴に差し込もうとしていた鍵本体をじっと見つめて数を数えてみる。
(1…2…3…4…)
5、と数え終わったと同時に自分の右手に重みを感じ
成功したか?とスキルを解除し右手を持ち上げてみてみる。
「…おぉ!まさしくあのアホが持っていた鍵だ!」
問題なく能力が使えたことに感動してると外からさらにうるさい声が聞こえてきたがそんなものは無視だ。
おそらく…というか絶対議論内容は『無くなった鍵について』だろう。
『取った』『取ってない』のアホのような論争にため息しか出てこない。
もうしばらく感情に浸っていたいところだが、あいにくあの扉にはなんの能力も効果もかかっていないし蹴破られるのも時間の問題だな…どうしようかと考えようとするとチュン、と小鳥の声が聞こえる。
見れば窓の枠を超えた木の枝上に一匹可愛らしい色の小鳥がとまっているのがよく見えた。
「鳥か……次の能力を試せそうだな」
そう言って小鳥に向かってするべきではない不純な笑いをした。
バダン!!
圧力をかけられ砂煙を立てて無惨な姿に変わってしまったかつてのドアだった物はだだっ広い部屋の中心までその破片を飛び散らせた。
「い、いない!?どこに行ったんだ!」
木の上から様子を見て笑いそうになったが必死に堪えて地面に飛び降りた。
一生そこでバカ面晒しておけ愚か者め。
まだ探しているであろう後ろから聞こえてくる足音に『あの様子だと部屋の中にいた鳥に気づいてないな』と少しがっかりした。
シャッフル・ロウの自分と別の生き物の位置の入れ替えは、その名の通りシャッフルされると言って過言ではないだろう。
能力は『手のひら以上の生き物』であれば制限はないため、テレポートとほとんど変わらない能力値を有しているのである。
(しかも5秒間の透明化付きだ。 5秒もあれば十分に建物から離れることができるし、なかなか能力を拾った)
鼻高々に放つ言葉には多少の自慢も入っているが、実際建物の間を難なく風のように通り抜けるその能力と力の強さに誰も文句は言えないだろう。
ある程度の離れの建物の路地に入ったところで警告音が1,2回頭に鳴り響き透明化が解ける。
「ふー、意外と5秒は長いな」
息を吐きながら路地から顔だけを出し、辺りの景色が移り変わる様を眺めてみると、さっきまでいた建物が小さく見える。
しかも追っ手は来てないようなので一安心だ。
再び路地に顔を戻し、少し考える。この真っ白な装いと体では神であることがバレるなと思い、体ごとその作りを面影を残しつつ、身長、髪色、服、そして最後に目の色を変えて完成。
何より最近人間への擬態はやっていなかったが、久しぶりにしてはなかなか上出来だ。
何よりこの体になれば元の体よりは不自由を強いられるため、壁に体を預けて楽な体制を取り、腰に刺していた巻物を取り出して開く。物を持ったままでも一緒に入れ替わってくれるようなので大変便利な能力である。
そして元の体の能力値に近づけるようにいくつかの能力を吟味していく
「ふむ…調査するにもほかにいくつかスキルは取っておくか?せっかく俺は制限なしで使えるしな」
上神が作った能力をデータにして下神に渡す時、能力値が『劣化』という形で少し落ちる。なのでその劣化も考慮して作っていたのだがこの巻物にあるのは没案、オリジナルなのでその考慮は入っていない。
「これと…これも取っておくか、これも相性が良さそうだ」
腰に下げてある布袋の中身は上神が作った異空間につながっており、その中から必要な神用紙と金貨をどんどん取り出して取得していく
能力値が上がっていく自分の体に多少の違和感とそれを上回る草原にいるような体の軽さを感じ、深呼吸をしてそのバランスが整うようにゆっくりと体を動かしていく
「こんないい物を転生者に渡してたなんて…もう自分のために使うと決めたんだ。
こっちの素体の能力値は高くないから、この力はありがたい…もっと俺が強ければ苦労もしないのだが」
何か勘違いしているがいくら姿を変えようと神の中でも能力値は高い方であるし、このような能力を作れるだけでも相当なぶっ壊れである
「よし、とりあえず使いたいものは取ったから、俺直々にお忍びであいつらの仕事ぶりを見に行ってやろうじゃないか」
そう言って新たに取得した『移動スキル、加速する転移』でその場を後にした。
「そっちはどうだ?」
「こっちにはいらっしゃらない おいそっちは…」
(もう俺のことが周りに伝わっているのか…)
うるさい足音に思わず柱の影からこそっと覗いてみると天使達が慌しく誰かを探している。それは言わずもがなこの自分であると思うが、このままだといくら『阻害スキル、変貌する秘密の感覚』で意識を逸せているからって見つかったら終わりだ。
(このままだと遅かれ早かれバレるな…しょうがない『阻害スキル、見えない目撃者』を使うか…)
柱から姿を現しながら自分の体に効果をつける。コツコツと足音を立てて歩いても天使達はこちらを気にする様子はなく、変わらず慌ただしく目の前にいる人物を素通りしていく。
コツン、
すれ違うときにたとえ足が当たったとしても、天使は不思議そうに振り返るだけで、なににぶつかったかなんて考えもしない。いや、考えられないのだ。
あの路地で取得したいくつかの能力の一つ、『妨害スキル、シークレット・チェンジング・センス』は敵から己の認識を逸らすことができる能力だ。道端に生えている草木のようにその存在が当たり前と認識しその意識から存在を外すことができる。
次に使った『妨害スキル、インビジブル・ウィットネス』
は簡単に言うと透明化だが、ちょっとやそっとの探知スキルなど掻い潜ってしまう優れもの。これだけでも非常に良いものだが
『シークレット・チェンジング・センス』と『インビジブル・ウィットネス』、
この二つを合わせると『シークレット・チェンジング・センス』の触られると認識が解除されるデメリットと
『インビジブル・ウィットネス』の10秒間見つめられると透明化が解けるというデメリット同士がぶつかり合い、余程の探知スキルで確実に認識しない限り、このスキル同士が解かれることはなくなる。
なんとも素晴らしいのだろうか!
(あぁ、こんなにいいものだったなんて…何故早く気がつかなかったのか…)
いくら表情を抑えても頬の筋肉は勝手に弧を描いて上に行く。
書類仕事以外のやる事が出来たおかげか視野が広くなり、心なしか目元のクマが薄くなったように思う。やはり人間も神も毎日繰り返しの日常では自分自身も廃れていくのだなぁと改めて思った。
「異世界旅行もいいよな…っと通り過ぎるところだった」
細々と考えていつのまにかついたのは白銀の虚室につながる術式が書かれた陣の上だった。
考え事をしているとすぐに物事が進んでしまう事を少し懸念に思い、気をつけようと己に釘を刺す。
そんな事を考えている間にも足で陣の発動を促し、無事に白銀の虚室と呼ばれるところに到着した。
転移してまず初めに目に入るのは何もない、地面も空も全てが白で構成されているような部屋。
とても広く、声までもが響き渡りそうな広い部屋だが、手を差し出しながら歩くと透明な壁のようなものに手があたるバリアブロックを楽しめる
さて、話は変わるが下神たちの職場…もとい転生者がよく送られてくる何もない白い空間をご存知だろうか?
あれは通称『白銀の虚室』
まぁ、言いにくいのも相まって皆はホワイトハウス…と呼んでいるが全く別のものである。
実はあれは長方形の空間を見えない壁で仕切っており、防音魔法と認識阻害の術がかけられている。
なので隣の壁をぶち抜けばお互い顔を合わせることができる気まずいトイレのような構造になっているということだ。
説明している間にも辺りを見渡すとそれっぽい玉座にそれっぽい人影が二つ見つかった。
そこで、あー…と少し思うところが頭をよぎる。
いくら部下と言っても神と呼ばれる存在には違いないし、堂々と行くのは失礼か?と
流石に気持ちだけでも隠れてる気分になった方がいいか、と踵を上げて極力音を立てないように忍び足を使いながらもその人物がいる玉座に堂々と正面から向かっていった。
能力説明
・望遠スキル、シャッフル・ロウ(成り代わる列)
神が息抜きに作った本来使うことはなかったお飾りのスキル。
千里眼のような能力を持ち、半径150m範囲にいる特定の人間を観察することができる。
探知系のスキルを使われない限り、見ていることを悟られることもない。
裏スキル
望遠で見つけたアイテムを五秒間見つめることに成功すると自分の手元に転移させることができる。
ただし、1日に2回しか使えない。
他にも半径30m以内にいる生き物と自分の位置を入れ替えることができ、位置を入れ替えた後は5秒間透明になれるがこれにもクールタイムが存在するため、何回も連続で使うことはできない。
移動スキル、スピード・オブ・テレポート(加速する転移)
その名の通りテレポートできる能力
一度行った場所であればテレポートが可能。
体に触っていれば物も人も一緒にテレポートが可能。
・妨害スキル、シークレット・チェンジング・センス(変貌する秘密の感覚)
敵から己の存在を認識しにくくさせる効果を持つ
そこにいるのが当たり前であるかのような認識をさせ、その意識から外すことができる。
だが触れられてしまえば解除されるので注意が必要。
・妨害スキル、インビジブル・ウィットネス(見えない目撃者)
透明化の役割を持つスキル。ちょっとやそっとの探知には引っかからないが10秒間見つめられると透明化が解除される。
シークレット・チェンジング・センスと
インビジブル・ウィットネスを
同時に発動させると、お互いのデメリット同士がぶつかり合い、触れられれば解除されると見つめられると解除されるというデメリットがなくなる。
強制解除させるには余程上位の探知能力を使わないと解除させることはできない。
疲労が溜まりやすくなる。