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神による、仕事という名の異世界旅行  作者: 馬鳥件
第一章【疲労の原因】
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第一話【たった今俺は職務放棄した!】

神視点のお話はあまり見ないなぁと思いなんとなくで書き始めました。

異世界転生の話などでよく見られる主人公だけに与えられる最強の力をご存じだろうか?


あれは死んだ魂を少しでも労うための特典的な役割で、魔力が少し高いだとか、特定の技術が他の人より秀でているだとか、そういう意味合いで神様が与えているものだ。


……………………なので




『上神様〜次こんな特典をお願いします!』

『上神様!次このスキルを』

『上神様!この魔法をこの人間3人に』

『上神様!』

『上神様!』


『じょうしんさま!!』


止まらない声に拳を振り下げる。

その拳はガン!

と机から大きな音を立て、書類が拳の勢いに負けて上に舞い散った。


パラパラと上に向かって散った紙たちが重力に従って下にゆっくりと落ちていく。




「こんな俺つぇえぇぇえなハーレム展開にするために能力与えようと思ったんじゃない!!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「もういい!俺はもう仕事をしない!休みを取らせてもらう!」


「上神様どうかお考え直しを!」


長い長い宮殿の廊下を止めようとする複数人の部下を振り切りながら歩いて自室の扉を乱暴に閉める。


バタン!


完全に締め切ったところでガチャンと鍵をかける。

やっと一人になれた。

しばらくぼーっとしていても全く聞こえない人の声に涙が出てくる。


「あぁ、久方ぶりの静寂が……」


俺は転生者たちに力を渡す役割を担っている結構偉い上神と呼ばれる神だ。

先ほど振り切っていた部下が下神と呼ばれる神。


ここ最近、明らかに仕事量が多くて疲弊して、こんなふう時自室に引き篭もる選択をとった。



少々限界だったので自室の椅子に深く座り込み、大きく息を吐く。うん、少し楽になった。

あぁ素晴らしい!早く休みを取っておけばよかった!

だが10分20分と立つとやることがなくなってくる。 暇だ、だからといって仕事なんぞしたくはない

パッとなんの気無しに机を見ると、

ちょうどよく万年筆が目に入る。


「そういえばいつからこんなに忙しくなったんだったか…」


よく考えてみればここ100年間での転生者が異様に多い、

気分転換も兼ねて情報をまとめるべく俺はペンを手に取った。




転生者は日本の死者から徳を積んだ人間が優先的に転生ができる。

徳を積めば積むほど好きな能力値もある程度選ぶことができるのだ。


だがここ最近人間の転生スピードが速い気がしてならない。

報告書とも人数合わないし、何が原因だ?


「部下の神々からもそんな報告聞かないな…ふむ…」



ゴリゴリと万年筆で紙に単語を紐づけて考えをまとめること数分、俺の額にはだらりと汗が流れ出た。


「え?…ミスの隠蔽と横領‥?」


その自分の口から出た答えに勢いよく椅子から立ち上がり、部屋の中を忙しなくぐるぐる回る 

いや馬鹿なことを… 


「いやいやいや、いくらなんでもそんなはずは!?な!?

書類を押し付けてくるダメ神でも、ミスをこっちに丸投げしてくるバカ神でも

神としての自覚は…ある………………はず」


思い出されるのは悪気すらない顔をして仕事を上司に丸投げしてくる部下だった。

青筋を立て、そんなはずない、と言い切れない自分に冷や汗が出るのを感じた。

その間にも嫌な考えが頭の中を駆け巡るのをやめない。


(そういえばちょくちょく渡していた物資の紛失も激しかった気がするな…)


上神が下神にスキル依頼を受けて作成して、そのスキルを復元するのに必要な物資も一緒に渡していた。

例えば、新たな能力や特典なんかを転生者に贈りたい場合、


下神がそれを上神に報告 → 上神が必要な分だけ作成してデータ状になった能力や特典を下神に渡す →データのままでは使うことができないのでそのときに金貨うん万枚と、神用紙と呼ばれる特殊な紙を使って転生者に再構築されたスキルを渡すという形になる。


必要な資金の数は能力が完成した段階ですでに把握できるため、下神にはちゃんとピッタリ数を合わせて渡しているはず、それなのに


『上神さまぁ〜すみません〜金貨が足りなくてぇ』だの、


『すみません金貨がうん千枚足りなくなってしまって、新しく頂けますか?』だの、


『あー、あの、あの上神様、すみません、おかね…足りなく‥なってしまって、へへ』だの!


『さーせん神用紙無くしましたぁ』


だのだのだのだの!!!!のたまりやがった奴らは1人や2人じゃない!

考えれば考えるほど怒りと焦りが湧いて頭の中がぐちゃぐちゃしてくるではないか。


「足りないじゃなくてお前らが無くしてるんだろう!!きっちり必要な分は渡してるだろうが!少額ならしょうがないと割り切れたが、

よくよく考えてみればうん千枚の紛失って大損害すぎるだろう!罪の意識がまるでないではないか!!」


考えてみればわかることだった。


こんなにも長い年月気がつけなかったのは積み重なった疲労が脳を侵食していたからに違いない。 

しかも何がムカつくって紛失した分は俺がわざわざポケットマネーから出していたことだ。


バコンッ!


つい足元に落ちていた木箱を蹴り上げる。力が強かったのかその木箱は半壊。


「…っ」


物に当たるのは良くないな、その音でぐちゃぐちゃになっていた頭はいくらかクリアになり、文字通り頭を抱えて後ずさったときにちょうどよく足に当たったベットにボスンと座り込んだ。


「…はぁ、……もうどっか旅行に行きたいな…。絶対無理だけど…」


もう何年も触ってすらいなかったベットは思いのほか綺麗に整えられていて、あぁ毎日天使たちがベットメイキングをしていてくれたのだなと感じた優しさに、じんわりと涙を浮かべそれと同時に横に体を倒した。


「うん…寝ようか……そうだ、そうしよう、」


すっかり忘れてしまった心地よい感覚を思い出し俺は逆らうことができない。優しく包み込んでくれる布団は安心と一緒に眠気が迫り上がる。

俺たちには食事も睡眠も不要だが、一度この心地よい感覚を覚えて仕舞えば忘れることなどできるはずもない。

自分の意思とは関係なく瞼は重力に従い下に下がる。


「まぁ…とりあえず……今は、目一杯寝てやる…………」


などと呂律の回らなかった言葉を暗い部屋に残して意識を飛ばした。





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