7話 モール奪還と警察との遭遇
そこで俺は館内放送を使って、メッセージを伝える。
『あー、あー、聞こえますか。聞こえたらマルを出して下さい』
するとヤンキーの一人が両手でマルを表示した。
監視カメラは音声機能はないから、意思の疎通にはこういった方法を取るしかない。
『君達の身柄は確保したよ。大人しくするなら、出すことも考える。そうでないならこのまま放って置くけど、どうする?』
暴れ出すヤンキーども。
そりゃそうなるか。なら、放って置くだけだ。水も食料も無くて、何日持つかな。
その後、再び監視カメラで館内をチェックする。
他に誰も居ないのを確認したところで、今度はモールの外に向けて放送した。避難民の人達へのメッセージだ。
『館内の偵察が終了しました――』
そこまで言い掛けて思い出す。
そう言えば偵察が目的だったな……
偵察のはずが、ちょっとやり過ぎたかな。
まあ結果オーライだ。
俺は放送を続ける。
『――偵察の結果、ヤンキーどもは全て取り押さえました。今から正面出入口のシャッターを開けますので、しばらくお待ち下さい』
そう言って俺は、正面入口のシャッターを開けに向かった。
各出入口のシャッターと扉は全て手動キーとなっている。警備室からだけでは開けられないのだ。
非常灯だけが灯る薄暗い中、俺は何とか正面出入口に到着。シャッターのスイッチを押す。
するとガラガラと音を立てて、シャッターが上がっていく。
まだ予備のバッテリーは残っているようだ。だがその内それも無くなるだろう。そうなると大変な事になると思う。
まあ、知らんけど。
シャッターが徐々に開いていくと、暗かった館内が明るく照らされる。そしてそこには、避難していた人々が、待ち構えるように立っていた。
日常品や消耗品、何より食料が欲しいのだろう。皆の目が血走っている。
放って置くとそれこそ奪い合いになって、本当に必要な人が貰えなくなる。そのあたりは支配人の阿藤さんが上手くやってくれるだろう。現に正面出入口の先頭に立って人々を制止している。
さすがだよ、支配人の阿藤さん!
シャッターが上がり切ると俺は入口扉のカギを開け放つ。
すると物凄い勢いで人の波が押し寄せて来た。
慌てて俺は扉の横に逃げる。
支配人の阿藤さんは、人波に押し潰されて手しか見えない。だが叫び声は聞こえた。
「間藤〜、モール商品を全滅させる気か〜!」
人々は真っしぐらに食品売り場へと向かっていた。
やっちまった様だな……
俺は少し離れた場所にある、避難扉を使ってそっと外へ出た。
良し、逃げた方が良さそうだな。
俺は人々とは違う方向へと歩き出した。
後ろ髪を引かれる気持ちを断ち切って。
くそ、触られてばっかじゃなく、ちょっとだけでも触っておけば良かったな!
俺の頭の中にギャル達との、めくるめく時間が蘇る。
頭を振ってその思いを振りほどく。
そして俺は、もうひとつの避難所である小学校へと向かった。
□ □ □
小学校への道のりは、ちょっと遠い。その間に俺は、いくつかの問題を克服する羽目になった。
「なあ、兄ちゃん。悪いけどよ、持ってる物、置いて行ってくれるか。もちろん全部な」
平和だった日本はどこにいったのやら。それよりどこに隠れていたのか、こんな輩が多過ぎる。
俺は何事もなかったかの様に、回れ右して来た道を戻ろうとすると、そこにもニヤニヤする輩がいた。
前後2人、合わせて4人に挟まれた状況だ。
ああ、面倒臭い。
俺に人殺しをさせたいのか?
「頼むから居なくなってくれないか。俺は犯罪者になりたく無いんだよ」
そう言ってみたものの素直に従う訳もなく、逆に相手を逆なですることになる。
「てめぇ、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
そうなるわな。言葉を選び失敗。
仕方無く俺は、左腕の盾を持ち上げ、腰のメイスを右手に持って構えた。もうこの扱いには慣れた。やってやる。
「な、何だてめぇ、変な道具持ちやがってよぉ」
ちょっとビビってやがるな。
「俺は急ぎの用があるんだよ。早いとこ終わらせようぜ?」
俺が挑発すると、輩どもは素直にのってくれた。
「生意気言ってんじゃねえぞっ。てめえ、ぜってえぇ土下座させてやんからよお!」
そう言って正面の男が、鉄パイプを振り上げてきた。すると他の男達も、バットやら角材を持って襲って来た。
胴体より上に当てると死ぬかもしれない。だから下半身を狙う。
距離は3メートルってところか。
俺は正面から迫る2人に、メイスを低い位置へと軽く振り回す。
メイスから鎖が伸びて2人の男の足元を鉄球が襲う。
直ぐに悲鳴が上がった。
2人の男の足を砕いたのだ。
さらにその勢いのまま振り向き、後方の2人の足元へと鉄球を伸ばす。
1人目の足首を砕くと、そいつが隣りの男を巻き込んで倒れる。
これで一応戦闘力は削いだ。
メイスを元に戻して腰に下げる。
しかし後方の1人が、まだ立ち上がろうとする。直撃は免れたからだろうが、すっかり戦意は喪失。
一応動けなくして置くかと思い、シールドバッシュを食らわそうと近付く。
そこで突然、声が掛かった。
「おい、そこで何をしているか!」
振り向くと、そこには2人の警察官。
マズイぞ、今の見られたのか?
俺は返答せずに考える。この場をどう切り抜けるか。
例えば職務質問されたとする。
パターン1
警察官「これは何だ」
俺「メイスですが何か」
警察官「それって武器だよな」
俺「違います。厨二病道具です」
警察官「逮捕する!」
誤魔化せないな。
パターン2
警察官「今何をしていた」
俺「こいつらに襲われてました」
警察官「なら何でこいつらは、4人もいて足を怪我してるんだ」
俺「これを使ったからです」
警察官「それは何だ」
俺「メイスですが何か」
警察官「それって武器だよな」
俺「違います。厨二病道具です」
警察官「射撃よーい!」
どう考えても悪い未来しか無い。
そこで俺が出した結論。
逃げるが勝ち!
俺は警察官とは反対の方向へと走り出した。
「待て、止まれ!」
4人も怪我人がいる状況で、警察官たる者、それを放ったらかして追って来れない。
ふう〜、危なかった。
どうやら助かったようだ。
俺は息を切らしながら、路地裏の影で一休み。
恐らく警察官に顔を見られたと思う。それはマズかったよな。
だけどこの混乱した無秩序な社会の中だ。俺を特定することは、相当難しいに違いない。俺は大丈夫!
俺はそう信じて、小学校への道を急ぐ。
小学校に向かうが、日が暮れ始めて辺りが暗くなる。
取りあえず、この辺で眠る場所を見つけるかと思い、適当な家を探す。適当な家とは住人が居ない家だ。
空き家は直ぐに見つかった。
玄関にはカギが掛かっておらず、中に入ってみると結構綺麗な状態に驚く。でもやはり電気は通っておらず、家の中は暗い。
廊下を進むとキッチンにたどり着く。
そして床に目が釘付けになる。
そこには大きな人型の染みがあったからだ。ちょうどキッチンの流しの前だ。
どう考えても人が殺された跡だよな。ゴブリンにやられたのか、賊に襲われたのか分からない。でも間違いなくここは殺人現場である。