5話 桜木さんと奪還作戦
彼女は会社の同僚の社員で、桜木蘭夢という女性だ。確か24歳だったかな。
見た目は昔に流行ったギャルファッションで、仕事に対してはいい加減で人の話を聞かない。会社に何しに来てるのと何度も聞いたことがある。
そんな桜木さんが、この避難所に居たのは悪夢でしかない。
こいつは図々しくも、俺の事を“せん君”と呼ぶ。勝手にあだ名を付けて、社内で気安く呼んでくるのだ。
「せん君、生きてたんだぁ。良かったじゃん。でさ、何でここにいんのさ?」
こっちが先に質問したんだけど。
まあ良いけどな。
「モールの支配人の阿藤さんに呼ばれたんだよ」
すると嬉しそうに桜木さん。
「ええっ、もしかしてぇ、グレイトモール奪還作戦にさあ、せん君が強力してくれるってことぉ?」
「まあ、話の内容はそうだったけどーー」
「やっぱ、そうなんだ。やったね。んじゃ、一緒にがんばろうぜ!」
この子、人の話を聞かないよね。会社の時と一緒だな。
「桜木さん、最後まで俺の話を聞けって。俺はそのお願いは断わってきたんだよ。断わったの、分かった?」
「ええっ、それガチで言ってるの」
「だって俺には何のメリットも無いだろ」
すると桜木さん。
「せん君のメリットってやっぱ、あれだよね?」
「あれって何?」
「んじゃあ、分かったよ。私さあ、この辺が地元だからさあ、紹介するよ。女の子」
「はあ?」
「でもさぁ、私の友達って皆、派手な子ばっかりだけど良い?」
「だから何でそんな話に――」
「もしかしてぇ、胸の大っきい子が好き?」
「そりゃあ、デカい方が――って、だから話を進めるなっ」
「そっか、それなら私なんてどうかな。意外と大っきいんだよ」
そう言って自分の胸を持ち上げてみせる。
つい、視線がそっちへ向いてしまうのは男の性。
「た、確かにデカいな……」
「ね、ね、でしょ?」
桜木さんは胸を張って見せる。
俺が言葉に詰まっていると、誰かが桜木さんに声を掛けてきた。
「さくらむ〜、何してるのん」
「あ〜、さくらむが男といるの見っけ〜」
2人の若い女の子だ。桜木さんの友人らしい。この2人も昔風のギャルファッションだった。
こんな生活状況のくせに、爪がやけに長いのが気にかかるな。
「ああ〜、良いところに来てくれたよお。この人さあ、同じ会社人でせん君って言うの。ずっと彼女いない人ね〜」
ずっとは余計だ。その前に何で彼女居ない事を知っているかな。まあ、間違ってないから良いけどな。
桜木さんの友人2人。派手な格好の女の子で、ミルキーとキララという名前らしい。本当か知らんけど。
髪は染めていて、長い爪は色鮮やかでデコってる。
ヘソは出しているし、ショートパンツで生足も出してるし、桜木さんよりも派手。
仕事は何してんだって感じだ。
いや、きっと水商売だな。
「へぇ、さくらむの知り合いなんだぁ。なんかあ、まじめ〜って感じぃ」
「彼女いないんだ〜、それって寂しくないの〜」
そんなことを言いながら、馴れ馴れしく俺に触れてくる。
やめれ、お願いだから身体に触らんといて……
こういう状況は初めて過ぎて、どう対処して良いか分からない。甘美の匂いがする中、俺は完全に無抵抗となっていく。今にも腰が砕けそうだ。
脳内では早くこの場から逃げろと言っているが、身体が言うことを聞かない。俺の身体はこの状況を良しとしている。むしろ快楽と感じているのだ。
そこで桜木さんが変な事を言ってきた。
「せん君がねえ、グレイトモール奪還作戦に参加するんだってえ〜」
だから参加しねえって!
「へえ〜、カッコ良い〜じゃん」
「きゃ〜、イケメンすぎ〜」
そんなことを言いつつ、さらに俺の身体をピタピタと触ってくる。
「あっ……」
思わず声が漏れてしまった!
ピンチ!
「あ〜、何、今の声〜」
「あっ、つったよ、あって。キャハハハ」
あ〜、滅茶苦茶恥ずかしい。
でも楽しい……
こうなったら……
もうその作戦に参加してやる。これは人助けだ。
決して不純な気持ちからではない!
そこで俺は宣言する。
「そ、そこまで言うなら……ダッフン作戦、参加しても良いかな……」
すると桜木さん。
「だっかん作戦だから」
恐ろしく社会人の顔で言われた。
桜木さんの友達2人は大ウケ。
笑い転げている。
顔から火が出ました。
そして桜木さんの友達は「せん君無敵〜」とか言いながら、腹を抱えたまま去って行った。
そこで俺が呆然と立ち尽くす中、肩を叩く者がいた。
振り返ると、そこには阿藤さんがニタニタしながら立っていた。
「“奪還”作戦への参加に感謝するよ。ふふふふ」
このジジイ……
何も言い返せねえ!
かくして俺は、グレイトモールの“奪還”作戦に参加する事となった。
さて、俺はこの要塞攻略作戦の立案をしなくちゃならない。まずはこのショッピングモールを一周して、侵入出来る場所を探さないとな。
俺はひとり、ショッピングモールの周りを歩き出した。
俺はここで働いていた時を思い出し、必死に考える。
そして成功した後の妄想をしながら……
顔がニヤける。
まず、一階部分からの出入りは無理だ。シャッターがあるからな。と言う事は、シャッターが無い場所か。
そこで思い出した。
屋上の展望室だ。
あそこの展望窓ならシャッターはない。割ることが出来れば侵入可能。ただし屋上に行くには、立体駐車場のスロープを登らなければいけない。しかしその途中、監視モニターがある。監視モニターで見つかったら、速攻でヤンキーどもが押し寄せて来るはず。そうなると突入メンバーに怪我人が出てしまう。それは避けたい。
そうなるとまずは、監視カメラに映らない様な移動をしなくてはいけないな。
これは作戦実行前に、経路を偵察する必要がありそうだ。