40話 人間の姿に
ゲートから出て来たのは人間だった。それも一人や二人ではない。多くの人々が出て来た。
その人々に桜木さんが反応した。
「みんな、私、ラムだよ!」
どうやらこの人達が連れ去られた人間らしい。酷く汚れた格好な上に、かなりやつれた身体をしている人々ばかりだ。向こうの世界では過酷な生活を強いられていたのだろう。
桜木さんに気が付くと、ゲートを抜けた人々がワラワラと集まって来た。
そこで桜木さんが、事の成り行きを簡単に説明する。どうやら俺が皆を助けた的な話をした様だ。すると俺が神様かの様に拝み始めた。
結果的に助けた形になったが、こういうのには慣れてないんだよな。勘弁して欲しい。
そして人々をカプセルの外に案内すると、屋上からの景色を見るや誰もが涙を流して喜んだ。久しぶりに見る地球の景色なんだとか。
俺達はその間にカプセルに戻り、リザードマンとの話を進めた。
リザードマンは相変わらず子供のような声を発しやがる。
「ほら、ものは違うけど約束の武具だよ。その中に入ってるからさ。あのオークの武具は消えちゃったからね。変わりだよ」
そう言ってコンテナを指差す。
そこにはいつの間にかコンテナが置かれていた。
コンテナを開けてみると、中には沢山の魔石付きの武具や魔道具が入っていた。どれも色付きの魔石が嵌った魔道具だ。
さらにリザードマンは言葉を続ける。
「えっと、それから地球を元に戻すって話はどうするんだっけ?」
俺は即座に返答。
「戻すな!」
そう言ってリザードマンの頭を再び掴んで、ちょっとだけ力を込める。
「ひぃっ、ほ、本当に良いの?」
妹の命には代えられん!
「ああ、その代わりフェリスとメイプルの姿を人間に戻せ。それとグリムの呪いの神官服もなんとかしろ」
「それって、地球の魔物達は放置で良いんだね?」
「何度も言わせるなっ、フェリスとメイプルとグリムだけって言ってんだろっ」
「わ、分かったよ。分かったから、頭を潰さないで〜」
俺が頭を開放してやると、リザードマンはブツブツと文句を言いながらも操作盤をいじり始める。
すると床から透明な入れ物がせり上がり、それが光を放ち始めた。中身は巨大な黒い魔石だった。
しばらくするとメイプルの体が輝き始める。
そして徐々に体に変化が見え始めた。元の人間に戻り始めた様だ。そして普通に華奢な体型の女の子となった。尖った耳は人間の形に、変な色していた肌も元通りになる。
もちろん胸が大きくなったりはしない。
「も、戻った。元の体に、戻った〜っ。あれ、でも、もっと胸は大きかったはず……」
「そんな訳ねえだろ!」
つい突っ込んでしまったのだが、よくよく考えたら俺は元のメイプルの姿など知らん。まあ、良いか……
しかし元に戻ってメイプルは大喜びだ。
グリムの神官服はもっと簡単。
リザードマンの操作ひとつで巨大な魔石から光が発せられ、神官服の色合いが変わった。
そして「もうそれ脱げるよ」の一言。
グリムは恐る恐る神官服を脱いでみると、普通に脱げたから大喜びだ。
だがグリムの年齢だけは元に戻らなかった。
呪いで失った年齢は元に戻らないらしい。おっさんのままだな。
それでもグリムにしたら感動的な出来事であったらしい。おっさんが泣いていた。
続いてフェリス。
猫耳が無くなり尻尾が消えて行く。
「あ、猫耳が……あ、あ、尻尾が……」
そうつぶやくのはフェリスではなく、桜木さんだった。フェリスの獣人の箇所が無くなる度に、悲しそうな表情を浮かべる。
そして完全に人間の姿になったフェリス。
「やったにゃ〜、人間に戻れたにゃん!」
何故か言葉は直らない。
初めて見る人間の姿のフェリスだが、西欧人っぽい外見が増した感じだな。はっきり言って美人系。だけど猫娘も良かったな。モフモフしとけば良かったよ。
そこで桜木さんが、何かを思い出したかの様にリザードマンに詰め寄った。
「おい、あれを出せっ。前に人間に付けさせてた獣人の魔道具、ほら、早く出しやがれ!」
血相を変えてまで必死になる桜木さんは、以前に向こうの世界で見た魔道具を欲しているらしい。それをリザードマンに出せと言っている。
そうは言っても、そう簡単に出してくれる訳が無い。
だが桜木さんは、リザードマンの頭を鷲掴みにして凄む。
「このトカゲ頭を握り潰されたくはないだろ。早く出さんかい!」
まるで別人の様な言葉遣いである。
「わ、分かったから、は、離してよ。今出すから……」
いじめっ子の会話だな。
これを見ると、リザードマンは弱いからアバターを使っていたのかもしれないな。
再び操作盤をいじるリザードマン。
するとリザードマンの足元に魔法陣が現れ、その上に着ぐるみの様な何かが現れた。
「ほら、これで良いよね。2人分あるよ」
リザードマンが2人分出したと言っているそれは、猫の様な手をした手袋と、猫の足の様な形をした靴。そして猫耳のカチューシャに加えて、尻尾付きのベルトに鈴の付いた首輪。
見るからに分かりやすい魔道具だ。
これを着ければ猫獣人になれるやつだろ。似たような道具がドンキ◯ーテで売られているのを見たぞ。
桜木さんはその魔道具を嬉しそうに持ち、「はい、フェリスの分だよ」とか言って渡す。
するとフェリス。
「ありがとうにゃ、んじゃこれはラムちゃんの分にゃん」
そう言って、もう一組の猫装備を桜木さんに渡すフェリス。
「ありがとう!」
そして何故か今、このタイミングで装備を着け始める二人。
装備が終わるとお互いの姿を見て感想を言い合い始める。
「フェリスちゃん、お似合いだよ。猫耳が可愛い!」
いや、さっきまで本当の猫耳だっただろ。
「ラムちゃんも可愛いっ、尻尾がキュートすぎにゃん」
何なんだろうか、このくだらないやり取りは。そしてお互いの猫装備を突き合いながら、キャッキャッニャンニャンやっている。今それやるか?
「だったら人間に戻らんでも良かったじゃん」という言葉は飲み込んだ。
これで全部終わったな。後はこいつらが2度と地球に来なければ一件落着なんだが……
そこで俺を見つめる視線に気が付いた。
星だった。
何か言いたげに俺を見つめる。
次回、遂に最終話!




