39話 異星人
映像が逆戻りした様に見えた。
時間の逆戻しの魔道具なのか。
時間が巻戻った状態だが、フェリスはそれが理解出来ない状態で混乱する。
そこへオークが振った盾がフェリスに直撃した。
シールドバッシュだった。
しかし俺みたいに声は上げない。
声を出した方が威力が上がる事を知らないな。
「ふんにゃ〜」
フェリスが飛ばされた。
だがまだ俺の攻撃が残っている!
地面を這うように突進する鉄球。
オークは跳躍したフェリスの対応で、下方への注意を怠っている。
チャンス!
だがこの程度でやられる奴じゃないのは想定済み。
だからこうだ!
俺は鎖を上下に大きく振った。
すると鎖が波打つ。
鎖の先の鉄球も上下にブレる。
「受けられるなら受けてみろ!」
フェリスを吹っ飛ばしたオークが、俺の方を見て直ぐに波打つ鉄球に視線を移す。
「その程度!」
オークが叫んだ。
戦斧を鉄球に向けて叩きつけようとする。
俺は波を左右に変えた。
戦斧が鉄球に当たる瞬間、鉄球が横にブレる。
それはまるで戦斧を避けるかの様な動きだった。
オークの叫び声が響き渡る。
「ガアアアァァッ!」
鉄球が盾を避ける様に外側から、オークの脇腹にメリ込んでいた。
悔しそうな表情をするオークだったが、突然ニヤリと笑みを浮かべる。
そして盾と戦斧を投げ捨てたかと思ったら、鎖を両手で握り締める。
マズい!
そう思った時はもう遅かった。
オークが渾身の力で鎖を引っ張った。
油断していた俺は踏ん張りが間に合わず、一気に空中に浮かび上がって引っ張られる。
見る見るオークが迫り来る。
武器を捨てたオークは、拳をブンブンしながら俺を待つ。殴ろうとしているらしい。
ヤバい、なぐられる!
オークが大きく振り被って拳を伸ばした。
そこへ風を切る音が接近。
メイプルが矢を放ったのだ。
こもまま行けばオークの首に突き刺さる!
間違いなく致命傷だ。
だがそこでオークの腕輪が光り輝く。
時間の逆戻りだ。
またしても映像が逆戻りする様に動く。
そして鎖をオークに引っ張られるところに戻った。
しかし俺にとってそれはラッキーでしかない。
何をされるか分かっていれば、俺も対処できる!
オークが両手で鎖を引いた。
俺も負けじと鎖を引く。
するとオークと俺の距離が、想定よりも急速に縮まる。
それはオークのパンチのタイミングがズレる事を意味する。
このタイミングならば、俺の拳の方が早く当たる!
俺は拳を振り上げる。
巨人の力が発動。
「ジャイアントパ〜ンチ!」
声に出すとパンチの威力が気持ち20%上がるのは説明済みだな。
俺の拳がオークの顔面にメリ込む。
良し!
しかし遅れてオークの拳が俺の頬を捉えた。
盾の自動防御機能が働き、盾が現れてオークの拳を防ぐ。
ーーパリン!
ガラスが割れる様な音。
次の瞬間、俺の頬にオークの拳がヒットした。それは遂に盾が破壊されてしまった事を意味する。
だが俺の拳はオークな命中している。
オークの顔がひしゃげ、地面に強打しながら転がって行く。
盾は壊れたとは言え、威力を軽減されたオークパンチ。それでも俺は口から血を吐きながら飛ばされた。それほど強烈だったのだ。まともに食らったら頭が消し飛んだだろう。
俺も地面に転がるように落ちたが、柔らかい感触に包まれて衝撃が少なくて済んだ。
俺は良い匂いに包まれている。
俺は誰かに抱き締められているみたいだ。
「せん君、かっこよかったよ……」
そう言って俺を抱きかかえている桜木さんだった。
俺は桜木さんの胸の中に……
た、たまらん!
ふと桜木さんの顔を覗き込むと、恥ずかしそうに目を逸らした。
桜木さんの顔が赤い。
「離してうれるか。勝負はまだ着いてないからな……」
そう言って起き上がると、オークが転がった方を見る。
すると新人類のメンバーと星が、地面に転がったオークを取り囲んで、殴る蹴るの乱れ打ちをしていた。
袋叩きとはこの事を言うんだな。
「待て待て、殺すなよ。まだ武具を貰ってないからな!」
それで袋叩きは収まった。
俺がオークの前に立つと、ボロボロになったオークが仰向けのまま俺を見た。
「人間にしてはやるな。だがアバターはまだいる。ちょっと待っていろ。叩きのめしてやる!」
そう言ってオークの姿が消えた。
ちょっと待ってろと言ったよな?
近くにいるのか?
俺はもしやと思い走り出した。
「あのカプセルの中に本体がいるぞ!」
俺の言葉に皆も走って付いて来た。
エレベーターに乗り込み屋上へとたどり着く。
本体、つまりオークをアバターとして操る異星人本体がカプセルの中にいる。そう俺は直感した。
カプセルの前にはゴブリンが4匹いる。見張りだろうが、そんなの瞬殺。
皆でカプセルの中へと乗り込んだ。
カプセルの中には見慣れない機材が一杯だった。それを操作しているゴブリンが数匹。もちろん瞬殺。
そして奥の方に水が溜まった水槽の様な物がいくつかあり、その水槽の前に変わった形の人?が立っていた。人間の様に二足歩行なのだが、外見はまるで爬虫類の様だ。ファンタジー的に言うならば、リザードマンか。
ただ、かなり小さい。
身長は1メートルないだろう。ゴブリンより小さいな。
そのリザードマンが俺達を見て、かなり慌てて水槽に付いたパネルみたいな操作盤をいじっている。
そこで俺はピンときた。
「お前、さっきのオークを操ってただろ」
俺の言葉にビクッとするリザードマン。
だが無言のまま操作盤をいじるのを続けようとしたので、俺はメイスを振るってやった。
鉄球が水槽のひとつを破壊した。
すると水槽の中にから、形が崩れたオークが転がり落ちた。これが新しいアバターなんだろうな。
水槽が壊されるとリザードマンは後退り、壁に背をつけて動かない。ただその表情には怒りの感情が見える。
「もう一度聞くぞ。さっきのオークを操っていたのはお前だよな?」
そう言いながら俺は、メイスをブンブンと振りながら威嚇する。
するとリザードマンが口を開いた。
「人間め、これで勝ったと思うなよ」
まるで子供のような声だった。
「約束を守ってもらうぞ。連れ去った人間を地球に戻せ。それと……そうだな、フェリスとメイプルを人間の姿に戻せ」
すると黙り込むリザードマン。
「おい、聞こえなかったのか!」
そう言って俺は残りの水槽を全て破壊してやった。
すると見る見る消沈するリザードマン。
俺は歩み寄る。
そしてリザードマンの頭を鷲掴みにして、さらにドスの利いた言葉を投げかけた。
「てめぇ、泣かされてぇか、こらっ」
するとリザードマンの態度が変わる。
「ま、ま、待ってくれよ。興奮し過ぎだって。ええっと、連れ去った人間どもだな。分かってるよ、い、今、ゲートを開くからっ」
そう言って操作盤をいじろうとする。
念の為に掴んだ頭を締め付けながら脅しておく。
「下手な真似してみろ、涙が枯れるまで虐めてやるからな」
そう言ってやると、オドオドしながらも操作盤をいじるリザードマン。
そして突如、壁に空間が開く。
それを見た桜木さんが声を上げた。
「あ、ゲート。これ、ここをくぐって私は地球に来たのよ」
それならここをくぐれば、あっちの世界へ行けるってことか。
そんな事を考えていると、ゲートをくぐって来る者が現れた。
もうすぐ最終話となります。




