37話 ボス現る
俺の目の前にロケット弾が迫りくる。
もしかしたら対戦車ミサイルかもしれない。
俺は盾をかざす事しか出来ない。
俺の周囲で爆発が起こる。
まるで360度のパノラマ映像を見ている様だ。
何発受けたのだろうか。でも俺は無事だし、盾もまだ何とか割れずに保っている。
だがそれだけでは終わらない。
いつの間に来ていたのか、ヘリが建物の間から現れてチェーンガンを発射。
これはマズいと思い、俺は桜木マンションのエントランスホールに逃げ込むが、ヘリはお構い無しに一階の窓ガラスを割りまくり、壁を穴だらけにする。拳銃弾やライフル弾の威力とは桁違いだ。
さらに別のヘリが現れて、信じられない事にミサイルを発射。
エントランスホールが爆炎に包まれた。
やってくれるよな!
そんな激しい攻撃を受けても盾は絶えて見せた。
しかし盾のヒビが広がっていくのを見つけてしまった。
「あ、ああ、お、俺の盾が……許さない、許さないからなあ!」
エントランスホールの中から、力一杯メイスを振り回す。
壁を突き破り鎖が伸びて行く。
ミサイルを放ったヘリが急旋回。
だがもう遅い!
鎖から伸びた鉄球が、ヘリを側面から粉砕した。そして爆発。
火の着いた破片が周囲に降り注ぐ。
ヤバい、俺のせいで火事になっちまう!
幸いな事にヘリは河原に墜落し、火が燃え移ることはなかった。
そうなるともう一機のヘリの扱いに困る。
そう言えば球体は爆発しても、そうはならなかったよな。殆んど燃え尽きてしまっていた。
そして空ばかり気を取られていたが、知らない間に地上からも脅威が現れていた。
金属の塊が放置自動車を跳ね飛ばしながら接近して来る。その数2両!
「まさか、嘘だろ……」
そして2両が同時に主砲を発射。
一人の人間に対してそこまでやるか!
盾で防いだ。
爆炎に包まれる。
大丈夫、防いでやったぜ!
だが盾のヒビが広がるのを確認。
それに桜木マンションの一階部分が崩れ始めている。
ピンチ!
ここから出ないと!
もう爆煙と土埃で視界が殆んどない。
まずは、ここから抜け出せないと。
俺は煙で充満するエントランスホールから飛び出すと、煙の隙間から装甲車両が見えてきた。
105ミリ砲を積んだ、アメリカ軍の8輪のストライカー装甲車だ。
街中にとんでもないものを持ち出しやがったな。だけだ球体も撃破したんだ。地球製の装甲車がなんだってんだよ!
俺は野球の投手の様にメイスを振り被り、力一杯振り下ろした。
その瞬間ベルトの魔石が光り、巨人の力が発動する。
巨人の力が加わった鉄球が爆速で伸びていく。
その鉄球はストライカー装甲車の正面にぶち当たった。
するとストライカーがおもちゃの様に宙を舞い、半回転して裏返し状態で地面に激突。煙を噴き出した。
「いける!」
俺は走りながら、もう1両のストライカーにも鉄球を伸ばす。
砲塔機銃で反撃してくるが、それくらいなら盾で軽く防げる。
そして鉄球がストライカーの砲塔にぶち当たり、跳ね返される様に機動を変えた。
一瞬、鉄球が装甲に弾かれたと思ったが、ストライカーの砲塔がパッカリと割れていたのを見て納得。
そのストライカーはそのまま俺の横を通り過ぎ、桜木マンションに突っ込んでやっと止まった。
残ったヘリが、再び俺のいる方向に軌道を変えて来た。再度攻撃するつもりらしい。
さらに近くの建物からロケット弾を撃ち込んできた奴らが、再び顔を出して俺に狙いをつけている。
ヤバい、ヤバい。
これ以上は盾が壊れちまう。
逃げなくちゃ!
そう思った時にはヘリからミサイルが、近くの建物からはロケット弾が、俺めがけて発射されていた。
こうなったら盾手で防ぐしかない。
俺の周囲が爆炎で包まれる。
一部のミサイルやらロケット弾が、俺の後方の桜木マンションに直撃していく。
ちょっと心配になる。
煙が晴れてくるとヘリが見えた。
低空飛行してチェーンガンを連射してきた。
「こっちの思うツボだよ!」
俺はメイスを振るう。
メイスから伸びた鉄球が、ヘリのローターを破壊。
操作を失ったヘリが近くのビルへと激突。
敵がロケット弾を発射してきたビルだ。
炎に包まれるビル。
メイスを構えて次の攻撃に備えるのだが、一向に攻撃はこない。どうやら終わったようだ。
生き残った海兵隊らが、負傷者を運んでいる。さすがにそれは攻撃出来ないな。
一息ついたところで俺は、メイドカフェへと歩き出した。ここにいたら、また攻撃ヘリが来るかもしれないからな。
10分程歩いただろうか。
物凄い地響きがしてきた。
また何か始まったかと思い辺りを見回すと、先ほどまで俺が居た場所が凄いことになっていた。俺が居た場所、つまり桜木マンションなのだが、崩壊が始まっていた。
大量の土煙を舞い上げて、ガラガラと崩れている。
そう言えばロケット弾やミサイルに砲撃と、かなりのダメージを食らっていたな。あ、俺のメイスもか……
良し、桜木さんには黙っておこう。
俺は見なかった事にした。
それでメイドカフェへ向かって歩いていたんだが、その方角の空に何かが浮遊している。そしてその浮遊物体が徐々に降下していくのが見えた。
球体でもなければ立方体でもない。カプセルの形をしている。これは初めて見る形のUFOだな。
まさか桜木さんを連れ去る為に来たんじゃないよな?
嫌な予感しかしない。
俺はメイドカフェへの道を急いだ。
俺がメイドカフェが入っているビルに到着した時、ちょうどカプセルの浮遊物体が、ビルの屋上に着陸しようとしているところだった。
思ったより大きい。30メートルはあるだろう。
ここで俺は「あのカプセルは放置出来ない」と言う思いが、何故か強まっていく。
俺の本能が「撃ち落とせ!」と警笛を鳴らす。
気が付いたらメイスを振りかぶっていた。
鎖のジャラジャラという音を響き渡らせ、鉄球が急速に伸びて行く。
そして鉄球がカプセルに命中する!
ーーはずだったのだが、何者かに阻まれた。
盾だ。
何者かが盾で鉄球を弾いていた。
俺は鉄球をメイスに一気に戻す。
その何者かが屋上から俺を覗き込む。
ゴブリン……いやあれは違う。ゴブリンなんかよりも全然大きいし体格も半端じゃない。
筋肉が盛り上り眼つきが鋭い。そして下あごから牙が伸びている。
まるでファンタジー世界に出て来る「オーク」だ。
その屋上にいたオークが突然消えた。
そして俺の目の前に魔法陣の様な絵柄が現れ、その上にそのオークが現れた。ファンタジー的に言えば転移魔法か。
今、俺の目の前には見たこともない筋肉バカが立っている。装飾された魔石付きの革鎧で身を包み、手には盾と戦斧を握りしめている。
身長は2メートルを超えているんじゃないだろうか。
どう見てもボスモンスターだよな。
敵の指揮官かもしれない。




