35話 魔法のベルト
俺はメイスを振り回す。
もうメイスの操作は手慣れたもので、壁に当てずに鉄球がゴブリン数匹をなぎ倒し、ジャラジャラと音を立てて元の位置に収まる。
鎖付きのブーメランみたいな感じだな。
前列のゴブリンが消えると、弓を持ったゴブリンが見えてくる。
そして慌てる様に短弓を射ってきた。そいえば弓攻撃を受けるのは初めてだ。
当然俺に矢が到達する前に盾で防ぐが、その瞬間に轟音と共に稲妻が発生した。
さすがにちょっとだけビビった。
きっと稲妻を発生させる魔法が呪符された弓矢なのだろう。
でも大丈夫だ。盾のおかげで俺には被害はない。盾の表面を稲妻が伝い、周りに散っていくだけだ。
それに指輪の知識がこの盾はまだまだ大丈夫と言っている。
続いて矢が何本も射込まれてくる。
俺は盾を構えてそれを正面から受ける。
氷系の魔法だろうか、盾の表面が凍り付く。
ただそれだけだ。俺には被害などない。
次いで炎系が射込まれると、辺り一面に真っ赤な炎が広がる。
俺には熱ささえ感じられない。やっぱすげえな、この盾。
まるでファンタジー映画のワンシーンを観ている様で、恐怖などはない。
全ての攻撃を防ぐこの盾に、俺は信頼感を得ていた。
逆に攻撃してきたゴブリンどもが動揺し始める。その様子を見るに、かなり自信があった攻撃なのだろう。
するとゴブリンどもは前に出て来なくなった。
逆に徐々に下がって行く。
すげ~、俺Tueee~状態じゃん!
こういうのゲーム的に言うなら無双って言うんだよな?
ゴブリン無双になるのか。
ゴブリンどもが屋上への扉に引っ込んだところで、メイスをその扉に叩きつけた。
すると扉がひしゃげて開かなくなる。これで奴らはしばらく入って来れない。
俺はその間にやることがあるんだよな。
分解したベルトを組み直す作業。仕舞っていた部品を取り出し、指輪の知識でもって組み立てる。屋上への扉を気にしながら組み立てる。なんだかドキドキするな。
組み直した途端に認証登録が発動して、いきなり燃えて灰になるとかは勘弁だからな。
しかしそうはならなかった。
組み直して分かったが、認証登録は分解すると解除になる。これは指輪の知識にもなかった。そして組み直す時には、自由に登録出来る仕様だ。もちろん認証登録は俺だ。
そしてベルトを腰に巻いてみる。
力が漲る。
試しに壁を軽く叩いてみた。それだけで壁が崩れてビビる。
でも拳はなんとも無い。皮膚も強靭化するのだ。
ヤバい、これでメイス振ったら建物が壊れそう。
先ほど壊した屋上への扉の前に立つ。そして変形した扉を強引にこじ開けた。
す、すげ〜パワー!
その扉の向こうには、ゴブリンどもが集まっていた。屋上へ続く階段一杯ゴブリンだ。それが屋上まで続いている。そしてそいつらは俺が扉をこじ開けたのを見て、酷く驚いているようだ。
俺は軽くメイスを振った。
すると物凄い風が舞い、轟音とともにゴブリンの集団が屋上の方へと吹き飛んだ。
軽く振ってこれかよ!
その威力に自信を付けた俺は、ゴブリン達の集る屋上へと向かった。
屋上へ続く階段を登って行く。
まだ息のあるゴブリンは、消えずに階段に横たわっている。その横をゆっくりと通り過ぎる。時々そういったゴブリンが攻撃を仕掛けて来るが、軽い一振りで煙と化して消えて行く。
瀕死のゴブリンの武器を取り上げて分解を試みるが、戦いながらの分解が上手くいくはずも無い。分解途中で消えてしまう。
どれくらいのゴブリンを倒しただろうか。それにいくつの魔道具を分解しようとして、間に合わなくて消えただろうか。でも分解は慣れてきたかな。
やっと屋上へと出ると、強い風が俺を迎えてくれた。
そこにいたゴブリンどもは、飛ばされそうになりながらも必死に武器を構えている。
本来は俺も飛ばされそうになるほど強い風だが、漲るベルトの力の前ではそよ風同然。
俺がゆっくりと歩を進める。
するとゴブリン達の眼には恐怖が見える。
明らかにその感情は俺へ向けられたものだ。
本当の俺はめちゃめちゃ弱いんだがな、この魔道具のおかげで圧倒的な強者だ。これが優越感というものなんだな。この気持ちも過去のモブの俺には無かった感情だな。
そこへ新たな球体が屋上へと降りて来る。
それが着陸するや中から出て来たのは、他の個体よりも一回りほど大きなゴブリン。
他のゴブリンが革鎧なのに対して、そいつは部分的に金属を使った金属革鎧だった。もちろん魔石付き。さらにブーツと金属兜も魔石付き。手に持った盾と武器も魔石が埋め込まれている。
全身魔道具で、歴戦の戦士と言った風貌のゴブリンだった。
ヤベえのが出て来たもんだな。こんな奴に勝てるのか俺は。
だけど俺の魔道具の魔石は色がついているが、奴の魔道具は剣と盾以外は普通の魔石だ。これならいけるんじゃないか。奴の剣と盾には黄色の魔石が嵌っている。特に奴の剣は突起が多い変わった形をしていて、ちょっと注意が必要かもしれない。
そいつの通り道を他のゴブリンどもが開けていく。
その間をその戦士ゴブリンが通ると、他のゴブリンどもが言葉を発し騒ぎ始めた。
「「「ギッタン、ギタン」」」
どのゴブリンも同じ発音を繰り返す。
これだけ見ると、ジャングルの奥地に住む未開人みたいだ。
そして戦士ゴブリンが俺の前に立つ。
すると他のゴブリンどもが静まった。
そこで戦士ゴブリンが何かしゃべりかけてきたのだが、全く知らない言語で意味が分からない。
ただ、しゃべり終わったと思った最後に、手に持った黄色の魔石の剣で俺を差して言った。
「コロス!」
周りのゴブリンどもが再び騒ぎ出した。
この言葉はさすがに俺も理解出来る。
気が付くと盾が自動防御して、戦士ゴブリンの剣を弾いていた。
早いなんてもんじゃない。
剣が見えなかったぞ!
そこからの戦士ゴブリンの連続攻撃が凄まじい。
俺の反射神経では盾防御が追い付けず、全てが盾の自動防御となるほどだ。
戦士ゴブリンの剣を盾で防御する度に、嫌な火花が飛ぶんだが……
僅かだが盾にヒビが入ってきた。
俺も必死にメイスでの攻撃に移ろうとするんだが、俺がメイスを振り被ると戦士ゴブリンは立ち位置を変えやがる。
そのまま強引に振り抜くと、空を切るだけだ。
早い話、全く当たらない。
当たらなきゃ巨人パワーの意味も無い。
このままだと盾が壊れる。
そうなれば俺も終わる。
どうする?
そこへ戦士ゴブリンが、身体を回転させながら横薙ぎに剣を振るってきた。
回転斬りとでも言おうか。
途中から早過ぎて目で追えなかった。
気が付いた時には俺の盾と戦士ゴブリンの剣で、鍔迫り合いの体勢となっていた。
これはたまたま盾で受けられたに過ぎない。しかしこの状態ならこっちのものだ。
俺には“巨人の力”のベルトがある。
力比べなら負けないぜ!




