31話 隠れ家崩壊
避難ハシゴをスルスルと軽快に降りていくフェリスに対し、恐らく俺はもっさりと降りていく様に見えただろうな。
それでも次々に下の階へと降り、フェリスか最初に地上へと降り立った。そして俺が地上へと足を着けた矢先、銃弾が飛んできた。
上階から地上からと、容赦のない射撃だった。
もちろんフェリスと俺は、盾の防衛機能のあかげで全くの無傷。そのまま走り出した。
「フェリス、どこへ向かってる?」
「決めてにゃいにゃっ」
遠くからバタバタと音が聞こえる。それが急速に俺達に近付いてくる。振り向いてみると、それはヘリコプターだった。俺達の直ぐ後ろの上空を飛んでいる。
そしてまさかと思ったが、撃ってきやがった。この街中でだ。
「フェリスっ、ロケット弾が来るぞ!」
2発ほど発射した後、俺達の前を通り過ぎて行く。
破片や爆風は全て盾が防御してくれるが、出来た道路の窪みは防げない。
フェリスはヒョイヒョイと避けて走れるが、俺はそうはいかない。真っ先にすっ転んだ。
「どぅひっ」
でも盾が優秀過ぎて怪我はしない!
直ぐに起き上がって走り出す。
だがそこへ再びロケット弾攻撃。
「くっそお、破れかぶれだ!」
俺はロケット弾に向かってメイスの鉄球を伸ばした。
こんなに鎖を伸ばしたのは初めてじゃないだろうか。どこまでもジャラジャラと伸びて行く。
そして空中で突然爆発が起きた。ロケット弾に命中したのだ。
ここからはまるで映画のワンシーンだった。
その爆発にヘリコプターが突っ込んだ。
ヘリコプターは一瞬で火だるまになり、急激に方向を変えて逃げて行く。しかし逃げた方向が悪過ぎた。俺達の隠れ家の方だ。
そして偶然なのか必然だったのか、俺達の隠れ家のマンションに激突した。
爆発と共に派手に吹き上がる炎。
崩れ去るマンション。
呆然とそれを見守る俺とフェリス。
「えっと、フェリス。これグリムには内緒な……」
「分かったにゃ……」
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しばらく歩き回った末に行き着いたのは、高級タワーマンションのエントランスロビー。俺達が勝手に桜木マンションと呼ぶ所。
そこの受け付けで最上階に棲まう、桜木さんを呼び出した。
エントランスまで降りて来た桜木さん、俺達の格好を見て言った。
「どこと戦争してきたのよ〜」
受け付けやらガードマンの前で答えられるか!
「悪いけどシャワー浴びさせてくれないかな」
「頼むにやん」
嫌そうな顔をするも、渋々部屋に案内してくれた。
じゃんけんでフェリスに勝った俺が先にシャワーを浴びた。そしてスッキリしてリビングに戻ると、桜木さんが食べ物や飲み物を用意してくれていた。俺が戻ったのを見るや、フェリスは走ってバスルームへと行った。
落ち着いたところで桜木さんに事情を聞かれた。
俺は出されたコーラを飲みながら、桜木さんに説明する。
「実はな、俺達の隠れ家が所属不明の特殊部隊に襲われたんだよ」
「はあ? 所属不明って。それってさ〜、日本以外の政府機関だよね」
「やっぱそうだよな。日本語しゃべってたから、CIAの日本支部かもしれないよ。それとな、魔石武器を複数装備した大男も襲って来てよ、もう大騒ぎだよ。それで結局はマンションごと隠れ家は崩れ去っちまってね、隠れ家が消滅しちまったよ」
「エグッ、マジかぁ〜。あれ、グリムっちとメイプルはどこ?」
「あの二人は出掛けてたから無事だと思う。たださあ、連絡はとって無いんだよな。あそこがバレたと言うことはだよ、スマホが怪しいんじゃねって思ってよ、フェリスに電源切らせたままなんだよ。でもあの隠れ家が見つかるとは思わなかったなあ。あ、ここは大丈夫?」
すると桜木さんはニンマリして言った。
「魔法障壁を舐めんなよ。この部屋ってゆうか世界各国にあるスパイの家はさ〜、全部魔法障壁付きなんだよね〜」
世界中にあるのかよ、ビックリだな。
「そりゃあ良かった。ならしばらくはここで厄介になるからよろしくな」
「ちょ、ちょっと待った。しばらく厄介になるって何よ〜。そんなん良い訳ないっしょ」
そこへフェリスがバスタオル姿のまま登場。
俺達の側に来るといきなり身体を振った。
ブルブルブルブルッ!
「冷てえだろっ」
「ひゃっ」
「さっぱりにゃあ~」
「それよりバスタオルだけでうろつくな!」
そう俺が指摘すると、桜木さんが興奮した様子で言ってきた。
「し、尻尾っ、な、生尻尾!」
そうか、桜木さんは生で見るのは初めてか。
そこから小一時間は話が出来なくなってしまった。
そして落ち着いた頃、俺が再び切り出す。
「今回の戦いなんだがな、俺のメイスが大男に効かなかったんだよ。下顎に牙が生えてるトロルみたいな大男、知らないか」
「……もしかしたらだけどね〜、アブダクトされてあっちの世界に一度連れ去られた奴かも」
「どういうことだよ」
「子供の時に拐われてさ〜、あっちの世界で身体をイジられるんだよ。フェリスみたいにね。それから数カ月したくらいにね、実験の為に再び地球に戻すんだってさ〜。そんな人間が何人かいるって噂を聞いたかな〜」
酷いことしやがるな。
「そう言えば最近魔物とか発生する様になってきたけど、徐々に地球がファンタジー化していってないか。漫画やゲームみたいに、魔物から魔石が取れたりするしな。その魔物の数が増えてる。何か知らないか?」
「ああ、それねえ。それはねえ〜、あいつらが望む環境にしようとしてんじゃないの〜、多分だけどねえ」
「なんだ、多分なのかよ」
「あいつらが暮らす世界環境にさあ、似てきたな〜って思ったんだよね〜」
そこでふと横を見ると、ソファーの上で丸くなり寝息を立てる猫がいた。フェリスだ。
「フェリスはお疲れちゃんみたいだね。仕方無いかあ、空いてる部屋を使って休んで良いよ。だけどやつらって突然来るから気を付けてねえ。そん時は速攻隠れてよね〜」
その日の夕方、訪問者が現れた。
だがゴブリンどもや政府機関ではなく、グリムだった。
俺の予想通りだった。俺達が今隠れられる場所と言ったら、桜木さんの家しかないからな。隠れ家が破壊され、俺達と連絡取れなければここに来ると予想していた通りだった。
しかしグリムの話を聞いて、状況は最悪だと知った。
俺は玄関でグリムを出迎えた。
「グリム、無事で良かった。あとはメイプルだけが居場所不明なんだよ。妹も一緒だから心配なんだよな。知らないか?」
俺がそう言うとグリムは下を見つめたまま答えた。
「申し訳ない、メイプルは奴らに捕まってしまった……」
「は? どういう事だよっ」
グリムが言うには、2人で帰宅途中に隠れ家が崩れるのを見たらしい。ヘリが激突した時だろう。
それで急いで戻ったら、特殊部隊風の奴らに周りを囲まれたそうだ。
直ぐにグリムは幻惑魔法を発動させて逃げられたが、メイプルは押し潰される様にして抑えられたという。捕まってしまったのだ。
遂にストックが切れました。
ここからは不定期投稿となりますので、ご了承下さい。




