29話 アブダクト
結局、質問は朝まで続いた。フェリスとメイプルは早々に眠っていたが。
「長く話し過ぎたな。もう朝だよ。最後の質問にするよ」
「どうぞ〜」
「奴らの目的だな」
すると桜木さんは少し考えてから答えた。
「それが分からないんだよね〜。単なる侵略じゃないの〜?」
まあ、そうだろうね。でも他に何か有りそうじゃん。その方がドラマチックと言うかさ。
どうでも良いか……
「そっか、長い時間済まなかったな、そろそろ俺達は帰るよ。何かあったらフェリスのスマホに連絡をくれ。それとさっきの仲間に入らないかって話、考えて見たらって思うよ」
そう言えば俺もパーティーに誘われてんだった。返事してないんだよな。
「そだね、考えてみるよ」
俺達が帰ろうとすると、桜木さんから待ったが掛かった。
「お土産、持って帰らないの?」
「何のこと?」
そう俺が返すと、桜木さんはコンテナを指差した。
ゴブリン製の武器か。
「本当に良いのかよ?」
「いらないならそれでも構わないけど〜」
「いるにゃん!」
「いるに決まってんだろっ」
メイプルとフェリスが速攻でコンテナに組み付いた。いつの間に起きたんだか。
俺は特に欲しいような物は無かった。
ただ皆がコンテナを漁っている間に桜木さんに聞いてみた。
「このコンテナの武器ってさ、ゴブリン用のよりも大きいけど人間用なの?」
「お、さすがせん君するどいねえ。でも人間用じゃなくてゴブリンが乗るゴーレム用だね~。たまたまその大きさが人間が使う大きさに近かっただけだよ」
「へ~、ゴーレム用ねえ……」
こうして俺達はゴブリン製武器まで貰い、ニコニコ顔で隠れ家へと向かった。
帰り道はもちろん裏通りや、停電地帯で防犯カメラの心配がないところを歩いた。
メイプルは余程弓が気に入ったらしく、いじりながら歩いていた。
最近では武器を持ち歩く人は、結構多いからそれほど珍しくはない。しかしながらメイプルが持つ弓は造りが雑で汚らしい。いかにも手作りしたって感じが漂うものだ。皆が持ち歩く様な弓は、アーチェリーだったり和弓だったりで、専門店へ行けば売っている製品。つまり見た目が良い。逆にメイプルの弓はみすぼらしくて目立つ。つまり一緒に歩いていて恥ずかしい!
だがメイプルは人目も気にしない。
魔石付きだから性能は良いはず。だからその気持ちは分かる。だが頬ずりはよせ、汚い!
隠れ家に着くと、真っ先に妹が俺に突撃して来た。
「お兄ちゃんっ、何で私が寝ている間にどっか行っちゃうの!」
「すまん、すまん。起こすのも悪いと思ってな。その代わりお土産だぞ」
そう言ってコンビニで買って食べたお菓子を渡す。桜木さんの家での食べ残しとも言う。
「やった~」
チョロいな。
徹夜明けの朝だ。皆早々に眠りに着くかと思いきや、メイプルは弓の練習に行くとか言うし、それに妹が付いて行く流れになってるし、グリムは仕事に出かけると言う。グリムにはちょっと同情するな。
俺とフェリスが隠れ家に残り眠ることになった。留守番だな。
俺とフェリスは早々に眠りに着いた。
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嫌な夢を見た。
自衛隊との戦闘が夢に出て来た。
星と必死に逃げているとどこからともなく声が聞こえた。
「まとっち、起きるにゃ!」
語尾に「にゃ」が付くといったらフェリスしかいない。だが今は妹と俺、それに自衛隊や警官隊しかいないはず。
「まとっち、侵入者がいるにゃ!」
目の前にフェリスの姿がぼんやり見えてきた。
下着にTシャツ一枚のあられもない姿だ。
必死に俺の身体を揺らし始めるフェリス。
「逃げるんにゃ!」
俺の目の前で揺れ動く二つのお山。
思わず手を伸ばしてしまった。
「にゃにするにゃああああっ!」
「痛たたたた、猫パンチかよ!」
そこで夢から覚めた。
「まとっち、大変にゃ。非常階段に侵入者がいるにゃ!」
ここは5階建てのマンションの4階。エレベーターは故障したままだから、上がって来るには階段か非常階段しかない。それでグリムがどちらの階段でも、上って来ると反応するトラップの魔法を仕掛けてあった。ただしトラップはこの部屋に信号を送るだけの単純なものだ。
今は警告ランプが黄色で点滅している。
味方なら、途中で二か所ある識別場所に手をかざしてそれを解除する。
今のところそれもない。つまり部外者。
フェリスがスマホを使ってグリムやメイプルに連絡を取ろうとするが、スマホが使えないと言って来た。妨害電波か何かだろうか。
そしてランプは赤色で点滅を始めた。
これは2階より上に登って来ていることを意味する。
だが2階以上に住む住人は俺達だけだ。そうなると限りなく怪しい。
これは早いとこ逃げた方が良さそうだ。
「フェリス、逃げるぞ!」
「分かったにゃん!」
俺達の緊急脱出経路は二つある。
ひとつは屋上から縄ハシゴで逃げる経路。
もう一つは部屋のベランダにある、火災などの時の緊急用ハシゴを使う経路。
奴らが敵なら部屋に向かって来るだろうから、屋上の逃走経路を選んだ。
階段をにたどり着いた所で、フェリスが鼻をクンクン動かし俺を制止させた。
「ダメにゃ、この階段の下と上に複数の人間の匂いがするにゃ。銃の匂いもするにゃん」
この流れだとマンションの屋上と下から一斉に侵入して来たようだ。つまりあれだ。警察とかCIAとかじゃないのか。特殊部隊も有り得るぞ。
もしかしたら他の国の政府機関の、特殊任務部隊かもしれない。
「フェリス、一旦部屋に戻るぞ」
俺達は部屋に戻ることを余儀なくされた。
こうなったら逃げる経路は一か所。ベランダの非常ハシゴ。
しかしこの流れだと屋上からロープを垂らして、ベランダから突入して来るんだよな。
「フェリス、武器を用意して置け。戦う事になる。多分だけどどっかの国の政府機関か自衛隊だ。特殊部隊が突入ってのも有り得る。魔法武器の装備を忘れるな」
「了解にゃ」
フェリスは手に魔法の剣と盾を持ち、俺も盾とメイスを持つ。そして二人してキッチンでしゃがんで息をひそめた。
俺の予想は当たってしまった。
玄関扉が爆破されて何かが投げ込まれる。
フラッシュバングという音響閃光弾だ。それにガス弾も投げ込まれた様だ。
部屋中に煙が充満し始める。
するとベランダのガラス窓も割られ、そこからも同じ様なものがいくつも投げ込まれた。
直ぐに白煙で視界不良となる。
こうなると敵も味方も分からない。
フェリスに俺から離れない様に小声で伝える。
俺の側にいれば盾の防衛機能が働いて、ガスも防げるからだ。
現に俺の周りには煙が無い。障壁みたいな機能だな。
銃が効かないからガスで攻めてきたのかもな。
だが残念だったな。それも俺には効かねえよ。
複数の足音を聞き分け、そいつらが部屋に侵入して来るのがフェリスには分かる。
全てフェリスの獣耳が拾ってくれる。
「ベランダから4人がリビングに入ったにゃ。玄関からは6人にゃ」
リビングからキッチンが一番近い。
視界不良で見えないが、目の前には少なくても4人の敵がいる。
足音が近づいて来る。
そこで俺は立ち上がりメイスを振り上げた。
適当に振り回せば、一人くらい当たるだろうという勝手な憶測だった。




