27話 桜木さんとモフモフ
子供の頃から空手をやってる桜木さんの攻撃は、やはり俺が太刀打ち出来るレベルじゃなかった。それに加えて、赤い石を使ったあの鈎爪武器とブーツだ。俺と桜木さんの間にコンテナがなければ、俺は防戦一方だった気がする。
ただ今の俺はメイスの鎖を伸ばして、時々けん制してやるだけで良い。桜木さんを近付けさせなければ良いだけだ。俺の役割は時間稼ぎ。
そして待っていた者が現れた。
「うるさくて眠れにゃいにゃん!」
真っ先に部屋に入ってきたのは、フェリスだった。耳が良いフェリスが、最初にこの騒ぎに気が付くと思ってた。一人で無理して戦う必要なんて無い。
獣耳と鼻をヒクヒク動かし、部屋の扉から顔をのぞかせる。
そこへ鈎爪が襲う。
「ふんにゃあっ」
それを叫び声を上げて、紙一重で避けた。
「それ、避けちゃうか〜!」
避けられたことに驚きながらも、さらに攻撃を加える桜木さん。
「にゃにするにゃあっ」
瞬発力はピカイチのフェリス。桜木さんが繰り出す鈎爪攻撃に空手技まで、猫の様にしなやかな体裁きで全て避ける。
そこへ俺が飛び込んだ。
「俺の事、忘れんじゃねえ!」
桜木さんの足元へメイスの鎖を伸ばす。
さらにフェリスが頭部を狙って、少しだけ丸めた拳を振るった。猫パンチとも言う。
桜木さんは両方とも避けるのは無理と判断したのか、俺の放ったメイスの方を避けてフェリスの攻撃は無視した。
メイスから伸びた鉄球が、バキバキと音を立てて床にめり込む。
桜木さんはジャンプしてそれを避けたのだ。
その代わり……
スパパパーン!
良い音が鳴ったと思ったら、頭を抱えてその場にうずくまる桜木さん。フェリスの連続猫パンチが、桜木さんの頭にクリーンヒットしたのだ。
「痛いって〜」
殺し合いをしていたとは思えない言い方。
拍子抜けして、次の攻撃を出せない俺とフェリス。
そこでやっとメイプルとグリムがやって来た。
「何事か!」
「こんな時間によお、バタバタうるせえんだよ」
現れたは良いが、桜木さんは頭を抱えたまましゃがんでいる。「来るのが遅いんだよ」と言おうとして、桜木さんがニヤリとするのが見えた。
しまった、この二人が来るのを待っていたのは俺だけじゃなかった!
「桜木さんに近付くな!」
そう叫んだが遅かった。
狙われたのはメイプル。
低い姿勢からの回し蹴りが、メイプルの腹に決まった。
「ゴフッ」と肺の空気を一気に吐き出し、くの字に身体が曲がる。
慌ててグリムが助けに入る。
そこへ三日月蹴り。
「ぐふっ」
脇腹を押さえてうずくまるグリム。
だがフェリスも黙っていない。
「にゃあ!」
凄い早さで再びの連続猫パンチ。
しかし突然その戦いが止まった。
「動いちゃ駄目だよ〜、動いたらメイプルちゃんがどうなってもしらないからね〜」
メイプルが人質になったのだ。
桜木さんはメイプルの背後にまわって、鈎爪を首に当てていた。
堪らずフェリスが叫ぶ。
「ラムちゃんがにゃんで私達を襲うにゃん」
その疑問に桜木さんがしっかり答えた。
「仕方無いのよね〜。いずれはこうなると思ってたし。私、異星人側の人間だから〜」
「にゃに? どういう事にゃん」
そこで俺が説明する。
「そこのコンテナの中に異星人武器が入ってたのを俺が見つけてな、こうなったんだよ」
「本当に、本当にラムちゃんは異星人側にゃ? メイドカフェであんにゃに盛り上がってたにゃん。お互いの女子高生姿の写メ撮って大笑いしたにゃん。あれは全部ウソだったかにゃ!」
こいつらならやってそう。光景が思い浮かぶな。
すると桜木さん。
「私だってさ、やりたくてやってるんじゃないよっ。しょうがないじゃん、異星人の元で長い間育てられたんだからさ!」
感情的になる桜木さん。その表情はもはや真剣そのもの。
そこでグリムがやっと復活して話に入る。
「桜木さん、もしかして君は、過去に異星人に拐われた人間の子供なのかな。異星人の元で生まれ育てられ、地球に送られたってところだろうか」
桜木さんは視線を逸らしたまま何も言わない。恐らく今グリムが言った事が、少なからず間違ってないのかもしれない。
桜木さんが無言だからか、さらにグリムが話を続ける。
「我々はそういう者達を助ける為に、結成されたパーティーなんだ。ここにいるフェリスも、アブダクトされてこんな身体になった一人だ。メイプルも異星人のせいで記憶が欠如している人物のひとり。この僕も異星人に襲われた過去を持つんだ。どうだろうか、君も我々のパーティーに入らないか」
すると桜木さんは。
「ちょっと待ってよね。フェリスがアブダクトされたってどういう事よ」
え?
一目見れば分かるだろ。
「桜木さん、フェリスの獣耳なんだけど、一目見て分かるでしょ。それ、本物なんだけど……」
俺がそう言うと桜木さん。そ〜とフェリスの頭に手を伸ばす。
「そんな訳無いでしょう〜が……って何これ、どういう事よっ。モフモフじゃない!」
「だから、本物なんだって。何で気が付かないかな〜、俺はそっちの方が不思議だぞ」
桜木さんアワアワした状態で、フェリスの獣耳をフニャフニャ触り続ける。そこでフェリスが我慢できなくなったらしく。
「ふんにゃ〜っ、くすぐったいにゃ〜!」
そう言って頭をブルブルさせた。
「ちょっと待ってよ、まだちゃんと触れてないから〜」
桜木さんは武器を捨てて両手を自由にすると、指をわきわき動かしながら逃げるフェリスの頭を負い始めた。
「しつこいにゃ〜、勝手に触るにゃ〜」
「減るもんじゃないし〜、ちょっとぐらい良いじゃ〜ん」
さっきまで殺し合いしてたよな?
そこで俺は言葉を挟む。
「桜木さん、内緒だけどさ、フェリスの尻尾がまた凄いぞ」
すると桜木さんは目を輝かせながら叫ぶ。
「し、尻尾もあるのっ。ラムちゃん、尻尾、隠さないで見せて〜。だから〜、隠さないでよ〜。お〜ね〜が〜い〜だ〜か〜ら〜、尻尾~、見せてよ〜」
防戦一方となったフェリスが騒ぐ。
「こら〜、まとっち〜っ、余計な事を言うにゃ〜!」
何かこの二人、見ようによってはエロことしてる様に見えるな。
「なあ桜木さん、その様子だともう戦いはしなくて良いんだよな」
俺がそう言うと桜木さんは、フェリスの獣耳をモフりながら答えた。
「そ、そう言う感じだよね……わあモフモフだねえ~」
「ならさ、色々と聞きたいことがあるんだけど、聞いても良いよな」
そこまで言うと桜木さんはフェリスを手放し、床に腰を下ろし深く息を吐いた後に言った。
「そだね、私が答えられる範囲なら良いよ、質問して」
俺達も桜木さんの周りに腰を下ろす。全員が一息ついたところで俺が最初に話を切り出した。
「まずはスリーサイズから――フゴッ」
女3人からの激しい突っ込みを浴びた。
「場を明るくしようとしただけだからな……え~っと、まずは桜木さんの今日までの流れから離してもらおうか」
そこから桜木さんの壮絶な半生が語られた。




