24話 謎だらけのタワーマンション
グリム達は先に帰し、俺は桜木さんを家まで送る事になった。妹は隠れていたから桜木さんには見られてない。
だが、色々と質問されて大変だった。
「危ない宗教団体って言うけどさ〜、まだ給料貰ってないんだけど。私の給料どうなんの。異星人信仰ってだけなら、大丈夫じゃないの〜」
「異星人への生け贄になりたくなかったら、給料はあきらめろ」
「マジで〜。あきらめ切れないんですけど〜」
しっかし、スカートが短すぎなんだよな。
制服はピッチピチで身体のラインがくっきりだし。
「さっきからさ〜、せん君、私の身体をジロジロ見てるよね〜、まさか欲情しちゃった、エロっちゃった?」
は、腹立つ〜!
まあ、間違っちゃいないがな!
そこで俺は唐突に話を変えてやった。
「そう言えば俺が会社へ行こうとしたら、会社のビルの前で警察に止められた時があったんだけど、その時に警察からは会社には説明してあるって言われたんだよ。それでさ、俺の事は何て聞いてる?」
ビルの前で機動隊と戦った時の話だ。
ビルの人達は避難していた様だが、警察からは何か説明があったはずだ。特に俺の居た会社には、俺に関して色々と聞き込みがあったはずだ。
すると少し考えて桜木さんは答えた。
「ああ、あの日ねえ。出社したら会社が潰れたって聞いてさ〜。そしたら警察来て〜、会社の中を探し回って大変だったんだよね〜。私達も名前とか聞かれて直ぐに追い出されちゃったよ。ってゆうか、今、話変えたよね?」
勝手に話を進める!
「俺の事は何か言ってなかったの?」
「え〜、何か言ってたっけかなあ。あ、そう言えばせん君の荷物なんだけど、デスクごと持って行っちゃったよ。笑える。ねぇねぇ、せん君さ、何かやらかしたんだよね。ってゆうか、さっき話変えたよね?」
しつこいな。
しかし、何も聞いてないのか。
俺が警察に追われていることも知らないとはな。
面倒臭いがそれを説明しようかと思い、しゃべり始めようとした矢先に邪魔が入る。
「なあ、姉ちゃん、幾らだい?」
いきなり値段を聞いてきた小太りの男。
だが次の瞬間、その小太りの側頭部に蹴りが見舞われた。
「うぜぇんだよ、デブ野郎が!」
蹴りを放ったのは桜木さんだった。
小太り男は白目を剥いて崩れ落ちた。
完全に意識を狩られている。
「さ、桜木さん?」
「あ、ごめん、ごめん、話の邪魔するからさあ、つい手が出ちゃったよ。うわっ、こいつ白目になってる。キショッ」
手が出たじゃなくて、出たのは足だろうが。
しかし何なの、今の早業はよ。絶対こいつ格闘技やってたパターンじゃねえか。
それにそんだけ短いスカートでハイキックして、下着が見えないってどゆこと?
「あの〜、つかぬことをお聞き致しますが、桜木さんは何か格闘技なんぞ、やっておられたりしたんでしょうか」
「せん君、何か言葉遣いかわったんですけど〜」
「いえ、いつも通りでございますよ。もしかして空手とかやっておられましたか?」
「そだね。お兄ちゃんの影響でさ、子供の頃からずっと空手やってたんだよね〜。さすがにもう道場へは行ってないけど。小学校の時とか“空手女”って散々いじられたよ〜、ボコってやったけどね〜、キャハハ、懐かしい〜」
し、知らなかった……
怒らせたら恐い奴じゃん。
それより送る必要無かったとちゃう?
そんな話をしている間に到着した。
「あ、ここが私の住んでるアパートだよ」
そう言って指差した“アパート”を見て一瞬言葉が詰まる。
「……えっと、ここでございますか?」
信じられなくて確認してしまった。
「そ、ここの最上階だよ」
「さ、最上階……」
30階建ての建物で、一階に広いエントランスまである。それに受け付けがあるし、ガードマンまでいるんだが。
俗に言うタワーマンションである。それも高級タワーマンション。庶民代表として言うが、決してアパートとは言わねえ。
「え〜と、家賃とかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「え、賃貸じゃないから家賃はないよ?」
待て、高級タワーマンションの最上階を所有!?
こいつ何者なんだよ!
「もしかして桜木さんって、良いとこのお嬢様なんでしょうか。親御さんが財閥とか、政治家とか」
「そんな訳ないじゃ〜ん。せん君、面白い事言うよね〜。家族全員、普通の中小企業の社員だよ。それに私、一人暮らしだから〜」
「は?」
タワーマンションの最上階を所有し一人暮らしなのに、家族全員中小企業の社員で桜木さん本人も俺と同じ三流会社の社員をしているって、どう考えても有り得ない事象なんですがどういう事でしょうか。金が湧いて出て来るてんでしょうか。
「せん君、部屋寄って行く?」
俺は今、猛烈に感動している。
一生に一度で良いから女の子に言われて見たかった言葉『部屋寄って行く?』だ。それが29歳にして念願かなった!
有り難う、願望の神様!
「行く行く!」
もちろん即決即答!
桜木さんの懐事情なんてどうでもよくなった。
そして桜木さんに付いて、タワマンに足を踏み入れる俺。
外から見て理解はしていたのだが、エントランスホールに度肝を抜かれる。白い壁に囲まれたゴージャスな空間。そこには受け付けの様な場所があり、スーツ姿の男性が挨拶してくるんだが。それに防刃ベストを着たガタイの良いガードマン2人が、入って来る者に目を光らせていた。
間違い無い、ここは一部のエリート層が住む世界だ。
上階へ行くにはもちろんエレベーターを使うのだが、エレベーターホールもまた無駄に広い。
そしてエレベーターに乗り込むのだが、そこでカードキーが必要とか、俺とは生きている次元が違う。
カードキーを使って初めて、最上階へのスイッチを押せる。
エレベーターがものすごい勢いで、上階へと昇っていく。高速エレベーターだな、これ。
最上階に到着してエレベーターの扉が開くと、そこはいきなり広い玄関だった。この最上階は全て桜木さんの家なんだから、他に何も無いならそういうもんか。
「まあ、入ってよ」
「あ、ああ、お邪魔します……」
全てに圧倒されるじゃねえか。
それと貧富の差を見せつけられてる感じがして、どんどん惨めになっていくんだがな。
日本の家らしく靴は脱ぐ仕様らしい。
靴を脱いだのは良いが、思わず揃えてしまう。そうしなきゃいけない気がするのは、何故だろうか。
「ラム様、おかえりなさいませ」
いきなりの声に驚き、慌てて声のする方を見ると、メイドの格好の女性が頭を下げて立っていた。
「本物のメイド……」
俺が言葉を漏らすとメイドの女性。
「こちらはお客様でしょうか?」
すると桜木さん。
「そ、会社の同僚のせん君だよ」
「ど、ども、間藤閃輝って言います」
「メイドのカタカンベと言います」
メイドの格好したメイドが、本当に居たとはビックリだな。漫画やメイド喫茶の中だけのものかと思ってたよ。
それに何「カタカンベ」って。それって名前なの苗字なの、それともフルネーム、いやニックネームなのか?
「カンベ、コーラ持ってきてよ。それとバウムクーヘン」
今、「カンベ」って呼んだぞ。カンベなら神戸とかって苗字があるな。でもカタカンベじゃなかったのか?
まさか苗字が「カタ」で名前が「カンベ」か?
もしくは外国人で名前が「カタ」なのか?
うっわあ、気になる~!
「はい、かしこまりました」
カタカンベさんはそう言って会釈をする。
桜木さんはそれを視界にも入れずにスタスタと先を行く。俺はその後を小さくなりながら歩く。
歩きながら気になった事を聞いてしまう。
「桜木さん、カタカンベさんって……」
「あ、せん君、カタカンベの名前に関しては本人も気にしてるからさ、質問は無しでよろ」
ますます気になるじゃねえか!
そして通されたのはリビング。
もちろんゴージャス!
そこで俺と話ながら服を脱いでいく桜木さん。
「ちょ、ちょっと桜木さん。な、何をしているのでしょうか?」
「見りゃ分かるっしょ。部屋着に着替えてるに決まってるでしょ〜」
す、凄い光景なんですが!
女子高生メイドの着替え!
「せん君、鼻血出てるよ……」
しまった〜!




