22話 戦慄のメイドカフェ
メイド女子高生姿のフェリス何だが、中々に様になっている。違和感が全くない。あのプロポーションでJK姿とか、ちょっとずるいよな。ただ獣耳と尻尾が現実逃避しているが。
グリム曰く、尻尾も本物らしい。普段は服の中に隠しているんだと。
本物の獣耳に本物の尻尾とはな。これが世の中に知られたら、その手の嗜好男が世界中から殺到しそうだ。気を付けないとだな。だが今までバレなかったのが不思議で仕方ない。
フェリスはメイドカフェの職場に、俺達が来る事を知らない。だから俺達のテーブルに来ても、直ぐに気付かずにいた。
「いらっしゃいませご主人……様、にゃん……」
気が付いたようだ。さすがに帽子とサングラスだけでは、近くで見たら直ぐにバレるか。
するとフェリスは、営業スマイルから急激に不機嫌モードになった。そこでこっちから声を掛けてやった。
「よお、元気に働いているか?」
「何でここにいるにゃ!」
ちょっと怒ってるようだ。
折角来てやったのに。
「客に向かってその態度は何だ。店長呼ぶぞ?」
慌てて猫招きポーズをとるフェリス。
「お、おかえりなさいませにゃん、ご、ご主人様にゃ……ご指名有り難う御座いますにゃん」
笑顔が引きつってるな。
まあ良いか。
ネームプレートにはしっかり“にゃおみ”と書いてある。
「お勧めの料理は何があるのか言ってみろ、にゃおみ!」
「ぐぬぬぬ……お、お勧めは“女子高生パンケーキ”にゃっ」
「それじゃ、それひとつと……こ、これも貰おうか」
俺が指差したのは定番のオムライスだ。メニューには“JKオムライスだぴょん”と書いてある。恥ずかしくて言えなかった。
するとフェリスが勝ち誇った顔で言った。
「ご主人様にゃ、ちゃんとメニュー名で言ってもらわないと、分からにゃいにゃん」
フェリスが腰に手を当てニヤニヤしてやがる。
良いよ、言ってやんよ!
「女子高生オムライスだぴ、ぴょんをくれ!」
言い切ったつもりがちょっとだけ噛んだ。するとフェリスがいやらしい笑みを浮かべる。
「ブッブー、違いますにゃ〜。JKオムライスだぴょんが正解ですにゃ〜。JKにゃよJK。にゃはははっ」
ああ〜マジウザい。
にゃおみのクセに生意気だ。
「おいっ、ちょっと乳がデカいからって、デカい顔すんじゃねえぞ!」
そう言って立ち上がると、フェリスも負けずに言い返す。
「デカい乳は関係にゃいにゃっ。悔しかったら真似してみろにゃ!」
そう言って胸を張るフェリス。
「これでどうだ!」
俺も胸を張る。
「……」
「……」
睨み合う二人。
何やってんだ俺?
口喧嘩してる俺が言うのもなんだが、子供の喧嘩より酷い気がする……
するとグリムが「まあまあ」と言ってなだめてきた。
しかし今更後には引けない。
俺は胸を張って前に出る。
するとフェリスも負けじと胸を前に突き出す。
そんな俺とフェリスが胸を突き出し合う中、奥から蝶ネクタイの男が出て来た。
「お客様、どうなさいましたか。何か不都合でもお有りでしょうか」
蝶ネクタイ男が揉み手をしながら、俺達に近付いて来る。
するとフェリス。
「あ、店長にゃ!」
この男が店長らしいのだが……何だが違和感があるというか、気に食わない。
「いや、特に問題は無い。ちょっとじゃれ合ってただけだよ」
俺がそう言うと店長は、フェリスの方を向いて尋ねた。
「そうなのかい?」
「え〜と、そうにゃ。遊んでただけにゃん」
フェリスも話を合わせてくれた。
すると店長は「こゆっくり」と言って、店の奥へと去って行く。
やはりあの店長と呼ばれている男、どうにも怪しく感じてしまう。何故だろう?
そんな事を考えていたら、注文した“女子高生パンケーキ”が運ばれて来た。
思ったよりもデカい。
パンケーキと言うよりも、普通のスポンジケーキに近い。
そこでフェリスが生クリームを手に持ち、何かやってくれるらしい。
「今から文字を書き込むにゃ」
そう言って、生チョコクリームのチューブを両手で握り締めるフェリス。
そしてケーキの上に、生チョコクリームで文字を書き始めた。
「Love」と書きたいらしいのだが、どうにもフェリスは不器用らしく、手が震えて文字が歪んでいる。
思わず「下手くそだよなぁ」と漏らしてしまった。
「ふんにゃあぁぁっ!!」
キレた!
生チョコクリームを思いっきり握り締め、ケーキの上にブチューとブチまけやがった。
そしてフェリスの殺気だった声での一言。
「ラブ注入にゃっ!」
愛のカケラもない。
でも、食べられ無くはない。
「ちょっとナイフで切り分けてくれるか」
俺がそう言うと、フェリスは「ケーキナイフお願いしま〜す」と声を上げた。
すると奥から先程の蝶ネクタイ店長が、ケーキ用のナイフを持って現れた。
そのナイフ姿を見て思い出した。
こいつは前に俺を襲って来た、新興宗教のメンバーの一人じゃん!
確か「天使教」とか言ったか。
包丁を持って襲って来た奴らの中に、こいつが居たのを覚えている。今はケーキナイフだが、あの時は包丁を持っていた。幸いな事に巧みな俺の変装〈夢のランドの犬帽子にサングラス〉のおかげで、まだこちらには気が付いて無いようだ。
こんな奴がいる所でフェリスを働かせるのは、ちょいと気が引ける。それに他にもまだ、天使教の信者が働いているかもしれない。
店長は俺に気が付いた素振りも無く、ケーキにナイフを入れる。
俺を襲って来た時とは、全然違う表情をしてやがる。ニコニコと善人振りやがって。
「は〜い、4等分しました。どうですか、お客様はお二人なんで、もう1人女の子をご指名しては如何でしょうか。ちょうど良い子が入ったばかりなんですよ」
「いや、指名とかは……」
俺の言葉など、はなっから聞く気はないようだ。勝手に女の子を呼びやがった。
「ラム〜、ちょっとおいで〜」
ラム?
そして店長は呼ぶだけ呼んで、さっさと店の奥へと退散。
そしてラムと呼ばれた女。それは奴だった。
「ラムで〜すっ、よろしくおなしゃ〜す!」
だがそいつは、女子高生というにはちと苦しい年齢。どう見ても20歳は超えているようにしか見えない。っていうか、俺はこの女が実年齢24歳だと知っている。そんな女が女子高生の姿だ。しかも、やけにスカート丈が短いしヘソは出てるし、そしてこいつも無駄にスタイルが良い。
「風俗嬢?」
思いが口に出た。
「はあ?」
俺の前に出て来た女、それは桜木蘭夢だった。俺の会社の同僚のギャル女である。
もう絶滅したと思われる、ギャルファッションの女だ。そいつが女子高生の姿……
勘弁してくれと言いたい。
「ラムってそのままの名前かよ……」
俺がそう言うと。
「あれ? その冴えない風貌、どっかで会いましたっけぇ」
一言多いな。
「べ、別に俺は知らないけどなあ」
一応とぼけて見せる。
「ああ、その声〜、せん君じゃ〜ん。うっわ〜、マジでないわ〜、何でここにいるのよ〜」
やっぱりバレたか。
しかし嫌な奴にあっちまったな。よりによって天使教の信者がいるメイドカフェで、しかも味方のフェリスが働き始めた職場とか、話が入り組み過ぎて訳分からんぞ。
そしてこのタイミングで、“JKオムライスだぴょん”が運ばれて来た。
すると桜木さん。
「あらま、せん君凄いの注文したんだね〜。それ私に任せてよ、得意だからさっ」
そう言って、俺達の許可も取らずにケチャップを握り締める。そして得意げに文字を書き始めた。
それを見た俺は自然と口が動いた。
「何て書いてあるか読めねえ〜」
桜木事変勃発。
「ええ〜、ひっど〜い。さっきからさあ、風俗嬢とか言ってくるし〜、せん君ちょっと酷くなあい?」
しまった、またもつい本音が出ちまった。




