21話 戦勝パーティーはメイドカフェ
オオサンショウウオの魔物に咥えられ、水の中に引き込まれそうになりながら必死にもがくフェリス。
かろうじて猫泳ぎで水面に留まっていた。
俺はそれを助けようとしたが、ある考えが思い浮かびピタリと動作を止めた。
「にゃにしてるにゃ〜、は、早く、助けるにゃ〜〜ん、うおっぷ……」
このまま水の中に入ったら奴の思うツボじゃないだろうか。水中生物に水の中で勝てるわけが無い。
そこで俺はメイスを取り出して、ブンブンと回し始めた。
鎖が伸びてその先の鉄球に十分遠心力が載った所で、俺はオオサンショウウオに向かって鉄球を放った。
ちゃんとフェリスには「当たったらゴメンよ〜」と告げたところは褒めて欲しい。
「当てたら殺すにゃ〜!」
だが俺には自信があった。何故だかは分からないのだが、俺には確信があった。外さないという自信が。
ジャラジャラと鎖が伸びて行く。そして水中へと鉄球が飛び込んだ。
物凄い水飛沫が舞い、ブシャッと音を立てて水中に潜り込む鉄球。
鉄球は大した勢いも削がれずに、水中を進んでオオサンショウウオの胴体にメリ込んだ。
一瞬にして身体をくの字に折り曲げて、水面に跳ね上がる黒い物体。
しかし口にはフェリスの服の端が咥えられたままだ。
「ぶはぁッ、ふにゃあぁぁぁあっ!」
そしてバシャアァ〜ンと水面に落ちた。
腹を上に向けたまま。
「あれ? 一撃で終わりなのか」
そこで再び妹がポケットから声を掛けてきた。
「凄いじゃん、一撃だね〜」
「ああ、教えてくれて有難うな。だけど油断は禁物だからな」
俺はメイスを構えて恐る恐る近付くが、全く動かない。溺れそうな猫がジタバタ動いているだけだ。
近くまで来てメイスで突いてみるが、反応はない。死んだみたいだ。
やはり一撃で終わったようだな。
これだとオオサンショウウオが強いのかどうかも分からない。
取り敢えずは、陸までこいつを引っ張り上げなくちゃいけない。俺はオオサンショウウオの足を掴んで引っ張ろうとするが、ヌメヌメしていて滑る。仕方無く、口に手を突っ込んで引っ張ることにした。
「ゴホッ、ゴホッ、た、助かったにゃ……」
あ、忘れてた……
フェリスはスッカリ水浸し。服はボロボロで、何だがエロ猫になっている。
こいつ意外とスタイルは良いんだよな。う〜ん、残念で仕方無い!
「な、何見てるにゃん!」
「命の恩人捕まえて、それはないだろ」
するとフェリスは、目を泳がせながら返答した。
「す、すまにゃいにゃん。助けてくれてありがとにゃん」
今更だがにゃんを付けて礼を言われても、ふざけている様にしか聞こえないんだよな。
「ちゃんとした礼をしろ」と怒鳴ってやりたいところだが、その憐れな姿を見て我慢、我慢。
そこで俺は気が付いてしまった。
「なあ、フェリス。お前の新しい職場が見つかったぞ!」
「ふにゃ?」
「ちょっと“萌え萌えきゅ〜ん”って言ってみろ」
フェリスは素直に従う。それも手でハートを作りながらだ。
「にゃんにゃん、萌え萌えきゅ〜ん、にゃっ」
「様になってやがる」
「何をヤラせるにゃん!」
ハートまで作った上に“にゃんにゃん”までぶち込んでおいて、何を言ってやがるんでしょうかこいつは!
そんな話をしながらも、俺達はオオサンショウウオを陸まで引っ張り上げた。
改めて見ても、全長3メートルはデカいと感じる。確か元のオオサンショウウオでも、両生類の中で世界一大きかったはずだからな。もしかしたら、もっと大きく魔物化したオオサンショウウオがいるかも知れない。
だけどオオサンショウウオって、この辺に生息していなかったと思ったがな。まあ良いか。
「それじゃあ、魔石を取り出してみようかね」
これだけ大きな個体だ。魔石も大きいだろう。そう思って切り開いてみたのだが、確かに大きい魔石ではある。でもゴブリン武器に嵌められている石程ではない。ましてや俺の持つメイスや盾の石には程遠い。メイスや盾の石は緑色をしている。だがこの石は普通の石の色。全然駄目だ。
そういえばこいつも内臓が無かったな。
「フェリス、ほれ、見てみ」
そう言って魔石を投げる。
キャッチしたフェリスが、その魔石を親指と人差し指で持って太陽にかざす。
「う〜んにゃ、こんな石っころが武器のエネルギー源になるにゃん。にゃっ、そこら辺に落ちてる石とは違って、太陽にかざすと透けるんだにゃ。でも宝石程綺麗じゃにゃいにゃん」
そんな事をしながら、俺達は魔物探しに夢中になっていた。気が付いたら夕方だ。
結局、得た魔石と言えば、植物系魔物とホーンラビットのものばかり。一番大きかった魔石は、オオサンショウウオのものが一個だけだ。
俺達は諦めて帰ることにした。
帰り道、妹がポケットからしゃべり掛けてくる。
「せっかく天使になったのになあ。私も凄い力とか無いのかなあ、ねえ、お兄ちゃんってば~」
すっとそんな事を言われ続けた。
そんな事、俺に言われてもねえ。
知りませんがな。
□ □ □
翌日の夕方、フェリスに面接に受かったと言われた。もちろん新しい職場の面接だ。
それでその職場と言うのが“メイドカフェ”って言う所である。そう、“萌え萌えきゅ〜ん”のメイドカフェである。
俺の目に狂いはなかった!
何でも面接には、耳を隠すために帽子を被っていったらしいが、面接で帽子を取れと言われて素直に取ったらしい。すると獣耳が飾りと思われたようで大ウケ。さらに言葉遣いの“にゃん”もウケて、その場で採用という流れになったそうだ。
それでフェリスがメイドカフェに初出勤と言う日、たまたま仕事を休みだったグリムと俺で、そのメイドカフェに行くことになった。
妹はお留守場である。
町中で人に見られたらマズいからな。っていうより、怒られそうだからだ。
ちなみにグリムの仕事は葬儀会社である。
異星人の襲来でかなり忙しかったらしい。不謹慎な話ではあるが、アルバイトとは言えグリムも稼がしてもらったと言っていた。
その稼いだ資金を当てにして、2人でそのメイドカフェとやらに向かった。もちろん直ぐにバレないようにと、変装はして行った。と言っても、夢のランドの犬帽子とサングラス程度だけどな。グリムはニット帽にマスクだ。
フェリスの働くメイドカフェは、繁華街にある6階建ての雑居ビルにあった。ビルの前に立つと、5階に“桃色メイド学園”と書かれていた。5階にあるらしい。
1階から3階までは全てキャバクラっぽい店の様だ。そして4階は何だが怪しい店で、“ピンクドラゴン”とか言う名前。店のロゴには、唇のマークとハートマークまで描かれている。大人の店っぽい気がする
6階は何も描かれていない。事務所っぽいかな。
俺とグリムはビルの一階から、エレベーターに乗り込んだ。
そこへ見知らぬオッサンが、駆け込んでエレベーターに乗る。俺達は5階だが、そのオッサンは4階のスイッチを押した。
沈黙のエレベーター内。
4階に着くとチーンと到着音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
開いた先の光景。それは薄暗くした通路の先に、ピンク色のネオンに照らされた看板がある。もちろん「ピンクドラゴン」と書かれていた。そこには「姉妹店の桃色メイド学園は5階」と書かれている。4階の店と5階の店は、同じ会社が経営しているのだろう。姉妹店と言うくらいだから、そうなんだろう。
そこで俺は思う。
フェリスの店、大丈夫か?
まさか、風俗店とかじゃないだろうな。
一応俺は財布の中身を確認する。
5階に到着。
エレベーターから降りると、入口にピンク色の文字で“桃色メイド学園”と書かれていた。
入口の扉を開くと「カランコロン」と音が鳴り、奥から「お帰りなさいませ、ご主人様」という声が聞こえた。
少しして、若い女の子が出て来る。
メイドカフェなのに、何故か女子高生の制服を着ている。「桃色メイド学園」だから良いのか、などと納得してしまう俺とグリム。
女子高生姿の子が店の説明を始める。
「この学園では指名制となってます。それでーーーーというシステムです。それではこの写真の中からご指名お願いしますね」
説明は良く分からなかったが、取り敢えず「にゃおみ」と書かれたフェリスの写真を指名してみた。
指名が終わると店内へ案内されるシステムらしい。
通されたのは部屋の隅のテーブル席。客は他には居ないようだ。カウンター席がいくつかと、テーブル席が3つのこぢんまりとした店だ。
部屋の明かりはちょっと暗め。
しばらくすると、女子高生の制服に身を包んだフェリスが登場した。




