20話 魔物と魔石
フェリスが魔物と思われる植物へと手を伸ばす。
「何も反応しにゃいにゃあ」
フェリスがそう口にした途端、紫色の花から触手が急速に伸びてきた。
慌てて手を引っ込めるフェリスだが、触手の方が僅かに早かった。
「ふにゃあぁぁっ!」
一瞬にして腕に巻き付く触手。
必死に振り払おうとするフェリス。
フェリスと植物の攻防が始まった。
それはそれは醜い争いだった。
見ようによっては、猫じゃらしと猫に見えるな。
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「勝ったにゃ!」
そう言って勝利宣言したのはフェリス。
触手にはトゲがあったので、手と顔が傷だらけだ。トゲの付いた触手で獲物を絡め取り、花の中央にある消化器官に取り込む魔物らしい。
その植物系魔物には触手以外に攻撃方法が無かったらしく、フェリスの一方的な“じゃれ合い”という名の攻撃で終わった感じだ。
それで魔石を探さなくてはいけない。
探してみると、根っこの部分にあった。まるで球根のようにだ。
しかし小さい。これだと武器に嵌めるには小さ過ぎる。
「フェリス、これじゃ小さ過ぎて使えないな。もっとデカい魔物を探さないと駄目みたいだよ」
「分かったにゃ。私に任せるにゃん」
何故かフェリスは自信ありげに胸を張る。
「どうする気だ?」
俺が尋ねると、フェリスは自分の鼻を差して言った。
「臭いにゃん」
魔物の臭いか分かるのか?
こいつは身体能力が高い。人間よりも嗅覚が優れているらしいが、一体倒しただけで臭いの区別が出来るのだろうか。ちょっと不安ではあるが、やる前から否定するのもおかしいからな。一応任せてみる事にした。
探し始めて30分程すると、フェリスは見事に魔物を発見した。
「ほうら、見つけたにゃん!」
そこにいたのは紫色の花を咲かせた植物系魔物。つまりさっきの魔物と一緒だった。
「おい、猫人間っ。そいつからはな、ちっちゃい魔石しか取れないっつうの。さっきの見て学習しないのかよっ!」
「そんなの、初めに言ってくれなきゃ分からにゃいにゃん!」
「逆切れかよ……」
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まあ、一応討伐したけどな。
でもやはり取れたのは小さな魔石だった。
だがフェリスは一度魔物の臭いを嗅げば、同じ種類の魔物なら追跡出来る事は理解した。それはそれで十分に利用出来る。
それにはまず、新しい魔物を見つけなくてはな。
俺達は再び山の中を探し始めた。
2時間ほど歩き回って見つけた。
見つけたと言うよりも、向こうから来てくれた。言い方を変えるならば、襲われたとも言う。ゲームと同じで人間を襲うらしい。
見つけたのはゲームやアニメでもお馴染みの、雑魚魔物のホーンラビットだ。頭に角のあるウサギだな。
ただ意外と大きい。普通のウサギの数倍はある。中型犬くらいだろうか。それが俺達に向かって突進して来るのだ。
しかも3匹もいる!
「フェリス、気を付けろ!」
「分かってるにゃん、楽勝にゃ!」
フェリスにしたら、この程度の動きは問題無いらしい。
避ける、避ける、避ける!
俺も真似してみたが、真正面から直撃。盾の自動防御で跳ね返した。
遊んでる暇はない。
そこでメイスで叩き潰そうとしたんだが、それより先にフェリスが、次々に3匹を蹴り倒してしまった。
植物系魔物には苦戦してたくせに、こちらは余裕で勝っていた。
それで倒した後の死体なんだか、やはり血液らしいものは流れていない様だ。ゴブリンの時と同じだ。
そして魔石を探そうと、意を決して体にナイフを刺してみたのだが、やはり出血しない。それどころか何も無い!
「フェリス、見ろよこれ。内臓が無いぞ……」
「つまらにゃいダジャレは要らにゃいにゃん」
「そんな事はどうでも良いから。これを見てみろって」
俺は切り裂いたホーンラビットの腹を見せた。
肺や胃袋や腸はおろか、心臓さえない。さっき倒した魔物みたいな、植物的な構造をしている。
「何もにゃい?……心臓もにゃいにゃん。こいつ何も食べにゃいのかにゃ」
何だが日増しに“にゃ”が増えていく気がするんだが、大丈夫か?
「あっ、これって魔石か?」
胸の中に小さな石があった。
やはり魔物の中には植物系だろうが動物系だろうが身体の中に魔石があって、その魔石が生命維持をしているんじゃないだろうか。植物系魔物を見るに、獲物を取り込んでそれを栄養に変換は出来るようだ。
まずはその魔石を取り出してみた。
さっき倒した植物系魔物の魔石よりは大きいが、ゴブリン製の武器に使用している魔石よりもかなり小さい。
もっと大きな魔石か必要か。と言うことは、もっと強い魔物の魔石が必要ってことだろうか。ゲームや漫画と一緒の設定だな。それにしても余りにもゲームや漫画の世界に似通っているよな。
元をただせば神話の世界の話だろうけど、まさか大昔にも異星人が地球に来ていたとか……
UFO番組でよく見た話だ。
俺はホーンラビット3匹から魔石を取り出し、バックにしまう。
そこでふと、ゲームを思い出す。魔物素材だ。毛皮や角は換金して金になるんだよな。
一応持って帰るか。
そう思って毛皮を剥ごうとするも、やり方が分からない。仕方無く角だけバックにしまった。
それで手を洗おうと思い、近くの沢へと降りて行った。綺麗な色をした川が流れている。
そこで手を洗おうと川辺に近付くと、唐突に妹の声がした。
「あっ、お兄ちゃん、何か来るっぽいよ」
「え? 何のこと」
次の瞬間、川の中から巨大なトカゲみたいなのが現れた。
いや、これはトカゲじゃない。頭部が大きいこいつは、恐らくオオサンショウウオだ。あれ、もしかして天然記念物じゃなかったか。殺しちゃ駄目じゃないのかな。
そんな事を考えている内に、オオサンショウウオが水面から飛び跳ねた。俺は直ぐに盾を構えたのだが、狙われていたのは俺じゃない。
「にゃああっ!」
叫びながらも、鼻先数ミリの所で躱したフェリス。普通なら避けられないのだろうが、フェリスの身体能力は半端ない。
オオサンショウウオの大きな口がバクンと空を切り、身体をクネらせて岩の下へと逃げて行く。
フェリスがその姿を見送りながつぶやいた。
「あのトカゲみたいにゃのは何なのにゃ!」
「恐らくだけど、天然記念物のオオサンショウウオだと思う。だけどな、あれは普通の個体じゃなくて、魔物化していると思うけどな。なんせ体長3メートルとか、そんなの有り得ないだろ。それに人を襲うとか、聞いたこと無い」
「それならきっと魔石も大きいにゃ」
そう言って川に飛び込む猫女。
そして飛び込んだ途端に食いつかれるバカ猫。
「ふにゃあっぷ、お、溺れるにゃん!」
服の一部を咥えられて、水中奥へと引き込まれて行く。
プロポーションは良く顔も可愛いのだが、性格が残念なんだよな……




