19話 魔物討伐
俺は結局行くところもなく、“新人類”のパーティーメンバーの隠れ家で暮らしていた。
前の会社に行くことも出来ず自宅に戻る事も出来ず、かと言って顔バレしてるから外を自由に歩く訳にもいかず、毎日が退屈でしょうがない。昼間は皆仕事で居ないから、話し相手はちっちゃい妹とパソコンくらいだ。
ちなみにスマホは、追跡されて居場所を特定される可能性があるから使わないことにした。
そんなある日の事。
いつもの様に隠れ家のパソコンで投稿動画サイトを見ていたのだが、その中の動画のひとつに釘付けになった。
高さ3メートル程の植物系の魔物らしい、木を撮影した動画だ。
木の枝がウネウネと動き、近くを通ったネズミ位の大きさの生物を捕らえて食べる木の魔物なのだが、その木に中高生くらいの男3人が挑むという動画。
基本的には魔物に対しては警察が対応することになってはいるが、法の整備がまだ整っていない日本では、若者がゲーム感覚で“魔物討伐”に挑む事案が多発して、それを動画に撮って動画サイトに投稿する者が出始めた。
この動画は、そんな投稿動画のひとつだ。
木刀、ナタ、バットを持った少年3人が、山の中で見つけた植物系魔物攻撃に挑んだのだ。
少年達は離れては攻撃と、ヒットエンドラン戦法で果敢に攻めたのだが、殆んど効いた様子は無い。逆に枝で払われて1人が捻挫してしまう。
それで攻撃は中断する。
そこで考えた3人は、翌日に除草剤を詰めたゴム風船を持ち出し、それを面白がって遠距離から木の魔物にぶつけ、その日は終わり。
そして3日後に再び3人が来ると、木の魔物はすっかり枯れ果てていた。彼らの作戦勝ちだ。
そして枯れ跡には、変わった色の石が転がっていた。その石が、ゴブリン武器に嵌め込まれている石にそっくりなのだ。
ファンタジー的に言えば魔石だな。
俺はその動画を見て思った。
魔石を集めようと。
理由は簡単で、ゴブリン武器には石が取り付けてある。あの威力はその嵌め込まれた石からエネルギーをとっていると考えたからだ。つまりエネルギーにも限りががあり、無くなれば使えなくなる。それなら早いうちに、集めておくに限ると考えたのだ。
漫画やアニメの知識だがな。
ちなみにちっちゃい星は、俺の胸ポケットで寝ている。
それで俺は魔物が居そうな場所の目星を付けて、山の中へと入る決意をした。それで準備をしていると、突然玄関の扉が開き、落ち込んだ様子のフェリスが顔を出す。
「こんな時間にどうした。仕事じゃないのか」
俺がそう尋ねるとフェリス。
「クビになったにゃん」
「それは、残念な結果になったな……」
と返答はしたのだが、グリムから「フェリスは仕事が長続きしない」と聞いていたから、なるほどねと心の中で思ってしまった。
続けようと思っても、首にされたら続けようがないよな。
確か着ぐるみのバイトをしていたと聞いた。
何かやらかしたのかと思ったら、そうではなかった。
「ゴブリン襲来の影響でにゃ、会社が潰れたにゃん」
実はゴブリン襲来の被害は、社会に大きく影響していた。
まずはたった数日とはいえ、多くの人が亡くなったのは大きい。未だに詳しい発表なないが、日本での死者の数は数百万人に達するとも言われているし、非公開な情報なのだが、拐われた人達も数万人いると言われている。
それに重要施設の破壊や重要人物の殺害も、我々の生活に影響している。
娯楽産業なんか特に影響している。
真っ先に誰も行かなくなるし、インフラ施設の修繕が最優先で、娯楽施設の修理は後回しになる。そもそもインフラが無ければ、娯楽施設は営業出来ない。
結果、中小企業が経営する娯楽施設は、軒並み倒産していった。大手企業の娯楽施設も部分的な施設だけの営業で、何とかしのいでいる状態だった。
フェリスが働いていた娯楽施設も、こじんまりとした地方特有の遊園地だったため、もろにその影響を受けたようだ。首になったと言うよりも、会社が倒産してしまって働けなくなったという訳だ。
落ち込むのも無理は無い。
フェリスにしたら、長続きしていた仕事らしいからな。着ぐるみ仕事が彼女に合っていたらしい。何でも「言葉遣いに注意しなくても良かったにゃん」とか言ってる。
それにしても、よく獣耳がバレなかったと思うが。
そんなフェリスだが、俺が出掛けようとしている姿を見て、声を掛けてきた。
「どこ遊びに行くにゃ」
いやいや、何で遊びと決め付けるかな。
「言っておくけど、遊びに行くんじゃないからな。仕事に行くんだ。し・ご・と、な?」
「ちょうど良いにゃ。私、クビになったところにゃ。仕事手伝うにゃん」
「う〜ん」と腕を組んでしばらく考える。
そして出した答え。
「分かった。なら、これから魔物を討伐に行くんだけど、何か武器を持って来てくれ」
しばらくすると、大きなバックパックを背負って来た。
「準備出来たにゃ」
「武器は何を使うつもりだ?」
するとフェリス。
「これにゃ」
ポケットから出したのを見て驚いた。
「お前、何で警察官の拳銃持ってんだよ!」
「気を失ってる奴から借りたんにゃ」
「借りたんじゃなくて、奪ったんだろ」
「いつか返すにゃ。奪ったとか、人聞きの悪いこと言うにゃ」
こいつ頭おかしいぞ!
っていうか犯罪者じゃねえか。
そう言えば、最初に見た時は銃を乱射してたしな。
まあ、俺も警察官の拳銃所持してたから、余り人の事言えないがな。それに俺も警察の犯罪者リストに載ってるだろうし。
「け、警察にはバレない様にしろよ……」
「お前もにゃ!」
何か腹立つ。
こうして俺達は、魔物討伐という新たなミッションに挑む為に出発した。
□ □ □
125ccスクーターに2人乗りして、裏通りを通りつつ瓦礫のトンネルを通り、無人の民家の庭を通って人里離れた山へと向かう。まるで野良猫が通る道を行くようだ。
そして目的の山へと到着した。
ここまで来れば、人と会う事は殆んどない。
俺はメイスと盾を取り出し装備する。
そこで星が目を覚ます。
「ここどこ〜?」
面倒臭いが一から説明。すると……
「な〜んだ、ならもっかい寝る〜」
再びポケットに潜り込むちっちゃい星。
それを横目で見ながら、フェリスは拳銃を取り出し弾倉をチェックしている。
「にゃんだにゃ、一発しかにゃいにゃん」
やたら“にゃ”が多くて聞き取り辛いが、残弾が一発しかないのはハッキリ聞こえたぞ。一発しかない拳銃で、どう戦うつもりなんだろうか。確かフェリスは、二振りのサバイバルナイフで戦っているのを見たな。あの武器はどうしたんだろうか。
「なあ、フェリス、ナイフはどこやったんだよ」
俺がそう聞くとフェリス。
「2本とも折れたにゃ」
やっぱりゴブリン製の盾や武器が相手だと、地球製の刃物じゃ耐久力で負けてしまうのか。
ゴブリン製の武器を何とか手に入れないといけないな。
そんな事を話しながら、俺達は山の奥へと入って行った。
1時間ほど歩き回って、やっと植物系魔物を見つけた。大きな紫色の花を咲かした、1メートル程のまず日本じゃ見ない植物だ。
見るからに怪しいその植物だが、魔物かどうかの判定をしなければいけない。
「なあ、どうやって魔物かどうか確かめるのか分かるか?」
俺がそう聞くとフェリス。
「手を出して攻撃してくれば魔物にゃん」
そう言ってフェリスが植物へと手を伸ばした。




