18話 決断とその結果
頭の中を整理する。
フェリスとメイプルには妹が見えない。
グリムは神官だから見える。
俺は何故か見える。
それだけじゃ妹が死んでる証拠にはならない。やっぱり生きている、何かの間違いだ。
俺は妹に向かって言った。
「皆がおかしな事を言ってるけど気にするな。星はお兄ちゃんが守ってやるからな。死なせるはずないだろ、この俺が」
すると妹。
「私って死んでるの?」
「だから生きてるって!」
メイプルが訝しげに聞いてきた。
「なあなあ、誰と話してんだよ?」
「そうにゃ、説明してにゃん」
「少し黙っててもらえるか」
俺の強い口調にメイプルとフェリスは黙り込む。この2人には星の声も聞こえないらしい。
そこでグリム。
「星さんと言いましたかな。君の記憶はどこまであるのですか」
「えっと……私、友達3人とアメリカに旅行中だったんです。自由の女神像とか見て、とても楽しかったんですよ。それで……ニューヨークに行って買い物して……そう、思い出した。そこで空に立方体が浮かんでるのを見つけたんだった。そこから球体が出て来て、緑色の生き物が地上に降りて……それから、人々を襲ったの。それで私は友達3人と一緒に逃げたの。怖かった……とっても怖かった。それで……私……緑色の生き物に追い付かれて…………」
そこで話しが止まった。
その後の事を俺は聞けなかった。
聞いちゃいけない気がした。
妹はうつむいたまま何も言わない。
シーンと静まり返るリビング。
しばらくすると、妹の立つ床に涙が落ち始めた。
「星……」
名前を呼んでその後の言葉に詰まる。
「わたし、死んじゃったんだね」
「……」
言葉が出てこない。何も言えない、言えやしない!
すると妹の姿が徐々に薄れ、青白くなっていく。いつか見た幽霊と同じ雰囲気だった。
そこで初めてフェリスとメイプルにも、妹の姿が見えたらしい。
「見えるにゃ!」
「おお、初めて幽霊を見たぜ」
そこでグリム。
「このままだと彼女は悪霊になります。今のうちにターンアンデッドをする事をお勧めします。何度も言いますが、妹さんはこの世にはもうーー」
「うるさいっ、何度も言うなって。そんなこと、何度も繰り返さなくても……」
涙が溢れそうになるのを必死に堪える。
しかし俺は、妹を消滅させることを了承するなんて出来ない。
俺の唯一の肉親で大切な妹だ。
だがそこで妹が口を開いた。
「私、悪霊なんかになりたくないよ。お願い、天国に行かせて。ね、良いでしょ、お兄ちゃん?」
俺は堪え切れず、遂に目から涙が溢れ出た。
このままじゃ駄目だ。何か良い方法があるはずだ。ファンタジー世界ならではの……
ーー復活魔法
「グリムっ、レザレクションって魔法知ってるか!」
「あれはゲームの中だけのものです。恐らく奴らのテクノロジーでも復活は無理みたいなんですよ。そんな魔法は実在しないのです……すいません」
俺は愕然として、その場に座り込んでしまった。
すると妹。
「もう時間が、ない……みたい。自我が、何か、消えそう……う……。お兄ちゃん、今までありがとう………お願い……天国に、行かせて……」
グルムはワンドを構えながら聞いてくる。
「まとっちさん、時間がありません。もう一度聞きます。ターンアンデッドしてもよろしいですか!」
俺はもう一度妹の顔を見た。
笑顔だった。
涙で腫らした顔で笑っていた。
それを見て俺は告げた。
「頼む、やってくれ……」
直ぐにグルムはワンドを振るい、ターンアンデッドを行使した。
すると妹は、キラキラと輝く粒となって徐々に消えていく。
最後に星は涙を流しながら手を振って絞り出す様に言った。
「今まで……あり……とう……」
それでも笑顔は絶やさなかった。
そして星は消滅した。
俺はしばらくの間、その場から立ち上がる事が出来なかった。
□ □ □
どのくらいの時間が経っただろうか。
気が付いたら俺は、ベッドに横になっていた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、起きてよ」
紛れもない妹の声。
夢だったのか!
俺は飛び起きた。
ここは寝室らしい。
周囲を見回すが誰もいない。もちろん妹の姿もない。本当に死んでしまったのか。
「お兄ちゃんってば!」
いや、今確かに声がした!
キョロキョロと周りを見回す。
「そっちじゃないよ、こっち、こっち!」
声のする方向に視線を持っていく。
「星、なのか……」
見つけてしまった!
それは妹に間違い無いのだが、背中に白い羽が生えている。
それにやけにちっちゃいぞ?
20センチくらいしかないのだ。
俺は何度も目をこすり、自分の頬をつねる。
「お兄ちゃんってば、行動が怪しいんだけど」
「ちょっと待て。星、何でここにいるんだよ。その前に何で生きてんだよ。それに背中の白い羽は何なんだよ。それにちっちゃいし。ちゃんと説明してくれ。頭が混乱してきた」
「う〜ん、説明が難しいんだけど〜。簡単に言うと、私、天使になっちゃったの。てへっ」
てへっじゃねえっつうの。
「それじゃあ、星は死んでないのか?」
「う〜ん、死んだみたいよ?」
ああ、そうか。死んで幽霊になったから、その時点で死んでるのか。
「質問が悪かったな。ええっとだな、幽霊になってから消滅したはずだよな。それが何故また現れる事が出来たんだよ」
「だ〜か〜ら〜、天使になったからって言ってるでしょ。私、天使になったのっ」
ええい、らちが明かない。
「待ってろ、グリムを連れて来る!」
神官のグリムなら少しは分かるだろ。
俺は部屋を出てグリムを呼びに行った。
グリムが部屋に入るや目を丸くする。
「天使、ですか。地球人の知識である天使の格好ですね。それにやけにちっちゃいですね。意味が分かりません。ターンアンデッドは成功していましたし。すいませんが、僕も分かりません。ただアニメに出て来るフェアリーという妖精にも似ているかもしれません」
フェリスとメイプルも集まって来たが、2人にも天使になった妹が確かに見えていた。
「うわっ、ちっさ!」
「ちっちゃいにゃ!」
「もお、ちっちゃいって言わないでよ〜」
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皆から色々と意見は出たが、結局は答えを出すことは出来ないで終わった。
それでも妹に会えることに関して、俺は心から喜んだ。
そして俺は決意する事になる。
「星、俺が必ずこの落とし前をとってやるからな」
もちろんゴブリンに対してだ。
□ □ □
それから三ヶ月程が経った。
あの日以来、ゴブリンは攻めて来ない。
あの時の襲撃も、俺達のいる場所だけだったようだ。つまり世界各国に襲来した訳では無く、俺を標的にしたピンポイントの襲撃だった。明らかに盾とメイスを狙ったものだ。それに指輪もかも。それで余計に俺達は目立つ事になる。
そのせいもあって、相変わらずCIAなどの各国情報機関に俺は狙われている。それに天使教にもだ。さらに新人類のメンバーもバレてしまった為に、各国情報機関から狙われる事となった。
また異星人の襲撃以来、世界に大きな変化があった。
異星人の襲来目的は未だに謎のままなのだが、奴らが居なくなった後になってから地球に変化が生じた。
世界がファンタジー化していくのだ。
見知らぬ植物が生えたと思ったら、それは食人植物だったとか。新種の野生動物かと思ったら、神話に出て来る様な魔物だったとか。
日本政府はそれら全てに対応し切れずに、猟友会が魔物討伐に駆り出されたりもした。しかし猟友会だと猟銃に関しての制約が多過ぎて、使用制限が複雑となり、それが原因で魔物に返り討ちになる事件も発生した。
アメリカなどとは違い、銃規制が厳しい日本みたいな国は、魔物討伐にかなり苦労することになる。
日本の場合、法律の整備そのものが遅れており、警察が対処せざるを得ない状況だった。
それはあくまでも表向きだが。
ここまでで一章終了となります。次回から二章へ突入です。
この辺で評価して頂けたらモチベーション上がります。
書き溜めはあと10話分ほどです。
駄目そうなら諦めて早々に完結し次の小説に向けて構想を練りますので、皆様の判断を御願いします。
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