15話 警察との対決
俺が盾を振るう度に、数人の機動隊員が吹っ飛んで行く。
俺の怒りは頂点にきていた。
人質をとるとか、日本の警察がすることか?
それもよりによって、俺の妹だと!
機動隊は一旦隊列を整えるべく、俺から距離をとった。俺は破壊された車を背に、完全に機動隊に囲まれた形だ。
隊列の隙間から、負傷した機動隊員を後方へと運んでいる。
隊長らしい奴が無線で仕切りに「発砲許可はまだですか!」と叫んでいる。
だけどな、俺に銃は効かないよ。
しかし妹の姿が機動隊で全く見えない。
どうなってるか心配でしょうがない。それだけが気掛かりだ。
俺は右手のメイスを手首で回し始める。
地面に付かない程度に鎖が伸び、回転する鉄球が音を立てる。
そして俺は自分を中心に、周囲を一周する様にメイスを振り回した。
ガシャガシャと鉄球が機動隊の盾とぶつかる音。
そして男達の悲鳴。
空中を舞う機動隊員達。
数秒の後、折り重なるように地面に落ちた。
地面で苦しそうに呻く機動隊員。
その直ぐ側で花岡が、真っ青な顔で四つん這いのまま固まっていた。
俺を囲んでいた機動隊は、メイスの一回転で全員がなぎ倒されたのだ。怒り心頭だったとはいえ、しっかり手加減はする理性は残っていたから足を狙った。殺してはいない。
これで俺を包囲していた機動隊は壊滅状態。
その後ろに待機していた警官隊が見えた。
その警官隊の中に妹はいた。
俺は倒れた機動隊員をまたぎながら、妹の所へと歩く。
「おい、そこをどけ!」
俺が言葉を掛けると、「はっ」とした様子でその場から後退る警察官達。
俺の前に道が空いた。
俺が手を伸ばすと妹は俺に走り寄る。
「お兄ちゃん、だよね……これって何なの、何で警察が一杯いるの、何で皆が一斉に倒れたの。何でなの。訳が分からないよ」
パニック状態だ。
気持ちは分かる。俺も今パニックになり掛けてるからな。
警察官は呆気に取られている様子で、特に何もしてこない。
俺は妹の手を引き、この場を立ち去ろうと歩き出す。
しかし機動隊は戦闘不能にしたが、警官隊がまだ沢山いる。その警察官達は腰の拳銃に手を掛け始める。
20人はいるか。
正直言えば自分の身は守れても、妹まで守る自信がない。しかしもう後へは引けない。もう警察に戦いを仕掛けてしまったからな。
俺は盾を構え、メイスを持つ手首をグルグル回す。
徐々に鎖が伸びていき、鉄球が回り出す。それを持ち上げ頭上で回す。
すると鉄球が唸りを上げ始める。
「お兄ちゃん、それって……」
妹の言葉には答えず、俺はメイスを放つ。ただ相手は機動隊と違って、防弾の盾もない生身の人間だ。手加減はするさ。
それにさっきとは違い、今は落ち着いている。
鉄球が警察官達の足元へ飛んでいく。
だがそこで予期せぬ出来事が起こった。
一人の若い女性警察官が前に出て来たかと思ったら、俺の放った鉄球を盾で受け止めたのだ。
そう“盾”でだ。
機動隊員が使うライアットシールド的なものでは無く、ボロい木製の盾だ。だが普通の盾のはずがない。それは鉄球を受けた瞬間、その盾に嵌め込まれていた石が光ったのだ。
ゴブリン製の盾に違いなかった。
警察内部にも手に入れた者がいたのか。
女性警官は盾を両手で持ちながら鉄球を止めたのだが、俺の力加減が強すぎたのか、盾ごと数メートル吹っ飛んだ。だがそれでも女性警官は必死に立ち上がり、今一度盾を構えて言葉を放った。
「間藤君、抵抗するのは止めなさい。特別なのはあなただけじやないのよ!」
あっぱれと言いたい。
しかししゃべり終えた瞬間、盾は二つに割れてしまう。嵌め込まれていた石も砕け散ってしまった。
女性警官は「ああっ」と言ったきり、オロオロし始めた。先程までの颯爽とした雰囲気はどこへいったのやら。
やはり俺の持つ盾は、ゴブリン製の中でもずば抜けているとこれで確信した。立派な箱に入っていたくらいだからな。それに嵌め込まれている石が違う。メイスも同じだ。他の武器とはレベルが違うはずだ。
指輪だけが謎だがな。
でもひとつ疑問が湧いてくる。そんな盾を何で男ではなく女性に持たせたのだろうか。
盾の扱いに慣れている機動隊員に持たせれば良かったのではと思う。男性の方が腕力もあるし、わざわざ女性に持たせる意味が分らん。まさか、使える人間に制限があるのか?
まさか、選ばれた者だけが持てる武器なのか?
そうか、俺は選ばれた者なんだな!
そうか、そうか、生きてて良かったぁ!
この壮大な勘違いは今後、俺を悪い方へと引き寄せることになる。
女性警官の盾が使用不能になった事で、警察官達は俺から離れ始める。オロオロしていた女性警察官も引っ張られて下がって行く。
距離は取ってくれたのは良いが、警察官達は拳銃を抜いて俺に向けていた。
まさか撃たないとは思うが、嫌な感じである。いっそこいつら全員を吹っ飛ばしてやりたい。
「お兄ちゃん、どういう事なの。警察相手に何してるのよ」
そうなるよな。
妹から見たら俺は、警察と揉めている犯罪者だ。
「星、取り敢えずここはヤバいから、安全な所に移動するぞ」
俺は妹を連れて逃げに入った。
だが警察官達は、当然のことながら追って来る。人数が多いからとても逃げ切れない。路地に入ろうが民家を抜けようが、常に先回りをされてしまう。
そんな事をしている間に、俺達は徐々に包囲されてしまった。かと言って、警察は一切手出しはして来ない。
俺達が移動すれば、警察はその包囲のまま移動するだけだ。これでは休む暇もない。
また川にでも飛び込むか。
しかし妹がいるんだよなあ。
もうこの際だ、ゆっくり話しながら移動するか。
俺は妹に、これまでの経緯を説明しながら歩いた。
まるで散歩だ。警官隊も一緒だけどな。
説明が終わると妹はこう言った。
「確かに警察も悪い気がするけど、お兄ちゃんもどうかと思うよ」
「どこが?」
「えっと……色々よ」
俺の妹は昔からこんな感じで良く誤魔化す癖がある。妹の得意の言葉は「色々よ」「自分で考えなさいよ」「知らないわよ」などの人を突き放す言葉である。
あてもなく歩き、何時間か経った。
知らない土地である。
「なあ星、2人でこうやって歩くのなんて、久々だと思わないか」
「良くこの状況でそんな事を言えたよね、バカじゃないの」
ごもっともな意見です。
でも俺はこういうやり取り、もう慣れてきたんだよな。
そう思いながら後ろを見る。
相変わらず警察は付いて来る。どうやら拳銃はしまってくれている。
もう周囲は人工物が少なく、緑色が多い景色となって来た。周りにの民家はまばらになり、山や森に畑といった、田舎の風景が広がっている。
そしてこの場に不釣り合いな警察官達。
警察車両は放置自動車が邪魔で、途中で挫折。今はチャリ警官、そして徒歩の警察官達、合わせて15人くらいだ。
腹が減ってきたので、俺は乾パンの缶詰を取り出し妹にも一缶渡す。
しかし「私、お腹空いてない」との返事。
「星、ちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
「もう、大人だし」
そんな他愛も無い会話をしながら、二人並んでトボトボと歩いた。
天気は良いし、自然の中を歩くのも悪くないな。空を見ながらそんな事を考えていたのだが、空中に浮かぶ物体を見つけてしまった。
ドローンである。
そこで自宅がバレた訳を理解した。
ドローンに付けられてたのかよ。
もしかして、グリムのおっさん達の隠れ家もバレてんじゃ……
俺はメイスを空に向けて振るった。
すると鎖が伸びて、鉄球がドローンを打ち落とす。
警官達が銃を抜いて構えるも、隊長らしき警官が慌てて制止する。
これでドローンは居なくなったと、安心して前方に視線を移すと、その先には迷彩服を着た兵士達が、ズラリと並んでいるのが見えた。見えてしまった。
やられた!
自衛隊のお出ましだった。
ブックマークが二個に増えました。合計ポイント4点です!
あざっす!




