14話 機動隊と妹
俺がビルに近付くと、警察の動きが慌ただしくなる。
やっぱり警察にも顔バレしているか、俺に気が付いたみたいだ。そうなると警察は、どんな行動をとってくるんだろうか。
機動隊が一斉に襲い掛かって来る?
あの数で来られたら、さすがに盾だけじゃ防ぎ切る自信がない。その時はメイスを使う事になるな。やはり話し合いじゃ駄目ってことか。
戦闘になりそうだったら、ここから逃げるという手もあるが、そうすると自分が悪者だと認める様で嫌だ。
だからこのまま行ってやる!
機動隊が徐々に左右に移動して行く。俺を取り囲みたいのだろう。
構わずビルへと真っ直ぐに進む。
規制線が張られている。
一般人が入れない様に、警察官が周辺道路をも規制しているのが見える。
俺1人にかなり大掛かりだな。
そこで俺の前に1人の男が出て来た。スーツ姿の薄っすら禿げた、細めのおっさんだ。機動隊や警察官とは違い、殺気だった感じはない。非常に落ち着いた雰囲気だ。
「君が間藤君ですね」
そのおっさんに声を掛けられた。
「そうだけど、俺に何か用?」
「私は総理補佐官の花岡という者です」
そう言って身分証を見せてきた。
偉そうなのが出てきたな。でもこのおっさんなら話し合いは出来そうだな。
でもな、ここでビビったら負けだ。強気でいく!
「で、その補佐官が俺に何か用なの?」
「そうですね、今日は君とちょっと話をしたいと思いましてね。悪いのですが、時間を作ってくれませんかね」
確かCIAのおっさんも、そう言って死んだんだよな。
「え〜っと、俺、今から会社に出勤するとこなんだけど」
「ああ、そのことなら会社の方に話を通してあります。確か桜木さんという女性だったと思いますが、許可はちゃんともらっていますよ。時間は取らせませんので、如何でしょうか」
桜木蘭夢、グレイトモールにいたギャル女にして、俺の会社の同僚だ。
このおっさん、社内で一番駄目な奴に許可をもらっちゃったよ。
「なら、手短によろしく」
「そうですか、ではここでは何ですので、車の中へ移動しましょう」
車の中か……ちょっと警戒。
案内されたのは、後部座席が対面になった高級車。そこで花岡さんと対面で座る。
「ここでの会話は誰にも聞かれませんし、非公式なものですので安心してお話し下さい」
そんな事を言ってくるんだが、話す内容は想像がつく。異星人の武器を寄越せって話だろう。だが渡したら俺は終わる。
だから俺は初めから釘を刺しておく。
「初めに言っておくけど、俺が持っている物をあんたらに渡す気は無いからな」
それを言った途端、僅かながらに花岡さんの表情が険しくなる。だが直ぐに元の温和な感じに戻り、口を開く。
「直球できましたか。まあ、そう言った事も含めて、今後について話し合いたいのですよ」
異星人の武器が欲しい事を、暗に認めた発言だな。
さらに花岡さんは話を続ける。
「それから間藤君、君には軽犯罪の容疑が掛かっているんです。どう言う意味か分かりますよね?」
なるほどね。メイスと盾が武器だから、所持して歩いてたら軽犯罪法に触れるって訳だ。早い話、押収も出来るんだぞって言いたいらしい。
「だが断わる!」
言ってやった。
武器を所持してる奴なんか、そこら中にいる。なんたって今や世の中は犯罪者だらけだからな。逆に言うなら、護身用の武器を持ち歩かない奴の方が少ない!
「え〜と、強気なのは良いですが、このままだと君は、この騒ぎが収まってもずっと犯罪者のままですよ。それでも良いと?」
さらに脅しできたな。
「その時は裁判で争うつもりだよ。皆が武器を持ち歩いているのに、俺だけが裁かれるのは納得いかないからな。それにこれは、明らかに政府機関がこのオーバーテクノロジーが欲しい為に、俺に圧力を掛けてるとしか思えないしな」
すると下を向いて、大きくため息をつく花岡さん。しかし直ぐにこちらを向くと、ちょっと恐い顔で話を始めた。
「君がそう出るなら、こちらも相応の対応に出るしかないようだね」
そう言って運転席との仕切りをコンコンと叩く。何かの合図らしい。
「何をする気だ」
俺の質問に表情は変えずに返答する。
「今に分かりますよ」
不気味だな。
少しすると運転席から、仕切りを叩く音。すると花岡さんは車のドアガラス越しに指を差す。
その指し示す方向に見える光景。
十数メートル離れた場所に、完全武装の機動隊がいた。その中心辺りに少女が見える。不思議なのは、何でそんな中に女の子がいるのかだ。
だが、その少女の顔を見て俺は怒りが込み上げてきた。
「てめぇっ!」
アメリカに旅行中のはずの妹だった。
名前は『星』と書いて“キララ”と読む。俗に言う、キラキラネームってやつだ。
俺は車のドアを開けようとしたが、ロックされていて開かない。
「まあ、落ち着いて下さい。君が大人しくしていれば、機動隊も行動に出ませんから。ここは治安の良い日本ですからね」
「は〜な〜お〜か〜、やってくれるじゃねえか!」
俺は腰に下げたメイスを掴む。
「落ち着いて下さい。我々はあくまでも、話し合いで決着をつけようと考えています。しかしながら、全てあなた次第で流れが変わります」
アメリカに行ってる妹を連れ戻しやがったか。まさか人質にするとはな、日本の政府機関も必死ってことか。そこまでして異星人のテクノロジーが欲しいか。
いや待てよ。
CIAの意向で動いているのかもしれないか。
どっちにしろ、ここからは戦闘モードを崩さない。いつでも暴れてやる。
「おい、花岡。どうしたいんだよ。言ってみろ」
もはや呼び捨てだ。
「そうですね、あなたが持つ異星人の武器をお借りしたいですね」
借りるだと!
「どうせ借りるとか言ってパクるんだろ、借りパクってやつ」
「確かに借用期間は何とも言えません。どのくらいの期間でそれを解明出来るかなんて、誰も予想出来ませんからねえ」
やっぱりな。こいつら、永遠に借りる気だ。
「なあ、俺が暴れたらどうする気なんだ?」
俺からの脅しなんだが、花岡は全く動じない。
「あなたの待つ武器の性能は、大体こちらも把握しています。そのメイスでこの車は破壊出来ません。つまり、ここからは出られません。仮に出られたとしてですよ、あれだけの機動隊ですよ、どうするつもりですか?」
全部折込済みってことか。
ああ、腹立たしい。
だがな、俺には何となく分かる。
出ようと思えば簡単に出られると。
「花岡、俺をこの程度で閉じ込められると思うなよ」
花岡が険しい顔をする。
「重機関銃にも耐えるこの車、破壊出来るって言うのですか。この車は装甲が内蔵してるんです。言い換えると装甲車なんです」
俺は返答せずにニヤリと笑う。
そして……
「ナメんじゃねえぞ!」
メイスを腰から抜いて振り回した。
一撃だった。
車のドアが吹き飛んだ。
埃が漂う中、俺はゆっくりと車から外へ出た。
しかし、あっという間に機動隊が俺を囲む。
警察官や機動隊で姿は見えないが、妹の声は聞こえる。
「お兄ちゃん!」
そこで俺は叫ぶ。
「そこで動くなっ、今そっちへ行く!」
そこで破壊された車から花岡が這い出て来て言った。
「か、確保しろ!」
その花岡の声で機動隊が、透明な盾を構えて突進して来た。ライアットシールドだ。
「てめぇら、邪魔だ。そこをどけ!」
俺は盾を横に振るった。
それだけで機動隊員数人を薙ぎ倒す。
それでも機動隊は怯む様子などない。透明の盾を俺に押し付けて動けなくしようと、雪崩のように押し寄せる。
「シールドバッシュ!」
俺は再び盾を振るった。
叫ぶ理由は……以下省略。




