12話 新人類
途中、猫女が隠して置いたらしいスクーターに乗る。125ccだから2人乗り可能だ。俺はバイク免許を持っているから、俺が運転することにした。猫女は運転どころじゃないからな。
途中で猫女はトランシーバーで仲間に連絡していた。そちらにもうすぐ着くと言っている。どうやら隠れ家には仲間がいるようだな。
スクーターで放置自動車を避けながら走ること1時間。もちろん監視カメラに追跡されない様に裏通りを通る。やっと目的の場所に到着したは良いが、猫女は死にそうな顔。
まじてヤバい。一刻も早く治療しないと、マジでこいつ死んじまう。
そこはマンションだった。
非常階段からマンションへと入って行く。言われた場所は4階の一室だ。
インターホンを鳴らすと、猫女の顔を確認。誰も居ないことを確認して、やっと中に入る許可をもらえた。
この時点で猫女は俺にオンブされているだけで、全く自分で動けなかった。それどころか、返答も出来ない状態だ。
肌は血色なく、もはや死体の様な色。
部屋の中から出て来たのは、ニット帽を深く被った痩せ細った女。顔色がやけに青白い。
もしかしたら何かの病気なのかもしれない。
ジャージの上下を着ていて、ニット帽からはみ出る髪の毛は緑色だ。
派手な色に染めてやがるな。
俺が室内に入ると、奥から男性が出て来た。
金髪の男性だ。
これこそ日本人ではなく、北欧人辺りの人だろう。彫りが深く髭を生やしていて、青色で縁取られた白色のローブを纏っていた。
まるで神官だな。
しかし誰もが、日本語で会話しているのには驚いた。
俺は言われるがままに寝室へと行き、猫女をベッドに寝かせる。
すると突然、神官男がぶつぶつと言い始めた。祈りの言葉っぽい。
ということは猫女、間に合わなかったか……
しかし次の瞬間を見て、俺は腰が砕けそうになる。
「グレーターヒール!」
アニメやゲームの中に出てくる様な言葉を神官男が叫んだかと思えば、これまたアニメ世界の様に猫女の傷が癒えていく。あたかも映像を逆回転するかの様にだ。
そこで神官男がガクッと片膝を突く。これまたアニメを見ているみたいだな。急激なマナ使用による疲労、もしくはマナ切れってやつだろ?
こうなるとまさか、こいつが神官で、細めの女はエルフとか!
猫女は前衛の剣士?
あ、拳銃使ってたから違うか。まさかアサッシン?
俺が勝手な妄想でウキウキしていたら、細め女が俺に向かって言ってきた。
「あんた、どんな技能を持ってんのさ」
ちょっとヤンキー入ってるっぽいけど、変な語尾とかも無く、普通に日本語がしゃべれるみたいだな。
「その前に色々聞きたいことがあるんだけど」
そう俺が言った所で、意識を取り戻した猫女が言葉を挟む。
「すまにゃい、こいつにはまだ何も話してにゃいにゃん」
猫女はあの傷からあっという間に回復して、今は平然と会話している。奇跡だろ、これ。
猫女の言葉を受けて、細め女が文句を言ってきた。
「まだ話して無いのかよ、頼むぜ」
この細め女も顔は可愛いのに、ちょっと残念だな。体型も平面だし……あ、エルフそのものじゃん!
待て待て何か変だぞ、この設定。
CIAってこんな組織だったのか?
ファンタジー丸出しの組織だったか?
俺の知ってるCIAって言ったら、凄腕エージェントや俊腕スパイがいる組織。こんな組織は嫌だぞ。
「なあ、お前らもしかして、CIAとは違う組織なのか」
我慢出来ずに聞いてみると細め女。
「あたいらがCIAな訳ないだろ、バカかお前」
腹立つ言い方だよな。
「それならどこの国の組織だよ!」
「日本に決まってんだろ。あたいら日本語でしゃべってんだろうが。それくらい分かれってんだよ」
だいたいな、自分の事を“あたい”って言う奴をリアルで始めて見たぞ。
「いやいや、外見が日本人じゃね〜だろが。それと何で獣人にエルフに神官なんだよっ。もろファンタジーじゃねえか」
「あんた、何であたいがエルフって分かったんだ?」
やっぱそうなんか!
「細い体、植物っぽい雰囲気、何より平らな胸。どうせ耳は尖ってんだろ?」
悔しそうにニット帽を取るエルフ女。すると、尖った耳が出現。
期待を裏切らないんだな……
自分で言い当てたんだが、本当にエルフの耳で驚く。
「フン、良く分かったわね。でもね、平らって表現はやめろ!」
エルフ女は放っておいて、リーダーっぽい神官のオッサンに話を振る。
「それでこれは何の集まりなんだ?」
すると神官のオッサンが答える。
「我々は“新人類”と言うパーティーでね。目的は僕たちの様な風変わりな人達を救う為、それと異星人に対しての反抗グループとして結成したんだ。世界には異星人に攫われて、何かされた人達が沢山いるらしい。その結果、僕達みたいに望まない身体になった者もいる。政府からは実験の対象に扱われ、社会からは白い目で見られて虐げられた生活をしている。それを救って、居場所を与えているんだよ。僕たちの手でね」
「な〜んか格好良いこと言ってるよね。でも俺は興味無いんだよな、そういうの」
つい正直に言ってしまったよ。
「まあ、いきなり理解してくれとは言わない。だが、社会がこんな状況だからね。しばらく一緒に行動した方が良いと思うけどな。そうだ、自己紹介が遅れてしまった。僕はグリム。獣人の娘がフェリス。エルフがメイプル、で君は?」
「俺は間藤閃輝29歳、独身、彼女無し」
女性が2人もいるから一応ね。
それを聞いてメイプルがつぶやく。
「難しい名前だな。そうだな、“まとっち”でいか」
好きにしてくれよ。
それからグリムが、皆の能力を説明してくれた。
グルムは呪われた神官服を着てしまったのがことの始まりだそうで、ゲームで言うところの“治癒魔法”が使えるようになったそうだ。うん、うん、クレリックだな。その他に防御系の魔法を少しと、ターンアンデッドも出来るらしい。やっぱ幽霊は居るんだな。それと神官の知識も少し得たんだそうだ。
その代わり呪いのせいで、急速に歳を取っていくという。
ちなみに神官服は、半年前に地球に飛来した敵の球体の中から盗んだものらしい。アブダクトされかけたんだと。
年齢は18歳だというが、どう見ても30歳を超えている。これが呪いの影響なのか。
でも半年前とはな。そんな前からゴブリンどもは地球に来ていたってのか。
そして獣人のフェリス。
彼女は異星人襲来一ヶ月ほど前、仕事の帰りに夜道を歩いている時、ゴブリンどもに拉致誘拐された。そして気が付いたら元の道に居たのたが、獣人となっていたという。
獣人の姿になったおかげで、身体能力は格段に上がったそうだ。それは人間の域を超えている。
年齢は19歳。
そしてエルフのメイプル。
彼女は記憶が欠如していて、何故こんな姿なのかも分からないと言う。過去の記憶も殆んど無く、自分がどこの出身なのかも分からないらしい。ただ、断片的に記憶が残っていて、それによれば彼女は元CIAの職員だった可能性が高い。彼女の能力は弓と、植物を利用した簡単な魔法だという。
あくまでもエルフ設定は崩さないんだな。
年齢不詳。
ここまで説明を受けた後、俺に3人の視線が集まる。
「え、何?」
フェリスが答える。
「まとっちの能力を教えるにゃん」
俺は特別な能力など無いんだけど。でもゴブリンから奪った武器が、たまたま凄かっただけとは言えない雰囲気なんだよな。
「お、俺の能力はな、せ、説明が難しいなあ。ええっと、お、俺はメイスと盾使いだよ。他は特に無いよ」
嘘は言って無い。
指輪に能力があるかは、まだ分からないしな。だが石が嵌められているから、きっと何らかの力はあると思う。
するとフェリスが勝手に補足説明をする。
「凄いにゃよ。盾でライフル弾を払い除けるにゃん。それで30メートル以上先の敵をにゃ、鎖の伸びたメイスで一網打尽にゃ。まとっちは無敵にゃん」
ちょっと話を盛っているが、まあ大体は合ってるから良いか。
するとグルム。
「前衛か、それは良い。僕達のパーティーが求めていた立ち位置だよ」
いやそれって、俺が仲間になって一緒に行動する気でいるだろ。俺はOKした覚えは無いんだが。




