+++第六話:ようこそ、第43地区へ
・
・
・
・
「ふん、ふ~ん」
鼻歌を歌いながら、スキップで道を歩く。
【セイヤッタ・ミーナルス】は、この通り・・・ご機嫌である。
見ているだけで心が温まる、そんな彼女に対しては町の人もみな笑顔で声をかける。
「―――お帰り、セイヤッタ」
たまたま店の前の枯れ葉を掃いていた、初老の店主も例外ではない。
「たっ、だいまー‼
テンスおばあちゃん!」
「うん、今日も元気だね?
学校は楽しかったかい?」
「もちろんだよ!
今日はね~、学食で期間限定メニューが残ってたんだ!
昨日までは売り切れちゃってて、食べれなかったから」
少女は指をくるくる回し、自慢気に語る。
「そうかい!」
(うんうん、このぶんだと・・・最近は勉強も順調みたいだね)
「あとねえ・・・・あれ?
あとは、なにしたんだっけな。
・・・あはは、忘れちゃったあ。
また明日行くし、いいよね?」
・・・・。
(勉強も―――――――――)
いやいや、学校はそれだけの場所じゃないはず。
「あ、ああ。
そうだよ、楽しいのが一番さ。
いい子には、あとでお饅頭持って行ってあげるよ」
「わーい、おばあちゃん大好き~」
(お饅頭、お饅頭っ~!)
彼女が下宿先につく頃には、頭の中はもうそれでいっぱいだった。
と、言ってもあそこからなら徒歩で一分ほどの距離しかないわけだが。
「着いたあ~!」
軒並み古い家が並ぶ、この特別地区。
その中でもひときわ目立つのが、この築六十年超えの木造二階建て。
名を茜荘・・・巨大な敷地には庭もあり、旅館の如く大浴場も完備する。
物干しざおの上でカラスが鳴き、ぼろぼろの三角屋根の上では二匹の猫が盛んに体を重ねあう。
もっとも、セイヤッタがその行動の意味を知るのはまだ先の話ではあるが・・・・ともあれ彼女はにこやかにほほ笑んだ。
「―――――うんうん、今日も平和だねえ」
(・・・あれ?)
そのとき、彼女の視界に見慣れないものが写った。
(届け物かな)
固紙製の縦長箱―――最近はやりの”段ボール”というやつだ。
それにしても・・・・なんだろうか⁇すごく大きいようだが・・・・。
普通は、本人あてに直接渡すはずなんだけど。
そう思いつつも、セイヤッタは箱に顔を近づけた。
「誰宛だろー、なっ?」
(・・・・・)
「なんだ、私宛じゃないのかぁ
・・・・・・重そうだし、後にしよ」
そう一人つぶやく。
別に意図した状況ではないのに、なんだかどっと疲れた感じ・・・・。
リュックを再度拾い上げ、彼女が玄関に手をかけたところだった。
「―――――のか?」
「え?」
辺りに彼女以外の人影はない。
だというのに、男の人の声が聞こえたような気がした。
もともと、目や耳はいいセイヤッタ。
(いや、まさか、ね・・・・)
そう思いながら振り返ると、今度は明瞭に単語までを聞き取れてしまう。
「誰かいるのか??」
「・・・・‼」
「うわあああああああ‼‼⁉??」
(箱が喋ったああああああ!!)
*
木材のにおいが古心地よく香る、エントランス。
中央には大家族のような大きめの机が置かれ、ソファーは窓からの日差しに照れされる。
アンティークなのっぽ時計は、暗がりから振り子で時を刻み・・・ちょうどそれは午後五時を指すところだった。
さて、前置きはここまで。
こげ茶の木目の上にぽつんと鎮座するそれは、意外にも周りに溶け込んでいるようだ。
土で汚れてぼろぼろではあるが、それはそれで味を出している。
(一応魔力で運んだけどさ・・・・)
「う~~~やっぱり無理だあ!怖いよお‼」
いきなり現れた謎のしゃべる箱。
誰かを待ってるみたいに、でもきっとそれには意味があって・・・。
私が・・・。
セイヤッタは【ごくり】と生唾を飲み込んだ。
「私が勉強しないからだあ~‼」
(神様は見てたんだ)
「今日だって、宿題やってなくて怒られたの・・・いま思い出したよお!
だから私を食べに、幽霊魔獣が現れたんだあ‼
うえ~~ん、ごめんなさあい・・・たべないでくださぁいっ‼‼‼」
彼女の脳内回路はとんでもない結論を導き出し、狼狽する。
と・・・・同時にこちらにも状況が理解できず、混乱を極めている人物があった。
彼こそ、箱のなかの人物:【セシル・ハルガダナ】である。
そうはいっても、両者の状況は似て非なるものである――――――。
(身動きが取れない・・・おそらく魔力で縛られているのだろうが・・・)
わかるのは自分が、とても狭く薄暗い空間に閉じ込められているということ・・・そして外には、謎の人物が騒いでいるらしいこと。
(あれからどうなった⁇)
エリクアッツェという兵士と戦うことになって・・・・・・くそッ、その後の記憶があいまいだ。
こうして生きているということは、勝利したのか⁇
いや・・・彼女の実力は相当の物だった。
敗北し、閉じ込められていると考えるのが妥当か――――ッ。
――――このように、あのときから気絶してしまっていたセシル。
彼は彼で、かなり焦燥状況にいる。
(――――クソッ)
問答無用ってことか⁇
「―――――状況くらい説明してほしいんだが?
・・・罪の話はどうなった」
「つ、罪・・・・?」
「ああ、そうだ」
セシルの言葉に、少し沈黙があった。
なにを考えているのか―――お互いに探り合う状況だが、しかし前提条件がそもそもまったくかみ合わない。
「ごめんなさい許してください。
これからは宿題頑張るし、寝る前はちゃんとはも磨くので見逃してください」
「・・・はあ?」
(さっきからいったいなんの話を―――?)
(・・・・・・⁇)
「―――ふぁあ・・・。
ん?どうしたのセイヤッタ」
(誰か来た―――)
セシルが感じた気配の正体―――――――【ロッカ・ノセアダ】は階下の異変に気が付き、眠そうにしながら階段を降りる。
膠着状態の議論、彼女はゲームチェンジャーになれるか。
「来ちゃだめだよロッカ!ここは私がなんとかするから―――」
「ふふふ、セイヤッタちゃ~ん・・・・なになに、隠し事かなあ?」
(あの大きい箱、見覚えない・・・?)
しかし彼女もまた、事態についての把握はしていないのだ。
いつも通りのいたずらか・・・・なにかか、それとも?
ああ、お菓子でも届いたかなあ?独り占めしようなんて・・・そんな風に育てた覚えはないぞぅ!
ノセアダは地面を蹴り駆けだし、威勢よく箱に手をかけた。
「どれ、お姉ちゃんにも見せてごらんっ!」
「あああ‼
待ってそんなことしたら呪われて罰があたっちゃ――――――――って、うわあああ⁉⁉
ひ、人だあああ⁉」
セイヤッタは思わず飛びのき、そう叫んだ。
恐る恐る視線を移したそこには、仏頂面の青年が横たわっていたからである。
(―――あれ?はずれかな)
ていうかそれよりも・・・・。
青ざめた少女とは対照的に、ノセアダはニヤッと口角を緩めた。
「なんだよ~う、彼氏連れてきたのか~。
ごめんねえ?お姉ちゃん気が利かなくって」
「ち、違うよッ‼」
セシルの視界の端で、セイヤッタの肌が紅潮する。
(事実だが、なんで俺が振られたみたいになっている)
「・・・・」
「ほら、可愛いセイヤッタちゃんが照れてるぞ~ぅ?」
「そういう関係じゃないし、まずここから出してくれ。
―――――体が動かないんだ」
まったくをもって意味不明な状況。
彼女らは何者なのか―――俺はいま、どういう立場にあるのか―――。
聞きたいことはたくさんあるが、出られるのであれば・・・まずはここから出るのが先だろう。
「ふうん、まあなんというか。
変に隠そうとしてるのが、初々しくって良いねえ・・・」
(まだやるか)
「じゃあ、私は部屋にいるから・・・ごゆっくり」
いやいやッ。
彼女は一言残すと、体を回転させ・・・・よもや本当に自室に戻ってしまう雰囲気だ。
(ここまで来て放置かよ⁇)
まさか、本当に恋人云々だと思っているんじゃないだろうな⁉
馬鹿げてる、こっちは本当に体が動かないんだ!
「―――!
ちょっ、待ってくれ」
「一人にしないでえ~!」
「あはは、青春って感じだねえ――――」
二人の二様の救済の叫び・・・・そして、勘違いからそれをスルーするノセアダ。
いったい、いつになったら物語は動き出すのか――――。
―――そんなときだった。
天高くつき抜けていくような遠吠えが、俺の頭蓋を揺らす。
(―――ッぐ⁉)
「なんだこれ、犬の声・・・か⁇」
「・・・‼
聞こえるの⁈彼氏君」
驚いたように声を上げ、こちらをのぞき込む。
しかし彼女の表情は、先ほどとは変わって真剣そのものだ。
「そりゃ、こんな轟音・・・聞こえない方がおかしいだろ」
「まあ、そうなんだけど。それがただの音ならね」
「・・??」
「いまのは魔獣の鳴き声。
特殊な音波で、通信魔法の一種だから限られた人にしか聞こえないんだよ」
(テラーリオ・・・もしくはガノーシャ?)
どちらにせよ、彼に新しく権限を付与したんだ。
となれば、彼は私たち・・・・43部隊の関係者。
でもなんで箱に詰められて――――⁇
「待ってくれ、俺にもなんとなく状況がつかめてきたんだが・・・」
(さっきからまったく話がかみ合わないが、こちらに敵意はないように思える)
ということは、ここは別の場所・・・箱、郵便⁇
ヤーマ・テラーリオ・・・彼女は43部隊の指揮官と名乗った。
仮に思惑通りに事が進み、俺が解放されたとしたら・・・。
”「起きないし面倒くさいから、家まで郵送しちゃえっ!」”
「・・・‼」
((あり得る‼))
少ない時間とはいえ、テラーリオの暴挙の数々を目撃したセシル。
そして部下として彼女の性格をよく理解している、ノセアダ。
両者の考えはこのとき、初めて一致したのだった。
「な、るほど・・・きみの状況はなんとなく理解したよ。
でもごめん、そっちは後回しかな・・・さっきの鳴き声は、緊急度が高いほど大きく響くんだよね」
「――ロッカ!早く・・・・もう行っちゃうよ⁉」
それを証明するように、玄関前でセイヤッタも急かすように声をかける。
先ほどまでのあほっぷりが、まるで嘘のようである。
「うん、すぐ行くから‼
・・・・・って、ことで。
少し待っていてくれるかな・・・・・・《《後輩君》》?」
「いや、だったら俺も行く・・・先にこっちを解いて―――――
―――
――
・・・・行きやがった」
(まじかよ)
どんな神経してるんだ・・・・仮にその緊急事態がここに来たらどうするつもりだよ・・・・。
「はあ・・・・・」
天井のシミ――――かなり年期入ってんなぁ。
転がって見る・・・・目を開ければ常に、見慣れない光景・・・・もう、何度目だろうか。
(誤解は解けたようだし、このまま戻ってくるのを待つか?)
・・・と、いうかまあ、なんというか。
考えてもみれば、よく生きてるよな、俺。
まずは、それを冷静に分析して喜ぶきなんじゃ・・・・。
(そうだ、俺は・・・)
わけもわからないような状況の連続で、もがきながら・・・一度は死も受け入れたが、結局はこうして――――――。
(生きてる??なんでだ?)
死んだほうが良い。
そう思っていたはずなのに。
”「――――――43部隊、私の下でなら世界を変えられる。きみは、ここで死ぬには惜しい人材だよ」”
「―――ッ‼」
自分が何者か考えろよッ‼
「うおおおおおおおお‼」
全身に力を籠める。
魔力は練れないので、完全なフィジカル面での行動だ。
(43部隊、俺はなんでここに来ようと思った⁇)
緊急事態とか、ここで動けなきゃ・・・意味ないだろうがあああ!
―――ときを同じくして、郵便少女マルベリーもまた・・・・茜莊に舞い戻って来ていたのだ。
(荷物を置いた来たって言ったら、適当な仕事をするなって本部の人に叱られた・・・・)
まあ、そりゃそうか・・・・。
て、いうかここ・・・そうだ、第43部隊の――――。
「―――エルシアちゃん?ロッカ⁇荷物、届いたよね⁇」
・
・
*
「アオオオオオッ‼
ワウ、バフバフッ‼」
立派な白毛の大型犬は、ノセアダたちが近づくと嬉しそうに飛び跳ねた。
「はいはい、ありがとうエレ丸。
そして・・・たしかにこれは緊急事態だけど・・・」
彼女は上空を見上げ、顔をしかめた。
周りには多くの人も同じように、心配そうな視線を送る。
そこには巨大な怪鳥の姿があった・・・巨大な二つの翼で宙を舞い、強靭な足には小さな男の子を掴んでいる。
「ロッカに、セイヤッタか‼」
町の用心棒、警察・・・・相談役そのすべてが彼女らに該当する。
そんな43部隊の到着は、彼らにとって待ちわびたものであった。
しかしそれでも、住民は複雑な表情を浮かべる。
(それほどまでに状況は―――――)
「―――みんな!ねえ、どうしてこんなことに・・・ッ⁇」
「わからねえ、西の空から急に現れて民家を襲ったらしい」
「・・・⁉」
(あり得ない・・・・)
結界もある―――ここは一応王都だよ⁇
(魔獣なんて・・・・こんなこといままではなかったはず・・・・!)
なにか得体の知れない存在が動いている―――。
不気味な考察が、ロッカ・ノセアダを支配した。
「ロッカ、とりあえず羽を狙って――」
「待ってセイヤッタ」
感覚派のセイヤッタ・ミーナルス。
ノセアダはすかさず、勇んで魔力を練り上げる彼女を制止する。
「冷静になろう、魔法であの鳥を落とすことはできるかもしれないけど・・・その後は?
あの子も一緒に落ちちゃうでしょ?」
「―――!
そう、だよね・・・ごめん」
セイヤッタは素直に、自分の考えが足りていなかったことを反省する。
(―――とはいえ、、、)
もたもたしていても、いつ飛んで連れて行かれるかわからない。
魔法・・・・・?それともなんとか飛び上がって攻撃を・・・・・?
そんなことできるの―――?
(・・・・・)
考えろ、どうしたら無事に助けられる⁇
「キヤ―ッ‼‼‼」
(――⁉)
黄土色の巨鳥が強く羽ばたくと、強風があたりを揺らす。
そんな顔しないで、アカンジさん・・・フトーくんは必ず助けるから。
って、言えよ・・・私!
いまは私たち、二人でなんとかしないと――――。
(このままじゃ、本当に――――)
悪い予感が頭を支配しかけた、瞬間。
背後から力強い声が届いた。
「茶髪お姉ちゃん、あの鳥を落とせるか⁇」
(―――え⁉)
振り返ると、郵便配達用のサイに乗って駆けてくる二つの人影が見える。
「郵便屋のマルベリーと・・・・・後輩君⁉」
ってことは、茶髪お姉ちゃんって・・・私か!
「できるけど、それじゃあ・・・」
「その後は、任せてくれ」
「でもさ・・・」
口ごもるノセアダ・・・・もちろん困惑してもおかしくない状況。
失敗すれば、自分のせい・・・・そういう罪悪感から一生逃れられないんだよ?
しかし彼は彼女から、そのきれいな視線を動かそうとしない。
「信用してくれ、俺はお前らの仲間だ。
・・・それだけじゃ足りないか?」
「・・・・!」
(うう・・・)
どうして、そんなにまっすぐな目で見るの。
さっき会ったばかりで、信頼もなにもないはずなのに・・・・なんでこんなに、安心できるんだろ⁇
「・・・⁉
ロッカ⁇⁇」
隣で魔力が大きくなるのを感じ、セイヤッタは混乱して声を上げた。
(どういうことなのか、全然わかんないよ~~‼)
あの人が仲間⁇
二人はさっきからなんの話をしてるんだろ⁇
「ポニーテールは後だ・・・聞こえてるか、変な髪飾りの―――」
「―――変じゃないもん!ティラノサウルスだぞ、がおおお・・・ってあれ?」
思わず反応してしまった自分に、不思議な感覚を覚える。
「―――そう、俺たちで捕まってる子どもを回収するぞ」
「え?でもどうやって」
「俺がサポートする」
セシルがそう言うと、セイヤッタ真下の地面が隆起する。
そしてそこからは―――太い木の幹が現れ始めた。
「う、うおおおおおおおお⁇⁉な、なんだああああ、これえええええ‼⁉」
「森林魔法:ガイゾック・レーク。
・・・お姉ちゃん!いけるか⁉」
「うん・・・ふたりとも、任せたよ!
―――風魔法:ラヤリ‼」
【びゅうんッ‼】
激しい音を立てるながら進む風槍は、目視できるほどに乱れた気流を伴って進む。
「そうら、返してもらうよおおおっ‼」
ノセアダは魔力で、その進行方向をち密に定義する。
そしてそれは防ぐまもなく、一瞬で怪鳥の羽に押し出すようにして穴をあけた。
「ギャビューシュッ‼⁉」
巨鳥の叫びが地を揺らし、思わず耳をふさぎたくなるような轟音が届く。
「後輩君‼」
「――⁉」
ノセアダが指さす方向に、巨鳥が掴んでいた子供が落下していく。
「―――ッ!」
話が変わって来るじゃねえか。
(あの鳥・・・・・面倒な方にぶん投げやがって――――ッ‼)
すぐさま木の伸長方向を変える。
(すまんが、最高速度だ)
「振り落とされないでくれよ・・・!」
「――――なんのこれしきいいい‼」
後方への強い引力がかかるも、セイヤッタは持ち前の体感でなんとか体制を維持する。
(でもこのままじゃ、間に合わない―――)
落ちる⁇
あの子が・・・・そしたら間違いなく――――死。
(―――ッ‼)
「おりゃああ!」
セイヤッタはそう感づくと魔力をうまく使い、飛ばされないようにしながら立ち上がる。
―――――そんなの、だめだ‼
「私は、みんなを笑顔にする・・・スーパーヒーローだああああぁぁぁッ‼」
(ここしかない!)
子供の体が目の前にを過ぎようとしたとき、彼女は足の魔力を発散させ飛び出した。
「とう、どけえええええ‼」
(届け‼)
(届けぇ――――‼‼)
―――――――――――ッ‼‼‼
その場にいた全員の気持ちが伝わったのか、彼女の右腕はしっかりと小さな体を捉えた。
「よっしゃあい!
このまま――――」
(うん⁇)
「・・・この、まま――――どうするんだっけ?」
あれ?
ロッカ・・・私この後・・・・・・・・・どうしよ?
「落ちる――――ッ!!」
思わず目を閉じたるが、彼女は掴んだ子供を離すことはしない。
このまま落ちても、なんとか彼は助けよう。
そう決意するが・・・・しかし結果としてそうなることはなかった。
セイヤッタの足首に巻き付いた木の根が、空中で二人を支えたのである。
(・・・・・‼、‼、、)
『ド、ワア―――――――ッ‼‼‼』
周囲から一斉に歓声が上がる。
ゆっくりと二人の体を下ろすと、母親らしき女性が涙を流しながら近づいていく。
(なんてこったよ・・・)
そんな姿を見ながら、俺は手ごろな岩上に腰を下ろした。
さすがに肝が冷えた・・・。
出来上がる歓喜の輪――――。
本当に、良かった。
ノセアダも住民たちと抱き合うが、そこにあるべき姿がないことに気が付いた。
(・・・・・?)
あんなところで――――なに、してるんだろ。
「―――浮かない顔だね、後輩君」
「茶髪お姉ちゃんか・・・」
いい感じで隣にしゃがみこんだのに・・・。
彼女は、少し小ばかにされているような感じを受けた。
「・・・その呼び方やめない?」
「お前だって、好き放題呼んでただろ?」
彼氏君、後輩君・・・・勘違いだったよね。
(たしかに――――)
「――――まあそうだけどさ。
で、どうしたの?どう考えても、ヒーローの顔じゃないけどな」
「・・・・・・・」
ヒーローなんかじゃない。
一歩間違えば―――――そんな無謀者。
思慮が足りていなかった、捕まっていたのは子ども―――丁重に扱うべき体だ。
(それに―――――)
「俺が言い出したことだ。
でも、あそこにいたのが俺だったら・・・たぶん子供を助けることはできなかった」
俺がそう言うと、彼女は目を丸くして表情を変えた。
「・・・‼
まあ、そうかもね・・・・でも周りを見て?
きみがいなかったらそもそも、こんなに暖かい雰囲気になってたかな」
「・・・・・・」
彼の言うことは理解できる。
プレッシャーがないなんて、そんな人はあり得ない。
私は―――それを躊躇した、あの子が助かったのは間違いなく――――きみのおかげだよ⁇
(私も・・・・自分が情けない)
だからこそ・・・・・。
「もう少し、自分を評価してあげることも大事だと思うかな。
今日から、きみのお姉ちゃんなる私から・・・・アドバイスね?」
「まあ・・・」
セシルはそれを聞くと、少し照れながら視線を背ける。
(うん、それでいいと思う)
ノセアダもそれを見て、自分の気持ちに整理をつける。
しばしの沈黙が流れる。
この場所だけは、別世界のように静かだ。
すると――――――――おもむろに彼女は口を開いた。
「あ、そうそうそれから・・・・。
うちに来るんなら、背中には気を付けないとねぇ」
「――は?」
ニヤッと笑った彼女の顔が、右上に傾く。
「うおお!やったぜ、二人とも~‼」
「ッ!
ポニーテールか⁇
おいやめろ、そんなにくっつくな」
夕日をバックに・・・映えるなあ。
町の人たちも感じいてるはず・・・これほど純粋に人を思えるんだもんね。
「うん、私もきみのこと気に入ったよ。
改めて、ようこそ後輩君・・・43地区へ!」
*