+++第四十五話:王都第43地区掃討作戦(1)
そのとき、第43地区中部。
ミリンガルら一行は王国軍から身を隠しながら、喫茶"マルグリット"までの道のりを進んでいた。
「ねえ・・・・本当にこのままマルグリットに向かうの?
それよりも地区外に出たほうがいいんじゃないかしら」
「いや、俺に聞かないでくれよ!
俺だって、手一杯なんだ・・・・」
周りの心配そうな声に、彼はただそう答えるしかなかった。
そう、この最悪な状況じゃなかったら、俺がこんなふうに責任を負うことだってなかったんだ。
ミリンガルはそうして、「ゴリ」こと第43部隊:ガルダーの言葉を想起する。
"
「マルグリットだ!ミリンガル!!
あそこにはテラーリオが用意した結界と、シェルターがある‼」
"
(・・・・・)
こんな場面だ。
戦闘員と言えなくても、魔法に適性があったり、動けるやつは全員戦ってる。
いや、むしろそうでなくても・・・・・。
しかし俺は、俺の足は動かなかった。
結局のところ・・・・・ああ、クソッ。
(だったら、少しくらい役に立てよ・・・・。)
「行くぞお前ら!
どうせ外に出たところでもう逃げ場なんてねえんだ!
このまま"マルグリット"まで進むからな!!」
そう言って、喫茶店のある北方を振り返る。
あと少し・・・・着いたらそう、もうこんな役目はごめんだ。
俺一人に子どもらを任せるなんて、あいつらも大胆なこと考えたもんだよ、本当に。
俺は、死にたくねえんだよ。
ここに来たのだって気まぐれだ。
外の世界でやっていけねえ、異分子だからだ。
だから、まさかこんなふうになるとは、思ってなかったんだよ!
こんなふうに、仲良く、心地よくなるなんてな・・・・。
(・・・・・・ああ)
そして数刻の間、彼はその体を硬直させた。
先ーーーーーミリンガルたちが進むべきその先には、数えられるだけで数十の王国軍兵士が駆けつけていたのだった。
終わったーーーーー。
誰か、おいゴリ・・・・助けてくれよ。
ベッカン、オーシャノ、ロサンゼルス、エンダー・・・・・!
エダルクは・・・・・・。
(ーーーーーッ!!)
「お前ら先に行けェ!!!!」
「⁉
み、ミリンガル??それじゃああなたが・・・・!!」
(関係ねえよ・・・!)
たしかにそうだ、やはり死ぬのは嫌だ、怖い・・・・怖いんだ。
だけどさ・・・・。
俺には、もう逃げることなんてできねぇんだよ。
そう考えると、ミリンガルは後方の集団を一瞥した。
エーナル・ロサンゼルス。
彼女は暗い表情で終始うつむいている。
彼女は、ピーク・ロサンゼルスの娘だ!
それで、ロサンゼルスはどうなった?
ロサンゼルスは死んだ。俺たちを守って、地区を守るために戦ったんだ!
そんな彼女の娘を・・・・・俺が、守らないのは、ありえない!
ありえないんだーーーーーッ!!!!!!
「いいから行け!
ここは俺が食い止めるッ!!」
もういいんだ。
俺はここ死ぬーーーーー死んだとしても、ここでなにかをできればいいんだろう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
有象無象のなかに飛び込み、無心で拳を振る。
(これが俺の最後か・・・・・)
悪くない、ミリンガルは兵士の剣が届くそのとき、なぜか不思議にそう思った。
「ーーーーー氷魔法:エッジ=コロンブス!!!!!!」
『『『!!!!!!!!!!』』』
瞬間、ミリンガルを取り囲む兵たちの動きが止まった。
(ーーーーー氷魔法!!)
まさかーーーーー!!
「ミリンガルさん、とりあえず逃げてください!」
やはり、範囲が狭いとはいえ、対象を選択除外する場合は魔法効果が薄くなる・・・!
俺は兵たちを確実に戦闘不能状態にするため、新たな魅力を練り上げる。
「氷魔法:ゼッシャッタ!!!!!!」
俺の魔力が空中に解放され、無数の氷塊が空中から兵たちのほうを襲った。
ドドドドドドドドドーーーーーーーーーーッ゙!!
・
・
・
「無事でよかったです・・・・」
「セシル・・・・・・か」
水滴が混じった土煙。
そこから現れたのは、ずいぶんと見慣れた彼の姿だ。
「みんなはーーーーーーーーーーブーーーーーッ゙!!⁉」
状況を把握するため、セシル・ハルガダナが彼らに近づくと、ミリンガルの拳が容赦なく彼の頬を叩いた。
(ーーーーー痛ッ゙⁉????)
な、んだ??
セシルは事態がまったく把握できないまま、地面に転がり込んだ。
「ちょ、はあ⁉
な、なんなんです??」
「うるせぇ‼
お前らの・・・・お前らのせいでこうなったんだろうがッ‼‼」
(ーーーーー??)
「どういうことです⁉俺たちは、43部隊!皆さんの味方のはずで・・・実際そうでしょう‼」
「その味方がなんだ?
いまのいままで・・・・いったいなにをしていた⁉??」
「そ、それはーーーーー‼」
そうだ。
いまのいままで、なんで気づかなかった?
テラーリオや俺たちにも十分な時間はあった。
地区のみんなが不信感を覚えるのも、もっともだ。
(・・・・。)
いや、それほどに大変だったんだろ、俺たちも・・・・。
だからいまは、本心をただ言うことしかできない。
それだけが、状況を解決するすべなのだから。
「結果として、来たじゃないですか!
僕は皆さんを大事に思ってます・・・・それに、いまはこんなことを争っている場合じゃないでしょう!!」
「ふッ!なら当然、ノセアダやフェーラルスも来ているんだろうな?」
「ーーーーー!!」
なんでそれを・・・・?
「図星か?お前、43部隊として来てるなら・・・もちろんテラーリオやほかのやつらもいるんだよなァ⁉」
(・・・・・・)
「ハァ、ハァ・・・・・」
全員が絶句している間に、ミリンガルの荒い息遣いだけが響いた。
多くの顔は暗く、沈んでいる用に見える。
なんなんだ??みんな・・・・なんでこんなに・・・・?
「どうなんだよ⁉ハアハア・・・・ちなみに!ここで嘘をつけばお前も裏切り者だ‼ははは、お前にとってはそのほうが、楽なのかもなあ⁉」
「落ち着いてくださいよ!
俺は・・・・・・ッ!!」
どうしたらいいのかわからない。
きっと、それはフェルスたちも同じだったのだろう。
だから、こんなことになった。
なら俺たちにはなにができる?
この状況なら・・・・・・みんなが俺を恨む気持ちもわかる。
きっと全員、俺よりひどい経験をしたのだろうから・・・・。
「・・・・・。」
「もういいじゃない。
どうあれ、セシル君は来てくれたんだから」
「ふんッ」
そうしているうちに、周りの声はだんだんと俺に同情的にもなり始める。
ミリンガルさんもまた、不満げに鼻を鳴らすが、次第に落ち着きを取り戻しつうあるようだ。
「・・・・・・・まあ、こうなっちまった以上、仕方ねえよな・・・・。」
彼はそう言うと、倒れ込んでいる俺の前まで、スッと右手を伸ばした。
「俺も、少しカッとなっちまった・・・・すまん」
「・・・・・。ええ、理解しています」
「本当はわかってた・・・お前らだってちゃんと動いてくれていた。悪くないんだって・・・!
でも・・・・あああのときお前さえいればって、思っちまうんだ。ひでえやつ当たりだよ・・・・」
空を見上げると、ミリンガルはそう苦しそうな顔を浮かべた。
「でももうお前がいるから大丈夫だよな?
きっともう、誰も死なないよな・・・・?」
「ええ、誰も死なせません」
すがるようにこちらに近づく彼に、俺は本心からそう答えた。
しかしそんなものはただの理想で・・・・実現は難しいのかもしれない。
しかし、いまはそれで十分だ。
そう思えた。
「じゃあ、まずは状況をーーーーーーーーーー」
俺がそう言った。
立ち上がり、ようやく前に進もうとしたその瞬間・・・・・。
ミリンガルの口内から大量の血液が、溢れ出した。
*