Torus knot
丸い天板の机、その上には古びた一冊の本が置かれている。
それ以外はなにもない。
朝日が射し込むように白く少し眩しい空間。
窓もないのに、カーテンのような布が揺らめいているように、どこからか風がそよいでいる。
しばらくあと、一風が少し強く渡った。
置かれた一冊の本はその一風が勢いよくめくり、そのぱらぱらという音だけが、早足に時計のチクタクとする音のように響き、やがて風も本がページがめくれる音も無くなった。
本は始まりのページに開き少しの風をうけそよそよとしていた。
よく見るとまっさらで、文字も絵もなく真っ白なページ。
なにもかかれていない。
手元に寄せて細部を見ると、表紙は紺色で装飾は金色の縁取りとjourneyと小さく書かれていた。
古びた本にみえたが、とても真新しい本のようだ。
再び本を開き最初のページを開いた。
人差し指にしている指輪が綺麗な表紙に少し傷をつけた。
先ほどなにも書かれていないと思っていたページには、薄く文字が浮かんで見えていた。
「空も大地も海も合わさる場所、時間も空間もまざりあう。
白い道、またやってくる、再びの青、寄る波も還す波も留まってはいない、また始まりが終わり終わりが始まる、」
消え入りそうで薄い文字を声に出して読んでいた。
詩のようなものが書かれているようだ。
文字は浮かびながら揺らめいているように見える。
なぜか最後の文はとても鮮明に、黒々とした文字で目に飛び込んできた。
「響きは干渉して渡っていく、全てに、そしてまた戻る、語りつづけ」
自分の声の響きがまだ残っていた。
また風がどこからかやって来る。
その風は友人から貰った雫形の耳飾りを揺らした。
不思議な感覚を覚えながら、そうして次のページをめくっていった。
読んでくださりありがとうございます!