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オタクと姫の狂詩曲  作者: 山田太郎
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 幼稚園の頃、俺はある女の子に出会った。

 見た目なんてもうとっくに覚えてないけど、ただ一つ覚えていることがある。その子は皆から姫と呼ばれていて、とてもじゃないけど俺なんかが側に居て良いような子じゃなかったこと。

 でも一度だけ、たった一度だけ話しかけられたことがある。


「どうして私を避けるの?私の事、嫌い?」


 返事なんて出来なかった。興奮や緊張、羞恥など様々な感情がごっちゃ混ぜになっていた子供の自分では仕方がないのだろう。

 でも、混乱した頭で必死に昔の俺は言葉を声にした。


「す、好き・・・・」


 子供ながらにやってしまったって思った。だけど彼女は逃げるでも罵声を浴びせるでもなく座り込み、自分の両手を俺の両頬に添えて俺の顔と顔を合わせて笑顔でこう言った。


「私も」









ピピピピ、ピピピピ・・・・・

 カーテン越しに朝の日差しが差し込むとある一軒家のとある一室。

 目覚ましの機械音、小鳥とヤクザとマフィアの囀ずり。

 部屋の二人用ベッドから身長160センチメートルくらいの寝癖があちこちで跳ねていて、その中にひっそりと頭の頂点に生えたアホ毛が特徴の黒髪であり、たまに中学生に間違えられるくらいの童顔であるがれっきとした高校二年生の少年である俺、風切零が起き上がって部屋の窓を開ける。


「朝っぱらからうるっせぇぞ反社ども!近所迷惑考えろボケ!」


 毎朝家の前で小競り合いをしているお隣さんを怒鳴りつけて頭をスッキリさせる。これが俺の朝のルーティーンだった。

 ゆっくりと窓を閉めてベッドから降りると俺は部屋から出て階段を下りる。

 朝食はいつもバタートースト一枚で、片手にそれを持ちながら深夜に放送されているアニメの録画を見る。今俺が見ているアニメは「はちゃめちゃVチューブ学園」と言う最近人気を泊しているバーチャルYouTuber、略してVチューバー達が主人公であるドタバタコメディで、実際にいるVチューバーを起用しているらしい。

 ちなみに、俺の推しは現Vチューバーの中で最も登録者数を保有しており、先日行われた人気投票でもぶっちぎりで一位を獲得したプロゲーマーVチューバー、金剛氷菓だ。氷菓と書いてアイスと読むらしい。


「お、アイス今日は昼から配信始めるんだ」


 トーストを食べ終わり、皿を洗って乾燥機に置いて、俺は制服を来ながらスマホの通知を見る。

 テレビとエアコンの電源を切り、部屋の電気を消す。紐の着いた鍵を首に掛けてワイヤレスイヤホンを耳に装着する。イヤホンから流れる曲ははちゃめちゃVチューブ学園のテーマ曲「ドキドキVチューブ」で最近人気のアイドル歌手が歌っているそうだ。

 そのまま家の扉の鍵を閉めて家の裏側に回り込み、植木の穴から後ろの民家の庭へと侵入する。

 普通に考えたら即刻警察にお縄になる案件なのだが家の父親とこの民家の家主が幼馴染みで家族ぐるみの付き合いをしていて、いちいち回って来るのが面倒なので許可を貰ってこの通り道を作ったのだ。

 そして毎朝、ヤクザとマフィアに怒鳴りつける以外の日課もある。

 それはこの家に住んでいる俺の幼馴染みを起こしに行くことだ。

 玄関に回ってインターホンを押す。ピーンポーン、と言う音が鳴り響いてしばらくすると扉が開く。


「あら、零君。おはよう」


 出てきたのは幼馴染みの母親である雪姫神楽さんだった。

 神楽さんは綺麗な白髪で肌も三十四歳とは思えないほど艶やかな女性だ。


「おはようございます神楽さん。氷華はどうしてます?」

「今日も駄目ね。あの子ったら今日も出てこなくて・・・・」


 俺の幼馴染みである雪姫氷華はひきこもりだ。ひきこもりになった理由は数年前に起きたある事件なのだが、今は話すのを止めておこう。


「ちょっと失礼しますね」

「はーい。ゆっくりしていってね」

「いや、まぁもうじき学校なんでそんなゆっくりは出来ないんですけどね」


 俺は靴を脱いで上がり、二階にある幼馴染みの部屋に直行する。

 部屋の扉には大文字のローマ字で「HYOUKA」と書かれている看板が掛けられている。その扉をコンコン、と叩いて俺は扉の向こうの氷華に向けて話しかける。


「氷華、迎えに来たぞ。学校行こうぜ」

『・・・・・・・・・』


 やはり返事がない。氷華はきっとまだ寝ているのだろう。いつもの事だ。朝は寝ていて昼に起きる。夜は日がくれるまでゲームをする生活を氷華は送っている。

 出席日数やテストのために行くことはあるがそれでもなかなかに少ない。

 だから学校から帰ってくれば氷華は起きて最近流行りのFPSゲームのAbex通称アベを一緒にやったりしている。

 ちなみに、アベは最近アプリ版もリリースされて一緒にやる時にパソコンを持っていく手間が省けたのは正直嬉しい限りだ。


「寝てるみたいだからまた帰ったらまたあそぼうな」


 俺は一度だけ扉を触って階段を降りた。




『皆~!今日アイスクリーム!金剛氷菓だよ!』


 学校の授業も半分終わり、ようやく昼休憩へと突入した。

 俺はすぐさま弁当とスマホを持って今は使われていない旧校舎へと足を運ぶ。

 俺が高校、「私立白雪高校」は幼稚園から大学までの一貫校で日本でも結構偏差値の高い学校だ。勉強が苦手な俺にとっては入れたのが奇跡だと言っても過言ではない。

 まぁ、そんなことはともかくだ。何故俺が旧校舎で一人寂しく弁当を食べているかと言うと、高校デビューに失敗したからだ。

 もっと簡潔に言うと自己紹介で「アニメやゲームの事ならメジャーな物からニッチな物まで何でもござれです!」何て言ったものだから早速オタクのレッテルが貼られ、クラスの陽キャ属の当て馬のような存在に位置付けられたのだ。


『今日もアベやっちゃうよ!どれくらいランキング上がるかな~?』


《シーズンもうすぐ終わるしね》

《アイスちゃん今何位だっけ?》

《12位だよ》

《とにかくがんばれー》

 だが、金剛氷菓の配信を見ていると俺の荒んだ心が浄化されるような気さえする。

 俺は箸を片手に軽快なリズムで画面を叩いてコメントを残す。

 

《がんばれー》


 こんな誰でも書くようなコメントはすぐに他のコメントで流されるのは分かっている。アイスもきっと眼中にないだろう。

 でも、違った。


『お~!ゼロカゼさんいつもありがとー!』


 金剛氷菓は俺のコメントを拾ってくれたのだ。

 あまりのことで状況が飲み込めずにしばらく放心していると、次第に頭が働いてきて状況を理解する。


「アイスが・・・俺のコメントを拾った?」


 頭の中を埋め尽くしていた困惑がどんどん喜びへと変わっていく。

 「しっ!」とガッツポーズを決めながら俺は急いで弁当を書き込んで教室に戻るのだった。




 放課後となり、俺は急いで雪姫家で絶賛ひきこもり中の幼馴染みと遊ぼうと下足室に来ていた。

 早く来すぎたのかまだ誰も靴を履き替えた様子はなく、未だ革靴がぎっしりとそれぞれの靴箱に入っている。

 早く帰って氷華にアベのキャリーをして貰おうとしたその時だった。


「あれ~?誰かと思えばキモいオタクの風切君じゃん。何?もう帰っちゃうの?」


 そこに居たのは誰が見てもイケメンと呼ばれるであろう顔立ちに茶髪、180程ある背丈の青年だった。

 彼は学年で一番のイケメンで次期サッカー部のエースと呼ばれてる陽キャ属のリーダー格、獅子野炎士だ。


「アンタには関係ないだろ」

「それがあるんだなぁ」


 獅子野のゆっくりと俺の方に向かって歩いてくる。至近距離まで近付かれて二十センチ上から俺を見下ろしてくる。


「今度合コンやるんだけどさ、男が一人足りないんだよね。だからさ、風切君来てくんない?」


 また当て馬だ。

 別に構わない。俺は誰かの役に立てるのならそれで良い。当て馬だろうが嫌な役の押し付けだろうが外れくじ引かされようがそれで皆が俺を見てくれるのならそれで良い。


「マジで俺合コン行っていいの!?」

「いいよいいよ、こっちも困ってた所だし。日時と場所はまた後日連絡するからよろしく」

「おう!」


 とは言え、俺も立派な思春期男子であるからして合コンと言う出会いの場には行ってみたいと思っていたので、一抹の期待を持ちながら軽い足取りで雪姫家にと向かった。

 後ろで嫌な笑みを浮かべる獅子野に気付かずに。




「ただいま~」

「お帰り零君」


 インターホンを鳴らして神楽さんに扉を開けて貰い入ったところで手荒い場へと向かう。


「今日も家で晩御飯食べていくでしょ?」

「あ、はい。なんかいつもすいません」


 手を洗い終えてようやく荷物を下ろしリビングに入る。

 キッチンで作業をしていた神楽さんと軽く話しあってようやく目的である氷華の部屋の前に到着した。

 コンコン、と扉を叩いて俺は部屋にいる氷華に声をかける。


「俺だけど入って良いか?」

『・・・・・・・うん』


 今度は返事をしてくれてカチャっと言う音がなる。

 俺はいつも通りに扉を開けて氷華の部屋に入る。そこはいつも通り散らかった部屋で部屋の真ん中にある円形のテーブルには散らかされたポップコーンと温くなっているだろうコーラ、ベッドの上には下着やパジャマが散乱し、唯一綺麗なのはもう一つの机に置かれたゲーミングPCやサーバー機械などの周りだった。


「ようこそ。私の居城へ」

「居城って・・・・。ニート部屋の間違いだろ」

「そんなことない」


 俺の目の前にいる神楽さんに負けず劣らずの白髪に端正な顔立ち、ロシア人形のように白い肌の少女、雪姫氷華が拗ねたように頬を膨らませる。

 俺はそれを見ながら円形のテーブルに座ってスマホを出し、アプリ版のアベを起動する。


「今日も学校来なかったな」

「高校の授業内容は全部網羅してる」

「おかげでお前は出席日数稼ぎとテストにしか現れないレアキャラみたいな存在だがな」


 最近では新入生が氷華を一目見ようと毎日入り口にたむろしてるし、氷華の靴箱や机の中に貯まったラブレター何かを氷華に持っていくために集めればやれ「邪魔をするな」だの「オタクが氷華ちゃんに相手される訳ないだろ」だの色々言われることがあるし、何なら校舎裏に無理矢理連れてこられてボコされることもある。

 家の学校の連中はオタクに厳しすぎやしないか?オタクで何が悪い。

 最近では何処かの界隈でアニメが性犯罪を助長するとかオタクは性犯罪者予備軍とか散々な言われようだ。


「ま、ちょっとは学校行って友達作れよ」

「お兄とお父さんとお母さんだけいればいい」


 そんな話をしながらもようやく起動が終わる。

 そこからいつもの要領でパーティ申請を受けてランクマッチへと突入するのだ。


「いつも通り私が招待送るから」

「・・・・・いつも思うんだけどさ、別垢でマスター帯がゴールド帯に来るのどうなの?」

「ルール違反はしてない。マスター帯が別垢でゴールド帯に入っちゃダメなんて決まりもない」

「いや、そりゃそうなんだけど・・・・」

「それに、お兄をキャリーして本垢で一緒に遊ぶためなら何だってする」


 「何だって・・・・・」と付け加え、氷華がアベに集中する。

 正直対峙した相手は全部氷華が倒してしまうので俺の腕前はさっぱり上がらないわけだが、人とのコミュニケーションが不足している氷華が話をしてくれるならもうそれはそれで良いような感じがしてくる。


「ゲームでも現実でも私がお兄を守ってあげる」


 ゲームが始まってしばらく経ち、ダウンさせられたところで小さく悪態をつきながら先ほどの氷華の発言に対する返答を考える。


「ゲームはともかく現実は俺の方がちゃんとしてますぅ!それに今度合コンに行くからもしかして彼女出来ちゃうかも・・・・・ッ!」

「・・・・・・・・・・・・は?」


 その一文字の言葉にとてつもない冷たい物を感じた瞬間、俺たちのパーティは全滅した。

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