北へ
〜⿃丸秀治〜
「えーと、残りのクールタイムは約82時間だな」
「は?」
流は珍しく間抜けな顔をしている。
「たった10分使っただけだよな?」
「そうだよなぁ。やっぱ俺の能⼒って燃費悪いよなぁ」
「……悪いどころの話じゃないわね。これじゃああと 3 ⽇半は無能⼒ってことじゃない」
瑠⾐はそう⾔うが。
「い、今の俺には弱者の反撃があるから!」
そう、今の俺には称号の特殊能⼒がある!
「それのクールタイム、終わってるの?」
再び瑠⾐が⼝を開く。
「……あと6時間です」
俺は落ち込んでしまう。よく考えたら今の俺って、最初の頃とたいして変わってないじゃん。
「おはよう!!今⽇も張り切っていきましょう!!」
「エリスさんは元気ですね……」
流は少し引いている。確かに朝から元気だなぁ。いや、元気なのはいいことだけど。
「つーかお前さん、魔法の講師としての仕事は終わったろ?なんでついてくるんだ?」
パラリスが疑問を⼝にする。そういえばそうだ。なにか理由があるのだろうか?
「冷たい!?あんな戦いをした仲じゃない!!私も魔王退治に連れてきなさいよ!!」
なんと。俺たちの仲間になってくれるつもりらしい。
「ありがたいな。俺たちには⼈⼿が⾜りない。戦⼒の増加は素直に嬉しいもんだ」
俺が⾔うと3⼈も同意する。
「では、これからよろしくお願いします、エリスさん」
「よろしくね」
流と瑠⾐も改めて仲間として迎え⼊れる⼼構えのようだ。
「そうと決まればさっさと北に⾏こう!魔王城は北にあるんだ、レベルを上げながら北へ向かうぞ!」
パラリスはやる気いっぱいらしい。昨⽇の戦いの余韻が残っているのだろうか、テンションが⾼い。
そうして北へと移動する。パラリスとエリスは⾺に乗れるらしく、⾺と⾺⾞を購⼊して移動⼿段を確保することにした。
ちなみにお⾦は C 級ダンジョン踏破の報酬から出した。C 級ダンジョンの異変はちゃんと伝えておいたので、他の勇者が同じ⽬に合うことはないんじゃないかな?ちゃんと伝わればだけど。
がらがらぱかぱかと⾺⾞と⾺の⾛る⾳が聞こえる。俺たち勇者3⼈とエリスは⾺⾞に乗っていた。昨⽇の激闘からまだ間もない。精神的な疲れが残っているのは否めず、戦いの意識を少し休めていた。
「そういえば流のステータス、今どんなもんなんだ?」
俺は気になっていたことを聞く。
「基礎レベルは32で能⼒レベルが2だな」
「どんな能⼒が⼿に⼊ったん?」
「格上の相⼿に⼀種類のデバフをかけることができるようだぞ。効果は10分、クールタイムは1時間だ」
「そうか……俺のとちょっと似てるな」
俺もデバフのようなことができるからな。俺はそれより広い範囲のことができるが、その分クールタイムが⻑い。⼀⻑⼀短だろう。
「あー。だとするといざって時に効果を被らせないように考える必要があるよな?」
俺は気がついたことをみんなに共有する。
「確かにそうだな。おんなじ種類のデバフをかけたらもったいない」
そう。例えば俺がとっさに攻撃⼒の数値が持つ影響⼒を消したとして、それと同時に流が攻撃⼒にデバフをかけたら⽚⽅の効果が無駄になってしまう。
「なら、急な戦闘時は、俺が俊敏にデバフを。そのあと、秀治が必要だと思ったら攻撃⼒を消すっていうのはどうだ?」
流はそう提案する。
「いいな、それ。俊敏が下がれば、攻撃を避けるなり防ぐなりの猶予ができる。それでも避けきれそうになかったら、俺が攻撃⼒を消す。こうすれば能⼒の使⽤がスムーズだ」
使い方はそれだけではないと瑠⾐は続ける。
「⼆種類のデバフがかけられるのは⼤きいわね。防御⼒と攻撃⼒にデバフがかけられれば、かなりの弱体化ができるわ」
瑠⾐の⾔う通りだ。これで格上相⼿だろうと安定感を持って戦える。どちらもクールタイムがあるから乱⽤は厳禁だが。
「敵襲だ!!お前ら武器を構えろ!!」
⾺を操っているパラリスから声がかかる。俺たちは慌てて外にでる。今の俺まで出る必要があるのかは疑問だが⼀応出ておく。
現れたのは⽊の魔物、トレントだった。鞭のようにしなる⽊がこちらに襲いかかる。しかし相⼿が悪い。こちらには⼆⼈の炎の使い⼿がいる。
「業⽕よ!焼き尽くせ!!」
「強⽕」
それだけでトレントたちは燃え尽きる。
「エリスさん。次からは私に経験値を譲ってくれませんか?このくらいの魔物なら私⼀⼈でも問題ないと分かったことですし」
「いいわよ!でも、MP には気をつけるのよ?無理はしないように。わかった?」
「⼼配していただいてありがとうございます。まずい状況になれば遠慮なく頼らせてもらいます」
「うーん、硬いわねぇー。ま、まだ会って⼆⽇⽬だしそんなものかしら?」
⼝には出さないが、瑠⾐はエリスのような性格の⼈が苦⼿なんだと思う。こう、テンションが⾼い⼈がね?
そうして道中はトレントを瑠⾐が焼き続けるものになった。ちなみにクールタイムが明けた弱者の反撃は、いざというときのために温存する⽅針。ちょっともったいない気はするが今は我慢だ。
夜。次の街まではまだ距離があるとのことで、今⽇は野宿だ。こうなることはわかっていたので、⾷料なども買って持ってきている。
⾒張り番は当番制でやることにした。まず俺が2時間起きて⾒張りをし、流が2時間、瑠⾐が2時間、エリスが2時間だ。パラリスは昼間⾺を引いてくれたので、ゆっくり休んでもらう。
夜は魔物もあまり活動しないのか、俺たちは襲撃を受けることなく⼀夜を明かした。
「おはよう」
「おう、おはよう。よく寝かせてもらったんだ、せかせか働かせてもらうぜ?」
パラリスはそう⾔うと、⾺と少しのコミュニケーションを取ったあと乗⾺し、準備を整える。
「今⽇中に次の街まで⾏くぞー」
そう⾔うとパラリスが⾺⾞を動かし始める。次の街では B 級ダンジョンを狙うことになった。
C 級ダンジョンよりランクが上。なので、しばらく無茶はしない⽅針だ。具体的には俺のクールタイムが明けるまで。
「魔物がきたぞ!!」
パラリスの声に俺たちは外へ出る。俺はやはり出る意味があるのかわからないが⼀応出る。
現れたのはオークであった。でかい。けど威圧感がリビングデッドと⽐べると全然⾜りてない。
「なあこいつらの止め、俺に回してくれないか?」
俺は申し訳なさを感じつつそう⾔う。寄⽣っぽくていい気分ではないが、俺だって強くならなければいけない。それに俺に優先的に回すという決まりがあるので受け⼊れてもらえるはず。
「なら腕と⾜を切り落とすからとどめを刺すといい。ナガル、できるな?」
パラリスがそう⾔う。流はそれに⾃信を持って答える。
「できます。秀治、失⾎死する前に頼むぞ?」
「了解!」
俺はありがたくご好意に預かる。俺も剣を構える。瑠⾐とエリスは今回お留守番だ。
「は!!」
「そら!!」
スパスパと切り裂かれるオーク。あっという間に達磨状態。やば、思ってたよりグロい。
だがこれは好意。お願いしといて尻込みするなんて、ありえない。
「よいせ!!」
俺は⾸に剣を刺し⽌めを刺す。5体の経験値を俺が⼿に⼊れることができた。すると基礎レベルが1上がった。
「いい調⼦だ。本当は能⼒レベルが上がって欲しいとこなんだが……」
「そんなすぐには無理だろうさ。秀治より基礎レベルが⾼い俺でさえまだ能⼒レベルは2だぞ?」
「ま、根気強くやってくしかないか。これからも機会があれば協⼒頼む」
俺は改めてみんなにお願いする。
「当然よ。あなたの存在は私たちにとっての切り札。育てない理由はないわ」
瑠⾐は淡々とそう⾔う。けど表情は柔らかい。優しいよなぁ、ほんと。
「何よ」
「なんでもねーよ」
⽣暖かい視線に気付かれてしまったか。俺は適当に⾔葉を返した。
「お前さんの能⼒は S 級より特異だからな!次の能⼒が楽しみなことだし、協⼒するぜ?」
パラリスも協⼒的だ。
「リビングデッドの時みたいなすごいの、待ってるからね!!」
「秀治。期待してるからな?」
「おう!任せとけ〜?」
エリスと流にそう返しはしたが、ちょっとプレッシャーを感じた。どうか次の能⼒、強くありますように!