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C級ダンジョンボス?

中に⼊ると、全⾝甲冑を着た魔物がいた。というかここまでくるとただの騎⼠だ。デュラハンと違い⾸もあるし。


扉が閉まる。どうやらボス部屋から逃げることはできないらしい。倒せば開くのだろうか?


「……ほう。本当に勇者が現れるとはな」


魔物が喋った。喋れるやつもいるんだ。


そいつはリビングデッドとでもいうのだろうか。甲冑に剣を持つ、⾒れば⾒るほどただの騎⼠だ。


そんな楽観的な感想を抱いたのは瑠⾐と俺だけだった。流、パラリス、エリスは汗を浮かべている。緊張しているようだ。


「・・・なんで C 級ダンジョンに知性を持った魔物がいる?」


パラリスは慎重に声をかける。


なんだ。何がそんなにまずい?


「我は魔族である。当然のことだ」


「ガキども下がれ!!エリス!こいつらのこと任せたぞ!!」


そういうとパラリスが前に出る。その顔は余裕が全くみられない。


⼀体何事なんだ!?


俺もじわりじわりと緊張が伝播してくる。


「秀治!瑠⾐!俺にとんでもないバフがかかった!!こいつはゴブリンジェネラルの⽐じゃない!!」


「ふむ。この場で⼀番厄介なのはそこの者か」


流が狙われた!


ダン!!と⾳がする。


早い!


何者をも切り捨てるという確信が、流に迫る!


「無視すんなぁあ!!!」


間に⼊ろうとするパラリス。だが、俺はそれこそが奴の狙いなんだと察する。


フェイント!奴が本当に危険視していたのはパラリスだ!


びたりと⽌まり⽅向転換。パラリスはその動きに追いつけず・・・


「1秒!!」


パラリスは袈裟斬りにされた。




しかしパラリスは無傷。


「そいつはフェイント仕掛けてくる!!気をつけてくれ!!」


俺がそういうとパラリスは気を引き締め、


「助かった!!お前らはシュージを守れよ!そいつの存在がこの場を切り開く!!」


そう言った。おいおい、それじゃあ俺にヘイトが向くじゃないか。


「……どういうことだ。我は確かに切り捨てたはずだが」


俺がしたことは単純だ。奴の攻撃の影響⼒を無くした。その結果現実に奴の攻撃が与える影響は無くなり、パラリスは無傷になった。


「そこの勇者の⼒か。厄介な」


今度は俺を狙っているようだ。しかしパラリスが必死に剣劇を繰り広げる。少し押され気味だが耐えてくれている。


あいつを倒すには何が必要だ!?考えろ、今必要な要素を!


俺の能⼒のクールタイムは残り約7分!それまではパラリスに耐えてもらうしかない!


耐えてもらったとして、何をすれば奴を倒せる!?


この場の⼿札を考える。バフがかかった流、⾼レベルのパラリスとエリス、魔法が使えるようになった幻獣使い瑠⾐。


考えた結果……


「流!!パラリスの援護、⾏けるか!?」


「やれというのなら、やってみせよう。だが、5分が限界だ。それ以上は」


「エリス!瑠⾐!時間稼ぎに協⼒してくれ!!どうにか7分!」


「了解よ!!私の炎魔法の真髄、⾒せてやるわ!!」


「・・・必ず果たして⾒せる。だから、期待していいのよね?」


エリスと瑠⾐が⾔う。


「ああ。クールタイムが開けたら、俺の能⼒発動と共に反撃だ」


そうして崩れかけていたパラリスの姿勢を、割り込んだ流が⽴て直す。


「すまない、助かった!!だがお前さんは下がって」


「このままではあなたが死にます!そうなれば俺たちだけじゃ!!こいつを倒せない!!」


剣劇を繰り広げながらパラリスを説得する流。なんとか耐えてくれ・・・!


「何を企んでいる?やはりあの男が鍵か。ならば」


リビングデッドは駆け出した。


俺の⽅に向かってきてる!?


「させないわ」


そう瑠⾐が⾔うと、今まで召喚していなかったゴーレムがリビングデッドの前に現れる。


「邪魔だ」


そのまま切りつけられるゴーレム。瑠⾐の基礎レベルがまだ低いせいで、ゴーレムの耐久⼒も防御⼒も、こいつの前にはまるで⾜りていない。スパスパと斬られ、消滅してしまう。


「いい仕事したぜ、瑠⾐!」


今ので⼿札を⼀つ切ってしまったが、パラリスと流が再び俺までの進路を妨害する。




「フラッシュ」




しかしリビングデッドは想定外の動きをする。魔法を使ったのだ。


リビングデッドが呟いた瞬間とてつもない光が部屋中を⽀配する。


フラッシュの存在が意識に残っていた俺だけが、その⾔葉に反応することができた。


⽬を守り、光をやり過ごすとこちらに向かってくるリビングデッドの姿が。




まずいまずいまずい!!


まだ誰も復帰していない!!今俺を守れるのは俺だけ!


ここで俺が死んだら。この場の全員が死ぬことになるだろう。それだけこいつは強いのだ。


この部屋に⼊ることを決断したのは俺。責任は取らなきゃならない!!


クールタイムはまだ4分残っている!!能⼒は使えない!!


ならば、俺の中に残る⼿札は!!


「弱者のぉ!!反撃ぃい!!」


俺は⼿にした剣を、奴の振りかぶった剣に思いっきり振り当てる。


ガギン!!という轟⾳と共に、俺は若⼲の後退をさせられる。


称号、弱者の反撃。その効果は S 級勇者の攻撃⼒を使えるようになる能⼒。クールタイムは24時間なので 1 ⽇⼀度きりの切り札だ。


俺の今の基礎レベルは23。基礎レベル23の S 級勇者の攻撃⼒は137。今この⼀瞬だけは、奴の攻撃⼒と渡り合える数値になっていた。


「強⽕!!」


すかさず復帰した瑠⾐の魔法が⾶んでくる。それをいともたやすく切り払うと、再び俺に攻撃しようと動く奴の姿が。


今度こそ、俺にはなんの⼿札も残っていない。


このままでは殺されてしまう!!


「私を忘れてもらっては困るわね!!ファイヤーウォール!!」


エリスがそう呪⽂を唱えると俺の前には炎の壁が。俺は熱さに慌てて⾶び退くと、さっきまで俺のいた場所を切り裂いたリビングデッドの姿があった。


「ひぇ!!」


情けない声を上げてしまったが仕⽅ないだろう。俺が呆然としていたら死んでたところだったのだ。


「⼩賢しい。さっさとその男を差し出せ」


「そんなの認められるか!!」


横あいから⾶び出してきた流の攻撃を、軽々受け⽌めるリビングデッド。その後ろからパラリスもやってくる。




はぁああ!!なんとか命を繋いだ!!死ぬかとおもったほんと!


それからしばらくは、剣と魔法で命を繋いでもらった。その間に⾚狼もやられてしまった。


瑠⾐の幻獣達は、⼀度⼒尽きると24時間再召喚できないらしく、そのせいで瑠⾐はひたすら魔法を使い続けていた。


リビングデッドは時間稼ぎだとわかっているのだろうが、こちらの執拗な嫌がらせに攻めあぐねていた。


そうしてついに俺のクールタイムが明ける。


「俺の護衛頼んだ!!」


流とパラリスが俺を守りつつ、リビングデッドに近づかせてくれる。


そうして射程内に収めると、俺は戦意を滾らせ宣⾔する。


「10分!!」


効果内容は・・・


「奴の装備の影響⼒を消した!!剣と鎧はもう役⽴たずだ!!素⼿には気をつけろ、そいつ⾃⾝の攻撃までは無⼒化できてない!!」


「10分!!制限時間10分か!!いいぜ、やってやる!!」


パラリスは獰猛な笑みを浮かべる。対照的なのはリビングデッドだ。剣で攻撃を受けようとしたのに、剣を、それどころか鎧をすり抜けて攻撃が届き、驚愕している。


「攻めろ!!10分以内に倒し切れ!!」


俺は叫ぶ。ここで決めきれなければ待つのは全滅。俺以外の全員が攻勢に出る。いいぞ、その調⼦だ!!


「やはり多少の無理を押してでもお前を倒すべきだった!もはや、傷を受けるのは致し⽅ない!」


リビングデッドの声に余裕はなくなっていた。


さっきまでと異なり、さらに早く動くリビングデッド。


そうか!!装備の影響がなくなるってことは、重量もなくなるということ!奴にとってメリットとなる部分もあったってことか!!


だんだんと素⼿での格闘も慣れてきたのか、思うように攻撃が届かなくなってきた。


まずい・・・このままでは倒し切る前に効果が切れてしまう!30分とかにしとけばよかったか!


いや、待て。落ち着け。奴にとって俺はどういう存在だ?


『弱そうだが⼀度は攻撃を跳ね除け、よくわからん妨害をしてくる奴』


多分こんな感じだ。だとするならば、いけるんじゃないか?


フェイントが、効くんじゃないか?


「エリス、こっちへ!!」


エリスを呼びつける。


「何よ!今忙しいのわからない!?」


「⼀撃必殺、⽤意を頼む。奴を俺のもとへ引きつけるから、そこを狙ってくれ」


ひそひそ声で⽤件を伝える。


「・・・了解。でっかいの、期待してて!」


そうして俺は宣⾔する。


「よく聞けお前ら!!今から奴の俊敏を消す!!それに合わせて総攻撃だ!!」


それを聞いた瞬間、リビングデッドは俺の⽅へ駆け出してきた!


「させぬわ!」


そうだ、俺の元へ来い!!


「これ以上お主の好きにはさせぬ!!」


やば!思ったより早いんだけど!?エリス、間に合わせて!!


「業⽕よ!あらゆる⽣に死を!!」


すると特⼤の⽕球がリビングデッドに直撃する!


ドカン!!と⼤きな⾳をたて爆発した。


「グゥウウウ!!!」


苦しげな声を上げるリビングデッド。


「図ったな、勇者め!!」


しかし直撃を受けてもなお⽴ち上がる。


そこに予想外が2つやってくる。


「はぁあ!!」


「超⽕⼒!」


流と瑠⾐が俺のフェイントの真意を読み取り追撃をしてくれたのだ!


「グァア!!こしゃくなぁ!!」


振り返り、流に素⼿で殴りかかるリビングデッド。しかし、


「もらったぁ!!」


突き出された右腕はパラリスに切って落とされた。


「グッッ!?」その事実に驚愕している隙に流は、


「取った」


と⾔い、


リビングデッドの⾸を撥ねたのだった。


「まだだ!まだ⽣きているかもしれない!!」


俺はそう⾔う。デュラハンのような魔物もいたのだ。⾸を撥ねたところで死ぬとは限らない。


しかしそれは否定される。


「・・・もうじき私は死ぬさ。⾒事であった」


他ならぬリビングデッドに。


「・・・疑問だったんだ。なんでお前みたいな魔族が C 級ダンジョンにいやがる」


パラリスはリビングデッドの⾔葉が真実だと判断したのだろう。死ぬ前に疑問を投げかけることにしたようだ。


「・・・魔王様の指⽰だ。勇者が現れ次第、我ら魔族が相⼿をすること。それに従ったまでだ」


「なるほどなぁ。勇者を殺すために、低級ダンジョンで油断させ、ボスは A 級以上の奴が出張ってくると。なかなかに意地悪いことを考えるな、今代の魔王様は」


パラリスは納得しているようだ。俺にも話が⾒えてきた。早いうちに勇者の芽を摘み取ろうという魂胆らしい。確かにいやらしい考えだ。


「しかし少し⾒通しが⽢かったようだ。勇者というのは、想像以上に厄介な者らしい」


「こいつらが特殊なだけじゃねぇか?S 級と E 級っつー両極端なやつらだぜ?」


「なるほど・・・E 級であろうと、優れた能⼒を持つものはいるのか。魔王様に報告できないことが悔やまれる・・・」


そう⾔い残し、リビングデッドは⼒尽きた。止めを刺したのは流なので、流の基礎レベルがかなりあがったらしい。


「あ、能⼒レベルも上がってる」


流は能⼒レベルも上がったようだ。まあ、あれだけ能⼒を有効に使って、基礎レベルも上がったのだ。納得の結果ではある。


「さーて、宝物は何があるかなぁっと?」


パラリスの興味は出現した宝箱に向けられている。


「しかし、なんで宝物なんか置くんだ?魔王軍と戦うのは避けられない。なら餌をぶら下げる必要も無いんじゃないか?」


俺が聞くと、


「勇者はそうだろうが、現地⼈の冒険者は違う。呼び込むための餌はあったほうがいいのさ」


そう答えてくれた。


なるほど。魔王軍が戦っているのは勇者だけじゃない。現地⼈の戦⼠や冒険者、騎⼠たちとも戦わなければならないのだ。そういう人たちを呼び込む餌は、確かに効果があるのだろう。


「わかったか?じゃあ開けるぞ」


そうしてパラリスは宝箱を開ける。すると出てきたのは……


「ヒヒイロカネの剣じゃねぇか!すごいぞ、これは!」


「どれくらいすごいんだ?」


俺が聞くと、


「伝説級の鉱物でできてる剣だ!俺でさえ⼀度しか⾒たことのない宝剣だぜ!」


そんなすごいものが⼿に⼊るとは。さすがにボスが強かっただけはある。


「こいつはナガルが持っとけ」


「いいんですか?」


流は驚いている。


「お⼿柄あげたのはお前だぜ?それに、お前には丈夫な剣が必要だ」


そう。流の剣はもう破損⼨前といった状態だ。流のスペックについていけてないのは明⽩だった。


「S 級勇者が少しでも強くなるのは、俺たちからしたってありがたいんだ。ほら、持っとけ!」


そうして剣を⼿にする流。もともと持っていた剣よりは重たいが、成⻑したステータスにより以前より軽々と剣を振れている。


「これは・・・すごいですね」


「あー疲れた!もう⽤は無いわよね?さっさと外へ出ましょ?あたしもう MP 限界よ!」


エリスがそう⾔い出した。俺も同感だ。さっさと外で休みたい。


そうして俺たちは来た道を引き返した。元気なのはレベルが上がった流ぐらいで、流頼りで外まで出たのであった。




宿でのこと。流、パラリスと同室の俺は⼆⼈が寝ついてもまだ眠れなかった。


E 級勇者。育てられる切り札。俺の役割がよくわかる戦いだった。


俺は⼀⼈では弱い。とても弱い。でも、仲間がいるときは違う。


俺の存在は切り札になる。


あの場に E 級の俺がいなければどうなっていたか。


奴に勝つことはできなかっただろう。A 級で基礎レベル56と43のパラリスとエリス、S級勇者の流と瑠⾐。あの四⼈は強いが、それでも奴には敵わなかったのだ。


それでも勝てたのは俺の存在があったから。E 級でも、必要なピースだった。そう思うと、俺は嬉しくなった。


だがやはり、俺の能⼒はどこまで⾏っても切り札なのだろう。


10分間の能⼒使⽤。その代償は……


「残り90時間、か」


約 4 ⽇ほどの能⼒使⽤不可という事実が、俺に重くのしかかるのであった。

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