魔法でパワーアップ
ゾンビの他にスケルトンも現れ出した。こちらはゾンビと違い俊敏が⾼いようで、先ほどよりやり⾟い。
「匂いがなくなったのはいいことだけれどね」
瑠⾐がボソっと⾔う。それについては同意⾒だった。
俺は防御⼒ではなく、俊敏を消したりしながら応戦していた。ちなみに能⼒使⽤は10メートル以内の対象者の中から⾃由に選択できるようで、流や瑠⾐、パラリスが近くにいても魔物だけに能⼒を使うことができた。
そうして進み続けていると、
「能⼒レベルが上がったわ。ゴーレムを召喚できるようになったみたい」
瑠⾐がそう告げる。
「おお!ついに上がったか!どんな性能なんだ?」
⾚狼は攻撃⼒と俊敏が⾼かった。ゴーレムは……
「物理防御と魔法防御に⻑けているわね。その代わり、俊敏が低いから盾に使うのが正しいかしら」
なるほど。おおよそ予想通りだ。
「このチームには守り⼿がいないからな。ゴーレムの存在はありがたい」
流のいうことはもっともだ。みんなして攻撃役に回るので、いざというときの守る役割がいない。
そういう意味では、今⼀番適した能⼒が⼿に⼊ったと⾔えるだろう。
「私、魔法使いになった⽅がいいかしら。後ろで召喚獣たちを指揮しながら魔法を使う⽅がいい気がしてきたわ」
「確かに」
前衛に流と⾚狼、中衛に俺、後衛に瑠⾐。それはかなりバランスの良いチームになりそうだ。
「なら⼀度街に戻るか。魔道⼠探して講師にしよう。俺は攻撃魔法とかはからっきしだ」
そうして俺たちは⼀度街へ戻ることにした。
講師になってくれる魔道⼠を探す。冒険者ギルドで告知をして、次の⽇。⼀⼈の⼥性がやってきた。
「あなたたちが勇者ね?私はエリス。偉⼤なる炎の魔導⼠よ!」
ちょっと癖が強い魔法使いが現れた。
「あんた、何級だ?」
パラリスが聞く。これは⼤事なことらしく、ちゃんとした魔法使いを⾒定めるのに必要な質問だとか。ちなみにパラリスは A 級。A 級勇者と同じステータスの成⻑率だ。
「聞いて驚きなさい!私は A 級よ!!」
しかし俺たちの反応は薄い。
「え!?なんでそんな微妙な反応なの!?」
「だってなぁ……」
「まぁ……」
「S 級⼆⼈もいるしなぁ……パラリスだって A 級だし」
俺がそう⾔うと、エリスは落ち込んだ。
「そんな……私って実はたいして凄く無い?」
「いや、すごいはすごいんだけど……威張るほどじゃ無いっていうか」
露⾻にシュンとしている魔法使いに、俺は話題を変えるように、
「ところで俺たちの……というより瑠⾐の講師になってくれる気があるってことでいいのか?あー、エリス?」
と聞いた。
「え、ええそうよ!私が講師になってあげる!」
どうも上からじゃ無いと⼈と話せない⼈らしい。
「とりあえずダンジョンに⾏くか。そこで何ができるのか⾒せてもらおう」
パラリスがそう⾔い、エリスはうなずく。
「ええ!⾒せてあげるわ、炎魔法の真髄を!」
そうして俺たちは C 級ダンジョンの中へやってきた。ちなみに閉鎖空間のダンジョン内で⽕を使うのは⼤丈夫なのかと聞いたところ、
「⼤丈夫だぞ。どこからともなく空気が流⼊しているからな」
とのことだった。
そうして再びゾンビたちと相対する。今⽇はエリスの実⼒を⾒るために、俺たちは控えめな攻撃に留めた。
エリスの炎魔法は凄まじく、ゾンビたちが5体ほどいた場所には燃え尽きた亡骸があるだけだった。
「いい?魔法には頭の中でイメージすること、呪⽂を唱えることが必要よ。この呪⽂は⾃分でイメージと連結できるならなんでもいいわ。例えば私は『業⽕よ!焼き尽くせ!』ね」
そう。このエリスという⼥は、元の世界でいうところの中⼆病であった。なんか、すごいのに威厳が無いのはこういうところだと思う。
「それだけなの?なら誰でも使えそうなものだけれど」
瑠⾐の⾔うことはもっともだ。なんなら俺でも使えると思う。
「みんな初めはそう⾔うわ。でもイメージ通りにはいかない。込める魔⼒量を間違えると当然結果はイメージとは異なるし、イメージと結果をすり合わせるのはとても難しいことなのよ。初⼼者の中には⾃爆して死ぬものもいるくらいよ」
「よく聞く話だよなぁ……俺は攻撃魔法を使って死にかけてから⾃分にバフかかる魔法しか使っていない」
パラリスが補⾜する。なるほど、危険なものなんだな。誰でも使いこなすことができるというものでは無いらしい。というか、パラリスも魔法使ってたのかよ。
「そう。じゃあ試してみるわね。『弱⽕』」
そういうと⽬の前に炎が⽴ち昇る。確かに弱⽕だ。でもなんだ、こっちはこっちで極端にロマンがないな。弱⽕て。
⽕に反応したのかゾンビが群がってきた。すると今度は、
「強⽕」
そうして5体のゾンビたちに強烈な炎が襲いかかる。さっきのエリスの魔法と遜⾊ないほどだ。
「MP 消費に気を配らないとガス⽋になるわね」
何気なく⾔うが、俺たちは呆然としている。
「……天才ね。⾃信無くすわ、ほんと」
「イメージは昔から得意なのよ。よかったわ、うまくいって」
「これ、どれくらいすごいんですか?」
流がエリスに聞く。
「魔道⼠が 1 年かけてやることをいきなりやったって⾔えば、その凄さがわかるかしら?」
エリスはそう答える。そりゃすごい。なんか、俺も魔法が使いたくなってきた。MP はいま基礎レベルが23に上がったことで96ある。死蔵するにはもったいないと感じるところだ。
ということで俺も魔法を使うことにした。
結果から⾔えば、俺は攻撃魔法もバフもデバフも、使いこなせないとわかった。
理由は低い知⼒だ。
基礎レベルが23になっても知⼒が27しかない。基礎レベル12の瑠⾐はすでに71であるから、その差は歴然。⼤した知⼒でないから、効果の⼤きな魔法を使うことができなかった。
唯⼀使えそうなのは初級光魔法「フラッシュ」ぐらい。⽬眩しくらいの効果は発揮したので、俺が魔法を使うとしたらこれくらいだろう。
瑠⾐と同じくらい魔法の恩恵を得たのは、流であった。流は⾃⼰バフ魔法に関してだけイメージ通りにできたようで、今までの⾼いステータスをさらに増幅することに成功していた。
これにはパラリスが驚いていた。
「俺は⾃⼰バフを使いこなせるようになるまで 2 年ぐらいかかったんだがな……」
流は⾃⾝より強い相⼿と戦うとさらにバフがかかるのだ。この世界で最強の前衛と⾔えるだろう。
この⽇はエリスも加わったことで、このダンジョンの奥深くまで向かうこととなった。いざとなったら基礎レベル56のパラリスと43のエリスが助ける算段だ。
というか⾼いな、レベル。
ゾンビにスケルトン、加えてデュラハンまで現れ出した。このデュラハンが難敵で、⾼い攻撃⼒、防御⼒、俊敏、とかなり強かった。というか、魔物が鎧を着るのは反則だと思う。
流と⾚狼は鎧に阻まれ、やりづらそうにしていた。だが流はコツを掴んだと、鎧ごと切り捨てていた。もう俺は流が怖い。
⾚狼もそれに倣い爪で鎧を抉っていた。うん、こっちもおかしい。
しかしこの場で⼀番活躍していたのは瑠⾐だ。鎧があろうが炎のダメージからは逃れることができない。
俺はデュラハンの鎧の防御⼒を無くし、⼆⼈の援護に務める。どうやらデュラハン⾃⾝の防御⼒と鎧の防御⼒は別にあるらしく、同時に消すことはできないので、俺ではこいつを倒せない。なので援護に努めていた。
当然、⽌めを刺していないので経験値は貰えない。ここは S 級⼆⼈の育成期間だと思うことにして、黙々と援護。
そうしているとボスのいそうな扉の前にやってきた。
「どうする?いくか?というかいけそうか?」
俺はパラリスに聞く。
「そうだなぁ……お前たちなら問題はないと思うが。いざとなったら俺たちもいるしな」
「偉⼤なる炎の魔道⼠、エリス様がどんな敵だろうと燃やし尽くしてやるわ!」
パラリスとエリスは⾃信をもってそう⾔う。
「⾒返りは⼤きいぜ。宝もあるし、ボスの経験値はうまいからな」
そういうことなら……
「⾏くか」
そうして俺達は扉を開く。
それが地獄の扉だとは知らずに。