流の想い
「秀治、⽣きてたんだ……」
「よ、良かったー。死んじゃったかと思ったよ」
「まあ、秀治が死ぬわけないと思ってたけどな」
真希、鶴、学が声をかけてくる。それは⼀⾒、⽣還を喜ぶような⾔葉ではあった。しかし真意は違う。
なぜ⽣きている。態度や表情が全⼒でそう訴えかけてくる。
「俺がそう簡単に死ぬかよ笑」
「そ、そうだよね。秀治が死ぬわけない」
「さすが秀治だわー」
そんな⼼にもないことを⾔う真希と学。
「流君もそう思うよね?」
鶴がそう⾔うと、
「ああ、そうだな」
と、素っ気ない返答を返す流。それで俺たちの間には気まずい空気が流れる。
しばらくして王宮に⼊る俺たち。事態が事態なので、初⽇召喚された時と同じように、クラスメイト全員で王様と姫様に会う。王様が⼝を開く。
「……⽣き残ったか、無能め」
それに答えるのはパラリスだ。
「失礼ながら陛下。シュージは⼀⼈で⽣還いたしました。無能ではありません」
「ありえぬ」
「真実です。嘘はつきませんとも」
パラリスさんが王様に良い印象を持たせようとしてくれている。ありがたいことだ。
「証拠を⽰せ」
そう⾔われ、俺は前に進み出る。
「俺の能⼒を⾒てくれればわかる。あの時みたいに鑑定してみてくれよ」
「汝に能⼒はなかったはず。何を考えておる」
「能⼒レベルが上がって、使える能⼒が増えたんだ」
「ありえぬ。そう簡単に能⼒レベルは上がらない」
「いいから⾒てみろって」
俺がそう⾔うと姫様が動き出す。
「……なんと!!本当にレベルが上がっていますわ!」
王様は渋い顔をする。
「……どんな能⼒だ」
「あらゆる影響⼒を無くす能⼒、です」
姫様の⾔葉に王様やクラスメイトがざわつく。
「……ではその能⼒でどう⽣き残ったのか。状況説明をせよ。放ったゴブリンジェネラルは2体いたはずだ」
王様は罠にかけたことを取り繕いもしない。それが俺には腹⽴たしく感じた。
「防御⼒の数値が持つ影響⼒を無くして、殺した。2体ともな」
さらにざわつく。そりゃそうだ。S 級の流ですら⻭が⽴たなかったのに、俺が倒せてしまったのだから。
「基礎レベルが上昇していること、称号の『弱者の反撃』があることから真実であると……お⽗様」
「うむ。認めよう。シュージは試練を乗り越えた。⽣存権を与える」
試練だって?随分ときれいな⾔葉にしたもんだ。あれはただの罠だと⾔うのに。というかいちいち上からで余計に腹が⽴つな。我慢だ。
ここまでは想定どおり。問題はここからだ。
「王様。俺と瑠衣は秀治についていきます。他のクラスメイトとは、別行動させていただきたい」
流がそう⾔った。
その⾔葉にいち早く反応したのは王様ではなく……
「何⾔ってんだ流!そんなの認められるわけないだろ!」
「流君と瑠⾐ちゃんがいなくなるとすごい困るって⾔うか……」
「S 級が抜けるのはまずいって!!」
「なんで秀治なんかに!」
クラスメイトたちだった。しかし流は落ち着いて声を上げる。
「みんなの気持ちはわかる。けど」
そうして何かを切り捨てるように、
「俺はもう、みんなのことを仲間だとは思えない」
そう⾔い切ったのだった。
「な、なんでだよ!なんで急にそんなこと」
学は必死だ。引き⽌めようと説得を試みるが、
「⼼当たりはみんなあるだろう?俺はただ、それが許せないだけだ」
そう⾔われ全員が黙り込む。その沈黙を切り裂いたのは王様だった。
「認められない。S 級が⼆⼈も⾃由⾏動など⾔語道断だ。叛」
「叛意である、ですか。なら、叛意でいいですよ。俺と瑠⾐は秀治と⾏く。それが認められないなら……」
そうして覚悟を滾らせ、
「今ここで死にましょう」
そう⾔い切った。
「瑠⾐も、いいよな」
「ええ、構わないわ」
瑠⾐も続く。
「我を脅すか。下策である。死にたければ死ぬといい。代わりはいる。また S 級を呼べばいいだけだ」
「捲し⽴てて、必死ですね王様」
流の攻撃が始まった。
「俺たち以外に勇者を呼ばない理由。パラリスさんから聞きましたよ?現地⼈を10万⼈、⽣贄に捧げることで勇者召喚が⾏えるそうですね」
王様は苦⾍を噛み潰したような顔をする。
「それだけコストが⾼いんだ。そうそう簡単に勇者召喚ができるわけじゃない。その上で聞きます。本当に俺達の代わりはいるのですか?」
そうして流は宣⾔する。
「秀治との⾏動を認めると⾔うなら、魔王を倒すことに協⼒しましょう。それはお約束します。しかしそうでないと⾔うのであれば……」
剣を突きつけるように。
「俺達 S 級はここで死にます。これもまた、お約束しましょう」
そう、⾔い切った。
「……」
クラスメイト達は沈黙する。この話の終着点がどこに向かうのか。王様に視線を向けて結論を待つ。
「……いいだろう。認める」
王様はそう⾔った。
「ありがとうございます、王様。この恩は、魔王を討ち取ることでお返ししましょう」
流はそう⾔って、クラスメイトたちに向き直る。
「ごめん、みんな。俺たちは別⾏動になるが、達者でな」
そう⾔い残し、俺、流、瑠⾐は王宮から⽴ち去ろうとする。すると王様が、
「パラリス。S 級勇者について⾏き、この世界のことをよく教えるように」
と⾔った。もはや俺たちは最⾼戦⼒。となれば最低限の補助はあってもおかしくない。王様は頭を悩ませたようだが、俺たちのことを切り捨てるつもりはないようだった。
俺たちは今度こそ出て⾏こうとする。しかし、
「ねぇ待って流君!!」
そう呼び⽌めたのは鶴だった。
「秀治のことは謝るから!!⾏かないでよ!」
「無理だ。わかってくれ」
流は少し⼼苦しそうだ。それもそのはず。つい⼀週間前までは親しい間柄だった。こんなことになるなんて、思ってもみなかったろう。
「じゃあ私もついていく!!」
「それは俺が嫌なんだ」
俺がそう⾔うとものすごい敵意を向けられる。
「ちっちゃいなぁ!!なんでこれぐらいのことが許せないの!?」
これぐらい。クラスほぼ全員での裏切りが鶴にとっては⼤したことじゃないんだ。それだけ俺の価値が低いと⾔うことだろう。
おかしいな。つい最近まで俺は鶴のことをいい友⼈だと思っていたし、流との仲を取り持とうとすらしていたはずなのに。
今はそんな気持ちが微塵も湧かなかった。
「そういうところが俺は許せないんだよ。じゃあな」
流はそう⾔い踵を返す。
「許さない・・・」
鶴がそう⾔うと硬い王宮の床から蔦が伸びてきて、俺に巻きついた!
これは鶴の能⼒!何をするつもりなんだ!?
「裏切り者!!流君を返せぇ!!」
そうして鶴が短⼑をこちらに向け⾛ってくる!嘘だろ!!こいつこんなメンヘラだったのか!?
俺は慌てて能⼒を使う。鶴の能⼒の影響⼒を3秒間無くす。すると俺の体は蔓をすり抜け、⾛ってくる鶴から逃げることに成功する。
今の俺の基礎レベルは22。ゴブリンジェネラルを2体倒したことでかなりレベルが上がっていた。C 級の鶴と⽐べても流⽯に俺の俊敏の⽅が⾼い。
追いつかれることなく⾛っていると、間に⾚い狼が割り込んだ。
「瑠⾐!!邪魔しないで!!」
「邪魔はあなたよ。裏切ったのもあなた。そこを勘違いしないでもらえる?」
クラスメイトたちはこの状況に⼤慌てだ。これどうなるんだ?
助け⾈を出したのはお姫様だった。
「キジマツル様を捕らえなさい!!」
すると騎⼠たちが鶴に向かって⾛り出す。
「来るなぁ!!秀治ぃ、許さない!!許さない!!」
鶴は捕まりながらも俺に怨嗟の声を上げる。
散々だ。まさかここまで嫌われることになるとは思わなかった。E 級、無能。初めにそれがわかっただけで、こんなに仲が拗れることになるなんて。
俺は苦い思いを抱きながら、みんなから離れていった。
「⼤丈夫か、秀治」
流が⼼配して声をかけてくれる。
「まあ、ショックはショックさ。でも、なんだろうな。未練は感じない」
「それは良かったわね。離れることに何も抵抗を感じないでしょう?」
「まあな」
瑠⾐の⾔う通り。みんなから離れても何も感じないのは良かった。⼼置きなくおさらばできる。
「にしても、⼈間ってのは分からんな?あんたら仲よかったんだろ?」
パラリスが⾔う通り、俺たちは仲が良かった。本当、⼈間というのはよくわからないものである。
そうして俺たちは4⼈で旅をすることになるのだった。