瑠衣の真実
時は⼀週間ほど遡る。王族から 2 年2組にこんな根回しがされた。
「E 級勇者を殺す。そのために協⼒すること」
従わなければ叛意とみなす。そう⾔われれば 2 年2組に従う以外の選択肢はなかった。流はそれでも反対しそうだということで、その事実が伝えられることはなかったが。
しかしこの事実を知るものの中にも、反対するものはいた。それが佐藤瑠衣であった。
〜佐藤瑠⾐〜
「冗談じゃない。あの⼈を殺す?そんなことはさせない」
でも私は釘を刺されてしまった。王様に交渉したところ、鳥丸秀治が死ぬまで私の⾃由⾏動は許さないと。
だからといって私を救ってくれた秀治君を⾒殺しにする、その選択だけはありえないものだった。
私は死のうと思っていた。蒸発した両親、それが原因で始まった⼩中学⽣の頃のいじめ、引き取ってもらった親戚の夫婦からの扱い。
元の世界に希望を抱けず、ならもういっそ来世に期待したほうがマシなんじゃ?と錯乱するほどには絶望していた。
そんな時に秀治君はこう⾔ったのだ。
「なんか悩みでもあんの?あんなら相談しろよ。⼒になれるかはわかんないけど、⼀緒に考えることぐらいはできるからさ」
誰も私にそんなことを⾔う⼈はいなかった。これは私が悪いけど、誰とも関わってこなかった私には相談できる⼈なんていなかった。
だから、秀治君からそんなことを⾔ってもらえて私はとても嬉しかったのだ。少しの希望を抱くことができ、秘密裏に相談もした。その結果、友達になることができ、⽣きることを諦めないで済んだ。
あんなに⼼優しい⼈が殺される。そのことの意味が誰もわかっていない。彼は必要な存在だ。
今後は流がリーダーになってくれると思っているのでしょうけど、あいつじゃダメ。全部⼀⼈で抱え込もうとする流では、みんな寄りかかろうとするだけ。誰も⾃⽴できなくなる。それがわからない流では真のリーダーにはなれないというのに。
秀治君は⼈助けの加減がうまかった。あくまでサポートで、本人の努力によって課題をこなさせるようにしていた。それはリーダーの素質と⾔える。秀治君の優しさから来る⾃⽴⽀援。それこそが今失われようとしているものの正体だ。
助けなくてはならない。でも、どうやって。流に相談する?いや、それで下⼿に動かれたら余計事態が悪化するかもしれない。そこで私は王様に最後の交渉をすることにした。
「私⼀⼈で秀治君を守れたその時は、秀治君の⽣存権を認めてください」
しかし。
「ならん。それは認められない」
「ではどうしたら認めてくださいますか」
敵意の篭る⽬で王様を⾒る。しかしそんな視線などどこ吹く⾵、王様は依然として認める気がないようで、
「トリマルシュージが単独で我らの罠を潜り抜けること。それを持って勇者の素質ありとみなすこととする」
そんなことを⾔った。
「そんなこと」
「できるわけがないか?ならばやはり、シュージに勇者の資格はない」
できるわけがない。勇者の資格がない。それでも。
「彼の素質はそれ以外にあります。今彼に死なれては、困るのです」
それは事実だが、私のエゴが多分に含まれる発⾔だった。
「今我らが求めるは戦う⼒なり。それ以外の素質など必要あるまい」
意地でも彼の⽣存権を認めないようだ。なら。
「もし秀治君がどんな形でも⽣き残ったのであれば⽣存権を認めてください。でなければ私は勇者の役⽬を放棄します」
「我を脅迫するか。下策である。だが、いいだろう。ルイが関わることは禁じるが、⽣き残ることがあるのであれば、認めよう」
この時の私はこれが王様の最⼤限の譲歩なんだと諦めることにした。
それを後悔するのは、秀治君を殺す計画の当⽇。
S 級の流が気絶して戻ってきた。流を担いで戻ってきた3⼈は⼝々に、
「あの王様俺たちも巻き込むつもりだったんじゃないだろうな!?もう少しで死ぬところだったぞ!!」
「まじありえないし。つーか S 級が気絶すんなし」
「ちょー怖かったぁああ!!流君、死んでないよね!?ね!?」
誰も秀治君のことを気にしていない。いや、そんなことより。
S 級の流でさえ気絶するほどの存在がいる場所に、E 級の無能⼒者が⼀⼈取り残された?
その事実は私を突き動かすのに⼗分で、
次の瞬間私は衝撃を受けて気絶していた。
⽬が覚めた時、私は現地⼈のパラリスという戦⼠にかつがれていた。
「な!離しなさい!」
「だめだめ。俺が王様に怒られちゃうから。⼤⼈しくしてようね?」
辺りを⾒回すと、流もリードルという戦⼠に抗議しているようだった。私と同じく⽬が覚めたようだ。
「どうして⾏かせてくれないのですか!!」
流は必死だ。
「⾏ってどうする?お前さんじゃ助けにならないだろ。それに S 級の損失はあっちゃならんのさ。諦めてくれ」
「そんなことどうでも」
「いいのかい?お前さんの守りたいものは、シュージとやらだけじゃないだろう?」
「!!」
「お前さんが死んだら、まだ⽣きてる仲間まで助けられなくなるぞ?」
「それは・・・」
「今現地⼈が救助に向かってる。我慢してくれ」
それは嘘だ。流を落ち着かせるための嘘。
どうすれば私は秀治君を助け出せる?いやそれより・・・
今から⾏って、本当に彼を助けられるの?もう死んでしまっているのではないの?
その可能性の⽅が⾼い。
でも、だからといって諦めるわけにはいかない。
「彼が⽣き残っているとしたら。それを確認する必要があります。私がそれを確認するので戻してください」
私はギリギリ許されるだろう⾔葉を放つ。
「んー。わかったわかった。俺がついていくから確認しに⾏こうか」
意⾒を通すことに成功する。これでどさくさに紛れて助け出すことに成功するかもしれない。
「俺も⾏かせてください!確認するだけならいいですよね?」
流も便乗する。
「まあいいぜ。おい、この⼆⼈を連れてダンジョンに戻るから、他の勇者様は任せたぞ」
パラリスがリードルにそう伝えたのち、私たちはきた道を引き返す。
そうして戻った先で⾒たものとは。
本当に⼀⼈で⽣き残った、秀治君の姿だった。
〜⿃丸秀治〜
流にも俺にしてくれたように事情説明がされた。
「そんな!!なんで教えてくれなかったんだ、瑠⾐!!」
「感情的になってめちゃくちゃに動かれたら、余計に秀治君に危険が及ぶと思ったからよ。今伝えたのは、王様が秀治君の⽣存権を認める条件を満たしたから。もうこれ以上秀治君に危険が及ぶことがなくなったからよ」
瑠⾐は事実を淡々と告げる。聴き終えた流は悔しそうだ。
「すまない秀治。俺はお前を・・・守れなかった」
「気にすんな。⽣き残ったわけだし、謝る必要はないさ」
俺たちはなんともいえない空気になってしまう。そんな空気を壊したのは現地⼈のパラリスであった。
「いやしかし、⽣き残ったってことはなんか能⼒が開花したってことだろ?良かったな」
そうして話題は俺がいかにして⽣き残ったかに移る。
「影響⼒を消す能⼒か。強いじゃないか!」
流は嬉しそうにしている。俺が無能扱いされていたことに鬱憤が溜まっていたようだ。本当、いいやつだなぁ。
「まずは王様に秀治君が⼀⼈で⽣き残ったことを伝えないとね。そうしたら、私と⼆⼈で旅をしましょう」
瑠⾐がそんなことを⾔う。
「なんで⼆⼈で旅?というか S 級の⾃由⾏動なんて許されるのか?」
「認めさせるわ」
「そんなこと」
「認めさせるわ」
その強い意志にみんな黙り込んでしまう。
「で?⼆⼈旅はなんで?」
「あなた、ここまでされて自分を裏切ったクラスメイトともう⼀度⼀緒に⾏動できるの?私なら無理だけど」
「・・・」
無理だ。また裏切られるのではないかと不安になってしまうのは避けられない。
瑠⾐は俺を気遣ってくれているのだ。裏切ったクラスメイトと別⾏動させつつ、俺を孤⽴させないために。
「それなら俺も同⾏しよう」
「流!?」
「おいおい待て待て。さすがに S 級⼆⼈が⾃由⾏動はまずいって!」
パラリスが慌てて制⽌する。
「俺に考えがあります。王様が受け⼊れざるを得ない考えが」
「嬉しいけど・・・いいのか?」
俺がそう⾔うと、流は俺に気を使ってこう⾔った。
「ああ、いいとも。これは裏切りに気がつけず、秀治を助けられなかった俺なりの償いと覚悟だ」
「流・・・」
そうして俺たちは 2 年2組と王様が待つ王宮へ向かうのであった。