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スクールカースト最頂点、墜ちる

初投稿です。よろしくおねがいします

「それまじ?秀治(しゅうじ)ゲームしすぎ笑」


「まあな。つか、お前も人のこと言えなくね?」


俺はそう返す。これは本心だ。バイト代のほとんどをガチャに回してるこの男、明田学(あきたまなぶ)にだけは言われたくない。


「でもその曲でフルコン取るの変態じゃん」


「オールパーフェクト取れてないからまだまだ常人だっつーの」


「ないない笑」


学はどうしても俺を変態にしたいらしい。学という男はどこか残念な、お茶目なやつだ。


「でも秀治君みたいに得意なことあるのいいよねー。あたしは全然」


そう自虐しているのは小山田真希(おやまだまき)。今時らしい女子高生の代表といったところか。ナチュラルメイクの、ちょっとギャルっぽい性格の女子だ。


「秀治に学、そんなにゲームばっかしてて勉強大丈夫か?やばくなったら言えよな。教えられるとこは教えてやるから」


そんな心配をしてくれる優男は綾乃瀬流(あやのせながる)。勉強もスポーツもできる秀才。その上人付き合いも良好なインテリ系イケメンと、この男の悪いところを探すほうが難しい。


「私ちょっと数学でわかんないところある!教えて流先生!」


この元気でちょっとバカな女子は、木嶋鶴(きじまつる)。どうやら流のことが好きらしく、ことあるごとに接近しようと試みている。しかし鈍感な流はそれに気が付かない。あったわ悪いところ。


「じゃ今度勉強会でもしようぜ。俺もちょっと心配なとこあるし」


俺がそう言うと学、流、鶴、真希が賛成する。そこに俺を加えた5人が、このクラスの一番目立つ集団だった。


じゃあ次の土曜日勉強会、と言おうとしたところで……


俺たちは眩い光に包まれた。


困惑する俺たち。しばらくして光が弱まり、何事かと目を開くと、現実離れした世界がそこにはあった。


「どこだここ……?」


クラスメイトの誰かが声を上げる。全く持って同意見だ。厳かな王宮のような場所の中で、俺たち2年2組は困惑していた。


「皆さん、どうか落ち着いて聞いてください」


透き通るような美しい声が、俺達に降りかかる。


「私の名前はアリア・クラリスです」


金色のさらりとした長髪。きれいなドレスに身を包む女性は、アリア・クラリスというらしい。


アリアさんは、思いつめたように口を開く。


「あなた方は勇者です!どうか私達を救ってください!」


「はあ!?」


「どういうことだ?」


「勇者ってあの勇者?」


「何言ってんだ、あるわけねぇだろ」


「夢だ夢」


クラスメイトが口々に言い合う。もちろん俺も、この状況を見て姫様っぽい人のことを信じる気にはなれない。


「あー、発言いいか?」


俺がそう言うと、王様らしき人が厳かに口を開く。


「許そう」


「俺たちはなんで呼ばれたんだ?」


「すご……秀治やっぱ冷静だわ」


「さすが秀治君だねー」


クラスメイトがワイワイと騒ぎ立てる。俺が冷静?冷静ぶってるだけで心臓ドキドキだ。しかし俺が話を進めなければならない。だって俺はこのクラスのまとめ役、みんなを守らなければならない。怖気づいているわけには行かないのだ。


「魔王が復活した。私達人類は滅亡の危機にある。そこで、最後の頼みの綱である異世界の勇者を召喚した次第だ」


「なんで俺たちなんだ?戦う力なんて持ってねーぞ」


純粋に疑問。俺たちは一般人だ。日常にある戦いなんて、せいぜい喧嘩くらいの世界。そんな世界の俺たちを呼びつけるなんて、意味がわからない。


「いえ、違うのです。異世界の勇者には、戦うための特殊な能力が与えられるのです。転移者特典、と言えばいいのでしょうか。ステータスをご覧になってください」


「ステータス?そんなものがあるのか?」


俺は慎重に話を続ける。


「頭の中で念じれば思い浮かぶはずです」


そう言われ俺たちは黙り込む。みんな言われた通りに思い浮かべているのだろう。俺もやってみる。


ステータス、オープン。で良いのか?


鳥丸秀治(とりまるしゅうじ)LV1「無を司る」LV1 E級

HP30 MP30 攻撃力5 知力5 物理防御力5 魔法防御力5 俊敏5 抵抗5 器用5 スタミナ5


おお。本当に出てきた。


「ステータスはこの世界の誰にでも存在していますが、能力は異世界の勇者にしか宿りません」


なるほど。お姫様の言うことは真実であるようだ。


「お分かり頂けたでしょうか。私達の言葉は真実です」


「レベルが2つあるけどどういうことですかー?」


真希が質問する。確かにレベルが二つある。


「基礎レベルと能力レベルですね。基礎レベルが上がるとステータスが上昇し、能力レベルが上がると使える能力が増えます。基礎レベルはこの世界の住人なら誰でも持っていますが、先程も言いましたように能力は勇者にしか宿りません。そのため能力レベルは勇者専用の項目となっています」


なるほど。そういう意味があったのか。しかしそれを聞いたところで……


「しかしなぁ……俺たちは戦いなんて望んでない。急に言われても困るんだが」


俺がそう言うと、


「そ、そうだ!元の世界に帰せ!」


「私家に帰りたいんだけど?」


「勇者とか困るっていうか」


クラスメイトが続く。当然の反応だ。突然勇者として戦えなんて言われて、誰が従うというのか。


「今すぐ帰すことはできません。何せ帰還には魔王を倒し、異世界への扉を開かねばなりませんから」


「そんなの横暴だ!」


学がそう言うと、


「静粛に」


王様っぽい人が声を上げる。その威厳に俺たちは縮み上がってしまう。


「汝らの言うことはもっともだ。しかし汝らが動かねば人類は滅亡する。そうなれば、汝らも死ぬこととなるのだぞ?もちろん、見返りはある。世界を救うというのなら、褒美を。だが、叛意には罰を。その上で、どちらにするかは任せることとする」


脅迫。ここまでわかりやすい脅迫は、誰もが初めてだった。魔王を討伐しなければ、俺達にだって危険が及ぶ。こんなことを言われては従うしかない。


「……わかった。どのみち、元の世界に帰るには魔王を倒すしかないんだ。みんなもそれでいいか?」


俺が声をかけると、


「まあ……仕方なさそうだし?」


「秀治が言うなら……」


クラスメイト達に、従うという意思が伝播していく。


「ではあなた方の階級と能力を見ます。一人ずつ記録していくのでこちらへ」


そうして何やら、水晶の前へ導かれる。あれで俺たちのことを見るのだろう。


「明田学様。階級はC級。能力は『覗き見る能力』ですね。能力レベル1では人のステータスを覗き見れるようですよ」


「覗き見る能力って変態そうじゃん。テンション下がるわー」


学が露骨にがっかりする。


「C級とはなんですか」


すかさず流が質問する。


流は真面目な生徒だ。こういうところはしっかりしている。それはみんな気になっていたことだろう。


「ステータスの成長率ですね。Sが最高でEが最低となっております」


なるほど……俺は最低じゃないか!


何か嫌な予感がする。俺だけってことはないよな?みんなそんなもんだよな?


「なんと!これは素晴らしいです!」


次は流の番だった。何が素晴らしいのか。


「綾乃瀬流様。格差を覆す能力で……S級です!」


S級。早速出てしまった。しかし流がか。まぁ納得ではある。あいつは学力が高く、スポーツテストでも高得点ばかり取る秀才だ。そういったことがここでも出ているのだろう。


「能力レベル1では、格上の相手と戦う際に、自身にバフがかかる効果があるそうですよ!とっても強い能力ですね!」


お姫様は興奮しているようだ。


「やっぱ流は凄いな!めっちゃ当たり能力じゃん!俺と比べたら……」


学は流を羨ましそうにしている。まあ、その能力と比べたらその気持ちはわかる。


「たまたまだよ。それに、貰い物に喜んではいられない。結局使いこなせるかは自分次第なんだから」


流の言うことはもっともである。それを聞いて学は辺りを見渡す。


「それもそっか。じゃ俺も使いこなしてみるわー」


そう言うと他のクラスメイトに目を向ける。学は人のステータスがわかるそうだ。みんなのステータスを見ているのだろう。


ふと、学と目があった。


なんだろうか。俺のE級が珍しいのか?


「どうした?」


俺が声をかけると、


「い、いや。なんでもない」


そう挙動不審になりつつ俺から距離を取る。


その後も続々とステータスが明かされていく。




石川夢(いしかわゆめ) 遮る能力LV1:地面を盛り上げて遮ることができる C級


出雲陸斗(いずもりくと) 能力を真似する能力LV1:勇者の能力を80%の出力で真似できる A級


一ノ瀬(いちのせ)いろり 鼓舞の舞の能力LV1:俊敏を上げる舞を踊れる C級


飯島連寺(いいじまれんじ) 能力を強化する能力LV1:人の能力を強化できる C級


伊藤道政(いとうどうせい) 透かし見る能力LV1:弱点を見つけられる B級


江川桜(えがわさくら) 石に変える能力LV1:自身より基礎レベルが低いものを石化する B級


小野田凛(おのだりん) 弱点をつく能力LV1:弱点に攻撃が当たったとき、威力が1.5倍 A級


小山田真希(おやまだまき) 色を操る能力LV1:自己の色を自由に変えられる A級


元打鳴(がんだめい) アイデアを実現する能力LV1:装備品を作るとき、技術力が足りていなくても要素を完成させることができる C級


木嶋鶴(きじまつる) 蔓を司る能力LV1:蔓で対象を拘束できる C級


……E級はここまで出ていない。もしかして本当に俺だけなのか?


そういえば俺の能力って、LV1だとどんな能力があるのだろうか。詳細を開けば見れるようだが、せっかくだから発表されるまで見ないでおくか。


無を司る能力。全く想像つかないな。しかし、こういう展開ってどうしてもワクワクしてしまう。さっきは突然のことで驚いていたが、勇者なんてなろうと思ってなれるものでもないし、能力なんて男子なら誰でも一度は妄想するものだ。


なんてことを考えていたら再び歓声が上がる。何事かと思えば、


佐藤瑠衣(さとうるい)様。幻想生物を生み出す能力ですね!能力レベル1では赤狼を呼び出せ……そして、S級です!」


再びのS級登場だった。


姫様は嬉しそうだ。S級はやはり喜ばれるのだろう。


佐藤瑠衣はいつも読書をしているミステリアスな女子だ。可愛い子ではあるのだが、如何せんコミュニケーションを取ろうとしないため孤立している。


俺はそんな彼女から相談を受けたことがあるが、抱えているものが大き過ぎて応援することしかできなかった。力不足を感じた、悔しいと感じる関係だった。




ふと、なんで俺の友人達はS級なのに俺だけがE級なのかと嫉妬に駆られた。いけない。友達の結果が良かったんだ、素直に喜ばないと。こういう卑屈なところが嫌いなんだ、俺は。


しばらくして、ついに俺の番がやってくる。みんなどんな反応するかな、俺がE級だって知ったら。バカ笑いされればいいが、引かれたら困るな。あと、俺の能力って一体何なんだろうな?


「次の方、どうぞ」


「はーい」


俺は返事を返し水晶の前へ。


「……え!?」


うわ。思いっきりびっくりされた。おかげでまたS級かとクラスメイトに注目される。違うんだよ。俺はE級。期待の視線が辛い辛い。


「鳥丸秀治様……無を司る能力で……E級」


ざわ……とクラスメイトが反応する。そりゃそうだ。今までE級なんて出てなかった。そりゃざわつくよな。


「いえそれより……この能力は」


能力?一体どんな能力だったというのだろう。姫様はE級の事実よりもそっちに意識が向いているらしいし、もしかしたらすごい能力なのか?


ありえる。E級なんてどうでも良くなるぐらいの能力が、俺にある可能性。


俺だって勉強もスポーツも人付き合いもそこそこできるし、やってきた。学校ではいつだって目立つグループにいたし、クラスをまとめる役を買って出たり、生徒会に所属したりと、人生を頑張ってきた自信はあるのだ。


それに、関係あるかはわからんが、容姿はいい方だ。それでただのE級なのは、流石におかしいんじゃないか?そんな期待を抱く。


「能力レベル1での能力は……無力を享受する能力」


……ん?


「あなたに能力は……ありません」


「はあ!?」


俺はクラスメイトの前で出したことのないような大声を上げる。いや待ってくれ。誰にでも能力あったろ!いや、それよりも……E級で能力がないって絶望的じゃないか!


クラスに満ちる空気が凍りついていく。そりゃそうだ。これがボッチとか根暗だったらあるかもしれない話。でも俺はこのクラスでトップクラスに華やかな集団に属しているんだぞ!?


「E級で能力がないなんて……この世界で見てもとてつもない弱者です……お父様、いかがいたしましょうか?」


待って?何を相談するつもりなんだ?


「うむ。この者は勇者に混じって現れた偽物だ。追放でいいだろう」


「待ってください!」


そう声を上げたのは俺じゃない。俺よりも早く反応できたのは、当事者ではなく。


「勝手に呼びつけておいて、資格がないから追放ですか?流石に見過ごせませんよ」


綾乃瀬流であった。


「流……」


「汝らは足手まといを抱えて魔族と戦う余裕はあるのかね?その者は無能。何もできぬ弱者である」


「そんなことは関係ない。見捨てることなんかできません!」


「では一度、その者を抱えて魔物と戦うといい。すぐにそんな余裕はないとわかる」


「……やってやりますよ、俺は」


「流……ありがとう」


「いいんだ、秀治。当然のことだ」


本当にありがとう、流。


でもな流。お前はそう言うけど。




お前以外のクラスメイトは俺のこと、もう見捨ててるんだよ。


視線。とてつもなく冷たい視線だ。見下すような、呆れるような、邪魔者を見るような視線。


そりゃそうだ。命がかかっているかもしれない。いや、絶対に命はかかっているだろう。その事実は認めたくないだけで、きっとこの世界は命のやり取りが日常的。


そんな中で、足手まといを抱えるリスクは切って落としたいはずだ。流が引き止めてくれなかったら、俺は今頃本当に追放されていたと思う。


そうして遺恨を残したまま勇者の測定は進んでいくのだった。


その日は王都に宿泊した。俺は呆然と天井を見上げる。クラスメイトたちの会話も、いつもより静かだ。明らかに俺を意識している。気まずい空気のまま就寝し、翌日。いよいよ本格的に魔物と戦うことになる。


みんな剣や槍、珍しいものは魔法の杖なんかを持っている。どうやら魔法が存在する世界のようだ。


向かうのは地下に形成されるダンジョン。初心者用のE級ダンジョンらしく、戦いに慣れるにはうってつけの場所だという。


ゴブリンらしきものが現れ、本格戦闘開始……とはならなかった。


みな、命を奪うことに恐怖して動けなかったのだ。動けたのは数人で、この世界をゲームか何かと勘違いしているもの、元々勇気のある者ぐらいだった。


目につくのは二人のS級。流は皆を守るという強い意思で、必死に立ち向かっている。確かあいつは剣術道場の息子だったはず。足さばきや剣筋が見事だった。


一方佐藤瑠衣は、赤い狼を従えゴブリンと戦わせていた。それでも本人に経験値?がはいるらしく、終始満足そうにしていた。


「ぎゃあ!!」


ゴブリンの持つナイフに斬りつけられ、血を流したものがいた。


「血が、死ぬ!!死ぬぅ!!!」


「大丈夫だこのぐらい。ほら、こっち来い」


現地人の回復魔道士が治癒をかけると、またたく間に回復していく。


「このぐらいの痛みには慣れろ。男だろ、泣きわめくな」


かなり厳しい指導だ。俺たちは二日目にして、メンタルが追い込まれていくのを感じた。


さて、俺はというと、魔物を殺す側の人間だった。そりゃあ怖かった。痛い思いもした。けど俺は、そんなことを言っている場合じゃないと思っていた。


レベルがあるこの世界で、E級のステータス上昇率は、最低。その上、無能。ならば、少しでもレベルを上げなくてはあっけなく死んでしまう。回復魔道士がいつまでついているかもわからないのだ。今のうちに強くならねば。


「あいつら人の心がないのかよ」


「私絶対無理……うぇえ」


「秀治必死になってる。ウケるんだけど」


そんなことを言われても、止まる理由にはならない。俺だって辛い。けど死にたくない。なら頑張るしかない。


「ったく。どいつもこいつも及び腰でどうしようもねぇな。っし。今日は全員基礎レベルが1上がるまで絶対に返さねぇ。根性入れて戦いやがれ!」


「そんな!!」


「嘘だろ……」


しかし俺たちが奮闘している姿に慣れてきたのか、少しずつ武器を取るものが増えていく。


「まずは命のやり取りに慣れやがれ!そしたら戦い方を教える段階に入るからな!!」


講師の戦士や魔道士が鼓舞する。徐々に戦う人が増えてきた。このままいけば、全員魔物を殺せるようになるだろう。


「負けてられない……俺だって生きていくんだ」


決意を胸に、俺は剣を握りしめた。


この世界に来て四日目。訓練を終え帰ろうとしていたところを、S級勇者の佐藤瑠衣に呼び止められる。赤い狼を従える女子だ。


「どうした?」


「少し人気のないところへ行きましょう」


そうして俺たちはダンジョンの入口付近へやってきた。瑠衣はあの時以来あまり関われていなかった。せいぜいが愚痴を聞くくらい。だから、この状況はかなり不思議なものだった。


「驚かないで聞いて。それと、あなたに知らせたとなれば皆に危険が及ぶ話よ。だから話を聞いたあと、不審に思われる行動や反応に気をつけて」


「なんだよそれ。一体何を伝えようって?」


「あなたは三日後罠にかけられる……謀殺されるのよ」


「!!」


驚くなと言われたがこれは……


「当日は流と組みなさい。そうして、全力で頼るの。彼は事情を知らないけれど、きっと力になってくれるはず」


「流と組む……」


「流以外は信用しないことね。現地人はあの王様の言いなりだし、流以外のクラスメイトは私を含め謀殺の件を知っているけど……」


「けど?」


とても嫌な予感がした。それは的中してしまう。


「あなたが死ぬことを許容した。我が身可愛さでね」


「!!」


俺はそこまで人望なかったのか?皆仲良くしてたのは全部嘘だったのか?


「私はあなたを直接助けることができない。王様に釘を刺されてしまったから。ごめんなさい。この事実を教えることしかできないの」


「そうなのか……でも、教えてくれただけでもありがたい」


知ってると知ってないでは全然違う。対処できるかもしれないんだ、本当にありがたい。


「でも、なんで流はこのことを知らないんだ?」


「それを聞いてどんな行動に出るかわからないから、誰も教えることはなかったの」


「じゃあ、協力を取り付けるために流に相談してもいいか?」


「辞めておいた方がいいわ。流に教えれば絶対に黙っておかない。そうなれば私があなたにこの事を伝えたことも発覚するし、それは叛意と捉えられかねない」


叛意には罰を、だったか。王様に俺を追放する口実を与えるかもしれないんだ、流に相談するのは悪手か。


「私の協力なしにあなたが生き残れば、今後意図的にあなたを侵害することはないと言っていたわ。だから、頑張ってね」


つまり、罠が仕掛けられるのは一回きり。これさえ凌げば以降は王様が刺しに来ることはないと。


「あまり長居しては怪しまれるわね……今日ここでは、私があなたに告白して振られたってことにしておいて。理由は今、そんなことに構ってる余裕はない、とかでいいから」


俺にこの真実を伝えてくれた瑠衣。二人で会っていたことを怪しまれないための嘘まで考えてきてくれたようだ。


「何から何まで、ありがとうな」


「いえ。あなたには、生きていてほしいもの」


そうか。俺は勘違いしていた。みんながみんな、俺を見捨てているわけではないのだ。流ぐらいだと思っていたが、こうして瑠衣が助けようとしてくれている。


「本当、ありがとうな」


もう一度心から感謝をし、俺は瑠衣より先に2年2組に合流した。


三日後。いよいよ当日だ。逃げ出すことも考えたが、この世界で頼りになる人なんて存在しない。下手に逃げても野垂れ死ぬだけと結論し、素直に流に助けてもらうことにした。


監督の戦士や魔道士が、試験と称して付き添いを辞めた。クラスメイト達のみで緊張感を持って臨むための訓練、ということらしい。これは俺を罠にかけた後、助けるのを遅らせるためだろう。


ダンジョンの最奥にある書物を取ってくることが試験だそうだ。一応クリアを目指すことになる。


最大5人パーティーを組むように言われる。しかし俺は誰からも望まれず、孤立してしまう。


それは今までではありえないことだった。俺は誰とも気兼ねなく話し、盛り上がれる気のいいやつ。一人で教室にいることはなく、常に誰かと輪になって話し込んでいたものだ。


それが能力がないって、E級って理由だけで孤立してしまう。人間性とか、ステータス以外の素質だとかが、全く無視される。


辛かった。少し泣きそうになったくらいだが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。命がかかっているのだ。


俺は流と組まなきゃいけない。流のもとへ行く。


「ひどいもんだな。だけど秀治、俺達がついてる」


流は孤立する俺を見て、仲間に入れてくれた。いつもの5人だ。俺、流、学、真希、鶴。


いつもの5人。違うのは視線。流以外の3人は、俺に冷たい視線視線を投げていた。


「いつもみたいに、バカはしゃぎしようぜ?」


感情が籠もらない声で、学は言う。


「ははは……そうだな、行こう」


俺は力なくそう告げる。そうして俺たちは動き出した。


「大丈夫だよ。お前は俺が守る」


流は俺に小さくそう言うのであった。


ダンジョンに入っていく。俺たちのパーティーが一番乗りだ。


「流をお手本にしたい!だから最初に行ってきて!」というクラスメイトのお願いではあったが、真意は別。俺達が一番乗りなのは、俺を殺す罠がある場所に、俺以外を一番乗りにすると台無しになってしまうからだろう。


ゴブリンを倒しながら進む。すると、レベルが上がった。隙を見てステータスを確認する。


鳥丸秀治LV5「無を司る能力」LV2 E級

HP42 MP42 攻撃力9 知力9 物理防御力9 魔法防御力9 俊敏9 抵抗9 器用9 スタミナ9


E級なので少ししかステータスが伸びない。基本レベルが1あがると、HPとMPは3上がり、その他のステータスは1上がった。流に聞くと、HPとMPは18、他のステータスは6上がるというから、S級はE級の6倍の成長をするとわかった。


その上、俺には能力がない。なるほど、俺が勇者の紛い物だと思われるわけだ。流とは同じレベルであるにも関わらず、倍以上のステータス差になってしまっている。


これからもっと差をつけられていくことになるんだ。俺はそれを想像すると、恐怖が止まらなくなった。


「おかしいな……」


流の声を聞いて、ステータスを見るのを辞める。


「奥に行けば行くほど、魔物が減っている気がする」


違和感が強くなっていく。


敵が現れなくなったのだ。一体何が起きているのだろうか。


「嫌な予感がする。皆、慎重に行こう」


流が声を上げる。


俺たちは全員身構えた。俺は特に。どんな罠が仕掛けられているかはわからないが、とにかく流に助けて貰えるように動く。


慎重に進んでいく。すると突然の咆哮が、けたたましく聞こえてきた。


「グギャギャギャギャァァア!!」


現れたのは一際大きなゴブリンだった。

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