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十月。

過ごしやすい陽気になって、シリンとナルセの二人目の赤ちゃんが誕生した。

もう少ししたら朝晩は涼しくなりすぎちゃうくらいだから、今頃が丁度いいね。これから段々慣れていける。


ちなみに生まれた子はやっぱり男の子だったよ!二人によく似た可愛らしい子だ。

お姉ちゃん(ライラ)を男の子顔にしたような感じ。姉弟二人が並んで寝ているところはめちゃくちゃ可愛い!

男の子同士、デミルと並んで寝ているところもめちゃくちゃ可愛い!

なんにしても可愛い!!

毎度メロメロの婆バカ炸裂中である☆


あ。シリンとナルセの息子の名前はアミルだよ。




えっと…。

ローラが成人した九月をしれっと過ごし、今月はシリンの出産があった。来月はお客様感謝デーがあって、その次は年末だ。色々ずっと慌ただしい。

わざとそうしている訳ではないけれど、ゆっくり話す機会がない。


というか、私から話すものなのか…、悩む。


でもサイードのソワソワしている気配とか、隠す様子もなくなったクバードの態度とか、日を追うごとに変な空気になってきて、何だかとっても落ち着かない。


恋愛した事がないとは言わないし、もうすぐ四十のいい年した大人だし、かまととぶるつもりはサラサラないけど!

十年以上も恋愛から遠ざかっていて、今更どうやって始めたらいいかわからない。

改めて行動しようと思うと、何かもうめちゃくちゃ恥ずかしい。


ごめん!そっちからお願いします!もしくは成り行き任せでお願いします!と、他力本願にお任せしたくなる。

私ってこんなんだったかな~。我ながら情けない。


とはいえ赤ちゃん二人で家の中が落ち着かないのに、こんな大人がいるせいで余計に落ち着かない。

これじゃいけない!子供はいい環境で育てたい!と、人のためならがぜんやる気になれるのが、私の数少ない長所だ。


そんな訳で、腹を括って話してみよう!と覚悟を決めると、こういう時ってタイミングが合うものなのか


「コハルさん、明日お宿は休みだよね。久しぶりに少し飲もうよ」

「うん」


と相成った。


まずはサイードと話すのか。何をどう話そう…。

いやいや、何を中学生女子みたいなことを言ってるんだ。客観的に見たら、私キモイぞと活を入れる。


こういうのは考えておくものじゃない。会話はキャッチボールだ。

つまり、ぶっつけ本番でいきます!




そして翌日の夕方。


「コハル。悪い、昨日聞こえちまったんだが…。サイードと話す前に、俺にも時間をくれないか」

「えっ …うん」


なんと!心の準備がまったくなかったクバードから声がかかった!

ぶっつけ本番は、こっちが先になるのか!


そのまま裏の温泉に歩いて行く。

男湯の椅子に座って…


「ここでコハルに足を洗われた時は驚いた」

「そんな事もあったね~」


懐かしい。この世界に来たばかりの頃だ。もう六年以上前になる。

なんて思い出していると


「コハル」


呼ばれてクバードを見る。クバードは私を見ていた。熱い視線。


めっちゃタレ目なのに強面というギャップには見慣れたけど、好みなのは変わらない。

こんな風に見つめられるとグッとくる。


「あの時から、いや、最初に大声で礼を言われた時から、惚れたんだと思う。

俺と一緒になってくれないか」


ド直球で来たな!


考えさせてはない。だってすでにずっと待ってくれてるからね。

きちんとわかる好意はもう四年近く続いていて、最近はもっと行為や言葉で伝えてくれていた。


目と閉じて、この六年を思う。


クバードはいい人だ。見た目の威圧感でそう思われないみたいだけど、実は仲間思いで優しい人だ。

気もきくし色々と助けられてもきた。

Aランクなんていう高位の冒険者で腕もたつ。仕事のできる男は好きだ。

見た目も好みだし、何より声がいい。こんな人に告白されたら(されてるけど!)めっちゃ嬉しい。


総合的に考えて断る理由はない。

その手を取りたいと思う気持ちも確かにある。だってクバードいい男だもん。

だけど、少しの躊躇もなく手を伸ばす事はできない。……そういう事なんだろう。


目を開く。クバードと目が合う。

クバードの瞳が揺れた。


「そう思ってくれてありがとう。ごめんね、クバードと一緒にはなれない」


きっぱりと告げる。簡潔に、誠実に。


「やっぱりちぃと分が悪かったか」

「うん、ほんとにほんの少しかな。クバードはもろ好みだからあぶなかった」


軽い口調で言ってくれるから、私もそれにのってみる。本心だしね。


それを聞いちゃ余計くやしいな、とボヤくように言って、クバードは再度私を見た。

目の光は強い。


「しょうがない。しばらくは来ないが、気持ちに折り合いがついたらまた来る」

「うん。待ってる」


大きく息をつくと、クバードは先に歩いて行った。


私とクバードの間には恋愛は始まらなかったけど、この六年間で食卓を囲むみんなの間に(つちか)われた関係がある。いっそ家族といってもいい絆のようなものだ。


うちの子たちやこの世界での私、クバードたちにも、すでに親兄弟のいない人がいて、なんていうか…。確かなよりどころがないまま生きていくのは、辛いもんなんだよね。淋しいというか。


食を通じて(つど)って、短くない年月で築いた居場所はなくせない。

今回のクバードだけじゃなくて、他の誰でもきっと、何があってもそうだろう。

二度と顔も見たくなくなるようなひどい裏切りなんて、みんなしないだろうしね。


さて。ぶっつけ本番第二弾だ。




何だかみんな食事も入浴も早いよ!

さっさと終わらせて、子供たちは自室や自宅へ、冒険者の面々もいつもより全然早い時間に帰って行った…。


これはもう、この後何があるかみんな知っているって事だよね。

気を使わなくていいのに。というか!身悶えするほど恥ずかしいんだけど!


広いダイニングテーブルに、ポツンと二人。

ちょっと、いやだいぶ気まずい。


とりあえず、ワインを開けようか。

冷えたスパークリングワインはもう寒いね。

常温の赤を開けてグラスに注ぐ。さっさと二杯分注いじゃって、片方のグラスをサイードに渡すと、軽く合わせた。


「コハルさん」


グラスが口につく前に呼び止められる。


「やっぱり飲む前に言いたい」

「うん」


グラスをテーブルに置く。

何となく手は離さないままだ。


サイードを見る。

あの日と同じに、サイードはしっかり私を見て、言った。


「知ってると思うけど、ずっとコハルさんが好きだよ。 

すごく好きだから、コハルさん、よかったら、結婚してください」


戸籍が欲しいなら結婚すればいいと言って、私に事務的だと言われたからか、わざわざ好きだからと言ってるし。


あの時は流れるように言ってたけど、今はきちんと意識して告げているね。

緊張して切れ切れになっている。


やっぱりロマンスはあまり感じないけど、真っ直ぐ気持ちを伝えようとしてくれるのは好ましい。


「ごめん。色々ロマンチックな言葉も考えてたんだけど、真っ白になって吹っ飛んだ」


私の笑顔を何か勘違いしたようで、サイードはしょんぼりした。


ロマンスの欠片もないと言った事も覚えていたようで、あの日つっこんだ事を気にしているよ。

いや、男心というものは女が思っているより繊細なのかもしれない。


ごめんね、これで許してくれるかな。


「長い間お待たせしました。私もサイードが好きだよ」

















数多ある物語の中から、目を止め読んでくださってありがとうございました。


このお話、ザックリしたプロットでは二十話くらいで終わる筈だったんですよ。

お宿開業前が十話、開業してから十話、みたいな(笑)


とんでもありませんでしたね。

四倍・・・。

ここまでなるとは思いませんでした。

読んでくださった皆様のおかげです^^


ブックマークがついた時や感想をいただいた時はいつもとても嬉しいです!

誤字報告もありがとうございます!


長いお話にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました^^


もしも気に入ってくださったなら、次回作でまたお会いしましょう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。 [一言] 小春さんがクバードを選ばなかったのが意外でした。 いや、個人的には小春さんがサイードと結ばれたのは嬉しいのですが、小春さんはクバードが好みだみたいな事…
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