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二日後、本日魔獣保育園の開園で~す♪
さっき、アディルとイゼルが嬉しそうにやってきた。ルルはアイシャに抱っこされて寝んねしていたよ。
私たちはお宿で朝食の給仕やら後片付けがあったから挨拶の顔を見ただけだったけど。
母屋に着くと、さっそく魔獣さんたちと遊びだしたようで、キャッキャと楽しそうにするアディルとイゼル。
自宅とそう変わらないと思うけど、場所が変わると新鮮なのかもしれない。幼児でも。
アイシャが帰ろうと玄関に向かっても追ってもこなかったとか。
そりゃちょっと淋しいねぇ。
「魔獣さんにも言ってきたけど、アディルとイゼルをお願いします」
最後にそう言うと、アイシャはルルと家に帰って行った。
アイシャの職場復帰はもう少し先になったよ。
ルルがまだ五ヶ月だからだ。
フルタイムで復帰するのは、卒乳(ってこっちでも言うのかな?)して離乳食になる二~三ヶ月後になる。それまでは家で内職の続きをする事になった。
それでも、上二人がいないだけでかなり仕事がはかどるわ♪と、アイシャは嬉しそうに言っていた。
仕事だけじゃないと思う。やっぱり一人で三人を見るのは大変だったろう。魔獣さんたちがいてくれたとしてもね。
少しは心に余裕ができたらいいな。
アイシャは一人で頑張りすぎちゃう子だから。
あれ?ライラは?とお思いの皆さん。ライラだって授乳中じゃない?と。
ライラは魔獣さんと新居にいたんだけど、なんせお宿と徒歩一分も慣れていない。授乳の時はシリンがササっとあげに行ってたし、お客さんのいない日中はおんぶをして仕事をしたりもしてた。帳簿つけなんかね。
そんな風にして、職場復帰したシリンは魔獣さんとうまくやってたけど、今日からライラも母屋でお姉ちゃんたちと一緒にいる事になった。もちろん時々様子を見に行くよ!
魔獣保育園が始まって少し経った頃から、ユーリンはつわりに苦しむようになった。
今までアイシャもシリンもつわりらしきものがなかったから、妊婦にはそういったものがあると忘れていたよ。
というか、経験した事がないからまったく頭になかったというか。
そういえば妹たちにはあったような~…。
かなり昔の記憶を引っ張り出す。
下の妹は初めての妊娠の時、食べられずにずっと寝ていたな。あれはひどかった。
ユーリンのつわり具合がどんなものかわからないけど、この世界の人は我慢強いので(なんせ働かなくちゃ食べていけないからね)ユーリンは青白い顔をしながら働いている。
ムリしないで欲しいけど、本人は産休までは働く!と決めているようだ。
この世界の妊婦さん事情はアイシャの時に知ったけど、ホワイト企業のうちで働いているんだから、当然の権利を使ってもいいのになぁ。
しかたない。私にもあるように、この世界の人たちにもこの世界の観念がある。
赤ちゃんを第一にと約束させて、働けるうちは働いてもらう事にする。
季節は冬からすっかり春になった。
ユーリンのつわりは続いているけど、シリンにもつわりが始まったよ!
二人目の妊娠だ!おめでと~~!!
本人たちはおめでたい表情じゃないけどね!
二人してひどい顔色だ。
あれ?でもライラの時はまったくつわりはなかったよね?ユーリンにつられたのかな?
ほら、気持ち悪いのってもらっちゃうじゃない?(汚い話でごめん!)
それとも…。
お腹の中の子の性別が違うのかな?
たしか妹にはそういう違いがあった。
という事は…。
いや、確実ではないし、言わないでおこう。
生まれた時にわかる楽しみをとっとかなくちゃね♪
ちなみにユーリンの出産予定は八月。パパママと同じ誕生月だね♪
シリンは十月。お姉ちゃんとちょうど一歳違いだ。
母子共に健康で、無事に生まれておいで♪
あんまりつわりがひどいので、二人は夕食の支度が終わると上がらせる事にした。
夫たちに労わってもらいながら休んでおくれ。
その代わり活躍してくれるのがナスリーンとポーラだ。二人とも十二歳になって、その頃のユーリンとシリンと同じくらいには働けるようになってきた。
ユーリンとシリンはお宿を始める前から教育していたし、ここに住んでいるから一日中働いていた。通いの子と一緒にしたらいけない。
二人は十分戦力になってくれているよ。
働き者だし、気働きもできる。おもてなし精神もしっかり理解しているし、うちの従業員にバッチリだ♪
今までより帰りが遅くなっちゃうのが心配だったけど、うちに来ている冒険者の誰かか、サイードが送ってくれる。
いつの間にやら暗黙の了解? ありがたい。
娘二人も遠慮せず気持ちよくお礼を言っている。いい子たちに来てもらえてよかった。
ダリアさんにも感謝だ。
そうそう!春と言えば、エラムの旅行代理店も開店?開業?して一年になった。
シリルとの連携もあって赤字もなくうまくやっているみたい。よかったわぁ。
驚いた事に、というか、聞けば納得なんだけど、卒業したらエラムと一緒に働く事になっているローラは、すでにお手伝い?広告塔のような事をしているらしい。
お茶会や夜会なんかにシリル殿下と出席して、さりげなく会話の中に会社の宣伝を入れているんだって!
天使のような美少女が、妖精さんのようなドレス姿で(天使か妖精かどっちだよってね!)楽しそうに旅行の話をする…。
そりゃあいい宣伝効果になるよね!
これは絶対シリルの戦略だな。
シリルは一番効果的な方法を考えて行動する、リーダー脳の持ち主だ。
自分やローラの見た目のよさをいかして宣伝に使う。アイドルや美人女優さんをCMに起用するのと同じだね。
これ、外国にも宣伝しに行くとかありそうだわ~。元々外国からの誘致を狙ってるもんね。
ローラを連れていくなら、ローラが危ない目に合わないようにしっかり頼むよ!
今度来たらよくよく言っておかなくちゃ!
ついでにその観光地、(去年の成果だけど)夏には避暑地への行き帰りや、秋になってからもたくさんのお客さんにいらしてもらえたとか。
その避暑地もしっかり集客する魅力を作ってあって、例年より賑わったとの事。
宿屋も繁盛しているって。
魔獣さんたちも頑張ってくれてるんだろうなぁ。特に足湯が大好評らしい。
まぁね。あぁいうのはこの世界にはなかったものだろうし、斬新だろう。
お料理も喜ばれているって。
うちのように、すっかり和食ばかりではないけれど、お醬油ベースのステーキソースが好評だとか。
私の持っている質のいいお醤油やその他調味料なんかは、シリルと契約していて、観光地や避暑地の宿屋に卸しているのだ☆
エラムの旅行代理店を含め大きなくくりでの観光業、このまま上手く軌道に乗せて安定した集客ができるようになればいいね!
手を抜かず、心を込めておもてなしすれば、きっとお客様には通じる。何度も来たいと思ってもらえるようにしっかりね!
みんな、がんばれ!!
季節は春から初夏へ。
初夏というか、もう夏のようだなぁ。
六月になって、長かったユーリンのつわりもやっと落ち着いてきた。
それまで食べられなかったから、後姿だけ見たらとても妊婦さんには見えない細さだ。前から見たらちゃんとお腹はでているけどね。
ユーリンのつわりが終わったと思ったら、シリンも落ち着いたてきた。
ユーリンより軽くすんだのは二人目だからかな?
つわりが終わったら食欲も出るだろう。
二人とも、今まで食べられなかった分も栄養のあるものをたくさん食べておくれ♪
そういえば、六月か…。
ここに来て丸六年になるんだなぁ。
四年目くらいまではしんみりもしたけれど、五年目の去年は観光地の宿屋の皆さんの教育実習なんてもんがあって忙しく過ごしていたし、その後も上手くいっているか気になって物思いもしていられなかった。
今年はユーリンとシリンのつわりに気が気じゃなくてやっぱり考えている暇はなかったし、つわりが落ち着いたこれからは栄養のあるご飯をいっぱい作ってあげなくちゃという気持ちの方が大きい。
たった六年しかたってないのに、こうして元の世界を思い出す事が少なくなっていくのかな。
淋しさも薄くなっていくのかな…。
それがいい事なのか、そうでないのかは、まだわからない。




