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年が明けて一月。

やっぱりエラムは帰って来てすぐに仕事に行ってしまった。それでも三日はいてくれたから、よしとしなくちゃね!


学生の時も滞在日数は短かったけど、さらに短くなったなぁ、なんて思ってはいけない。

淋しいなぁ、などと思ってはいけない。

私も元の世界では忙しく仕事をしていた。思い出せば気持ちはわかるってもんよ。


その代わり休み中ローラはずっといてくれる。毎年恒例の期間限定看板娘の復活だ。

でもそれも今年までなんだろうなぁ。


ローラは今年の九月で十五歳になる。成人だ。そして学校を卒業する。たぶん王都に残って、エラムと一緒に働くだろう。

旅行代理店が忙しくなれば、なかなか帰って来られなくなるかもしれない。

いや、商売繁盛はいい事だ。


まぁ、一応きいてみよう。


「ローラは今年の秋には学校を卒業でしょ。進路は考えてあるの?」

「うん。にぃにのところで働こうと思ってる」

「あっ、やっぱり?」


まぁそうだろうと思っていたけどね。

やっぱりこっちには帰ってこないかぁ。

ちょっと淋しいけど、兄妹力を合わせてがんばっていくんだもん、応援するさ!


「コハルさんには感謝をしているよ。私たちを学校に通わせてくれて、孤児にはありえない起業なんてものまでさせてもらった。

コハルさん、ありがとう。一度きちんと言いたかったの。

……本当はこういうのはにぃにが言う事なんだけどね!」

「本当だよ!エラムったら!いつの間にかローラがしっかりしちゃって!

泣かせないでよ。小春さんここ何年かで涙もろくなっちゃってるんだから!」


ウルウルしている私に、ローラが、年寄りくさい!と笑っている。

だけど君だってウルッとしてるじゃないの。


あぁ、子供が巣立つっていつでもちょっと淋しいねぇ。

おめでたい事なんだけどね!しかもまだ半年以上先だけどね!いっちゃナンだけど、すでに家からは出てるけどね!


「仕事が忙しくても身体には気をつけるんだよ。困った事があったらちゃんと周りを頼りなさい。もちろん私にも。君たちはみんな私の大事な子供なんだから」

「コハルさん!! ありがとう、ここにコハルさんがいると思うと心強いの。失敗してもまたがんばるって思えるの。コハルさんのおかげで強くいられるよ。きっとみんなもそう」


なんて嬉しい事を言ってくれるんだろう!

これって最上級の感謝状じゃない?


こっちこそ子供達には感謝しているよ。

私に母親のような思いを味わわせてくれて、子供たちと暮らせる充実した毎日を過ごさせてくれた。


私は元の世界でも充実した毎日を送っていた。

マイペースにお一人様を満喫していて、それなりに幸せだったから、この世界に来てよかったと心から思えるかと言ったら…、言い切れないけど。


でもここにしかない幸せはある。それはとても捨てがたいもので、元の世界に戻るか、この世界に残るかと二者択一を迫られたら…、きっとずいぶん悩むだろうと思う。


ローラとの会話は、改めてそんな事を考えさせられる事になった。




ローラが王都に戻って(ちゃんとエラムが迎えに来たよ!)やっぱり淋しい気持ちで過ごしていたら、上手くできているもので、神様がめちゃくちゃ嬉しいプレゼントをくれた!


何かって?


「コハルさん、心配かけてごめんね。私にも赤ちゃんがきてくれたよ!」


!!!!!


「よかったね~~~!!! おめでとうおめでとう!!!」


ユーリンと抱き合って喜び合った。

よかったね!ユーリンよかったね!!

あぁよかった!!


「ユーリンよかったね!おめでとう!」

「ユーリンおめでとう!」

「「ユー姉おめでとう!!」」


マリカとシリンとナスリーンとポーラも大喜びしている。


シリンはローラが王都に帰ってから職場復帰をした。

本当はもっと早く復帰したかったみたいだけど、人が多くても動きづらいしね。


取るつもりのなかった育休だけど、初めての出産は思ったより大変だったようで、シリンは勧められるままにお休みしていたのだ。

ただいま魔獣ベビーシッター大活躍中である♪


話を戻して☆


「ジダンには言った?」


愛妻家の夫より先に知っちゃ申し訳ない。


「うん。お産婆さんの(助産院って感じかな?)帰りに工務店によって」

「ジダンなんて?」

「そうか、って。でも真っ赤になってたから、めちゃくちゃ喜んでたと思う」

「そっか!帰ってくるのが楽しみだね!」

「「ね~!」」


その時を想像して、みんなで笑ってしまった♪




さてそういう事なら、今夜のメニューは変更だ!お祝い御膳にしちゃおう♪


「夕ご飯はユーリンも上がってジダンたちと食べてね!みんなでお祝いはまた別の日にするとして、とりあえず今日のお祝いは今日しなきゃ!」

「私たち、今日は残ってユー姉の代わりをします!ね?ナスリーン」

「もちろん!ぜひ使ってください!」

「ありがとう…」


ポーラとナスリーンが嬉しい事を言ってくれる。

ええ子や~!思わずギュッと抱きしめちゃう!


「二人ともありがとう!帰りは誰かに送ってもらうからね。あぁその前に、残業の事を親御さんにお知らせしなくちゃ!」


とまぁ急な変更も、慌ただしくなった料理の支度も全然苦にならないよ!

おめでたい事ってアドレナリンが大放出されるのかもしれない(笑)


ちなみに残業のお知らせは、厨房に顔を出したセリクが引き受けてくれた。


うちにくる冒険者の面々は、当たり前だけど、うちや温泉に入る前に必ず私たちに顔を見せて行く。

まぁそうしてくれなきゃ、夕ご飯の数がわからないっていうのもあるんだけどね☆




ユーリンのおめでた報告から数日。

今日はお宿のお休みで、毎度何か話す事があるならこの日だと、アイシャたちにも来るように声をかけておいた。


ちょっと考えてた事があるんだな。

夕ご飯を食べながら私は話し始めた。


「今のところは子供が四人。ユーリンのところにもできたし、この先まだ増えるかもしれないでしょ? 

そこで、保育園というか託児所というか、そういうのがあったら子供の事を気にせず働けると思うんだ。


あ、保育園とか託児所っていうのは、私の生まれ育った国にあった、きちんとした責任者のいる、小さい子を預ける施設の事だよ。

ここでいうなら、日中のライラのアレ(魔獣さん預かり)ね。

親の身で、君たちそういうのってどう思う?」


みんな、私が話した事を考えているようだ。


「そうしたら私は、今よりもっと働けるわね」

「アイシャ…」

「きちんとした責任者って?」

「そこはい~い適任者がいるじゃない♪」

「魔獣さん!」

「当たり♪」


みんな納得の表情だ。


魔獣さんたちは子供好きでアディルたちについていってしまったくらいだ。

当然シリンたちの家にも出張しちゃってる。隣だけど。

子供達も魔獣さんたちには懐いていて、すでに実績もある。


「場所は?」

「ここでいいんじゃない?アイシャ達が使った続き間にベッドもあるし、そこでお昼寝もできる」

「私たちはいいけど、アイシャが送り迎えになっちゃう。大変じゃない?」

「往復を考えたら一時間の早出か…」


アイシャとテオスが考え込む。

う~ん。


「朝の送りは夫婦で交代にやればどうかな? それにアイシャ、大変かもしれないけど、毎日お風呂に入れるよ。子供達も毎日お風呂に入れられるよ」

「ここでいい!というか、ホイクエン?お願いしたい!」


アイシャの即答に、ちょっと笑ってしまった。


子供が小さいうちは、母親は内職が多いらしいけど、一日中家に閉じこもって家事と育児と内職は心配だったんだ。


送り迎えの時に一人になれる時間って、短くても大事じゃないかと思う。運動にもなるしね。

入浴だってリフレッシュになる。特にアイシャはお風呂が好きだし。


「俺もお願いしたい。なんかいっぱい世話になっちゃいそうだけど」


愛妻家のテオスがそう言うと、みんなも続いた。


「私もホイクエンいいと思う。私はもう魔獣さんに見てもらってるけど、子供が増えた方が子供同士が楽しそう」

「シリンがそう言うなら俺も賛成」


「私もそう思う。魔獣さんは見えないけど、アディルとイゼルは楽しそうにしてるもんね。安心して任せられるわ」

「魔獣さんとは、もうずっと一緒に暮らしてるようなもんだからな。俺もいいと思う」


という事で、魔獣保育園の開園が決まった♪



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