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アイシャの二週間後に、シリンとナルセの初めての赤ちゃんも誕生した。
ライラと名付けられたこの女の子も可愛い!
めちゃくちゃ可愛い!あ~、可愛い!!
メロメロだ。 …ダメばあちゃんの自覚はある。
二人とも男の子じゃなかったからちょっとだけ残念だけど、どちらも可愛いからよし!
男の子はまた次回に期待しよう♪
ちなみに、アイシャは上二人を産んだ時と同じく母屋にいるけど、シリンは母屋のお隣に建てた新居にいる。
そっちにもちゃんと魔獣さんたちがいってくれてるよ。ありがとね!魔獣さんたち!
そういえば、子守り分の魔獣さんたちっていつの間に増えたんだろか?
なんせ魔獣さんたちは見えないからなぁ。
増えた魔獣さんたちとも雇用契約せねば!
うちは誠実なホワイト企業なんですから☆
赤ちゃんは可愛い。
アディルもイゼルも(私の目には)まだまだ赤ちゃんだし、子供はみんな可愛い♪
毎日の仕事の疲れも癒されるよ~。
デレデレのニコニコだ。
まぁ家の中は大騒ぎだけどね!
そんな日々が続いていたけど、のん気にしていられなくなったかも。
ユーリンだ。
お宿での仕事中、じっと考え込んでる時がある。
家の方だとアイシャとシリンがいるから見せる事はないんだけど。
気を付けているんだろうなぁ。
子供を産んでいない、それどころか結婚もしていない私に、何ができるかわからないけど…。 ユーリンに元気になってもらいたい。
どうやったら元気になってもらえるだろう…。
元気とまではいかなくても、気持ちが楽になれるくらいでもいい。
元の世界でこういう時に気持ちが軽くなれる事、何かなかったかなぁ…。
なんて数日色々考えていたけれど、経験がないからか、いい考えなんて浮かばない!
いいかげん考え疲れた!こういう時はリフレッシュだ!
いつもと違う事をしよう!と、女子会をする事にした単純な私。
まぁナスリーンとポーラの歓迎会にもなるしね。
アイシャ達が町の自宅に帰っちゃったから、彼女たちが使っていた続き間が空いている。
ナスリーンとポーラが泊まってもOKだ♪
泊りになるので、ちゃんと二人の親御さんには了解をもらってあるよ!
こうして、お宿の休業日の夜に女子会を開催した♪
未成年の二人は果実水、大人の私たちはお酒で乾杯をする。
「二人の歓迎会だよ。遠慮しないで食べなさい♪」と言われても、遠慮がちに食べているのが可愛い♪
お酒ね、これがまたマリカもユーリンも強いんだ。
お酒は強い方だと持っていた私だけど、同じか、マリカ姉さんには負けているかもしれない。
まぁそんな風にして、美味しい料理と美味しいお酒、楽しいおしゃべりに、女子会は夜更けまで盛り上がった。
朝が早いから、当然夜も早よから眠くなる。
見習い二人は寝落ちしてしまった。
酔った私とユーリンを残し、マリカ姉さんは後片付けに立ってくれている。
毎度すまないねぇ。ありがとマリカ!
グラスに残ったお酒をチビチビ飲んでいると、ユーリンの声が小さく聞こえた。
「コハルさんありがと。わざわざこういうの…、私のためだよね」
「まぁね! 大事な娘のためだもん」
誤魔化す事なく堂々と言う!
ユーリンは噴出した。
「コハルさんのそういうとこ好きだよ!
……他の人にもわかっちゃってるかなぁ」
「どうかな? アイシャとシリンはそれどころじゃないだろうし、男子チームは鈍いしね。
マリカ姉さんは気づいてるかもだけど」
「そっか…」
言葉が途切れた。残りのお酒を飲む。
「なんで私だけ子供ができないんだろって、ちょっと焦った」
「うん」
「私も赤ちゃんほしいなぁ」
「うん」
「ほしいよぉ」
「うん」
すぐ飲めるように持って来てあるキャリー様から、冷えたスパークリングワインを出してグラスに注ぐ。
「私の生まれた国ではね、子供は天からの授かりものって言われてたよ。夫婦に一番いい時に、神様が授けてくれるんじゃないかな。
って、私も産んだ事ないから偉そうに言えないけどさ」
「偉そうなんて思わないよ。でも、一番いい時って…、二年たってるのにまだなの?」
私は、う~んと一息ついて
「ユーリンとジダンにはまだなのかもね。
私ね、私が君たちのところに来たのも何かのご縁と思うんだ。
簡単にいう訳じゃないよ?そう聞こえたらごめんね。
出会いとかご縁って、やっぱりその人に一番いいタイミングで訪れるんじゃないかって、私は思ってる」
「コハルさんもそうだったの?」
それについてはどうなんだろう。私も謎だよ。
正直に言う。
「私の方としてはわからないけど、ユーリンたちやばーちゃんにとってはバッチリなタイミングだったよ。
今となっては私もこの生活に生きがいを感じているしね!私は君たちが大好きだよ♪」
「そういう事、真面目に言うんだもん。こっちが照れるよ!」
まぁ私たちもコハルさんが大好きだけどね。
なんて照れながらも言ってくれるユーリン。
愛いヤツめ♪
「ありがと、コハルさん。すっかり気にしないって事はできないと思うけど、もう少し、一番いい時を待ってみるよ」
「うん」
言った通り、すっかり気にしないって事はできないだろう。
でも色んな考え方もあるって思えれば、少しは気持ちも軽く…、なれるかな…。
なれたらいいなぁ。
大事な大事な娘が、元気に幸せでいられますように。
女子会の後、少しだけ吹っ切れたようなユーリン。
十一月になって、今年もお客様感謝デーの時期になった。
早いもので、今年でお宿は五周年だ。
五周年!改めて思うとほんと早いわ!
日々のお掃除やメンテナンスのおかげで、建物はまったく古びれず美しい佇まいのままだ。
ありがとう!魔獣さんたち!
スーさんの結界のおかげで危ない目にも合っていない。いいお客様ばかりご来宿いただいて、クレーマーもいない。
お客様皆様にはご満足いただけているようで、お礼や労いの言葉をいただく。
やりがいのある仕事ができて、こちらこそありがたい。
今年も心を込めて、お客様に感謝を伝えよう!
という意気込みはあるけれど、やっぱり準備という準備はない。
大量のカレーとシチューを作るくらいなので☆
ご飯も大量に炊いておく。炊いたら魔獣さんに、食べごろ温度で保温してもらう。
お客様がいらっしゃる前になったら、キャリー様の中から、これまた大量のパンも出しておく。これは大皿に盛ってラップをかけておけばオーケー。
冷えたお酒も出しておいて、魔獣さんに飲み頃温度で保冷してもらう。
どれもこれも大量に用意して、注文が入ったら怒涛の給仕の開始だ。毎年の事だけどね!
今年も準備万端だ☆ さぁこい♪
毎年思うけど、あっという間の二日間だ。
「五周年おめでとう」の言葉をたくさんいただいて、今年も大盛況のうちにお客様感謝デーが終わった。
「「お疲れ様~!」」
「「乾杯~!」」
めちゃくちゃ疲れたけど、私たちはやり切った感でテンション高く乾杯をする。
感謝デーはこの五年間、変わらないスタッフだ。
あ、今年はシリンがいないか。
それと産後のシリンと赤ちゃんと一緒にいるようにって、ナルセもいなかったわ。
その抜けたシリンの代わりは二人補充されているから大丈夫♪
いつもは夕食の支度が終わったら、遅くなる前に帰す二人だけど、感謝デーの二日間は親御さんの了解をもらって残業してもらった。
帰りはお宿で過ごした親御さんと一緒だ。女の子だからね!安全は大事!
ナルセの代わりはルナがやってくれた。
ルナは今でも五歳児のサイズなんだけど、なんせ力はある。
大盛カレー皿とビールの入ったグラスを乗せたトレーも危なげなく持って歩けるのだ。
お客様たちもルナには慣れていて、気にする事もなく注文していたよ。
五年の間に家族構成も少し変わったなぁ。
これからも変わっていくんだろうな…。
どう変わってもいいわ。
ずっとずっと、みんなが元気で幸せなら♪
さて、お客様感謝デーが終わると、今年も残すところあとひと月だ。
そう思うようになっているよ。習慣ってすごいね。
年末にはエラムとローラが帰ってくる。
エラムは仕事がらみだけどね。そしてきっと数日しか滞在しないんだろうけどね!
ちょっと淋しいけど、それももう慣れたし、何より商売繁盛はいい事だ。
一日でも家族が揃うって幸せな事だよね♪




