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エラムの会社やシリルの観光業が順調に始まって、季節はすっかり夏になった。
更におめでたい事は続いた。
アイシャのところに三人目の赤ちゃんができたのだ♪
しかもシリンのところにも!ダブルでおめでたい!!
出産予定は、アイシャが九月、シリンが十月だって。
今度はどっちかな~? アイシャのところが女の子二人だから、次は男の子も抱っこしてみたい。
う~ん。元気に生まれてくれればどっちでもいいか!
なんて祝福モードの中。
表情には出さないし、偽りなく祝っているんだけど…。
ユーリン、元気がないなぁ。
と、気づいた。
強気な彼女はみんなの前でけっして元気のない姿は見せないけど、そういうのって何となくわかる時があるじゃない?
まぁ年の功とでもいうんでしょうか、母目線とでもいうんでしょうか。
赤ちゃんかぁ…。
ユーリンとジダンは結婚して、この夏でまる二年になる。
まだ二年。もう二年。
アイシャが三人目で、後から結婚したシリンが先に妊娠っていうのは、気にしちゃうのかもしれない。
とはいえ、こればっかりは授かりものだからなぁ…。
私は子供を産んだ事はないし、(その前に結婚もしてないけどね!)子供が出来ない悩みというか、思いはわからない。
子供好きで、結婚はしなくていいけど子供はほしいなぁ、なんて思った事はあったけど、思っただけだもんね。
デリケートな問題だ。
ユーリンから何か言われるまで見守ろう。
それから、いつものように日々は過ぎていき、九月になってアイシャは出産に備えて里帰りして来た。
というか、動き回る子供たちに、おちおち産んでもいられないって感じだよ!
ちなみにアディルは二歳半、イゼルはもうすぐ一歳になる。
これがもう、めちゃくちゃ可愛いいの!
きっと子守り係は争奪戦だろう。
魔獣さんたちもデレデレだね!見えないけど!
動き回るといっても、甥を思い出すとそこはやっぱり女の子。男の子より大人しいと思われる。
お宿の方には来ないし、仕事を邪魔する事もない。
魔獣さんたちが上手く遊んでくれているのだろう。魔獣さんたちありがとね!
一月違いだからだから当たり前だけど、アイシャと同じくシリンもだいぶお腹が大きくなってきてるなぁ。
アイシャが帰って来たのはいいきっかけだ。
シリンを産休に入らせよう。
この世界にはない産休。でも私の当たり前の感覚で、うちには産休・育休があるのです!
とはいえ、きっとシリンは育休はしないだろうな。産休でさえためらっていたし。
その辺は本人に任せるか。あまりこっちの考えばかり押し付けてもよくないよね。この世界にはこの世界の当たり前があるんだし。
それに、うちには安心して働ける魔獣保育園があるしね♪(笑)
という訳で、シリンの代わりを募集しなければならない。
やっぱ求人はこういう時の定番、冒険者ギルドに依頼を出すのかな?それとも、別のどこかかな?ハローワーク的な?
なんて話をしていたらジダンが
「コハルさん、うちのおかみさんから、ちょうどいいのがいるから、よかったら見習いにやとってくれないかって言付かって来た」
あらダリアさんから?
というかジダン、求人の話してくれてたんだ?
「どんな子?ジダン知ってる?」
「ナギーブ兄さんとこのナスリーン。それとナスリーンの幼馴染の子だって」
ジダンさんや、ナギーブ兄さんって誰よ?
ナスリーンって名前的に女の子と思うけどいくつよ?!
聞けば、ナギーブ兄さんとは工務店の先輩で、ナスリーンはその人の娘さんだそうだ。
工務店の皆さんはお宿の建築の時に来てくれてたと思うけど、話してないから名前を覚えてなかったわ。(失礼!)
来年早々十二歳になるし、まぁちょっと早いけど、ダリアさんはどこかで見習いをするならうちがいいと思ったそうだ。
まぁね、うちは働く人に優しいホワイト企業だからね!
ナスリーンの幼馴染という子も、この年末には十二歳になるそうで、二人は仲良しだから人手が足りないなら一緒にどうかと添えてくれたという訳だ。
見習いからなら二人でも一人分にもならないもんね。
そういえば、と思い返す。
お宿を始めた時はユーリンとシリンは十二歳だった。それでも何とかやってこれたんだ。
その子たちの適正や性格なんかもあるだろうけど、真面目に一生懸命働く気があるならいいんじゃないかな。
「ナスリーンって真面目に働きそう?」
「真面目に働かないヤツなんていないよ。でもまぁ、性格は悪くないと思う」
ナギーブ兄さんの子にしては。とつぶやいたのは聞かなかった事にしてあげよう。
「ならいっか。みんなはどう思う?」
女子チームの顔を見渡す。
「ダリアさんのお薦めなら大丈夫でしょ」
「いいんじゃない」
「私もいいと思う」
こうしてシリンの産休要員は決まった。
あ、見習いとして雇うならシリンの産休が明けてもそのまま雇用続行か。
まぁいいか。これからまだ何度か産休はあるだろうしね♪
返事をした次の日から、さっそく二人はやってきた。
ジダンの先輩の娘さんのナスリーンは茶色の髪に灰青色の瞳、その幼馴染のポーラも茶色の髪に、瞳は明るい茶色。二人ともその年頃の平均的な身体つきをしている。
ユーリンとシリンのその頃を思い出す。
懐かしい。
「ナスリーンです。今日からよろしくお願いします!」
「ポーラです。よろしくお願いします!」
元気のいい挨拶だ。
きちんと挨拶ができるのはいいね!
「このお宿の女将、小春です。急がなくてもいいから、しっかり覚えて真面目に仕事をしてください」
「「はい!!」」
その後、マリカとユーリンとシリンも挨拶をして、新体制のお宿業務が始まった。
当たり前だけど、スタッフの制服は間に合わなかったので、しばらく二人は私服で働いていてもらった。
何日かして、やっと届いたお揃いの制服を着た時の二人ったら!
誇らしそうな顔が可愛いかったわ♪
これでお宿の一員になった!という顔になったのはちょっと驚いた。
制服ってそういう効果もあるんだね。
こうしてお宿に新メンバーは増えたけど、また別の新メンバーも増えた。
アイシャに三女が生まれたのだ♪
ルルと名付けられたこの子も、上二人に負けずとっても可愛い♪
生まれたてでも可愛いんだもんなぁ。
アイシャ似の三姉妹は将来モテそうだ。
小さいお姉ちゃん二人は、生まれたばかりの妹に興味津々で、、、めっちゃ怖い!
二歳半と一歳の、加減を知らないちょっかいにハラハラする!!
きっと魔獣保母さんもハラハラしているだろう。がんばってください。
三人の出産ともなると慣れるものなのか、一週間もするとアイシャは落ち着いたように見える。
とはいっても一月はゆっくりしていきなさいと言ってあるけどね!
産後の肥立ちとかって言葉があるし、やっぱり出産って身体に大きな負担がかかるでしょ?
それにこれから三人の子育てが始まるんだもん。産後くらいは頼ってほしい。
まぁその心配は軽くなったけどね。
子供好きな魔獣さん三人?三匹?が、アイシャ達が自宅に帰る時についていってくれたのだ♪
それはアイシャが出産して一月、そろそろ自宅に戻る頃、ルナが魔獣さんたちの頼みを伝えてきた。
ちなみにまだ人語は話せない。念話だ。
『魔獣が子供たちについていきたいといっている』
「あらま。魔獣さんが子供たちについていきたいといっているって。
私は賛成だよ。アイシャとテオスはどう?」
「え…」
二人は考え込んだ。
先に返事をしたのはテオスだ。
「俺はお願いしたい。アイシャの負担が減るし、子供達も懐いているから」
「テオス…。 うん、私もお願いします」
「だって!よかったね、魔獣さんたち♪ 子供たちをよろしくね!」
見えないけど、何もない空間に向かって頭を下げた。
ちなみに、この子守り役も争奪戦だったらしい。
ほんと魔獣さんって子供好きなんだね~。
争奪戦に負けた魔獣さんたちも大丈夫!シリンにも赤ちゃんが生まれたから!
母のような、おばあちゃんのような、こんな幸せを味合わせてくれた子供達には感謝感謝だ♪




