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その後、見えるようになった事を早く父さんに知らせたい!と、お風呂から上がったリマ様は、自分で身体を拭いてお宿の部屋着も一人で着た。

足取りもしっかりしているし、やっぱり視覚の効果ってすごいね!


ふと、洗面台にある鏡を見て驚くリマ様


「映っているのはリマ様ですよ。それは鏡という、姿を映すものです」

「これが…、私…」


生まれた時から目が見えなかったリマ様は、すべての物を見た事がない。

これからたくさんのものを見て知っていくんだね。楽しそうだ♪


まぁそれはいったん置いといて。

自分を見る事はそこそこに、リマ様はサーム様の元に急いだ。


「父さん!」


引き戸を開け大きく呼びかける、と、サーム様は目の前にいた!かなりびっくりしたよ!

だけどオロオロしている様子に、私たちの泣き声が聞こえていたんだとわかった。


心配させてすみません。と思う私とは別に、リマ様は初めて見るお父さんに声を震わせた。


「父さん…。父さんなのね…」

「リマ? …おまえ、目が?」

「見えるよ! 父さん、長い間苦労をかけてごめんね!今までありがとう!」

「リマ! リマ!よかった! よかった…」


父娘は抱き合って喜びあっている。さっきの私たち同様大泣きしながら。


サーム様、リマ様、本当によかったですね! 

それからスーさん、本当に本当にありがとう!!


邪魔者は、そっと離れを下がった。




あれからしばらくの後、様子見とお祝いのワインをもって離れに行った。


二人は少しは落ち着いたように見え…、いや、やっぱまだ喜びまくっている。

そりゃそうだよね。二十年諦めていた奇跡が起こったんだから。

今夜は眠れないだろうなぁ♪


ちなみに、見えるようになったのは温泉効果という事にした。

寿命も元々のリマ様の時間で尽きるようになっている。この先、リマ様とスーさんが会う事はない。

半魔になった事は、リマ様と私とスーさんだけの秘密だ。




一夜明けて翌朝。

馬車で一日かかる隣町まで帰るお二人の出立は早い。この町の出勤するみなさんと同じ時間だ。

最初の頃のエラムとローラが乗った、(今ではシリルの馬車で行き来してるからね)王都までの駅馬車に乗って帰るという。


いつものようにスタッフ一同揃ってお見送りをする。

リマ様が見えるようになった事は知っていて、みんな笑顔だ。


「ではサーム様、リマ様、またのお越しを心よりお待ちしております。お気をつけて、いってらっしゃいませ」

「「お気をつけていってらっしゃいませ」」


お二人は、初めてこれを聞く他のお客様と同様、ちょっと驚いた。それから


「お世話になりました!みなさん、ありがとうございました!」


リマ様は、しっかり私たちを見てそう返してくれた。

父娘は嬉しそうにお帰りになっていったよ。




おめでたい事って続くよね!

その後、王都のエラムのところにいる連絡用魔獣さん経由で、シリルが正式に観光大臣に叙任したとお知らせが来た。


シリルおめでと~!

ずっと準備をしてきた君の目標に向かってがんばれ!!


ちなみに、四月で成人するエラム。彼も学校を卒業なんだけど、卒業と同時に旅行代理店を立ち上げる事になっている。


エラムもずっとシリルと一緒に下準備をしてきたからね。

シリルが観光大臣、エラムが旅行代理店。

まったく仲良しだなぁ。


気が合うのか、ご縁というのか、二人は生涯の相棒になったよ。




さて、その四月。

観光地の宿で働く予定の料理人が実習にやって来た。

いや、実習ってあなた。私より年上もいるじゃないの!教えづらいわ!!


皆さんすでに料理人として働いている人たちばかりなので即戦力だ。

それでいて、封建社会にありがちな(イメージ!)男尊女卑な態度もなく、きちんと私を先生として接してくれている。

年上のお兄さんも(渋いおじ様☆)年功序列の社会だろうに年下と見下したりしない。


皆さん、シリルの理想や情熱で選ばれた面々なのだろう、全員が真摯に取り組んでいるよ。

実習は実戦というか、一緒にお客様のお料理を作っている。

私が何となく覚えていた旅館のコース料理に、みなさんとても感心していた。感激している人までいる。

日本のおもてなしの心ってすごいね!


シリルは革新的で、女性料理人も作ろうとしているようだ。

実習に来る人たちの中には女の子も何人かいたので、お料理とは別にお菓子も教えてみた。

パティシエールだ♪


お菓子を教えるのは、魔獣さんたちへのお給料があるからね!

お客様にお出しする以外にも、お菓子は大事なのだよ☆


うちでの実習が終わると、料理人さんたちは宿が開業するまで自主練になる。

腕がなまらないように毎日練習してください♪




料理人たちが終わると、料理人以外のスタッフの教育実習になる。

基本の言葉遣いから接客態度、お客様に気持ちよく過ごしてもらうためのおもてなしの心を教える。


心って難しいよね。見えないものだし、人それぞれの感じ方もあるし。

だから実際にそうされて嬉しい事、ありがたい事を実感してもらったりした。


お掃除スタッフには、骨の髄まで日本人の小春さんが徹底的に教え込んだよ!

最初の頃の子供達や、ナディムさんのように、皆さん「ここまで!」と驚いていた。


ここまでです!そしてこれは毎日です! 

そこ!げんなりしない!


そこまでする必要があるのか?と思っていたスタッフも、数日清潔な部屋で過ごせば、これは悪くない。 いや、いい。 いいどころか、これは上等なおもてなしだ! と実感してくれたようだ。


百聞は一見に如かずというけれど、実感も何にも勝るものだよね♪


こうして宿の開業まで、こちらも自主練を宿題にして、実習は終わった。


みんながんばれ♪ 

みんなの働きに、この国の観光業の未来がかかっているよ!




教育実習のあい間に、連絡用魔獣さんからエラムの旅行代理店が無事開業したと、嬉しい知らせが届いた。


思えば四年以上前、エラムが十歳の時に学校に行く事を勧めた時に、起業の話もしたんだっけ。


孤児には選べる職業のないというこの世界。

下働きに行った先で一生安く使われるだけなんて事もざらだそうで、日本人の私からしたらとんでもない雇用形態だよ!

それでも仕事につけるだけいいとか…、哀しすぎる。


という訳で、エラムのこの起業は大変喜ばしい事だ♪

エラムは優秀な成績で商業学校を卒業したしね!

バックには王子様がついてるしね!

まずは、会社を軌道に乗せたら一安心だ。


最初は少人数で始めていくと慎重なスタートだけど、一緒にやっていく店員は(旅行代理()ていうんだから店員でいいのかな?)エラムとシリルの厳しい目をクリアした優秀な人材だ。


家を継げない、こういっちゃ言葉は悪いけど、商家で余りものの三男、四男の子たち。

下の子がどんなに優秀でも世襲するのは長子だけ。次男以下はなんにももらえないという、これまたこんな時代の哀しいお家事情。


余りもの扱いされてきた人が、人柄や才能を認められたら、そりゃあやる気になるよね!

みんなで力を合わせて、ぜひ会社を大きくしていってちょうだい!




その後、観光地も開業?したと知らせが届く。

シリルが一番初めに話してくれた計画通り、観光地には元々美しい自然がある場所を選んである。更にその景観が見栄えするように改良したり、遊覧できる施設を作ったり、滞在中飽きずに楽しめるように作ってあるよ。

街中や各場所に行くまでの道も舗装したし、馬車移動も楽々だ♪


宿の方も順調に開業したって。

うちに実習に来た料理人さんたちや仲居さんたちは張り切って仕事をしているらしい。

きっと魔獣さんたちも大活躍しているね!見えないけど☆


ゆくゆく大勢さんの宿泊を見越して、宿は大型に建ててある。

そこはうちとは違うけど、サービス内容は同じだ。

お客様は皆様、まず足湯に驚かれる。

うちにお泊りに来られた事のある客様は、説明なしでさっさと楽しんでいるそうだけどね♪


お料理も同じくで、すでに発明ギルドに申請してある直焼きできる陶器のお皿は世に出回っているし、問題なく陶板焼きもできるよ!


土鍋は季節がらまだ出番はないな。

目の前でお鍋とか暑いし!

この世界というのか時代にエアコンなんてものはないからね。


とまぁ、そんな感じで今のところ順調にいってるらしい

がんばれシリル。がんばれ観光地で働く皆さん!



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