59
日参を初めて五日目。
渡りの冒険者を調べてもらえるよう頼んでから一週間以上たっている。依頼とは違って、記録を調べるだけなのでお金がかからない。お金がかからないものは優先順位が低いのだろう。何なら、面倒くさくてやる気にならない、とかね。
本来タハミーネ様のような身分のある方は、人でも物でも自分で探す事はない。使用人に探すよう命じるだけだ。指示する事が身分のある人の探し方というか。
しかもお嬢様がわざわざ自分から冒険者ギルドに出向くなんて事もないだろう。
だけど私はタハミーネ様に、自分の身体を使って探したという実感をしてもらいたかった。
まぁ、正確には探している訳ではないけどさ。
だって聞いていると、渡りの冒険者を探し出す事ってかなり厳しいんだもん。
いや、厳しいどころか無理だろうと思われる。まぁ無理を承知で始めたんだけどさ。
かなり高い確率で探し出せないのなら、タハミーネ様にはやり切った感をもってもらいたい。
諦め前提は嫌だけど。一番は探してる人に会って御礼を言う事だけど。
私としては、タハミーネ様の愁いをなくす事ができたらオーケーだ。
それには頑張って探したという行動と、探せなかったというギルド職員さんの生の声を自分で聞いて、納得する事だと思う。
という訳で、冒険者ギルドに日参しているんだけど、危惧していた面倒くさい事がおこったよ。
「あんた可愛いね~。貴族のお嬢さんってほんと?」
四人組の、見かけない男の子たちが声をかけてきた。
ウロウロしている三流の子たちより、もっと三流臭がする!
すかさず騎士さんが間に入る。
「お前には関係ない事だ」
「お前こそなんだよ。ここは冒険者ギルドだぜ。よそ者が偉そうにするな」
あんたたちこそ見ない顔だよ!
私はタハミーネ様をかばって前に出た。
「俺らお嬢さんと話したいだけなのに、そんなのも護衛すんの?」
「お前がどう思おうと、お嬢様が話したくないなら排除するまでだ」
へらへらしている男の子たちに、生真面目に答える騎士さん。
「排除だってよ~。なに?俺ら汚いもんだっつーの?」
なんという型通りなチンピラ感!!
この、まったくのやられキャラに、思わず笑いそうになったよ!
私が笑いをこらえていると(そんな場合じゃないんだけどね!)ギルド職員さんがカウンターの中から出てくるのが見えた。
とりあえずホッとすると
「何をしている」
地を這うような低音が聞こえた。
あら、クバード。
目の端に、職員さんはカウンターの中に戻っていくのが見えた。
クバードにお任せですか。
「なんだよ。関係ねーだろ!おっさんは引っ込んでろよ!」
「俺らとそいつらの話だよ」
ドンッ!!!!!
と、空気が重くなった。
クバードさんや、私たちもいるんですが?
「な、なんだよ…」
「おい、あいつ。いや、あの人…」
「もしかして…、あの、クバード? さん?」
絡んできていた男の子たちは、オロオロソワソワしだす。
「クバード、いいところに来た。君の後輩?たちは、ずいぶん失礼だよ。先輩、このままでいいの?冒険者の信用にかかわるんじゃない?」
チクッと言いつけてやった☆
クバード! 本物!
男の子たちは青くなったり赤くなったりしている。
「すまない。嫌な思いをさせたな。
おい、お前ら」
「「はい!!」」
「一緒に来い。少し指導してやろう」
ニヤリと悪どい顔で笑ったクバードは、かなりカッコよかった。
「「ひゃい!!」」
男の子たちはビビってるけどね!
「じゃあコハル。後で行く」
「うん。待ってるわ」
そのまま男の子たちを引っ立てて出て行こうとするクバードに、タハミーネ様が慌てて声をかけた。
「あの!」
クバードたちの足が止まる。
「あの…、もしかして…」
タハミーネ様は言い淀んで、言葉が止まった。
「いえ…、ありがとうございました」
クバードがわずかに頷いて、振り返らずにそのまま出て行った。
「タハミーネ様?」
「いえ。お身体が…、あの方に似ていたので。緑の瞳もあの方と同じでしたし。
…でもあんなに目が垂れていたかしら?もっと鋭かったと記憶しているのですが。
……たぶん違う人ですね」
納得するようにつぶやいている。
「そうですか。冒険者ならあのくらいの体躯は珍しくありませんし、緑の瞳の人もたくさんいますね」
というか! あんなに目が垂れていたかしらって! 吹き出しそうになったよ!
タハミーネ様ったら。クバードはあの垂れ目がいいのよ♪
「そうですね…」と残念そうにクバードを見送っていたタハミーネ様。
探している冒険者さんが見つかるといいなぁ。
さて、そんな事があったその後は、もう私たちに絡んでくる強者はいなくなった。
クバードやアゼルたち、Aランクの鬼教官?から教育的指導をうけたあの四人組を見て、ウロウロしていた子たちまで震え上がったとか。
冒険者の教育的指導、怖っ!!
それからも日参して、顔見知りになってきたギルド職員さんから「まだわかりません」と同じセリフを聞き続ける。
たまには市井のお店でお昼ご飯を食べたり、市場によって色々な屋台を見て歩いたり、探し人以外にも気持ちを持っていけるよう、お嬢様には経験できないような事をしている。
行き帰りは歩きだしね。たった二~三十分の歩きでも、馬車移動のお嬢様にはなかった事で、しかもそのくらいの運動は体力作りにも役に立ったようだ。
身体を動かすようになったタハミーネ様は食欲も出て少しだけ太ったし(まだ全然細いけどね!)行き帰りに日を浴びたおかげで肌色も健康そうになった。
ギルドにお願いをしてから二週間ほどが過ぎた。
少しだけど色々な経験をして、ものの見方や考え方が変わったタハミーネ様は、少しずつ気持ちが変わってきたようだ。
「あの方に会って直接御礼を言う事は叶いませんでしたが、わたくし、家を継ぎましたら治安を良くしていこうと思います。盗賊など犯罪者がでないよう、貧困をなくし領内を豊かにしていこうと」
「立派な心掛けです」
見た目と、中身も健康になってきたけれど、何より目指すものができた事は大きな指針となって、心が安定したように見える。
そうして、タハミーネ様の中で一区切りがつき、ご自分の行く末の目標ができた頃には、お宿に来てから一月が過ぎていた。
「コハル、世話になりました」
「お健やかになられてよかったです。またいつでもいらしてくださいね」
もうすっかり夏の陽気になったある日。
避暑地に向かう途中に迎えに立ち寄ったご両親と、タハミーネ様は一緒に旅立っていった。
こんなに長く接していたお客様はいなかった。見てわかるほど健康になってくれたのは嬉しいし、やっぱりちょっと特別に思っちゃうよね。
いや、お客様はひいきしないけどさ!
タハミーネ様、どうぞお元気で!
◇◆◇◆◇◆
「何度見てもすごい傷跡だな。それでよく死ななかったよな」
いつものように、コハルたちの家の裏にある温泉に入っているジダンとクバードとアゼルとナルセ。
傷だらけの中でもひときわ目立つ袈裟懸けの切り傷は、古いものといっても今でも十分痛々しい。
「悪運だけは強いんだろう」
「いやぁ、悪運だけじゃ助からないだろ」
クバードがどうでもいいように言うと、ナルセは呆れたように言った。
「よかったのか?」
アゼルが何か言いたそうな顔をしているが、クバードはかまわず湯をすくって顔を洗う。
クバードとアゼルはそこそこ長い付き合いだ。年も近くランクも同じという事もあって一緒に依頼を受ける事も多い。一番親しいといえば親しい間柄だ。
「面倒事はごめんだ」
「まぁな」
それに。一応礼も言われたしな。




