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「わたくしが不健康に見えていますか?」と、問いかけたまま、じっと私を見ているタハミーネ様。

真剣すぎる瞳に、きちんと答えねばと言葉を選ぶ。


「失礼を承知で申し上げますが、ご来宿された時はそのように見えました。

ですが、こうしてお話しさせていただいているうちに、最初に感じた不健康な方ではないのではないかと思うようになりました。

タハミーネ様は芯のしっかりとした、きちんとされているお嬢様と思います」


タハミーネ様は表情を緩めた。そして少し困ったように


「見た目は…、たしかに痩せすぎていますものね」

「はい」


そこは否定できない。ちょっと笑って肯定する。


「ですが、わたくしは病気という訳ではないのです。 

……どうしようもできない事があって、それがずっと心にあって…。心残りというのでしょうか。ただ、ずっと心が晴れないのです」

「それであまり眠れなかったり食べられなかったりするのですか?」

「…そういう事もあります」


ほぉほぉ。

ちょっと聞いた感じ、恋の悩みのように思う。この年頃には多いだろうし。

だけど貴族の娘さんでもそういうのってあるのかな?結婚は家同士のなんちゃらとかって…、まぁ物語の知識だけど!


「コハルは不思議な人ですね。上手く言葉にできなくて、今まで誰にも話した事はありませんでした。 

今コハルに話して、自分でも自分がどう思っていたのかがわかりました」

「よかったです」


タハミーネ様は、スッキリした綺麗な笑顔で言った。私も笑顔で言う。


「それで、タハミーネ様はその思い悩んでいる事を、どうしたいですか?」

「どう? …したい?」

「はい」


タハミーネ様は、どうしようもできない事、と言った。

それをどうにかしようと頑張ってから、やっぱりダメだったと納得するか、きっぱりとムリだと諦めて受け入れるか。

未練があるままは辛いよね。


それに、もしかしたらどうにかなるかもしれないじゃない?どんな事かわからないけどさ。


「…コハル。…どうにかなるものでしょうか?」


頼りなくそう言って、タハミーネ様は話し出した。




四年ほど前、タハミーネ様はお母様と一緒にお母様のご実家に向かっていた。

お母様の父親、タハミーネ様にとってお爺様の危篤の知らせのためだった。


お母様は大国から嫁いで来ていて、ご実家までは距離がある。途中盗賊などの心配から護衛は多くいるけれど、まぁ安心安全といえる旅はこの世界にはない。


タハミーネ様は意識のあるお爺様に会えたけれど、残念ながらその後お爺様はお亡くなりになった。

そして葬儀を終えてキトルスへの帰り道でそれはおきた。盗賊に襲われたのだ。


襲ってきた盗賊はこちらの護衛の倍はいたようだった。馬車の中で震えながら死を覚悟していると、どのくらいの時がたったか、外の喧騒が静まっていた。


気丈な侍女が確かめに外に出る。タハミーネ様も窓から外を窺った。

盗賊は全員倒せたようだけど、こちらの被害も相当で、二人だけがやっと立っているように見える。倒れている何人が生きているのかもわからなかった。


ふと、立っている一人と目が合った。

鋭い目つきだけど綺麗な緑色の瞳。

記憶に残ったのはその色だけだった。


その後、安全な場所への移動や、盗賊や、こちら側の被害など事後処理が続いて、子供の自分は邪魔にならないようにしているしかなかった。

そのうち迎えに来た伯爵家の馬車に乗せられてキトルスの自宅に帰って来てしまった。


御礼を言ってないと、後になって思い返す。

命を助けられた感謝を伝えたいと父親に言うと、護衛には自家の騎士の他、冒険者も雇っていて、その者はどうやら渡りの冒険者らしく、(もう一人は自家の騎士で御礼が言えた)すでに居場所も分からなくなっている。働き以上の謝礼をしたので、これ以上の礼には及ばないと言われ、そこで終わってしまった。


「命を助けられたのです。わたくし、どうしても直接御礼を言いたい…」


涙ぐんだ瞳は真摯で、色恋のような甘さはない。

恋の悩みではないのだろうか?いや、野次馬的なものじゃなくて真面目に。

このお年頃の恋愛のパワーって相当なものがあるじゃない?


まぁ何にしても心のうれいがなくなるなら、出来る限りお手伝いするけどさ。


「タハミーネ様、その人を探してみましょう。冒険者は、それはもうたくさんいるでしょうから、探し出せるかわかりません。ですが、やるだけやったと思えれば、きっと今とは違った気持ちになれると思うんです。いかがですか?」


タハミーネ様は、え…とつぶやいた。


「探す…? どうやって?」

「それは一緒に考えましょう!」


探す…。


もう一度つぶやいて、タハミーネ様の瞳に強い光がともった。


「わたくし探します。何もしないで終えるのは、もういやです」

「はい。お手伝いします」




冒険者は、この大陸中に星の数ほどいるという。それこそ、この東の地から、大国を超えた西の地まで、大陸中に散らばっている。


渡りの冒険者というなら一か所に留まる事はないだろう。大国を超えて、こことは真逆の、戦のある西の地域にいる可能性もある。そっちの方面になったら探しようもない。

四年も前の事なら、言い辛いけど、すでに生きていない可能性もある。


というような事を冒険者ギルドで聞いた。

思っていたより過酷だな!

タハミーネ様は青ざめている。私もグッときてるよ!


とりあえず、四年前にバーニア伯爵家(タハミーネ様の家名)の護衛依頼を受けた冒険者を調べてもらう事にした。


あとは…。


「渡りの冒険者って、探せないもの?」


毎度お宿のお休みの日の夕食の席で、冒険者のクバードとナルセに聞いてみた。

他に話さないでね!と口止めをして、逗留中のお嬢様の願いを話す。


「渡りは難しいな。一ヶ所にいてもいつ死ぬかわからない稼業だ。渡りなんざいつ死んでいるかもわからんだろう」


クバードが淡々と言う。

そういえば、彼はあちこちの国を渡り歩いてきたと聞いたことがある。


「四年も前の事じゃなぁ…。去年の事だって記録が残っているかわからないよ。冒険者の数は多いし、依頼も多い」


ナルセも言う。

こんなに小さな田舎の町でも(私は知らないけど、そうらしい)そういう認識なら、そうなのだろう。


そんなぁ。困ったぞ。

とりあえず、冒険者ギルドからの連絡を待つしかないか。


大国にいって(タハミーネ様たちが盗賊に襲われたのは、大国領だった)調べるには移動に日にちがかかる。私はお宿を離れられないし、タハミーネ様も勝手に遠出はできない。

行くなら親御さんの了承を得て、その時と同じに護衛も大人数つけてと大事おおごとになるだろうし。いや、了承は得られないだろうなぁ。


あとは…。冒険者ギルドの返事次第で、その渡りの冒険者を探す依頼を出す事しかないのだけれど、タハミーネ様は個人でお金を持っていない。お金を持たされているのは侍女さんだ。

ちなみに宿代は前金でいただいている。


私も現金はあまり持ってない。お宿の利益からお給料はあるけれど、お菓子やお料理の試作のためにほとんど消えているからね。

塩やコショウを売ってまでタハミーネ様を手助けするのは違うと思うし。


まぁ考えているより行動だよね。

ギルドだって忙しいだろうから、三日ほど待って、お願いした冒険者の調べがついたか聞きに行った。まだだった。


それから毎日通っている。

やっと、ほんの僅かな希望が見えたタハミーネ様はソワソワと落ち着かないし、それとちょっとは催促のため☆




貴族のお嬢様が毎日町の冒険者ギルドに通う。タハミーネ様が美少女な事もあってけっこう目立つ。

町に滞在している護衛の騎士さんたちが交代で送り迎えしてくれてるから危険はないけど、なにしろ目立つ。


私も一緒に行くから、ギルドには午後に(一番人の少ない時間帯)行くんだけど、美少女のタハミーネ様にお近づきになりたいのか、貴族にお近づきになりたいのか、まだまだ三流っぽい(失礼!)若い男の子がウロウロしている。


仕事はどうした!

若いんだからしっかり働きなさい!


お互いに牽制し合っているのか、今のところ近寄っては来ないけど、これ、面倒くさい事になるかもな。と思う。


冒険者の方々にもうちのお客様が多いから、小春さんの連れにちょっかいを出す事はないと思うけど。護衛の騎士さんがいるからめったな事にもならないとも思うし。


と思ったのがフラグだったのか、まったくよくできているよね!

面倒くさい事になったよ。




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