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八月になった。
今月はジダンとユーリンのお誕生日があって、ユーリンは十五歳になる。成人だ。
そしてジダンと結婚する。二重におめでたい♪
しかしアイシャもユーリンも、成人と共に結婚…。早くない?
日本でいったら二十歳って事でしょ?大体の子はまだ学生だよ。
働いてる子もいるけどさ。でも働きだしたばかりなら、まだ結婚は考えられないよね。
あ、でき婚なら年に関係なくいるか。
まぁ世界が違うし。子供たちが幸せならそれでいい♪
私は全力でサポートしていくだけだ。
当日の朝は、アイシャ達の時と同じくジダンとユーリンは二人で教会に結婚の届けを出しに行った。
ジダンはもちろんお祝い休暇だ。ユーリンもね!お宿が休みなんだから当然だけど!
宴会も同じくお昼からにする。
二人は今日から新婚さんだけど、なんせ新居はそのままうちだ。
今日くらいはと、今夜はお宿にお泊りする。
宴会は夕方まで続く予定だけど、まぁ適当なところでお宿の方に行っておくれ。
その宴会、前回と違うところは、アディルが増えている事(アディルが小さいうちはアイシャは内職になっているから、二人は参加できる)テオスがいないという事。
テオスのところのご主人とはそれほど親しくないからなぁ。
ジダンのとこの親方のようにはいかないか。
残念!
でもまぁ、毎度大人数での楽しいお祝いの宴になった。
みんな心から祝っているし、この世界では数少ないイベント事だ。全力で楽しむ♪
お誕生日席に座った二人はとても幸せそうだった。
ユーリンはプロポーズが成功した時と同じくらい笑顔が輝いているし、ジダンも、喜びを抑えているような微妙な顔だけど、みんなちゃんとそれがわかっている。
微笑ましい視線を向けられて、ジダンはますます仏頂面になっていったよ。
まったくもぉ!
結局二人は宴会がお開きになるまで一緒にいて、それからちょっとぎこちなくお宿に向かっていった。
ぎこちなくは、もちろんジダンね。
ユーリンは夜食をつめたカゴを持ったり、自分たちの歯磨きセットも持って行ったりする。
しっかりしてるなぁ。ジダン頑張れ!
入れ違いに仕事終わりのテオスがやって来て、おめでとうは言えたみたい。
その後ご飯を食べて(ちゃんと取り置きしてあるよ!)お風呂に入って、アイシャとアディルと、冒険者一同と帰っていった。
幸せそうなユーリンとアイシャを見て、シリンがいいなぁ♪ という顔をしていたからか、なかなかおもしろいものも見られた。
ソワソワと何か言いたそうなナルセ。
みんな見ないふりをしているけど、バレバレなのが可愛らしい。
でも今日はジダンとユーリンのお祝いの席だもんね。
タイミングは今日じゃないよ!後日がんばれ!!
とまぁ、こうして幸せな一日は終わったのだった♪
ちなみにその後日、シリンのお誕生日がある十一月になった。
三ヶ月も開いちゃってるよ!ナルセ頑張れ!!
その十一月。
シリンの成人と、お宿の三周年がある。二重におめでたい♪
もちろんお祝いは別々にする。毎年そうだしね。
お宿の三周年はお客様に感謝して、今年もしっかり盛大に盛り上げよう!
大きなイベントがあると、それが終わるまで忙しないからね。終わってからゆっくりシリンとアゼルの(アゼルも十一月生まれ)お誕生日を祝う事にする。
お誕生会は月一で、その月生まれの人をまとめて祝う事にしているのだ♪
さて、まずはお客様感謝デー!
リクエストにより毎年同じ内容なので準備という準備もない。
三回目のお客様感謝デーも皆様に喜んでいただいて滞りなく終わった。
いつもありがとうございます!
また来年も無事感謝デーができるように、ますます頑張ります!!
そして感謝デーの翌日は、お宿の休業日。
二日間の疲れはあるものの、今日はシリンとアゼルのお誕生会だ。
シリンは成人でダブルでおめでたいし、アゼルは三十歳で節目の年?だ。
こっちも盛大に祝おうではないか!
いつものように、大量の料理の支度はナルセとセリクが手伝いに来てくれる。
ナルセがわかりやすくソワソワしてるんだよね~。
成人男子だし、手出し口出しはいけないとわかってるけど、はがゆい!!
私ってこんなにお節介おばちゃんだったかしら。
「あ。ワインクーラーがお宿に置きっぱなしだわ」
「取ってくるね」
「ごめん!ありがと~!」
シリンがお宿に向かう。いつもならユーリンも一緒に行くんだけど、今日は動かない。マリカも知らんぷりだ。
「あぁ、一つじゃ足りないかなぁ。二つか三つあった方がいいかも」
「じゃあ俺も一緒に取ってくるよ」
ナルセ、声が裏返ってるよ…。
ナルセを見送ってから三人を見る。
「わざとらしかった?」
「うん!笑いを堪えるの大変だったよ!」
「まぁナルセは自分の事でいっぱいいっぱいだからわかってないよ。大丈夫」
ユーリンが笑いながら言うと、マリカが親指を立てた。
「でもシリンの気持ちはどうなんだろう?ナルセ振られなければいぃんだけど」
セリクが心配そうにつぶやいた。
私たち三人は、セリクを見る。
「な、なに?」
「鈍い!」
「セリク、女心わかってないね~」
「うんうん。自分の時に苦労するよ」
マリカに叱られ、私に呆れられ、ユーリンに意見させる。
「えっと…、という事は、大丈夫って事?」
鈍いかもしれないけど、セリクは頭の回転は悪くない。私たちの言葉でシリンの気持ちを察したようだ。
「さぁね…。こればっかりはナルセしだいかな~」
「だね~」
数分後。
相変わらずソワソワ落ち着かないナルセに、これはダメだったかと女三人こっそりため息をついた。
それを見たセリクは何故かキョドキョドして、ナルセと二人でかなりうっとおしかったよ。
ちなみにシリンだけど、それまでと変わらず。
彼女は意外とポーカーフェイスができるからなぁ。内心は分からないけどね。
まぁ、ご馳走は出来たし、みんな集まったし、お誕生会を始めようか!
次の日、シリンが見慣れない髪飾りをつけていた。
「あらシリン、可愛い髪飾りね。」
「昨日ナルセにもらったの」
シリンがはにかんだ!
可愛い!!めちゃくちゃ可愛い!!
じゃなくて! ナルセいつの間に!! やるじゃないか~!!
私たち三人は一瞬思考停止したけど、すぐに祝福と労いの拍手を送った。脳内で☆
「すごく似合うよ」
「よかったね」
「ありがと♪」
シリンは嬉しそうに笑った。
ところが、これでめでたしめでたしという訳ではなかった。
ナルセったら「誕生日おめでとう」と言って、プレゼントを渡しただけだったんだって!
告白は~?! 私たちはガックリした。
いや、まぁ。その人のペースというものがあるけどね…。
アイシャとユーリンが早かったからって、みんなそうではない。
黙って見守ろう…。
さて、お客様感謝デーが終わるとすぐに十二月だ。あっという間に年末になる。
今年も一年早かった。
年を取ると時間が過ぎるのが早いというけど、ほんとにそうだなぁ。
年末といえば私の年一のお楽しみがある!
エラムとローラとシリルが帰ってくるのだ♪
しみじみ思う。こうしてみんな元気に過ごせて、お宿も大きな問題もなく繁盛している。
幸せだなぁ。日々感謝だ。
さあ!
今年のもう少しと、来年からも、明るく元気に前向きにがんばろう♪




