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スーさんは、夕食が終わるころには出来上がるだろうと請け合ってくれた。
はっ!そろそろ夕食の支度を始めないと本当にみんな帰ってきちゃう!
あぁ、でもその前に!
「それと!私の世界から持って来た洗濯洗剤とかお風呂で使うシャンプーとかの生活排水なんですが、こっちの世界ではないものなのでどうしたらいいでしょうかね?そのまま流しちゃうのもダメな気がするんですが」
『そうか。それならこっちに流せるようにしよう』
「え!いいんですか?!」
『なに、そこらのスライムにでも食わせよう』
スライム! スライム便利だな…。
「すみません。そういう事なら、私の世界のゴミもお願いしていいでしょうか?」
『かまわぬ。スライムなどいくらでもいる』
「ありがとうございます!では夕ご飯を作ってきます!温泉楽しみにしてますね~!」
こうして私は、ウッキウキのワックワクで家に戻って夕食の支度に取りかかった。
といってもメインは熱烈な要望で昨日に引き続きケン○ッキー。
育ちざかりは肉を欲しているんだろうなぁ。
とくに唐揚げなんて大好物だよね!
それから野菜たっぷりのスープと、パン。
和風の唐揚げならご飯にお味噌汁もありだけど、ケンタは洋風な味付けだもんね。和食はまた後日。
それと、今日は麦茶もたくさん作っておいたから飲み放題だよ!
夕方の鐘が鳴ると、順々に上の四人が帰ってきた。
「ただいま… ええぇぇぇ!何これ!うちだよね?」
「ただいま。あれ?(と言いつつ外に出て、また入ってくる) ……うち?」
「ただいま…(キョロキョロ見回す)」
「ただ… いま?」
と、四者四様なかなかいいリアクションしてくれるじゃないか♪
私も下の子チームも、ドヤ顔にならないでいられない。
ひとしきり驚いたり感動してくれた後は
「おかえり!手洗いうがいをしてきてね!そしたらみんなでご飯にしよう!」
まだ驚き顔の四人を井戸に追い立てる。
戻ってくる間に、昨日と同じく温めたケンタとパンを食卓に出す。
スープと麦茶も並べる。パンってスープだけじゃなくて飲み物もほしいよね。揚げ物もあるし。
夕ご飯は昨日に引き続き大絶賛だった。
私は二日連続揚げ物はちょっと…、なんだけど。
ちなみにケンタループは次の日も続いたよ。
さて!
ご飯の後は、待ち望んでいた入浴タ~イム!!
「それじゃあみんな、これからお風呂に入ろうね!」
子供たち八人の頭の上には、おふろ?と?マークが浮かんでいる。
今日だけで三回目だわ。
「お風呂とは、簡単に言うとまあ沐浴よ。ただし水をかぶるだけじゃなくて、髪や身体を洗って、お湯につかったりするんだけどね!」
今の時期が水浴びだけだからって、冬には(季節はあるのかな?)お湯を使うでしょ?つかるかはわからないけど。
「じゃあみんな並んで!これからタオルを渡しま~す!テオスは男湯用のシャンプー類も持ってね!」
私はキャリーケースからタオルを人数分と、ボディソープとシャンプーとトリートメントを二つずつ取り出した。男湯と女湯一つずついるからね。
ボディソープとシャンプーはファミリーサイズだから、とりあえず各湯ひとつずつあれば足りるだろう。
面倒くさがりな私は、二ヶ月くらいもつこのサイズを愛用しているのだ。
「さあ、温泉に案内するよ。ついてきて!」
みんな揃って裏の林を少し登る。 すると
おおぉぉぉ!!! あった!あった!!
本当に、地面に穴を掘っただけの粗野な造りだけど、露天風呂がふたつある!!
ひとつは二メートル四方くらいで、もう一つは倍の四メートル四方くらい。
でかっ!!壮観だな~! ただし…。
「何だこれ!」
「こんなのあったっけ?」
「昼間はなかったと思う!」
「なんでお湯がたまってるの?」
ぐるっと回って、みんなの視線が集まる。
「コハルさん、これ何?」
「これがお風呂だよ。本当は脱衣所とか洗い場とかあるんだけど…。今日のところはこれだけね!
まずは髪と身体を洗ったらお湯につかるんだけど…。 桶もないじゃないか!!」
オーノー!!
温泉だけを熱く語って、当たり前に付帯するその他の話をしていなかったよ!
脱衣所とか洗い場とか椅子とか桶とか、そんなの当たり前にあるもんだと無意識だった。
しかもしかも!!
ある意味一番重要な仕切りがない!!
これじゃあ一緒に入れないじゃないか…。
「色々足りてないから、今日は別々に入ろうね。先に男子チームが入っちゃって。今桶を持ってくるから」
「桶ならすぐ持ってくるよ!」
エラムが素早く走って行った。
「女子チームは後からでいい?久々の温泉、私ゆっくり入りたいんだ」
「いいよ~」
女子チームにはいったん家に戻ってもらう。
入れ違いにエラムが戻ってきた。
初めての入浴なら何もわからないだろう。
教えるべきだよね。一番年下のエラムにモデルさんになってもらう。
十四歳の(テオス)髪やら身体やらを洗ってあげる訳にいかないし、ジダンは小学生の年齢だけど(十二歳)テオスより大きな身体をしているからね。
エラムは丸裸の腰にタオルを巻いてスタンバイオーケーだ。
「じゃあ髪と身体の洗い方を教えるね。エラム、お湯をかけるから目を閉じて」
桶でお湯をすくってエラムの頭にかける。
「こっちが髪を洗う方、シャンプーね」
シャンプーを手に取ってエラムの髪を洗う。
どのくらい汚れているのか、全然泡立たないよ!
せっかく洗うんだからすっかりきれいにしたい!
結局三度洗いした。
「何それ、すっげー泡!」
テオスとジダンが驚いている。
三度目のシャンプーでやっと白いモコモコ泡がたっぷり立った。よしよし。
よくすすぎ流したら、次はトリートメントだ。
「シャンプーの次はトリートメントね。これをすると髪がしっとりツヤツヤになるんだよ。こっちは好みでいいけど、お勧めだよ」
男子はあまりトリートメントをしないイメージだけど、一応言っておく。
トリートメントも流したら、次は身体の方だ。
「最後は身体。これは、簡単に言うと液体石鹸ね」
タオルによく泡立てて、エラムの背中を洗ってあげる。
「あとは自分で洗えるね?こんな感じで髪と身体を洗ったら、そっちのお湯に入ってごらん。疲れがとれるよ」
エラムにタオルを渡しながら、こんなに若い子たちも疲れるんだろか?と素朴な疑問が浮かんだ。
「私はいったん戻っているから、ゆっくり楽しんでおいで」
まあ男の子の入浴は早いでしょうけど。
お湯につかる習慣もなさそうだしね。
しかし困った。脱衣所と洗い場がほしい。
あれじゃあせっかく洗っても、また足が汚れちゃうよ。
それと、椅子と桶もほしい。
これもスーさんに相談だな…。戻りながら考える。
あ。そうだ!たしかサンダルを買っていた。
ベランダ用の水濡れオーケーのタイプだから、履いた上からお湯もかけられてちょうどいいわ!
私は家に戻ってキャリーケースからサンダルを三足だすと、もう一度露天風呂に向かった。
ちょっと離れた場所から、いったんお湯の中に入るか前を隠して、と声をかけようとしたら…、不穏な声が聞こえた。
「おまえ、また増えたな」
「……」
「痛そう…」
「ほんと腹立つわ」
「しょうがないって。おれのこの面じゃな」
「しょうがなくないだろ!」
「何年かの辛抱だ。っていっても、面が変わらなきゃ変わらないか」
乾いた笑い声。
えっと…。温泉って癒されるもんだよね?
「おれ働きに行くの怖い…」
「どこもそうだって訳じゃないよ。でもまあ、俺たちみたいな孤児には世間は厳しいな」
おい!いじめか?ジダンいじめられてるのか?!
孤児には厳しいって、差別か?なにか差別があるのか?!
色んな差別は元の世界にもあったけど…。
私にはまだこの世界の?この国の?事を何も知らないけど!
子供が辛い思いをするなんて許せないよ!