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長期休暇で帰って来たエラムとローラ。

一緒に遊びに?来たシリルは、一週間ほどお宿で過ごしてから、年も明けないうちにエラムを連れて観光地候補へ旅立って行った。

やる事がいっぱいあるんだって。


ローラは残ってお宿の仕事をしてくれているよ。期間限定看板娘だ♪


お宿の仕事もだけど、今回はお腹の大きなアイシャがいる。

ローラは自分がいるうちに赤ちゃんが生まれてこないかな~と大いに期待している。


見たいよね!赤ちゃん!私も早く会いたい!

予定日は二月だし(何日までは言われてない)一月の終わりなら生まれても大丈夫なんじゃないだろか?

いや、出産経験がないから何ともいえないけどさ。

何より一番は、アイシャが無事出産をして、赤ちゃんも元気に生まれてくる事だけどさ!




一月のお誕生会。

アイシャのお腹はハラハラするほど大きいよ!

いつ生まれちゃってもおかしくないんじゃないの?!と、みんな落ち着かない。


「もうさ、里帰りしちゃいなよ。出勤はちょっと遠くなっちゃうけど、その分早く家を出ればいいんだしさ」

「そうね~」


かまいすぎ?ダメな母になっちゃってる?

だって心配なんだもん!!


「うちにいたら毎日お風呂に入れるよ」

「帰ってくる!」


お風呂でつってしまった。

アイシャも見事につられてるし。


「テオス、みんな心配してくれてるし、私もほんとの事いうと少ししんどくなってきてるの…。いいかな?」


もう帰ると言ってしまったけど、ちゃんとダンナ様にお伺いを立てる。

アイシャは可愛い妻だなぁ。


「しんどかったなら早くいいなよ!そういう事なら帰ってこよう。

みんな、しばらくお世話になります」


二人はペコリと頭を下げた。

こうしてアイシャとテオスは、予定より早く里帰り(というには近すぎるけど)する事になったよ。




久しぶりにみんなが揃った(エラムはいないけど)家はやっぱいいね♪


だけどそんな楽しい日々はあっという間に過ぎちゃうもので、一月も終わりになってきた。

赤ちゃんはまったく生まれる気配はなくて、ローラはかなり残念そうに王都に戻っていったよ。


次に赤ちゃんに会えるのは約一年後だもんね。一歳近くになってしまう。

それでもまだ全然可愛いと思うけど、生まれたての赤ちゃんではなくなっちゃうし、ローラはめちゃくちゃ誕生の場にいたそうだった。


とはいえその赤ちゃん、生まれたのは二月も半分ほど過ぎた頃だった。

そりゃあ一月には生まれない筈だよ!

魔獣さんで知らせると、ローラも諦めがついたようだった。


生まれた子は、アイシャとテオスのいいとこどりの可愛い女の子だ♪

元の世界で姪が生まれた時も嬉しかったけど、アイシャの子は、なんというか…、娘の子のような、違った嬉しさがある。


そんな初孫は(気分はすっかりおばあちゃんだわ。まだ三十五だけど!)私と一日違いの誕生日だ。

何か妙に嬉しい。これから毎年一緒にお誕生祝いができるよ!


と自然に思って、ふと気づいた。

これから毎年って…。

私、ずっとこっちの世界で生きていく気になっているのかな…?


こっちの世界に来ちゃってから、日々生きる事に一生懸命だった。

お宿を開業してからは毎日が本当に忙しくて、改めて数えてみたら、こっちの世界で二年半が過ぎている。


両親や妹たち、友達や会社の事なんかを思う。

それを失くしてしまって大丈夫かと自分の心に問うと…、やっぱり、すっかり諦める事はできない、かな。

何よりマンションのローンが一番気がかりだ。あれ、どうなっているんだろう…。


でもまぁそんな事を思っても、こればっかりは自分の力や意思でどうにかできるものでもないし、それにやっぱり日々の暮らしに追い立てられてクヨクヨ考えている暇もないんだよね。


アディルと名付けられた赤ちゃんはめちゃくちゃ可愛いし!

赤ちゃんは天使っていうけど、ほんと和むわぁ~♪

一対一でお世話をしている新米ママならとてもそんな余裕はないでしょうけど、なんせ私たちは五人もいる。とはいってもアイシャは大変だろうけどさ!




初めてのことばかりで大変ながら幸せに過ごして、アイシャが出産をしてからまた一月ほどが過ぎた。


アイシャとテオスは、出産前から合わせると約二か月ほどうちにいる。

もうこのままうちに住んじゃえば?とか思うけど、そんな訳にはいかないよね。

二人は親になった自立した大人だ。

アディルが一月たつと、三人は自分たちの家に帰っていった。


赤ちゃんがいる生活というのはとても賑やかで、それがなくなってしまうと、とたんに静かになってしまう。

やっぱり淋しいと思ってしまうのは、しょうがないよね。


う~ん。

元の世界では特に淋しいとも思わず、お一人様生活を満喫していたのに。

自分がこんなに淋しがりだったとは…、実感してるけど、やっぱりどうも自分の事ではないような気がしちゃう。


でもまぁ帰ったといっても三人は(入浴しに)二日おきには通ってくるだろうし、マリカは残ってくれてるし、ユーリンとジダンも残ってくれる。

この世界、この町の暮らし方としては、私は恵まれているよね!


それから何といっても、お宿の仕事が忙しい!

開業してから変わらずの大繁盛に、お客様に感謝だ。




春の終わりのある夜。

久しぶりにサイードと飲んでいる。


じつはアディルが生まれた時に思った事がずっと心にあって、普段は忘れているんだけど、ふと思い出したりしていた。


商売でよく人を見ているサイードは、そういう事に敏感に気がつく。


「コハルさん、久しぶりに飲みたい気分なんだけどつきあってくれない?」


そしてそんな風に誘って、私のためにって雰囲気を出さない。


まぁこっちはそれなりに経験を積んでいるいい大人だし、そういう気遣いはちゃんとわかるけどね。


ゆっくり飲みながら、最近の仕事の事や、アディルの可愛さなんかを話している。


この人は、本当にまったく何の圧もかけないなぁ。

圧というか、何か悩んでるの?話してみてよ。俺聞くよ。みたいな。


こういうのはいい。

話すか話さないか、気分次第というかタイミングというか。

全部私にゆだねられている。

こちら側に余裕をもたせてくれる。


サイードは、私が自分のいた場所から(別の世界とまでは知らないよ)魔法で飛ばされてきたと言ってある数少ない人だ。


だからちょっと弱音をいってもいいかな?

まぁすでに弱音大会をした事はあるけどさ。


「アディルが生まれた時、私が元いた場所に残してきたものを思った事があってね…。

それが気になっちゃって…」


脈絡もなく、唐突に話し始めても、サイードは黙って聞いてくれている。


「仕事は私がいなくても何とかなるけど、マンションのローンとか。親に迷惑かけてなかったらいいんだけど、とかさ…」


独り言のようにつぶやく。


「あっちのものを全部諦めて、ここで生きていく、覚悟とかさ…」


だんだん声が小さくなっていく。


続く言葉がなくて、グラスのワインを飲みほすと、サイードは黙ってグラスにワインを注いでくれた。


「コハルさんは何でか魔法でここに飛ばされてきたんでしょ?自分でどうにかできない事なら、悩まなくていいんじゃないかな。

……また元の場所に飛ばされるかもしれないし」


穏やかな、琥珀の瞳が優しく笑っている。


救われるなぁ…。


言葉もだけど、サイードの穏やかさは、いつでも気持ちを落ち着かせてくれる。


「でも俺としては、 ……まぁ子供達やお宿に来てくれている人たちもだけど。コハルさんにはずっとここにいてほしいけどね」


真っ直ぐにそう言ってくれた。

私の居場所を作ってくれる、その言葉にも安心する。


いつもありがとね、サイード。




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