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シリルがリアル王子様と聞いた時は驚いたけど、一目見た時から王子様だ!と二次元的な感動をしていたので、驚きは続かなかった。


日本には王様も王子様もいなかったし、皇族はテレビでしか見た事がなく、日本の教育の賜物で、人はみな平等という概念しかないんだよね。


高貴な方を敬うとか、ナニソレオイシイノ?とまではならないけど、なんというか…。

よその国の事というか、それこそ映画を見ているような感覚とでもいうのか。


経験した事がないから実感できないっていうかね。どうもよくわからない。

先生とか上司を敬う、というのとは違うと思うし…。


そもそも私、別の世界の人間だったわ。

ただのシリルとして接してほしいというならそうしようじゃないの。


「コハルは面白いな。王子扱いするなといわれて、そうした者はいない」


シリルは嬉しそうだ。


「エラムはちゃんと友達っぽいじゃないの。ローラも親しくしてるでしょ?」

「エラムもここまでなるのに一年かかった。ローラはエラムにつられてだろう」


そうなんだ。


たしかにシリルが王子様と知って、うちの子たちもクバードたちも、映画なんかで見たような、あぁいう態度で接しているわ。

慣れない敬語で話しているし、敬語が話せない人は一言も口を利かない。


うちの子たちはここに住んでいるからしかたないとして、アゼル達は来なくなっちゃったしね。

クバードはそれまでと変わらず来てるけど。

クバードは色んな国を渡り歩いていて、高貴な方の依頼を受けた事もあるし、経験した場数が違うとの事。


サイードは敬語が使えるからね。子供たちに教えながら、これまで同様通ってきているよ。

控え目にしているけどね。


この世界には王族とか貴族なんて人たちがいて、異世界ものあるあるの封建社会と思われる。

私にはわからないけど、身分が絶対とかっていう。


きっとみんな、そういうものを生まれた時から教え込まれていて身に沁みついているのだろう。

今まで見た事もなかった人に対して即座に反応できるくらいに。


魔王妃様に育てられたうちの子たちでもそうなんだもん。とはいっても、やっぱり少しアゼル達とは違うような気もするけど。


身分制度なんて授業でサラっと習った事しかないしね。そりゃあ私にはわからないわ。




シリルは気さくな王子様だった。

うちに来た翌朝、いつものように忙しく朝ご飯の支度をしていると、手伝う事はなかったけれど、働く私たちを面白そうに観察していた。

朝食は庶民と同じ席について食べてるし。

あ、昨日の夜もそうだったか。


そして


「美味しい!エラムの部屋で食べたものより美味しいな!聞いていた通りだ」


満面の笑みで言う。

朝からキラキラしているよ!王子様感が半端ない!

いや、本物の王子様だけど。


朝食が終わると、日課の家事だ。

ちなみにお宿営業日でも、皆様早出なのでほぼこの日課は変わらない。


「コハル、私も洗濯をする!洗濯機様が見たい!」

「あら手伝ってくれるの? じゃあエラム一緒に来て」

「うん」


やる気があるならやってもらおう。

庶民の生活を知るのも勉強だ。


「エラムに聞いて、洗濯機様をずっと見てみたかったんだ」


期待に満ちたキラキラした瞳だったけど、何の変哲もない、ただのたらいを見たとたん「これが?」と当惑したのに笑ってしまった。


でも水を入れて水流ができると「おぉ!!」と驚いて、キラキラが戻ってきた。

さすがリアル王子様。


「コハル、これはどういう仕組みになっているんだ?エラムに聞いたら、コハルじゃないとわからないと言っていた」


あらエラムったら。私に丸投げしたわね。

エラムを見ると、コハルさん頼む!と目でうったえている。


これ、魔獣さんのおかげって言っちゃって大丈夫なんだろか?

シリルは王族だし、国際問題?とか…、大丈夫かしらね?


なんてちょっと考えていると


「言えない事か? ……魔力は感じないが……。何か他の…、う~ん…、わからない!

しかたない。コハル、無理強いはしない。私に話していいと思えたら教えてほしい」


十一歳がこの発言!!

さすが王族とでもいうのか?上に立つ人は違うのかもしれない。

まぁいいか。別に悪い事をしている訳でもなし。


「たらいの中に、目には見えないけど水の魔獣さんがいるのよ。お洗濯を手伝ってくれてるの」

「魔獣?! 魔獣ってあの魔獣? 凶暴で人を襲う、あの魔獣?」

「まぁ、その魔獣。うち魔獣さんたちは全然凶暴じゃないけどね」

「凶暴じゃない魔獣…」


シリルは考え込んでしまった。


「ユーリン!シリン!ごめん、お洗濯お願~い!」

「「は~い!」」


二人と代わってもらって、シリルを連れてお宿に向かう。




「これ足湯っていってね、お客様がご来宿されたら、ここで最初におもてなしするの。シリル足を入れてみて?エラムも一緒にお願い」

「うん」

「アシユ? エラム…、素足を入れるのか」


二人は温泉に足を入れた。


「うぉっ! 何だこれは?! 何だか…、変な感じがする」


私とエラムはニヤリとする。


「その中にも、目には見えない魔獣さんが(スライムも魔獣だよね?)いるんだよ。足の角質とか水虫なんかを除去してくれるの」

「角質はよくわからないが、水虫を? 兄上も父上も皆困っている。実は私も少々。除去というのは、水虫が治るという事か?」


あぁやっぱり。

革靴生活の皆さんは苦労されてるんだなぁ。


「一回じゃ、ちゃんとは治らないかな」


私は足湯や温泉の効能や、同じ靴を履いたらまた症状がぶり返す事なんかを話ながら、離れに案内する。


離れまでの通路には灯り用の陶器が置いてある。


「明るいからよくわからないと思うけど。 火の魔獣さんたち、ちょっと灯りをお願い!」


言った瞬間、通路に並んだ陶器にさぁっと灯りがともった。


「わっ!これはすごい! ……魔法ではないのか?」

「魔法じゃないよ。…ん?あれ?魔法なのかな? でも私の魔法じゃなくて魔獣さんの魔力?だよ」


シリルはちょっと呆気に取られているようで、無言で離れまで続く灯りをながめている。


「魔獣さんたちありがとう!もういいよ! これね、暗くなってからだとすごく綺麗なんだよ」


灯りはパッと消えた。ありがとね!


離れに上がって、そこでも火の魔獣さんの室内灯や、風の魔獣さんの呼び鈴なんかを紹介する。

シリルはとても驚いて、とても感心していた。


「このお宿は、あっと、お宿だけじゃなくてうちの方もね、こういった魔獣さんたちの助けがあって成り立っているんだよ。 ね?全然凶暴じゃないでしょ?」

「うん、全然凶暴じゃない。昨日の夜も、部屋の中は城より明るかった」


おっ。そこに気づいてくれましたか!


「凶暴な魔獣もいるだろうけど、うちの魔獣さんたちみたく助けてくれるいい魔獣さんもいるよ。うちの魔獣さんたちとは雇用契約を結んでいてね、みんな働き者だよ!」

「魔獣と雇用契約!! ……エラムから聞いていたけど、コハルは思っていた以上に面白い人だ」


面白いは誉め言葉じゃないよなぁ…、と思ったけど、声には感心するような響きがあったから、まぁいいか。


面白いのは当たり前だしね。

だって私、この世界の人間じゃないもん。

考え方なんかは全然違うよね。


「異種族間だけどこうやって共存できるし、私はみんな仲良く楽しく暮らしていきたいんだ」


うちの魔獣さんたちはみんな働き者のいい子だよ!だから国際問題?にはしないでね!


「魔獣と共存……」


リアル王子様は呆然とつぶやいた。




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