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お客様感謝デーが終わったと思ったら、あっという間に今年も最後の月になった。
明日にはエラムとローラが帰ってくる。
淋しさに慣れる間もなかったなぁと、お宿の繁盛がありがたい。
今年はエラムのお友達も一緒にやってくるとの事。
ローラを護衛する魔獣さんをお願いした時に、ついでにこっちと王都の連絡ができる魔獣さんにも来てもらったのだ。
手紙や魔道具の連絡方法より確かで早い。
魔獣さんたちありがとう!
それにしても、一月も滞在する事になる実家に連れて来られるような、仲のいい友達ができたかと単純に嬉しい。
今回はお宿の仕事ばかりさせないで、お友達を観光に…、観光? する場所ってあるんだろか?
まぁ、あったら行けばいいし。なかったらないなりに、どうにかして遊べばいいわね。
さて!去年に引き続き、今年もエラム達が帰ってくる今日はお宿はお休み!
女子チームでご馳走を作って『エラムとローラお帰り&ようこそシリル宴会』開催だ♪
クバードたち六人(セリクも冒険者だからひとくくりね!)もいるし、十七人分の料理を作るのは大変だぁ。まぁお宿のご飯は作っているけどさ。
そこでこういう時の?男手。
うち専属のナルセと、セリクをお手伝いにお願いする。この二人は依頼料なんてなくても喜んでやってくる。
きっとクバードたちもそうだろうけど、ちゃんと一人前の賃金を得られる大の男をタダで使うのは気が引けるというか…。
いや、ナルセとセリクを安く見てる訳じゃないよ?
ナルセは専属契約をしてるし、何となく、ふぅ~ん♪という予想があるし、うちにいる時間が長いと嬉しそうなのだ。
セリクは長らくボッチだったから、呼ぶと単純に嬉しそうだ。自分に親しくしてくれる人の存在というものにまだ全然慣れてないけど。
一回の薬草の採取とご飯三食分は(せっかくだから朝からおいで!と言ってある)ご飯三食分の方が高額になるとか。
君、それで暮らしていけるのかぃ…。
心配になるよ。
ちなみにうちに来だしてから半年以上になるセリクは、ちょっとだけ太ってきた。太ってきたといっても、まだ普通以下の痩せっぽっちさんだけどね。
そんな訳で六人でワイワイご飯作りだ。
お宿のお料理も、お客さんに喜んでもらおうと楽しんで作っているけど、うち用のご飯というものは少々失敗しても、見た目が崩れても、美味しかったらOK!なところが気楽でいい♪
人手もあって、夕方には十七人が食べても満足するくらい大量の料理を作り終えたよ!
お疲れ様、みんな!
クバードたちは仕事を早めに切り上げて来て、先に温泉に行っている。
アイシャとの約束のために、彼女が入浴する前に入らなければならないからね。
ずっと律義に守っている。いい人たちだ♪
「遅くなっちゃったけど、ナルセとセリクもお風呂に行っておいでよ。ごめんね、ちょっと忙しくなっちゃうね」
「全然!今日は汚れてないし、ささっと入ってきちゃうわ」
ナルセはさっさとお風呂に向かう。
「セリクも早く行きなよ」
マリカが追い立てる。ちょっと強引なくらいじゃないと、セリクは遠慮しちゃうんだよね。
マリカ姉さんの出番だ。マリカの方が年下だけど。
二人が行って、私たちは料理を盛ったお皿をテーブルに運んだり、フォークやコップや取り皿なんかを準備する。
元々大きなテーブルはあったけど、度々こんな風に大人数でご飯を食べる事が増えて、それ一つでは足りなくなった。
足を折りたためるタイプの大きなテーブルを一つ作ったよ。
椅子も折りたたみのタイプを人数分作ってある。
今回シリルの分も追加で作った。完璧♪
お風呂から上がって来たクバードたちは、そのテーブルと椅子をセットしてくれている。普段はたたんでしまってあるからね。
何も言わなくてもやってくれる。気が利く男はもてるよ!
用意が終わった頃
「ただいまー! わー!うちだ!うちだー!」
大喜びのローラが飛び込んできた。
「ローラ~~!!おかえりーー!!」
「「おかえり!」」
三ヶ月ぶりのローラを抱きしめる。
「ただいまー。こっちはシリル。学校でよくしてもらってるんだ」
後からエラムとシリルが…、わぉ。
また綺麗な男の子ねぇ!
エラムは王子様みたいだと思っていたけど、シリルはまんま王子様だ。金髪碧眼の正統派!
いやぁ~、エラムとローラと三人で並ぶと眩いわ!
おっと!
「初めましてシリル。遠いところをいらっしゃい。ゆっくり楽しんでいってね」
「初めまして、シリルです。お世話になります」
ニッコリ。
はぁう!
王子様スマイルだ!エラムと一緒なら十一歳の筈だけど、王子様はお子様でもものすごい破壊力だよ!目がチカチカする!
とにかくまぁ…。
『エラムとローラお帰り&ようこそシリル宴会』を始めますか♪
シリルには大人数の宴会になる事は伝えてもらっていたけど、やっぱり十七人も一緒に食事をする事に驚いていた。
そのうちのほとんどが大柄な男たちだし、自分より年上ばかりだしね。
それでもまったく緊張したり遠慮したりがないのは、お金持ちのお坊ちゃんだからだろうか?
セリクの方がよっぽど緊張して遠慮してるよ!
人数に驚いたシリルだったけど、予想通り料理にも驚いていた。
「エラムの部屋で食べさせてもらったものも美味しかったけど、これはすごい!」
全種類、興味深そうに食べている。
エラムとローラが「これも美味しいよ! こっちも食べてみてよ! これは~~でね!」と勧めたり説明したりする。
君たち、ゆっくり食べさせてあげなよ。
まだ一月近くいるんだし、これからずっと食べられるよ。
「冷たいミルクがこんなに美味しいなんて知らなかった! あれも美味しそうだ…」
いや、あれはお酒だからね!
「成人したら飲ませてあげるよ」
「約束ですよ!」
興味津々で可愛らしい。この子も利発そうだ。
エラムと気が合うのはこういうところなのかもしれない。
宴会も終わり、クバードたちは帰っていき、サイードとうちの男子チームが温泉に行く。
いつもは仕切りがあるから男女一緒に入浴タイムなんだけど、今日はお客さんがいる。十一歳とはいえ、まぁうちの女子チームから見たら同年代。時間をずらして入る。男子チームは出るのも早いしね。その間に後片付けをする。
「コハル!なんだあの温泉は!露天風呂なんて初めて入った!素晴らしい解放感だった!石鹸を液体にしてあるのも使いやすくていい!トイレも衛生的だし、それらを作ったのはコハルと聞いた。料理も王宮で食べるどれよりも美味しかったし、この家の文化水準はわが国よりずいぶん上のようだ!」
お風呂から戻ったシリルが興奮してまくしたてる。
しっとり濡れたままの髪で、みんなとお揃いのTシャツの肩が濡れてるじゃないか。
私はタオルでシリルの髪をふきながら、えっと、なんだって?
あれ?王宮って聞こえたような…?
わが国とも聞こえた気がする…、けど?
エラムを見る。
エラムは麦茶を飲みながら苦笑いしている。
シリルの分の麦茶を注いで渡しながら
「気持ちはわかるけど、コハルさん気づいたぞ。まだ一日目なのに、思ったより早かったな」
「え! しまった!私とした事が…」
つまり
「第四王子です。王位継承権はあるけど、四番目なんてあってないようなものだから、ただのシリルとして接してほしい」
「はぁ…」
王子様だと思ったのは比喩だったんだけど!
リアル王子様だったよ!




