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お客様感謝デー、三つの小話を♪




◇◆すっきりした話◇◆




朝からやってきたクバードたちは、言っていた通り午前中はお宿の温泉に入って、お昼ご飯に合わせて上がって来た。


一緒にカレーを食べながら、そういえばとお宿について聞いてみる。


「みんなは初めてお宿に入ったじゃない? どうだった?」


一年たって今更だけど、やっぱりこのお宿のきっかけになったクバードたちには聞いてみたかったんだよね。


「あんな綺麗な宿屋には泊まった事ねーよ!」

「清潔で清々しいし、風呂も小洒落てるのな!湯は馴染んだものだけど」

「部屋は広いし、風呂付便所付きの部屋なんて初めて入ったわ!」

「俺、寝台にも寝転がってみた!あ、ちゃんと風呂に入ってからだよ!もうあっという間に寝そうになったわ」


みんな口々に感想を言ってくれる。


「客室も風呂場もすごくよかった。高級とか豪華っていうのならほかにもあるかもしれないが、質のいい居心地のよさはここ以上のところはないだろう」


最後にクバードが、少し考えた後に言った。


「そんなに褒めてくれてありがとう!嬉しいわぁ♪ 接客や、お客様仕様のご飯も食べてほしいところだけど…」


褒められた私たちはめちゃくちゃ笑顔だ。

後で魔獣さんたちやスライムさんたちにも教えてあげなくちゃ!


「接客の対応…。は、まるで自分が特別な人になったみたいな気にさせてくれたっす。飯も、夢みたいに美味かったし。こっちで食べさせてもらうのも美味いけど、気持ちが違うっていうか…」


おぉ、そうだった!セリクはこの冒険者仲間の中で唯一お宿に泊まった事がある人だった!

他のみんなは、ほおぉ、と何やら想像している。


「私たちのサービスはよかった?」

「そりゃあもう!ただ丁寧ってだけじゃなくて…。上手い言い方が見つからないけど…、俺にとっては生きる力になったっていうか…」


あぁ。そういえばセリクはずいぶん悲惨な感じだったよね。

今は少し太ってきたし(といっても、まだまだ成人男性にしてはかなり細いけど!)だいぶ元気になったように見える。


「ありがとう。何となくわかるよ。ちゃんとおもてなしができてるならよかった」


セリクに笑いかける。

女子チームのみんなも嬉しそうだ。


「しかもこれ程の宿が銀貨八枚ときてる!」


最後の最後でサイードが言った。

商人らしい感想に「「ちげぇねぇ!」」とみんなの声が重なる。


「まぁそう言いなさんなって。高い宿代をとったら、当たり前のサービスだよ?お手ごろだからお得感があるんじゃない」


と言った途端、怒涛の反撃が!


「当たり前のサービスじゃねー!こんなのどこもやってねーよ!」

「もっと宿代が高くったってお得感がなくなる事はねーし!」

「そもそもあの飯であの料金はありえねぇよ!!」

「コハルさんの商売っ気なしがはがゆい!!」

「コハルはもっと、この宿屋に正当な対価をつけるべきだ」


わあ!大変な事になった!!

こういう時の味方!サイードに助けての視線を向けると


「まぁしょうがない。コハルさんだからな…」


と、諦めのような事を言う。

サイード!君は味方じゃなかったのか!


「「そうだな…」」


そしてみんな!同感するな!!


「コハルさんが決めた事だし、私たちは楽しく働けてるし、生活に困る訳じゃないからいいわ」


マリカが言うと、ユーリンとシリンもうんうんと頷いている。


何か解せない…。


とにかくまぁ、お宿のきっかけとなったクバードたちから高評価をいただいて、心に小さく気になっていた事がすっきりした。


いや、お客様に喜んでいただいているのは肌で感じてはいたよ?

でもそれとは別に、きっかけになった人たちに認めてもらえたら嬉しいじゃない?




さて!それじゃあ始めますか!


まだお客様はいらっしゃらないと思うけど、準備万端お出迎え出来るようにしなくては!!


「では一周年のお客様感謝デーがんばりましょう!みんな、よろしくね!」

「「おう!!」」 「「はい!」」


今日も変わらず、精一杯のおもてなしをしよう♪







◇◆お持ち帰りの話◇◆




お客様感謝デーも、お客様が帰られる頃になった。

本館の玄関先でお客様のお見送りをしていると


「コハルさん、あのカレーってぇのは美味いもんだな。弁当箱を持ってきたら、あれをつめてくれるかぃ?」


ほろ酔いで赤ら顔の(赤鬼だよ!)親方が、帰り際にそう尋ねてきた。


「お口に合ってよかったです。でもお弁当箱は木でできているので、カレーが染みて色と匂いが残ってしまいます。次に使えないようになってしまいますので、申し訳ありませんが…」

「そうかい。そりゃあ残念だけど、訳を聞けばしょうがねぇ」


親方はとても残念そうだ。

そんなにカレーを気に入ってくれたのは嬉しいけど、こればっかりはね。


「それに、カレーは熱々が一番おいしいと思います。冷めてご飯もふやけてしまったカレー弁当は、あまり美味しくないかと…」

「そうか!カレーの汁が飯にかかってるもんな!考えてみたらあまり美味くなさそうだ」


顔をしかめた親方に、吹き出しそうになった。

いや、知らない人が見たら、誰からろうか…。とか考えているように見えるかもしれないけど!


「またお泊りの時にお弁当箱をお持ちくださいね♪カレーではありませんけど、精一杯美味しいものを作ります♪」

「おぅ、頼むよ!コハルさんの飯は美味いからなぁ」

「あたしのご飯より美味しいよね!」

「いや、そうは言ってねぇ。おまえの飯も美味ぇよ」


赤鬼が青くなって冷や汗をかいている…。

ダリヤさん最強だな。




お宿に泊まって、翌日のお弁当のご注文をいただいたお客様には、次回宿泊の時に空のお弁当箱を持って来てくださるようにお願いしている。


細工師さんに作ってもらったお弁当箱は、そこそこお値段がする。

なので無償という訳にはいかず、初回のお弁当はお弁当箱込みで少々高い。


一回きりのお客様や、お弁当箱を何かに使いたい人は、そのまま買い取りになるけれど、リピートしてくださるお客様にはお弁当箱の再利用をお勧めしている。お弁当箱の分割引するからね。


食べ終わったお弁当箱はよく洗って、しっかり乾かしてもらえるよう、お渡しする時に説明もする。

少々面倒くさくても、割引になるならとお客様は皆様お弁当箱を持って来てくださるよ。


現代日本と違って、使い捨てはほぼないこの世界。

エコだよね~♪







◇◆お給料の話◇◆




うちで働いてくれている魔獣さんたちのお給料は、私たちが作るご飯やお菓子だ。


どうも働きに対して割に合わないんじゃないかと思うけど、本人たちがそれがいいというのだから、何だか悪いなぁと思いつつそうしている。


ご飯はエリアごとにいっぺんに置いておく。

たとえば東の離れの魔獣さんたちには、お客様が帰られた後に、離れのテーブルの上に大皿でど~ん!みたいな。


どうやってかわからないけど、仲良く分け合って食べているらしい。

なんせ魔獣さんたちはほぼ見えないからね。いつの間にかお皿の上が空になっているという感じだ。


例外は水の魔獣さんね。洗濯機様の前に一人?分、小皿で置く。

水の魔獣さんは一番の古株だし、他の魔獣さんたちに美味しいものを教えた、みんなから感謝されているすごい人?という位置らしい。

一目置かれているというか。


なにそれ。よくわからないんだけど…。


うちで働いてくれているくらいの小型の魔獣さんたちは、特にエネルギー摂取はしなくて生きていられるんだって。空気中に混ざっている瘴気で十分だとか。


うちで食べているご飯やお菓子は、人でいうところの嗜好品みたいな?


まぁ、お宿で出しているご飯は贅沢品だよね。

失敗した時用と、魔獣さんたちのご飯用に多めに作っているから、残り物といってもご馳走だし。


お菓子も試作なんかを一緒に食べている。

一緒といっても見えてないけど!


今のところ魔獣さんたちは満足してくれているっぽい。

見えないし話す事もできないけど、みんなの働きでそれが伝わってくるよ!

異種間でも私たちは一緒に働く仲間だ♪


あ、スライムさんは洗う前のお鍋やお皿を綺麗にしてくれて、それがご飯になっている。


……それでいいんだ?




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