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ローラがいなくなって淋しくなったけど、忙しすぎて感傷に浸っている間がないくらい働けている。
お客様に感謝だ。
そんな日々を過ごしているうちに、十一月になった。
今月でお宿は開業して一年になる。
私たちの都合で、この国には馴染みのないお休みを設けちゃったりしてるのに、赤字もなく繁盛しているのはお客様のおかげです!
という訳で、一周年の日はお客様感謝デーをしま〜す!
お宿を開放して、温泉を楽しんでもらいましょう♪
東の離れと西の離れを男女別にすれば、一度にたくさんの人に入ってもらえるでしょ♪
もしかしたらお客様の中には、他人と一緒に入浴する事に抵抗がある方もいらっしゃるかもしれないけど、感謝デーにいらっしゃるお客様はご来宿いただいた方々と思われる。
温泉に入りたいか恥じらいが勝つかは、お客様におまかせよう。
温泉に入らなくてもいいしね。
離れでくつろいでいただくだけでもいい。
当日、こっちはお代をいただくけど、ご飯も用意しよう。
いっぺんにたくさん作っておけるから、カレーがいいね♪
湯上りの一杯を飲みたい人もいるよね!
カレーとビールで銀貨一枚。ワンコインできりがいいでしょ☆
女性やお酒に弱い人にはアルコール度数の低い缶酎ハイでもいい♪
もちろん飲まない人用には麦茶も用意する。
こっちは無料だ。
水や麦茶が無料のサービスっていうのは日本ならではみたいだけど、今まで自分がお金を払った事のないものにお代をいただくのは、どうも気が引けるんだよね。
まぁ感謝デーなんだし、いいじゃないか!
あ、カレー単品はいくらにしよう…。
お客様感謝デーは、しばらく前から宣伝している。
離れは広いといっても、たくさんの方がお出でくださったら混み合うかもなぁ。
お休みがないんだから、皆様仕事上がりにいらっしゃるだろう。
お風呂に入って一杯飲んで夕ご飯を食べて。ちょうどいいもんね。人手足りるかな。
なんて事をクバードたちと話していたら
「なんだコハル、それなら俺たちが給仕しよう。頼んだそいつに運べばいいだけだろ?それなら俺達でもできる」
「え! でも…、クバードたちだってお宿の方の温泉に入りたいでしょ?」
「あぁ、それなら俺たちは昼に入れてもらうぜ。混み合う前なんてかえって贅沢だ」
「あぁ、贅沢だな」
アゼルも言ってくれる。
ありがたいけど…、いいのかな…。
ちょっと考えていると
「それにさ、男用の方。風呂上がりのヤツがそのままブラブラしてたら、いくらコハルさんだって困るだろ?」
「いくら私だからって何よ!ナルセ、私の事を何だと思ってるのよ!」
笑ってしまった。ほんとにもう!
でもそうだな。そういう事は考えてなかった。それじゃあうちの娘たちは行かせられない。
三人娘は、引きつってるよ。
「じゃあ…、お言葉に甘えます。ありがとう、みんな」
「水臭ぇ事言うなよ。いつも俺たちが世話になってるんだ。こういう時くらい頼ってくれ」
ありがとう!みんないい男だね!
それじゃあ、アイシャのところで男性用のユニフォームも作ってもらおうかな♪
準備という準備もないし、それからすぐにお客様感謝デーになった。
当日は朝からご飯を大量に炊く。炊きあがったご飯は毎度火の魔獣さんに保温をお願いする。
カレーも大量に作る。カレーは後から随時温めればいい。
ちょっと作りすぎたかな…。と思わなくもないけど、なぁに魔獣さんたちはうちのご飯が大好きなのだ。余ってもきっとペロリといけちゃうだろう♪
午前中にお宿のお風呂を楽しんだクバードたちは、お昼ご飯に合わせて上がって来た。今はみんなでカレーを食べている。
もちろんしっかりサイードも来てくれてるよ。この家の子だしね!
お客様とスタッフの区別がつくように、男性陣にも私たちと同じ、白シャツと紺色ズボンのお揃いユニフォームを着てもらった。
注文するのにわかりやすいでしょ♪
スタッフの配置だけど、女湯は私たち女子チーム(アラサーも女子に入ってもいいかな?)男湯は、お客商売で人当たりのいいサイード、見た目まったく圧のないセリク、それと比較的細身のナルセとサリナに担当してもらう。
クバードとアゼルとカシムは厨房チームだ。それとルナもね♪
カレーをよそったりお酒を注いだり、火の番をしてもらう。
三人はなにしろ大きいからね。ただでさえ人が多くなると思われる客室ではジャマ…、ゴホン。
圧迫感…、ゴホン。 えっと…
まぁ、そんな訳よ。
適材適所、さぁみんなでがんばろ~!
やっぱりお客様は仕事上がりにくるみたい。
夕方の鐘あたりから、次々いらっしゃる。
「お仕事お疲れ様でございます。〇〇様、お待ちしておりました。さぁこちらにどうぞ」
女性客は女子スタッフが東の離れに、男性客は男性スタッフが西の離れにご案内する。
お初のお客様はほとんどいなかったので(いてもお連れ様がうちのお馴染みさんなので大丈夫)スイスイ離れに向かってくれる。
中には「混んできて大変そうだから勝手にいくよ」と笑顔で行ってくれるお客様までいらっしゃる。
ありがとうございます!
予想以上の大盛況に、お断りしなければならないお客様もでてきてしまった。申し訳ない!
明日はお休みの予定だったけど、今日お断りする事になってしまったお客様には丁寧に謝って、よろしければと、明日お越しいただけるようお話しする。
お客様方は少し残念顔をしつつも、楽しみが明日になったと快く了承してくださった。
じゃあ今日は、と足湯に入っていかれるお客様もいたりする。
ありがとうございます!
心の広いお客様ばかりで感謝感謝だ。
離れの方では、お風呂から上がったお客様のご注文が入り始める。
「これこれ!この爽やかなお酒が飲みたくてね~♪湯上りに最高ね!」
とはダリア様だ。親方の奥様ね。
この方は酒豪だった。親方より。
「なんとも刺激的な香りねぇ!」
運ばれてきたカレーの香りが部屋中に広がる。
「わっ!辛い!けど、美味しい!!」
「美味しい!初めて食べたけど、すっごく好みだわ~!」
カレーは大好評だった。ふだんは自分で作るばかりの奥様たちは、誰かに作ってもらったというだけでも美味しいのかもしれない。
ちなみに男性客の皆様にも大変好評だったようだ。
後からサイードが教えてくれた。
忙しい時間はあっという間に過ぎる。
朝が早いこの町の人たちは、当然夜も早い。
夕方の鐘頃にやってきたお客様方は、八時過ぎには皆様お帰りになっていく。
「コハルさん、いい夜だった。また予約もするんで、よろしく」
「はい!お待ちしておりますね!」
最後のお客様をお見送りすると、大きく息を吐き出した。
疲れた〜!めちゃくちゃ疲れた!!
疲れたけど…。皆様に喜んでいただけたかな?
忙しかったからなぁ。いたらないところがたくさんあっただろうな…。
もうひとつ大きく息をついた。
「お疲れ様!みんなありがとね~!」
遅くなったけど、みんなで夕ご飯にする。
みんなといってもお宿で働いていたチームね。働きに行っていた上の子三人はちゃんと夕方にカレーを食べているよ。
遅い時間だから、女子チームはあっさりとしたご飯にする。
男子チームはがっつりカレーを食べているよ。お昼もカレーだったのにね!
「お客様に喜んでもらえたかな…」
「喜んだだろうよ。こんなサービスはないからな。珍しいだけじゃなく、みんないい思いができただろう」
「俺もそう思う。あの風呂に入って、このカレーを食えて、こんなの喜ぶに決まってるぜ」
みんなの自慢気な顔を見て笑ってしまった。
うん、私も自慢だけどさ。
でも…。 うん!
「そうだよね!よかったよかった♪♪」
今日は入れなくて、明日またお越しいただく事になってしまったお客様もいたけれど、お客様感謝デーは成功したといっても、いいかな?
このお客様感謝デー、あまりのお客様のリクエストに、毎年開催する事になった。
まぁ感謝デーだからね、リクエストがなくても毎年やろうと思ってたけどさ♪




