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九月になった。
ローラの入学準備は整っているよ。入学してから困らないように、しっかり勉強してあるし、家事も一通りできるようになった。
エラムだってできるから、二人で分担すれば、やってやれない事はない!
商業者ギルドで試験をしてもらってギルド長からの推薦状ももらってあるし、お誕生日が来て十歳になったら、翌日には王都に旅立つ予定だ。
今回もクバードに王都まで送ってもらう事になっている。ちゃんと冒険者ギルドに依頼を出して受けてもらっているよ!
ちなみに二人が住む部屋は、王都の商業者ギルドにお願いしてある。
こっちのギルド長経由でお宿の話を聞いたあちらのギルド長がやってきて、そりゃあもう(下)心を込めておもてなししたからね!袖の下的な?
こっちとあっちのギルド長は大変お喜びになった。
これでエラムとローラがよくしてもらえるのなら、いくらでも(下)心をこめておもてなしをするよ!
あら、お宿の基本コンセプトが☆
まぁ話を戻して!
ローラが旅立つ前の日はお誕生日だ。お祝いしなくちゃね!
お誕生会はほぼ毎月やっていて、お祝いの席は賑やかな方がいいとクバードたちも呼んでいる。というか、彼らのお誕生日もお祝いしてる。
四月はお誕生日のあるエラム本人がいないからなしだったけど、五月のテオスのお誕生会からは、なんとあの(あの?)セリクも参加しているのだ!
いつの間にかマリカが招いていたようで、初めてやってきた時のセリクは可哀想なくらいキョドっていた。いや、彼の場合通用運転か。
それでも人生初の?友達というか知り合いの存在が嬉しいのか、誘えば断る事なくやってくる。
なんでこいつがいるの?というカシムたちの視線に目を合わせないまま過ごしていて楽しいのかは不明だけど。
「私の友達だから!」と、マリカが宣言してるから、カシム達がセリクを見下したり邪険にしたりはない。
まぁそういう人たちじゃないのは分かっているし、そういう人たちならうちの敷地には入れないだろう。
セリクはすっかりマリカを崇めているよ。
マリカは姉さん気質だからねぇ。いや、セリクの方が年上なんだけど。
お誕生日は本人のリクエストのお料理を用意する。今日もローラの好物がたくさんテーブルに並んでいるよ!
だいぶ女子好みのお子様メニューなのに、いかつい大男たちが喜んで食べているのがちょっと笑える。
最初はエラム、次はローラ。来年になったらテオスとアイシャが家を出ちゃうけど、訪れてくれる人は増えていて、子供たちがいなくなっちゃう淋しさをまぎらわせてくれると思う。
ご縁というものはありがたいね。
いつもと変わらない、心のこもったお祝いの夜になった。
翌日、とうとう旅立ちの朝になった。
エラムの時と同じにみんなで駅馬車の乗合所まで見送りに行く。
みんなでといっても、アイシャを除いた女子チームとルナね。
ローラに付き添ってもらうクバードには、食料品をたくさん詰め込んだカバンを持ってもらっている。
食料品は、キャリー様とリュック様から無限に出てくるけど、出したものは使えばちゃんとなくなる。
うちだったら、なくなればまた出せばいいけど、ローラたちはそういう訳にはいかない。大量に持たせる。持つのはクバードだけど。
「いってらっしゃい、身体に気を付けてね」
「いってらっしゃい、エラムとしっかりね」
「いってらっしゃい、色々がんばれ!」
「いってらっしゃい、年末に帰ってくるのをまってるよ」
それぞれ声をかける。
やっぱりこの時間は淋しいね。
「いってきます!しっかり勉強してくるね!」
ローラは、私たちや生まれ育った土地を離れる不安とか、エラムと一緒に暮らせる嬉しさなんかが混ざったような、なかなか複雑な顔をしている。
「じゃあクバード、よろしくね」
「あぁ、まかせろ」
エラムの時と全く同じ会話になったなぁ、なんて思い出していると、出発の時間になった。
「ローラ、窓から顔を出しちゃダメよ!」
「にぃにじゃないし、出さないよ!」
ローラは笑顔で馬車に乗っていった。
馬車が見えなくなるまで見送って…。
「じゃあ市場によって果物を買っていこうか。今日もジャムを作ろう♪」
「「わ~い!!」」
お見送りの後は、ジャム作りが恒例になっているなぁ。
三人娘は(ローラの代わりにマリカが加入☆)市場に向かって走り出した。
小春さんは走らないよ!
後からゆっくりルナと手を繋いで歩いていく。
市場に着くと、すでに三人は待っていた。
早いね!もう選んだの?
三人娘に連れられて、銘々が選んだ果物をお買い上げする。
毎回ちゃんとかぶらないように選ぶのが偉い♪
買ったものはルナが持ってくれる。
ルナは見た目五歳児だけど、その小ささに合わない力持ちなのだ。魔族だからかな?
それに、こういったお手伝いをするのをとても喜んでいる。ありがとう、助かるよと褒める更に喜ぶ。可愛いヤツめ♪
それじゃあ帰ってジャムを作ろうかと、歩き出すと
「あら、コハルさん。こんな早くにどうしたの?」
ダリアさんにばったり会った。親方の奥様ね。
「ダリアさん、おはようございます」
朝の挨拶をして、ローラの見送りに来た事、市場で果物を買って、帰ってからジャムを作る事なんかを立ち話する。
「ジャム?」
あら、ジャムはご存じないか。
たしか、元の世界ではジャムは古くからあったと記憶している。それだってお砂糖が手に入りやすくなってからだったような…。
この世界というかこの国?この町?も、まだお砂糖は高価なものらしいし普及はしてないのかもしれないね。
「果物を煮詰めたものですよ。パンにつけて食べると美味しいです。お菓子にも使えますしね」
「美味しそう…」
「……お時間大丈夫なようでしたら、一緒に作りますか?」
ダリアさんの、めちゃくちゃ食べたそうな目に、お誘いせざるをえなかったよ!
ダリアさんは親方の奥様だから、うちの事情もちょっとは知っている。
敷地にも入れてるし、いい人認定はされているから安心してお誘いできる。
「時間なんてぜんぜんあるわよ!なくても大丈夫!!」
いや、それ大丈夫っていわないんじゃ…。
とにかく、ダリアさんもジャム作りを一緒にする事になった。
そしてお昼には出来立てのジャムを一緒に食べた。うちのパンは美味しいからね、出来立てジャムと相まってダリアさんはそりゃあもう感激していたよ。
ダリアさんの喜び方を見て、たまぁ~にお宿でも出す事にした。
基本和食だからね、ほんとにたまぁに。
大好評のこのジャムは、お客様の間で幻の朝食と呼ばれるようになったよ。
◇◆◇◆◇◆
ローラが旅立つ少し前の話。
ローラ、めちゃくちゃ可愛いからなぁ…。
攫われる事も心配だけど、権力者なんかに目をつけられてムリヤリ囲われちゃうとか。年齢的にすぐにどうこうじゃなくても、手元に置いておいてゆくゆくは愛人とかさ…。
いや!この世界にもいるかはわからないけど、ロリコンなんかがいたら十歳でも危ない!!
なんて事を心配しちゃうのよ。
それほどローラは天使な可愛さなんだから!
という事で、困った時のスーさんだ!
「スーさん、スーさん。今は大丈夫ですか?ど~ぞ」
『……なんだコハル?今日はどうした?』
「じつは…」
ローラの危機を話す。
『そうか。過保護の気がしないでもないが、コハルの心配は分かった。それならば、人族相手にちょうどいい弱い魔獣を遣る。ローラに持たせておけ。それでダメそうなら、わたしにわかるようにしておこう。わたしが殺ってやる』
最後ドスのきいた声が聞こえたよ!
なに物騒な事を言い出しちゃってるの!!
殺っちゃったら犯罪だよ!!
「痛めつけるくらいでお願いします…」
めったな事を頼めないと思った。
その攻撃型魔獣さん、やっぱり目には見えない。
見えないけど、こういう訳で君を守ってくれているからね(スーさんのトドメの言葉は割愛!)とローラに説明しておく。
ローラは何も見えない空間に向かって「魔獣さんありがとう。よろしくお願いします」と言っていた。
めちゃくちゃ可愛い!!
魔獣さんが私と同じような感性をお持ちなら、きっと同じに萌え悶えているだろう!
魔獣さんよろしくお願いします。




